紫式部日記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫 A 205-1)

  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044001063

作品紹介・あらすじ

紫式部が、藤原道長の娘、中宮彰子に仕えた際の回想録。史書からは窺えない宮廷行事の様子もわかり、道長が全権を掌握する前夜という緊張に満ちた状況下での記述が興味深い。華麗な生活から距離を置く紫式部の心理や、実務をこなせない同僚女房への冷静な評価、ライバル清少納言への辛口批評などが描かれる。精密な校訂による本文、詳細な注、流麗な現代語訳、歴史的事実を押さえた解説で、『源氏物語』の背景を伝える日記のすべてがわかる。

感想・レビュー・書評

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  • すごい、すごい。ドキドキしすぎてパニックだ。
    なぜなら2024年放送の大河ドラマが紫式部の人生を描く『光る君へ』に決まったから。
    主役の紫式部は吉高由里子さん、脚本は大石静さん。 
    平安時代、それも私が興味を持つ一条天皇のころだなんて、ドンピシャだ。それに加えて嬉しいのは、知れば知るほど好きになっていく『源氏物語』、その物語を書いた紫式部が主役ってこと。
    ドラマタイトルからも『源氏物語』ブーム到来の予感で楽しみだし、私の『源氏物語』熱は上がっていく一方だ。
    大好きな一条天皇や彰子、藤原道長や藤原行成はどなたが演じるのかしら?
    定子や清少納言、藤原伊周も顔を出すのかしら??
    和泉式部や具平親王と紫式部の関わりも描かれるのかしら???
    あー、もう今からワクワクが止まらない。

    とはいえ、戦もない雅な平安時代。ストーリーが面白くなるのか、そして、あの偏屈でグヂグヂした性格の紫式部(あくまで私見です……)を魅力的に描くことができるのか、お節介ながらちょっと心配もしております。

    『紫式部日記』は〈角川ビギナーズクラシックス日本の古典シリーズ〉でも読んだので、角川ソフィア文庫版では紫式部と道長の恋愛関係と、一条天皇と道長の関係性や権力を握る道長を中心とした人物関係などに注目して読んでみた。

    まずは恋愛面なんだけれど、大河ドラマでは紫式部の藤原道長への想いが描かれるようだ。脚本の大石静さんて『セカンドバージン』の方ですよね。エロチックで熱い大人の恋愛が描かれるのかしらん。きゃっ、道長役はいったい誰っ!?

    だけど私は、紫式部には「道長の妾」という伝聞も残されているけれども、ふたりは心揺れながらも恋愛関係ではなくて、友情のような絆があったのではと思っていた。
    そのことをブク友・アテナイエさんにコメントすると、「『源氏物語』の後半、「宇治十帖」あたりを読んでいると、どうも道長とはうまくいってなかったのでは」というお言葉をいただいた。
    やっぱりふたりは恋愛関係だったのだろうか。アテナイエさんのお言葉を心に留めながら『紫式部日記』を読んでみた。

    そして思ったのは、やっぱり紫式部は恋愛感情を持って道長に惹かれていたのは間違いないなってこと。
    『紫式部日記』の前半部分に描かれた道長は、最高権力者として威厳に満ちていて、でもそれだけではなく朗らかな面もあり、それはそれは紫式部には眩く映っているようで、殿(道長)を描く彼女の文章には溌剌とした印象を受けた。
    きっと道長と出会った頃は、彼に対する感情は憧れや尊敬といったものだったはず。でも道長と顔を合わせ、「女郎花の和歌」や言葉を交わすうちに、いつしか恋心へと変化していったんじゃないかな。
    その「女郎花の和歌」を交わした場面は、『紫式部集』と『紫式部日記』に記されているのだけれど、それぞれ少しずつ情景に違いが見えるのだ。
    たとえば道長が女郎花を差し出した場面。
    『紫式部集』……色々の花が咲き乱れる中で、道長は美人を意味する女郎花の花をことさらに選び、差し出す。
    『紫式部日記』……女郎花以外の花があったことが削られている。
    と解説にあり、『紫式部集』では「道長には恋めいた雰囲気が見てとれる」のだけど、『紫式部日記』では、道長を「一家を経営するあるじとしての姿が強調」された描きかたになっていると続く。
    紫式部が道長をどう思っていたのか、道長にどう思われたいのかが秘められた、とても印象深いシーンだと思う。

    ここからは妄想が暴走気味になるのだけれど。
    道長も紫式部に好意を抱いていたとは思う。
    けれども私は、道長の好意は恋心とよべるものではなかったのではと思っている。

