遠野物語remix

  • KADOKAWA/角川学芸出版
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本棚登録 : 530
レビュー : 44
  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044003180

作品紹介・あらすじ

山で高笑いする女、赤い顔の河童、天井にぴたりと張り付く人……岩手県遠野の郷にいにしえより伝えられし怪異の数々。柳田國男の『遠野物語』を京極夏彦が深く読み解き、新たに結ぶ。新釈“遠野物語”。

感想・レビュー・書評

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  • 「遠野? 行ったことはありますよ」
    葉月は、ソファで本を読んでいる蛹の前にコーヒーを置きながら、彼の手元を覗きこんだ。
    「ああそうか、地元から近いんだっけ」
    「近くはないです。関東のノリで言わないでくださいよ。東北は、『ちょっとそこまで』のノリで県境越えられないです」
    葉月はいつものように、蛹の向かい側に座る。
    「遠野に行ったのは割と小さい頃だったので、遠野物語なんて知らなかったんですよね。まあ資料館みたいなトコには連れていってもらって、『昔話が有名なのか』程度のことは分かったんですが……携帯のCMで遠野の河童が話題になったのはもっと後ですし」
    「遠野の河童は、他の地域と違って赤い顔をしている、って書いてあるけど……同じ河童でも地域差があるということよりも、それらが皆、河童として伝わっているということの方が不思議なんだけど」
    「確かに、ゾウガメと人間のハーフだと伝える地域があってもよさそうですね」
    「いや、それはさすがにないと思う」
    日本の農村でゾウガメと出会う機会は、残念ながら中々ない。

    「マヨイガや座敷わらしなんかを読んでいると、こういうのは、もしかしたら『他人をそっとしておくための知恵』という気もするよね」
    蛹は、ふと思い付いたというような顔で、そんなことを言った。
    「そっとしておく?」
    そう、と蛹は頷く。
    「よく、都会は冷たい、に対して、田舎は過干渉だって言ったりするだろ」
    「あー、そういうのほんと苦手です。近所の人に生活サイクル把握されてたりするアレですよね。洗濯物の干し方くらい好きにさせてくれっていうか」
    葉月は都内のアパートで暮らしているが、それでも近所の人とは色々あるらしい。
    「まあ一概に悪いことでもないのだろうけれど、人の好奇心は際限がないからね。歯止めが必要になる」
    「それが物語、ってことですか」
    「ふと、そんな気がしたんだ。金持ちや、仕事がうまく言っている人に対して、なぜだろう、何か秘密でもあるのかーーーいや、マヨイガに行き当たったんだ、あるいは座敷わらしがいらっしゃるんだ、ってさ」
    「それ以上詮索しない、という、一種のマナーみたいなものかもしれないですね」
    「人の好奇心が過剰に働くのは、田舎だけじゃない。何でも暴き出そうとするだろ」
    成功している人がいれば、私生活から人間関係まで暴き出して、どうやったら同じように成功できるか探る。一方でどん底にある人がいれば、どうやってそこまで落ちていったのか、その経歴から何から詮索して回る人間もいる。
    なるほど、と葉月は思わず小さく笑った。蛹は、放っておかれるのが好きな人間だ。
    遠野物語の大半は、土地の人には世間話と同じくらいのレベルの話で、具体的な名前が登場するものも多い。それを、互いのプライベートに踏み込まないための、ある種の知恵のようなものだと解釈したのは、いかにも蛹らしいと思った。

    「そういえば、マヨイガって、百鬼夜行抄にも登場しますね」
    「あれは恐ろしい話だったけど、元はありがたい話だったんだね。山を歩いていると立派な屋敷がある。中に入ると食事の膳が用意されているが、人の気配はない。その家から何かひとつ持ち帰ると、その人は富むという。もちろん、あとから同じ場所に行っても、そんな屋敷はない」
    「膳が用意されているというのは、もしかしたら、山の神様に招かれたのかもしれないですね」
    「マヨイガで富を受けたのは、無欲な女性だった。強欲なものが罰を受ける話も多い。あるいは、良くない行いから座敷わらしが出ていってしまう話もある」
    それを教訓と呼ぶのは、いささか味気ないようにも思える。
    「それが、彼らの生き方を映しているっていうか、まあ大袈裟に言えばそういうことじゃないのかな」
    蛹はそう締め括り、本を閉じると、冷めかけのコーヒーに手を伸ばした。

