- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043944477
作品紹介・あらすじ
「音楽について考えることは将来について考えることよりずっと大事」な高校3年生のアザミ。進路は何一つ決まらない「ぐだぐだ」の日常を支えるのはパンクロックだった! 野間文芸新人賞受賞の話題作!
感想・レビュー・書評
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読むほどにハマっていく心地良さと
(いやむしろ心地悪さ笑)
どうしようもない連中なのに
好きになっていくこの感覚。
学校の授業より
3分間のレコードから本当のことを学んだ
自分のような人間にとっては
これほど切実に響く小説はないんじゃないかな。
主人公は
赤い髪にメガネとカラフルな歯列矯正気器がトレードマークの高校3年生の少女
オケタニアザミ。
アザミの日常を
淡々と描いただけの話なのに
どうしてこんなにも胸を打つんやろ…
同世代の女の子たちを遠く感じる
不器用な主人公の
うまく生きられない焦りが
同じような学生生活を送った自分の胸の深いところに
とにかく突き刺さるのです。
音楽が鳴っている間は
自分が自分でなくなることができるという妄想を抱き、
音楽こそは
世界が吹き込んでくる窓だと信じていたアザミ。
音楽マニアではなく
一つの生き方として
音楽を選ぶしかなかったんだなぁって
もう解りすぎるくらい
解るんですよね。
人とのコミュニケーションの苦手な印象が強いアザミだけど
本当は常に人の動向を気にし
相手の感情を読みとろうとする、
実は繊細で気遣いに長けた人であり
人の気持ちの解る人間なんだと思う。
そんなアザミの唯一の理解者は
他人の痛みを自分の痛みと感じ
正義を貫く男気を持ちながらも
好きな男子には滅法弱い
親友のチユキ。
(この子のキャラが飛び抜けていい!)
のっぽで派手なアザミと
服も持ち物もモノトーンで統一した
背の低いチユキとの
カッコ悪くて
不器用で
ベタベタしない友情に
三十路をとうに過ぎたオッサンが
何度泣かされたことか(>_<)
音楽を聴くしか方法がなかった弱い自分や
できない自分を認め、
その上で
一歩だけ前へ歩き出そうとするアザミ。
好きなことは好きやと
胸を張って言える君は
間違ってなんかないよ。
何かをとことん
好きになったという思いは
必ず人間としての深みに変わる。
自分の「好き」を貫くことは、
絶対の絶対に
無駄になんかならへんねんから(^_^)v
いつかアザミのその後を
読んでみたいなぁ♪
いい音楽に触れた時のように、
読後は
世界がちょっとだけ違って見える小説です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自分も主人公と同じく「音楽」に強く依存して生きている人間なので妙に刺さった。
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学習障害、発達障害で音楽依存症の女子高生、桶谷アザミの話し。
ヘッドホンを装着し、音楽に包まれることによってやっと、アザミは何とか行動する事が出来る。音楽は周りのノイズを遮断してくれる。アザミにとって音楽は、世の中から自分を守るアーマーのようなものだ。
こういう洋楽オタクの話しは、アニヲタやドルヲタの話しに比べて意外に少ない。音楽絡みだと、バンドマンだったり、クラシック演奏家だったりと、ギフテッドな人の話が多い気がする。ブラバンなど部活物もあるけど、いずれにせよ表現者側の話し。アザミもベースを弾くけれど、基本はひたすら聴くだけの受容者側。何だかやるせない。
そんなアザミの女子高生ライフは、音楽に加えて、友人達や先生に支えられて成り立つ。少し冷めてて、適切な距離感で冷静なアドバイスをくれる東京弁先生は理想的な先生だ。
しかしながら、最も重要なのは、桶谷アザミとコンビを組む同級生の川柳チユキ。進級テストの勉強を手伝い、志望校の心配までする。一見、成績も良く、観察眼も鋭いチユキが一方的にアザミを支えているように見えるが、すぐに処罰感情が爆発してしまうチユキに寄り添い肯定することで支えているのがアザミ。お互い支え合って暴走する最狂コンビ。
物語は高校卒業を機に、それぞれが旅立っていくところで終わる。皆、行き先はバラバラだ。でも、少しずつではあるが成長したアザミはきっと大丈夫だろう。次の世界への入り口を感じさせる終わり方だった。歯科矯正のブレースも外れたし。ただ、金沢に旅立ったチユキの人生は、いつか破綻するのではないかと少し不安である。音楽の神の祝福がありますように!