    藤原道長って、決して善人ではないですよね。でも私は道長のこと好きなんです。悪役でも魅力的な人っていますよね。道長ってそういうタイプだと思うんです。
    権力のためならば愛だって、娘だって利用しちゃうような人。そして不要になればスパッと切っちゃうような憎たらしい人。でも惹かれてしまう、そんな人。

    道長はどこかの時点で紫式部を切ったんだと思うのだ。
    私は「行幸前~沈む心」、この辺りではと推測する。この直前の紫式部の日記は、彰子や道長の動向など「主家とほぼ一体化した女房」のもので、とてもイキイキとした書きようなんだけれど、この記事では一転、自らの沈む心のありようをつらつらと記しているのだ。
    何が起きたのだろう。よく見てみると、この日、「具平親王」の名が道長の口から出ているのだ。どうも道長は、皇族の子孫との結婚政策を考えていたようで、息子頼通と具平親王の娘とを結ばせようとしていた。
    道長は紫式部が親王家から目を掛けられた人物だからすすんで動いてくれるだろうと、この件について相談する。ところが紫式部の心にはいろいろな思いが巡り、彼女は一瞬戸惑ってしまう。なぜならば具平親王は文学や学問の上で尊敬する人だったから。そして恋の噂もありましたよね。
    その時、道長は紫式部のほんの少しの心の揺れを見逃さなかったのではないだろうか。ここで道長は紫式部を切ったんだと思う。

    私の妄想は止まらない。
    道長は紫式部に愛を求めていなかった。
    あくまでも道長が欲したのは、紫式部の才能だったのではないだろうか。彰子と一条天皇の仲を深めるための才芸女房としての紫式部、その価値であったのではないだろうか。
    道長は紫式部が自分を愛しているとわかっていた。その恋心さえ権力を強化するために利用しようとする。でも彼女は自分を裏切る素振りを見せた。だから容赦なく切り捨てる、非情な男。
    紫式部を見つめる道長の眼には失望の色が浮かんだのではないだろうか。紫式部は悟る。道長にとっての自分は決して愛する対象ではなかったのだ……

    それでも紫式部が道長にずっと恋心を抱いていたのか、それとも気持ちにピリオドを打ったのか、私には妄想するしかない。けれども、少なくともふたりの間は、友情のようなカラリとした印象のものではなかったと思い直した。
    やはり紫式部の胸には、道長に対する想いがずっと燻り続けていたのではないだろうか。
    そればかりではなく、儒教的価値観を重んじる紫式部は、自分が亡くなった夫以外の男性を愛してしまったことにも苦しんだのではないだろうか。
    そう思いながら、「宇治十帖」を読み返してみたいと思っている。

    そしてブク友・myjstyleさんには『紫式部日記』は重要文献だとアドバイスをいただいたので、一条天皇と道長の関係や、道長を中心とした人物関係などに気をつけて、補注や解説をじっくり読んでみた。

    当然だけれど、紫式部から見たこの二人の間には必ず彰子の存在がある。
    日記には記されていないけれど、彰子が懐妊する前、道長は金峯山への参詣を挙行した。それが彰子の子宝を祈るものであったのは知っていたが、その心は「神仏の利益を乞うというよりも、一条天皇に直接働きかけるデモンストレーションであった」ということには、ハッとした。そうだ、道長はこういう人物なのだ。
    その意味を一条天皇はわかっていたのだろう、彰子はその年末に入内から8年を経て初めて懐妊する。
    びっくりしたのは『栄華物語』によれば、彰子の体の状態に注意を払い懐妊を最初に言い当てたのは一条天皇であったということ。天皇は、彰子が恥ずかしがって止めたにも拘わらず、自らそれを道長に報告したという。これは、一条天皇にとって彰子が、いまだ「道長の娘」だということがいえると解説されている。

    だからといって、一条天皇が道長の思うままだったとは、私は思えない。ふたりの関係は意外と良好であったのではと思う。
    日記「10月16日 行幸」は、道長の娘が后として天皇の男子を生んだことにより、天皇自身の発案により行われたものだ。天皇のこうした姿勢は、この親王がやがて天皇位に即き、道長がその摂政になるという野心に、実現可能な見通しを与えてくれるものだったと〈補注〉に記されている。

    なかでも私が紫式部の描く政治関連の情報について面白いと思った解説は、日記「五十日の祝い~酔い乱れる公卿たち」である。
    たとえば右大臣顕光は、政界第二の重鎮にも拘わらず無能で、宴会での失態も多く、そんなシーンを紫式部は記しているのだけれども、そこから顕光女で女御である元子と彰子との勢力関係、道長の権力維持にとっては、顕光の無能は安心材料となることが見てとれる。
    また右大将実資が、中宮女房たちの装束が奢侈を謹む勅令に違反していないか点検しているエピソードからは、彼が日記『小右記』の書きぶりからも推し量られる、権力におもねらず筋を通す性格の持ち主であることがよくわかる。

