虞美人草 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044002848

作品紹介・あらすじ

美しく聡明だが、我が強く、徳義心に欠ける藤尾には、亡き父が決めた許嫁・宗近がいた。しかし藤尾は宗近ではなく、天皇陛下から銀時計を下賜されるほどの俊才で詩人の小野に心を寄せていた。京都の恩師の娘で清楚な小夜子という許嫁がありながら、藤尾に惹かれる小野。藤尾の異母兄・甲野を思う宗近の妹・糸子。複雑に絡む6人の思いが錯綜するなか、小野が出した答えとは……。漱石文学の転換点となる初の悲劇作品。

【目 次】

虞美人草

注釈
解説 佐古純一郎
新版解説 小森陽一
文献抄
年譜

感想・レビュー・書評

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  • 若い男女六人の絡まり合った関係の末路を、予想外の怒涛の終盤展開で魅せた明治悲劇。
    まるで映画のカットのように目まぐるしく切り替わり続ける場面構成の中で、装飾的な文体が紡ぐ思わせぶりな伏線の積み重ねとその回収が生んだ立体感には、引き込まれます。
    盛り込まれたシェークスピア悲劇「アントニーとクレオパトラ」のモチーフも、本作に哀愁と華を添えてます。

    前年の外交官試験に落第しニート同然ながら、それを全く苦にしてないような呑気ものの宗近一(むねちかはじめ)。 
    その縁戚で、家庭環境と父親の突然の客死ゆえに神経衰弱を患ったかと思われる甲野欽吾(こうのきんご)。
    二人の共通の友人で、大学卒業時に天皇陛下から成績優秀者の証である銀時計を賜るほど頭脳明晰ながら、優柔不断で、卑怯な面を持っていた小野精三(おのせいぞう)。 

    欽吾の異母妹で、一の許嫁でありながら、学が高くも己の思い通りにできそうな惰弱な小野に惹かれており、異母兄とは大きな利害の対立があったゆえにそれに勝つためにも小野を選ぼうとした、美しくも驕慢な甲野藤尾(こうのふじお)。
    欽吾を愛しながらも、積年の想いを明かせないでいた、一の妹・宗近糸子(むねちかいとこ)。
    貧しい孤児同然だった小野の恩師の娘で彼の婚約者でもある、しかし、小野にまさに裏切られる寸前の、何もできない、ひたすら弱く健気な京女・井上小夜子(いのうえさよこ)。

    前半の、決定的には何一つ展開しないのに極端なほどに切り替わり続ける場面が徐々に明らかにしていく主要人物たち六人の入り組んだ関係性や抱える背景の描写。
    中盤の、それぞれの思惑がようやく明らかになった中で積もっていく妙な不安感と不穏さ。

    なにより、後半の、とある主要人物の劇的な行動がもたらす緊迫感と、そこから生まれた三軸構成が織りなす怒涛の展開の巧みさ。ここからはもう、筆がのったというか、それまで堰き止めていた勢いがほとばしるという感じで。
    引き込まれて、一気読みしてしまった。

    後半の唐突なまでの劇的さ、しかし、実は巧みに伏線の要素を担っていた前段階の細かな各シーンを思い返すと、「漱石、この構成、本当にこだわって組んだんだなあ…」と本当に驚かされます。
    事実、本作は漱石の職業作家としての第一弾であり、言葉にも構造にもめちゃくちゃこだわってたらしい。

    ただ正直、令和の現代に生きる女としては、あのラストに対しては「えー??ナシじゃない?」と疑問符がついたのけど…。 
    自活の手段も意識もまだまだなくて、結婚こそが大きな意味を持った明治の女にとっては、「あのラスト」はそれほどに致命的かつ衝撃的な打撃だったということなのかもしれませんが。

    一般的に、漱石作の中では第一の代表作としてはあまり取り上げられないのは、登場人物の個性と背景と関係性、そして、思惑の絡まりぐあいを描くことに力点を置きすぎたために犠牲となってしまった感のある、前〜中盤の展開の動きの無さゆえに脱落する読者が多いためでしょうか。

    でも、漱石の未完の絶筆ながら大なり小なり対立するあらゆる人々のそれぞれを恐ろしいまでの奥行きと破綻のなさで描いた傑作「明暗」の鱗片がみられる興味深い作品でした。
    読書をキャラクターやスピーディーな展開ではなく、構成で楽しめる人にはおすすめしたいかも。

  • たまには真面目になればよいらしい。

  • 神経症的な甲野、彼の異母妹藤尾、甲野家と縁戚続きで飄々とした感のある外交官浪人生宗近、その妹糸子、甲野達の友人である小野と彼の恩師の娘である小夜子、この六人の六角関係を扱う。
    序盤は古文、漢文、口語文を融合したような地の文と、登場人物の区別に苦労するも、人生に迷える小野君と彼を慕う小夜子に感情移入できた時点から、やっと物語世界に入って行けた。
    藤尾とその母を徳義心に欠けた人物として書くが、こういった人は当時はともかく現代では結構普通にいるような気もしないではない。甲野家の財産を我の物とするために画策する藤尾と母、それに利用される小野という構図。
    終盤でそれまで何を考えているかわからず、風に吹かれるとすぐ靡く柳のように見えていた宗近が縦横無尽の活躍を見せる。この場面の宗近は格好良かった。それによって小野が覚醒し、藤尾は大悲劇の中へ。
    すべてを見抜いていた甲野も渋い。
    小野と小夜子に同情的に思われる著者の、藤尾への仕打ちは苛烈を極めた。ひょっとしたら、漱石文学で一番悲惨な運命を辿った人物かも。
    内容的にも文章的にも読み応えがある一作。

  • 序盤は独特の表現に慣れなくて、読み進めるのがつらかったのでまとめサイトの力を拝借。。キャラ立ちがクリアになったら、めくるめく場面転換とそれぞれの思惑がひしめいて面白くなってきたぞー!となる。クライマックスを走り抜けて読了感ハンパなし。
    優柔不断なひとはああいやだ。

  • あまり内容はない。主人公を作者が毛嫌いしているのが伝わってきた。畳み方が雑。

  • 明治時代の知識層における、男女六人の恋模様。
    好いた惚れたがテーマの割に、当事者間の会話が全体の1割にも満たないが、これが当時想像し得る、男女関係の限界だったのか。
    高等遊民の男性達の、清々しいまでの自分本位っぷりが笑える。
    教育を受けた女性が、ちらほら出現していた頃と思われ、そしてそういう女性が、煙たがられていた時代だったんだろう。藤尾の扱いがあんまりである。

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著者プロフィール

夏目漱石(なつめ そうせき)
1867年2月9日 - 1916年12月9日
江戸・牛込馬場下(新宿区)生まれの小説家、評論家。本名は「夏目金之助」(なつめ きんのすけ)。1890年、帝国大学文科大学英文科に入学。1895~96年には『坊っちゃん』の舞台となった松山中学校で教鞭を執る。1900年、イギリスに留学。1905年、『吾輩は猫である』を俳句雑誌「ホトトギス」に連載し始め、作家活動を本格的に開始。1907年、朝日新聞社に入社。以降、朝日新聞紙上に『三四郎』『それから』『こころ』などの代表作を連載。日本の文学史に多大な影響を与えており、作品は多くの人に親しまれている。学校教科書でも多数作品が採用されている。

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