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冒頭───
みんな出て行ってしまった。閑散としたスタジオの真ん中に置かれたパイプ椅子に座って、アザミは、ひっぱたかれた頬が今ごろひりひりと痛みはじめるのを感じていた。たたかれた当初は何が起こったのかわからなかった。床に落ちたやたらテンプルの太いプラスチックフレームのメガネを拾い上げた時にやっと、あらあたしびんたされたわ、と頭の中の悠長な部分が言った。女の子に殴られたのは初めてだった。さなえちゃんがそういうことをする女の子だとは思わなかった。あの高い声でまくし立てられたら、アザミは心が端から壊死するような気がして、だからそれだけで、自分はすぐに彼女の心持ちに合わせてどんなことでも言ったはずなのに、さなえちゃんはすごい癇癪をたててアザミをひっぱたき、捨て台詞を残して行ってしまった。
「だいたいなんなんよ! その矯正器の色!」
アザミは、携帯電話の画面を「ミラー」というモードにして、イーと歯を噛みあわせ、歯列矯正器をしげしげと眺めた。今年の阪神はどうなんでしょうねえ、という世間話をしていて、気がついたら歯医者の先生はブレースに黒と黄色のゴムをはめてしまっていた。アザミはそれが気に入っており、学校でも家でも、鏡を見るたびににたりと笑ってブレースの確認を怠らなかったし、友達にもうけた。
───
どうです? 面白いでしょう?
これだけ書き出しにインパクトがある小説は、綿矢りさ以外ではめったに出会わなかったので、長々と引用してしまいました。
津村記久子は優れた青春小説の書き手でもある、とどこかの新聞の評者が書いていたが、私も全く同感だ。
この作品は大阪の田舎の高校が舞台。
どちらかと言えば、スクールカーストの底辺部にいる高校三年生の主人公アザミ。
外国の音楽にのめり込み過ぎて、勉強もできず受験などどこ吹く風で、一見、閉塞感を抱き鬱々としているようだが、どこか達観している。
ただし無気力に人生を諦めているわけではなく、真剣な側面も持ち合わせている。
アザミの唯一の友人ともいえるチアキ。
このチアキのキャラが何とも魅力的だ。
相手が男だろうが何だろうが、自分で納得できなければ後先考えずに行動を起こすという独特の正義感が、この物語に強烈な印象を与えている。
暗く陰鬱になりがちな話を、笑って弾け飛ばすような爽快感のあるものに変貌させる。
その他のアザミの周りの人々、アザミを優しく見守る(?)両親をはじめ、トノムラやメイケ君やモチヅキ君。
アヤカちゃんやナツメさん。
それぞれのキャラがくっきりしていて、目に浮かんでくるようだ。
特に同じ歯医者に通い、歯が矯正されればハンサムになって好きな女子に告白できる、と頑なに信じているモチヅキ君の脳天気さは笑いを誘う。
青春時代、特に高校卒業を間近に控えて、将来の自分の姿に思いを馳せるとき、若者は未来への希望と厳しい現実の狭間で揺れ動く。
自分はどうなるのか、何を目指すべきなのか、もやもやとした心で悶々と答えがでないまま、時はどんどん過ぎてゆく。
これもまた“青春”の一側面だ。
この作品は、そんな悩みや苦しさを抱き、もがく若者を淡々とした筆致で見事に描いている。
音楽を、そんな側面を象徴する微妙なエッセンスとして登場させている。
ミュージック・ブレス・ユー!!
一般的な、明るく感動的な印象を抱く青春物語ではないけれど、ちょっと違った雰囲気を持った青春小説の傑作だと思う。
お薦めです。 -
ロック好きで、お金が貯まると「CD屋」に行って、感想を一曲ずつ「winxp」がインストールされたPCに入力する高校生が主人公という時点でたまらない。リプレイスメンツが好きだったり、ジャケットが気に入ったからディセンデンツを全部揃えたりする主人公とすれ違うトノムラが、XTCのオレンジズアンドレモンズが気に入ってベスト盤とディヴァインコメディのCDを買うというのも熱い。2000年代まで音楽は鑑賞するものだった。それ以降はフェスであれバンドであれ参加するものになった。主人公アザミが冒頭ぶん殴られてバンドをクビになったベーシストというのは象徴的。
著者のパンク性みたいなのがよく出た作品。 -
主人公アザミは、『君は永遠にそいつらより若い』ホリガイの高校時代だろうか。
それほどに2人に共通した優しさを感じます。
他人の圧力に対する苛立ちややるせなさ、それでも真正面からぶつかろうとする様が、高校生らしく悩み進む強いエネルギーで描かれる。
若き主人公だけれど、アザミが他者と関わりながら方向もわからず、しかし着実に進んでいく前向きな物語は、高校時代を遠く感じる今でも、心打たれるものがありました。
ラストシーンのアザミの姿が忘れられない!
津村作品を読み終えて毎度思うことながら、アザミをはじめ、皆んながいま幸福であるようにと願ってしまいます。
アザミはきっとうまくやってるよ。 -
とりあえず、津村さんは冴えない大学生のばいぶるです
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津村記久子さん。芥川賞を受賞しているのですね。初めて読む作家さんです。
音楽を聴くことが何よりも大事な高校三年生のアザミが、友達や進路などについて考えるなかで、音楽と自分との関わりを問い直していく青春小説。「音楽って素晴らしい!」みたいなキラキラした話ではないのが面白いです。「音楽はただそこにあるけど、別に役には立たん…」といった感じでしょうか。言い方が難しいですが。
津村さんはこれまで一貫して、「何も持っていない人」が「賢くなること」を小説の中で描いてきたそうです(解説より)。音楽を通して、不器用ながらも「賢く」なっていくアザミの姿が、青春を感じさせる作品でした。