    このように道長や多くの貴族の素顔を記した紫式部の日記は、女房だからこそ書けたものだ。そして、それは「後宮女房という存在が、政治権力の中枢に関わっていかに重要な役割を担うものであるか」が、よくわかるものでもある。
    しかしながら、『紫式部日記』の「女房たるもの、いかにあるべきか」などを記された消息体部分の読者を娘の賢子とするのには、少しひっかかりを覚える。
    私が娘だったら、人の悪いところをあれやこれや書かれた文章を残されても、読んでるうちにしんどくなりそう。ある意味、自分はこの人たちとは違うという紫式部の意識が見え隠れしているようで、なんだか苦しい。
    けれども、それが娘に宛てた文章ではないとしたら、また違った見方もできそうだ。
    紫式部日記には秘められた紫式部の想いがまだまだありそう、これはミステリだ。もう少し読み込んでいきたい。

    • マリモさん
      地球っこさん♪

      えっ、大河ドラマで紫式部ですか!←情報遅っ
      紫式部をどういう風に描くのか興味ありますねー。吉高さんだなんて随分お美しい紫式...
      地球っこさん♪

      えっ、大河ドラマで紫式部ですか!←情報遅っ
      紫式部をどういう風に描くのか興味ありますねー。吉高さんだなんて随分お美しい紫式部。
      イマドキ風に、自分の意見をバシバシ言っちゃう強い女はもはや紫式部ではありませんが笑、でもジメッとだけでなく芯の強さみたいなのの感じられる紫式部像になるのかなぁ。
      平安時代のセットや小物や衣装も楽しみです。もうここ何年も大河ドラマ観てないのですが、これは録画してみんな寝た夜にまったり楽しみたい!

      この本も面白そうですね。地球っこさんの紫式部・道長の恋心考察、とても興味深く読ませていただきました。確かにちょっと匂わせてるところはありましたね。深く行間を読み解いていくと二人の関係性が少し見えてきそうですね。道長は、紫式部含め女のことは手段として見ているのかなと思っていましたが、ドラマでもどうも道長がかなり重要なポジションを占めそうですし、二人の間に艶めいた関係があったのか、どこまで踏み込んで描かれるんでしょうね。いやはや、妄想が膨らみます。ていうか道長役は誰になるんでしょう笑
      最近ちょっとご無沙汰だった平安時代ですが、また色々読みたくなってきました!
      2022/05/17
    • 地球っこさん
      アテナイエさん、おはようございます♪

      そうですね、わたしも『源氏物語』をとおして紫式部を眺めるくらいがちょうどいいです(^^;

      彰子の健...
      アテナイエさん、おはようございます♪

      そうですね、わたしも『源氏物語』をとおして紫式部を眺めるくらいがちょうどいいです(^^;

      彰子の健気さを強調したり、自分の沈む心のうちや悪口なんかを記した『紫式部日記』を読んでいると、定子の笑顔のために書かれた清少納言の『枕草子』が恋しくなってきます 笑い
      2022/05/18
    • 地球っこさん
      マリモさん、おはようございます♪

      そうなんです、再来年になるんですけど紫式部が主人公なんですって。

      どんな紫式部像になるんでしょうね。大...
      マリモさん、おはようございます♪

      そうなんです、再来年になるんですけど紫式部が主人公なんですって。

      どんな紫式部像になるんでしょうね。大石静さんなんで女の性みたいなものも描かれるんでしょうか(「セカンドバージン」観られたことありますか?)
      あー、相手役が気になって仕方ありません。でも俳優さんが思い浮かばない、思い浮かぶのは韓国の俳優さんのお顔だけ……笑
      あとは「カムカム」の稔さん。松村北斗さんは私のなかでは一条天皇です 笑

      またドラマの感想のやりとりさせていただきたいです。そのためには細々でもブクログ続けておかないとf(^_^)

      この「紫式部日記」は山本淳子さんの解説なので、とても分かりやすかったですよ。
      最近は、この一条時代の人物たちの名前もわかってきたので、妄想もしやすくなってきました 笑
      2022/05/18
  • 「源氏物語」を理解するには、生身の作者の考え・心情を知りたい。となれば、「紫式部日記」はマストな一冊ですね。道長とのエピソードも散りばめられて興味深い。前段の雅な世界は「藤裏葉」までの世界。女房生活に馴染めない苦しさが吐露されたり仏の道に縋ろうとする終盤の心境は「幻」そして宇治十帖に至る境地と重なりました。有名な清少納言批判について、彰子に仕える紫式部にとっては定子文化を葬っておかねばというのは山本さんの解釈。このボリューミーな解説は素晴らしく、「紫式部日記」の理解を大いに助けてくれました。紫式部の娘大弐三位への愛情を汲み取った、献上本と私家本という二段階成立論は説得力がありました。