  • 数年前に柳田國男の『遠野物語』を読みました。
    泉鏡花が好きで妖怪や怪異が登場するお話に興味があるので読んだのですが、文語体ということもあり正直良く分からず苦労して読了した記憶があります。
    しかし、今回は前回の苦労が嘘のようにあっさり読了。
    京極夏彦の口語訳が分かり易かったというのも勿論ですが、物語の順番を再構成していた点も大きなポイントかなと思いました。
    再構成によって柳田の『遠野物語』よりも全体が繋がってる印象に。
    最初から最後まで大きな流れに乗って読めた感じでした。

  • 遠野物語の再編集版。もともと1、2ページ毎のエピソードが詰まった“遠野郷の小説オムニバス”。原作はとっ散らかってた印象でなかなか進まなかったが、京極夏彦氏がある程度の小話のまとまりや流れを意識して編集して下さったおかげで、理解しながら読むことができた。
    明治期の話は今日では昔話に入るかもしれない。読んでいる最中は、新鮮ながらも日本人の中にある郷愁を起こし、現実と物語を揺蕩う不思議な感覚になる。文学としても史料的書物としても興味深い。これを機に原作を読んでみようと思うし、遠野郷へ行ってみたいと思うし、民族学へ更なる興味が湧き上がった。

  • 三度目の正直で読み終わることができた。
    単に怖いだけの話ではない。日本においての怖いとは、同時に切ないというものが付いてくるのかもしれない。そう思った。
    遠野に行きたい。

  • 原典の有名な「~願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」をそのまま引いて、京極氏が編集スタンスを述べている序文が、本書のもっとも盛り上がるところではないかなと思います。

    原典『遠野物語』自体が遠野出身者からの伝聞を、柳田氏の感性に基づいて編集したリミックス版であり、本書ではさらに、現代の作家が現代語でリミックス、というかリデザインする試みがされています。とりわけ京極夏彦さんという、民俗学にも明るく、長年、怪異や怪談をモチーフにした物語を書いてこられた作家さんによる仕事というのが、企画の面白さをより際立たせていていると思います。

    京極さんの著書によく見られる、絡み合う複数の物語をするする淀みなく読ませる巧みな構成は本書でも存分に発揮されています。
    編集のうまさは、エディトリアルデザインも多く手掛ける京極さんならではですが、本書では自然すぎるほど自然に行われているので、原典とあわせて読むとよりいっそう楽しめる内容です。

  • 読み終わりました!

    ちょっと読みにくかったなぁ・・・
    だけど、ずっと気になっていた本が
    やっと読めたので良かったです(〃^^〃)


    最初。。色んな妖怪さんのお話がぎゅっと詰め込まれた本なのかなと思っていたら、
    予想と違っていてビックリしました!





    遠野では昔話の終わり「コレデドンドハレ」なんですね!
    最後のお話『百十七』は、
    ドンドハレじゃないでしょ!?と突っ込んでみたりしてました(^_^;)笑


    狐とか河童とか知っている妖怪が出てきたのは嬉しかったです♪♪



    妖しに化けて人間の前に出てくるエピソードが
    夏目友人帳に似ていたのも嬉しかった////

    知っている人が妖怪さんになって現れる…
    折角現れたのに怖がるところは、
    ちょっと切なかったなぁ(;ω;)


    九十七のラストは。。おそろしを思い出しました…


    どのお話も不思議な話でした!
    冬に怖い本を読むのもいいですね〃^^〃

  • 単行本が出たときから気になっていた本。
    1年くらいで文庫化されるなんて早い。

    遠野物語が現代語訳になっていた読みやすかった。
    ただ、話の語順を変えてあったので、最近原典の方を読んだのもあり、こんな繋がりだったっけ…と戸惑った。

    最後の歌に解釈がついていたのは、原文だけしか読んでいない自分には内容把握がしやすくてありがたかった。

  • 似ている項目ごとにまとめてあって、かつ現代語訳されているので読みやすい。
    ただ、もちろん原典を読んだことがあるので、知っている話ばかりなのだけれども。あのとき、具体的にイメージできなかったものが、しっくりときて、なんとも不思議な感じ。

    あーもう一度遠野に行きたいなぁ。

  • 遠い昔の話ではなく明治時代の話を、こうやって並べられると、静かにそろりそろりと身に迫って怖くなってくる。

    最後の「××ほめ」という遊び?は、怪異譚との対比もあり、遠野の人々の暮らしぶりやその心の余裕が見えて面白い。

  • 巻末の解説が中身なさ過ぎて草。
    話自体はどこかで聞いたこともある民話を集めたものだけど読む人を引き込む力がある。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家、全日本妖怪推進委員会肝煎。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞を受賞。著書に『幽談』『冥談』『眩談』『鬼談』『ルー=ガルー』『南極(人)』『厭な小説』『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』 『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『遠野物語拾遺retold』 ほか多数。

「2021年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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