電車屋赤城 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 162
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043944620

作品紹介・あらすじ

ホームからは見えない電車の下半分。ここには人の命を預かる車両整備に誇りと夢と人生をかける男たちのドラマがあった。ひきこもりの青年が出会った、一筋縄ではいかない油まみれの武骨な面々。様々な過去を背負いつつ、ひたむきに仕事に打ち込む職人たちを前に、青年は少しずつ殻をはがしていく。そんな彼らを、大規模な脱線事故が襲う。消えゆく旧型車両と運命をともにする男たちのたぎるほどに熱い生き様を描く感動長編。

感想・レビュー・書評

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  • 「電車屋」という言葉がすべてを表しています。
    そこに仕事に対する愛情と誇りがあります。

    職種はなんであれ、要領よく生きることができない、黙々と誠実に仕事をこなす男達の話、といってもいいでしょう。
    解説の岡崎武志さんは「男の美学」と書かれていて、なるほどそのとおりだと思いました。

    いつもは隠れている裏方さんをこうした形で知ることができるのも小説の楽しみです。

  • 惚れた…。寡黙でニヒルで謎多き職人・赤城に惚れないやつはいない!、絶対。
    「ザ・職人」今の日本を作り上げてきたのはこういう男たちなのだろう。
    明るい未来の見えにく今だからこそ、読まれるべき一冊。
    「アカギィー!カムバーーーック!!」

  • たまにはサスペンス色の薄いものを!と思って手に取ってみた作品でした。当然ながら、評価は個人の嗜好に直結するので、そういう意味で星一つは申し訳ない。人情ものと一括りにして良いのかは分からないけど、赤城のスーパーマンさがちょっとベタ過ぎるように感じられ、何となく惰性で読んでしまった。感情移入させるなら、赤城以外の誰かをメインに置いて、その人の視点で書いてくれた方が、個人的には良かったかも。

  • 企業の残酷な思惑に振り回されつつも、思い入れのある車両にただただ向き合う人達の姿は、とてもカッコいい。
    ちょこちょこ出てくる人情エピソードが、ちょっと浅田次郎っぽい感じ。

    「仕事のあり方を学べ」

    自分の襟を正す良い機会にもなりました。

  • 一つ一つの描写は臨場感もあり、非常に巧み。
    構成が少し欲張り過ぎに思う。登場人物全てのエピソードが丁寧すぎて、誰が物語の中心なのか分かりづらい。

  • 電車整備工場を舞台としたビジネス小説。ベテラン整備工の赤城 など魅力的な人物が多い

    エピソードを 詰め込みがすぎて 絞りにくいが、メインは 赤城から、引きこもり青年 純一への技能承継であり、著者が伝えたかったのは 技能承継を通じた 引き際の美学だと思う

    「仕事のやり方なんか覚えなくていい。仕事のあり方を学べ」というセリフに 暗黙知も含めた技能承継の全てが集約されている

    純一、赤城、叔父のエピソードだけで 充分 面白い。まわりの人物の 不幸エピソードは なくても 本全体の面白さは 変わらないので、なかった方が より良い本だったと思う

  • 著者が京急に勤務していたという経歴から、電車の仕組のやけに詳細な記述に得心がいった。鋼鉄ボディの1000系とアルミ合金の3000系の違いは、最終章の地震被災による脱線事故でも語られるが、私はJR福知山線事故を思い出さずにはいられなかった。題名からして赤城が主人公のはずだが、冒頭に出てくる引きこもりの純一に、今の自分の境遇と重ねて思うことが多かった。手に職を持ち作業に汗水たらす、そんな誇れる職業は素晴らしい。

  • 電車好きにはたまらない小説だと思います。テツではない私でもとても楽しめました。登場人物のキャラが楽しく、人間模様も楽しい。鉄道会社の下請け零細企業に勤める技術者赤城さん。渋い。近くにいたら好きになっちゃうだろうなぁ…読後感も良かった。

  • 以前から気になつてゐた一冊であります。しかも著者名が山田深夜。只者ではない雰囲気がぷんぷん漂つてまゐります。深夜とは意味深だ。かつてのアイドルも「あいざき深夜」とでもすれば、芸能界でもつと長生きできたかもしれません。そんなことはないか。
    著者近影を拝見しますと、その独特な風貌から、いかなるアウトローな小説であらうかと身構へますが、これが予想以上に骨太の、読み応へがある作品でした。

