死者の書 (角川ソフィア文庫)

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  • KADOKAWA (2017年7月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (386ページ) / ISBN・EAN: 9784044002046

作品紹介・あらすじ

「した した した」
水の音と共に闇の中で目覚めた死者、滋賀津彦(大津皇子)。
一方、藤原南家豊成の娘・郎女は写経中のある日、二上山に見た俤に誘われ女人禁制の万法蔵院に足を踏み入れる。
罪を贖う間、山に葬られた滋賀津彦と彼が恋う耳面刀自の物語を聞かされた郎女の元に、
「つた つた つた」
滋賀津彦の亡霊が訪れ――。
ふたつの魂の神秘的な交感を描く、折口の代表的小説。

本書は折口信夫の弟子で折口学の研究者として著名な故・池田弥三郎氏による詳細な補注、
さらには作品執筆のきっかけとなった『山越阿弥陀図』および『當麻曼陀羅』をカラー口絵に収録。
『死者の書』の決定版といえる。

解説・持田叙子

みんなの感想まとめ

古代の霊的な恋愛物語を描いた本作は、奈良時代の神仏信仰や伝説を背景に、死者の意識が徐々に明らかになる過程を通じて、幻想的な世界を展開します。物語は、非業の死を遂げた大津皇子が墓の中で目覚め、同時に中将...

感想・レビュー・書評

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  • 国文学者、民俗学者、そして「釈迢空」として歌人でもある著者の「小説」を手に取る。

    このインパクトのあるタイトルと、短い本文。
    それよりも個人的に恐れたのは、多くの註釈と、長い補註である。
    なるべくなら理解しながら読みたいが、註釈が多いと物語が進まずストレスを覚える。我が無知を悲しむも、この点はどうにもならず、いつも慣れるまで苦労する。

    しかし、この本は本当に註釈が細やかで丁寧すぎるので、ある程度を飛ばしてもほぼ問題なく読めた。そして補註、あとがき、著者略年譜によって、物語当時の時代背景や、著者の思惑や人生を垣間見ることが出来た。

    思っていたよりかなり読みやすい。
    二周目は註釈も一つ一つ拾いながら読んだ。
    たくさんの発見があった。

    大筋では古代の霊的、魂の純粋な恋愛物語、として読めるが、歴史物としても、一種のホラーとしても、奈良時代、それ以前の神仏の信仰を描いたとも読める。
    著者の同級生への長年の思慕が書かせた、そうなら著者は、読者は郎女だろう。という、持田叙子氏のあとがきも興味深い。

    著者の使う言葉、万葉から古典から、そして大阪弁までの音韻まで気遣った表現方法や、「した、した」「つた、つた」などのオノマトペ的表現が、作品独特の雰囲気を醸し出している。

    読後に本の頭にカラー写真として入っている「綴織當麻曼陀羅」を眺めてみると、また感慨深い。

  •  折口信夫氏の『死者の書』を読み解く際には、作品の物語構造だけでなく、彼自身の思想的背景に目を向けることが重要であるように思われる。折口信夫氏は民俗学者として、古代から日本人の生活や信仰の底流に流れてきた祖霊信仰や鎮魂の観念に深い関心を寄せていた人物である。古代においては、死者は過去へと消え去る存在ではなく、生者の世界と緩やかにつながり続ける存在として捉えられていた。このような死生観は、本作において、郎女が死者の魂に導かれるように曼荼羅を織り上げていく構図の中に反映されているように感じられる。
     本作がモチーフとする中将姫伝説では、奈良県の當麻寺に伝わる當麻曼荼羅が、極楽浄土を現世に可視化する聖なる造形として位置づけられているが、折口信夫氏はこの枠組みを借りながら、より根源的な「鎮魂」の営みを描き出そうとしているように思われる。郎女の織る曼荼羅は、救済の象徴であると同時に、死者の気配や記憶をこの世に留めるための媒体として機能しており、そこには死者と生者の境界を曖昧なものとして捉える折口信夫氏の思想が滲んでいる。こうした思想的背景と深く結びついているのが、本作において多用されるオノマトペである。

    「した した した。」

    「こう こう こう。」

    「ほほき ほほきい ほほほきいーー。」

    本作では、水の滴る音や助けを乞う声、鶯の鳴き声を表現するにあたってオノマトペが用いられており、独特な雰囲気を醸し出している。これらの表現は、論理的に把握できる出来事を描写するためというよりも、むしろ言葉になる以前の感覚や、目に見えない存在の兆しを読者に伝える役割を果たしているように見える。
     折口信夫氏にとって死者や祖霊の世界は、明確な形や言語によって把握できるものではなく、音や気配、身体感覚としてふと立ち現れるものであったと考えられる。そのため、本作におけるオノマトペの多用は、物語の装飾というよりも、生者が死者の存在に触れる瞬間を表現するための方法であったと言えるかもしれない。オノマトペによって描かれる曖昧な感覚は、死者の声が直接言葉として語られることを避けつつ、なお確かにそこにいることを感じさせる効果を生み出している。
     このように『死者の書』は、折口信夫氏の思想と密接に結びつきながら、物語内容だけでなく、言葉の選び方そのものによって死者の存在を描こうとする作品であるように思われる。中将姫伝説をなぞる曼荼羅織りの物語と、オノマトペによって立ち上がる死者の気配とが重なり合うことで、本作は死を静かに受け止め、なお語り継ごうとする文学的試みとして、独特な余韻を残しているように感じられる。