  • この本の編集の仕方がいい。 まず現代語訳文があり、その後に古文の原文が嫋々と並べてあり、山本さんの解説がおもしろく述べられてある。

    わたしが源氏のいろいろ読んだばかりだからか、古文の原文もいいものだなーと思って読んだ。

    だが、TV大河ドラマの「平清盛」にも時子が、源氏物語に陶酔しているように描かれているのを見た。 この時にも、その後の戦乱にも営々と『源氏物語』が受け継がれて失くさずに千年来たのがすごい!

    だって印刷技術は無く、手書きで写してきたのだから、 いまさらながら偉大なことだ!と感心してしまうことしきりの古文読書であった。

    ますます紫式部は偉大な女性だと思う。

  • 紫式部というと高慢で嫌な女だという第一印象で、あまり読む気が起きなかったが授業で取り挙げられたので読みました。

    …結論。やっぱり紫式部は嫌な女でした←笑

    でも、紫式部の生い立ちとか出仕当初の宮中におけるハブられ具合とかはなかなかに面白かったし、後半での消息文というのも名前だけで読んだことなかったから勉強にはなりました。

  • 貴重な資料。が、全部は読まず、少年文庫で興味を持ったところをかいつまんて読んだ。

  • こちらは同じ角川ソフィア文庫といっても、全文が原文と現代語訳で示されている。
    脚注、補注、解説も充実している。

    文庫の判型による制約はある。
    読者からすれば、できれば原文と現代語訳が同じページにあるのがうれしい。
    小学館の日本古典文学全集みたいなのが理想。
    もちろん、それは文庫の大きさでは難しい。
    しおりを複数使って、あちこちページを行き来して読むしかない。

    それはともかく、紫式部日記。
    前に一通り読むには読んだ。
    なぜこの人はこんなに鬱屈しているのかと思いながら。

    解説でかなりそのあたりの理解は深まった。

    彰子に仕える女房には三種類あるという。
    1女房層女房(いうなれば「プロ女房」か)
    2零落女房(元お嬢様)
    3才芸女房(才能を見込まれた人)

    入内にあたって、道長が選んだのは、家柄の良い娘たち。
    ところが、これがお嬢様然として、まともに応対もできない。
    定子の女房達と比べ、あきらかにひけをとる。
    そこで、巻き返しのために集められたのが「才芸女房」。
    紫式部も、和泉式部もこの枠だ。
    特に紫式部は、その嚆矢となる存在だったそうだ。

    となると、明らかに彼女は彰子後宮の異分子。
    敵は亡き定子の後宮を慕う宮廷人たちだけでない、ということだ。
    さらに、若くはない年齢を気にして、華やかな宮殿で場違い感を持っていた。
    そして、出仕前に親しくやり取りしていた友達とも、出仕を機に縁が切れていく。
    なるほど、これではつらいはずだ。

    千年前の、自分とはまったくかけ離れた世界なのに、何か目の前にいる人のような気が、はじめてした。

  • 新刊(文庫・千葉1)

  • こういう心があったからこその源氏物語か、源氏物語があったからの自信かプライドか。プライドが高い。自信がある。卑屈。頑固。偏屈。彰子の出産の記録が続くと思いきや、女房批判も噴出して訳がわからなくなる。それが紫式部日記か。よほど清少納言が嫌いと思えるが、それは定子側と彰子側のためか。

  • 紫式部の根性ワルな一面が垣間見えて大変おもしろかったです。嶽本野ばら先生曰く「立派な乙女は根性ワル」だそうですので紫式部はまごうことなき立派な乙女だったのでしょう。この日記の道長はなんだか「陽気なオッサン」に見えました。清少納言ディスりっぷりは噂に違わずすさまじいものがありますね。解説も分かりやすいです。そんな「千年前の立派な乙女」が書いた源氏物語がおもしろいのは道理であります。

  • 現代語訳でとても助かってます、、式部さんパネェ

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著者プロフィール

平安時代の作家、歌人。一条天皇の中宮、彰子に仕えながら、1007~1008年頃に『源氏物語』を完成されたとされる。他の作品として『紫式部日記』『紫式部集』などが残っている。

「2018年 『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

紫式部の作品

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