    舞台は、都心と神奈川県の各都市を連絡する「神奈川電鉄」(神奈電」)と、その下請けたる零細企業・「エース工業」。
    本文から引用しますと、「神奈電の路線は、多摩川べりから三浦半島に垂らした釣り糸のような形をしていた」。ははあ、これは京浜急行だな、と地元の人やテツなら分かるやうになつてゐます。
    タイトルになつてゐる「赤城」は、下請けのエース工業に勤める技術屋。口数少なく、人と交はることもなく、ゆゑに誤解を受けやすく、それでも言ひ訳のひとつもせず、黙々と神奈電の車両を整備する。背中で表現するタイプですな。何とミュージシャンとしての顔も持つのです。過去に色色ありさうですが、周囲の人間も詳細は分かりません。

    神奈電では、長らく活躍した1000形電車といふのがありますが、機器類も古く整備にも手間がかかり、職人的技術(つまり、赤城のやうな人物)が必要なため、順次廃車を進めてゐます。替つて3000形なる新型電車の導入が進み、こちらは「シャーシも足まわりも、制御装置も、違う。3000形はすべての技術が最新だ。」(赤城の話より)なのださうです。VVVF。つまりすべての車両が3000形に置き換れば、赤城は無用の人物になつてしまふ......
    実は元元赤城は神奈電本体の社員だつたのですが、些細な事件を起こした際に、やつかい者扱ひしてきた一派の陰謀(?)で懲戒解雇されてしまつたのです。どうせ1000形が無くなれば無用の人物だ、お払ひ箱にする良い機会ぢやないか......

    その後赤城は消息を絶ちますが、エース工業の社長をはじめとする仲間たちが必死に探し、漸く探し当てます。そこで、どうした風の吹き回しか、赤城を解雇した神奈電が、下請けのエースで雇ふやうに依頼(実態は命令)します。何故か。
    実は1000形から3000形への置き換へが予定よりも大幅に遅れてゐて、しばらくは1000形を扱へる技術者が欲しい。だから赤城をエースで雇ひ神奈電で仕事させ、いづれ1000形が完全に廃車になれば、赤城を再度解雇せよ、とのまことに身勝手な指示が出てゐたのです。
    その条件を赤城は受け入れ、1000形の最後の一編成まで、自分が看取らうとするのでした......

    全7章構成で、各章で赤城を取り巻く人物たちのサイドストーリーが展開されます。これがまたいい。泣かせるのです。
    四年間の引き籠りからあがくやうに脱出する青年・田宮純一。その伯父でエース工業の社長である、石田三郎。神奈電で赤城と名コンビぶりを見せた佐島信夫。エース工業の面々が訪れる小料理屋「牡丹」の女将・小川恵。漁師出身で神奈電に転身した熱い男・原口辰夫。知られざる過去を持つた、神奈電の鼻つまみ社員・加藤航児。神奈電の運転士から工場へ自ら転身してきた、赤城の追つかけ女・ユカリ......
    それぞれの人生が、重く、熱いのであります。一人につき一冊の重厚な長篇小説が出来さうなほど、赤城を巡る人物の造形がしつかりしてゐます。濃厚。サアヴィス過多だよ、山田深夜さん。とでも言ひたくなります。

    本作をお薦めしたらば、10人のうち、多分8人くらゐは満足してくれるのでは(これはスゴイ率ですよ)。小説を読む悦び、愉しさといふものを改めて味ははさせてくれる、そんな一冊と申せませう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-577.html

  • 電車好きは読まないと。電車に興味の無い私でも楽しめるのは、登場人物の魅力に尽きる。赤城さんに会いたい!読んでる途中からそう思うし、読み終わっても気になる存在。他の登場人物も、嫌な奴だけど、実は憎めない奴だったり…と、ヒューマンドラマを見終えた気分になれた。

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著者プロフィール

1961年福島県須賀川市生まれ。地元の高校を卒業後、神奈川県横須賀市で私鉄職員として約20年勤務。1999年7月、文筆業に専念するために退職。バイク雑誌各誌に小説を発表。著書に『ロンツーは終わらない』『千マイルブルース』『横須賀Dブルース』などがある。

「2011年 『電車屋赤城』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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