  • 民俗学者である折口信夫の文学作品としての代表作。
    奈良の二上山に伝わる大津皇子、中将姫伝説を下敷きとした、奈良時代を舞台とした幻想小説。
    非業の死を遂げた大津皇子が墓の中で目覚めるところから物語は始まる。
    同じくして、中将姫は當麻寺に導かれる。
    意図的に時系列を前後させているため、しばらく物語の輪郭は掴めない。
    蒙昧とした死者の意識が、次第に明らかになるように物語は進む。

  • 平安時代よりもさらに遡った奈良時代が舞台の小説で、最初は何が書いてあるのかさっぱり分からないなりに、所々の文書に惹かれて読み通し、2度目になんとか筋がわかってきたという(笑)。国文学者であり民俗学者であった作者の文章は、貴さとか美しさとか賢さが奈良時代の物の考え方や言葉遣いを反映した文章で表現されていて印象的で新鮮。説明という漢字にことわけというフリガナがふってあったり、大体がこんな感じでなんというか、二重に楽しめる感覚がある。

  • 古代の奈良を舞台にした折口信夫の『死者の書』は目に見えぬ魂の声に耳を澄ませた物語である。藤原南家の姫が死者の影に引き寄せられ夢とうつつを往還する姿は人と死者の境を越えた対話を思わせる。そこに描かれるのは恐怖ではなく忘却を拒む心の深みだ。現代社会は死を遠ざけ、語らぬものとして封じがちだが死者の存在を思うことは生の確かさを教えてくれる。古代の声は今日も私たちに問いかける。

  • 本日、折口信夫(しのぶ)の「死者の書」を苦労の末なんとか読了した。
    読んでみて初めて分かったが、本書は折口の最高傑作と言われる恋愛小説である。舞台は奈良時代、藤原南家の姫と謀反のかどにより処刑された大津皇子との魂の触れ合いを描いた恋物語である。
    古代の物語りであるから、当然ながら文語体の古文で書かれており、言葉や漢字も難しく、脚注や解説抜きでは到底理解し得ない難解な小説である。
    時代背景や物語りのあらすじを理解する上で、巻末の持田叙子(のぶこ)氏の解説は絶妙と言える。
    作者の折口信夫は、古代史や古代文学の研究者であり、詩人でもあり、また柳田國男と並ぶ民俗学の泰斗でもある。本書「死者の書」は、民俗学や古代文学の研究書や批評ではなく、詩人折口信夫の恋と魂と美を結晶させた純文学小説である。
    折口の幼名は(のぶお)であるが、恋心を抱く頃から(しのぶ)に変えている。持田氏の解説にもあるが、折口は男性に対する恋心多き男であり、同級生や弟子との男色恋愛は極めて奔放である。まさしく「忍ぶ恋」を思わせる信夫(しのぶ)ではないかとの持田氏の説明に、その名前の由来が「目から鱗」の思いで得心した。
    それ故に彼の小説は、ある時は男性的であり、ある時は女性的にもなる。作者は、別の書物の中で同僚作家に対して、作中の藤原南家の郎女は、自分自身であると告白しているようである。本書は古文なるが故に難解な文章ではあるが、繰り返し読んでいると、幽玄な琴の調べでも聞こえてくるような美しい文体の戯曲を想わせる。
    民俗学者としての折口は、「魂」や「霊」を「まれびと」と言う概念を用いて日本文化の基底に据えており、その「魂」の交感を古代の恋愛小説という文学作品に結実したものであろう。
    藤原南家の郎女と俤びと(大津皇子)との切なる魂の呼び合いは、まさしく折口自身が藤原南家の郎女となり、彼の学問上の愛弟子であり、恋人であり、そして養子にまでした折口春洋(はるみ)が硫黄島の戦闘で戦死したことへの慟哭であろうか。本書は、折口民俗学の背景にある繊細で詩的な部分を知る上で避けては通れない作品であると思う。
    2024.6.29 公祥

  • 過去分

    このような文体の本をしっかり読んだのは初めてだったので、読みづらかった!意味もあまり理解できず、、。
    しかし、情景の美しさは目に浮かぶようで、奈良時代の良さ、悪いところが見えた気がした。
    文章は流れるようで美しいと感じた。

  • 巡り巡ってやっとこの本の順番に至った
    そんで、見たぞ、景色を
    自分の生半な知識ではあえて描きたくなかった景色を、折口信夫を頼って見たぞ
    松岡正剛が、僕の中に蟠っただけのことを、千歩くらい先回りして見事に言葉に言ってくれてるので、そこはパス
    日本の古代が、ヌーベルバーグのように描かれる
    これを混乱と読むか、あるべくままと読むか

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著者プロフィール

歌人・詩人、国文学・民俗学・芸能史・宗教学者。筆名・釈迢空。
大阪府木津村生れ。國學院大學卒業。國學院大學教授、および慶應義塾大学教授。
1953年9月3日逝去(66歳)。能登の墓所に養嗣子春洋とともに眠る。

「2019年 『精選 折口信夫 Ⅵ アルバム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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