怪談牡丹燈籠・怪談乳房榎 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044003425

作品紹介・あらすじ

こまげたの音高くカランコロンカランコロンと……江戸は根津の清水谷に住む、若い美男の浪人・萩原新三郎のところへ、旗本の娘のお露と女中のお米が毎夜通ってくる。新三郎が悪い女に騙されては困ると、家来同様の伴蔵が、ある晩、新三郎の家を覗いてみると、彼が楽しげに語らうのは2人の「幽霊」であった。お露と新三郎の悲恋の結末とは!? 落語の神様による怪談噺の最高傑作。他に「怪談乳房榎」を収録。解説・堤邦彦

感想・レビュー・書評

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  • 牡丹灯籠といえば、メジャー怪談の最右翼と言っても良いが、円朝は、それを20年にわたる復讐物語にして、登場人物に奥行きを持たせた。カランコロンと下駄の音…に強い印象を持つ人は、この噺の主題が生きている人間の欲望の強さ、醜さに更に圧倒されるだろう。

  • カランコロンカランコロンとこまげたの音高く、つねに変わらず牡丹の花の燈篭を下げて…一目で惚れた男に焦がれ死にし、死んでも諦めきれず彼女は通う。題名とあまりに有名なこのシーンだけが印象に残る噺ですが、実はその二人だけではなく、たくさんの人々の思惑が絡み物語が巡っていくことに驚かされました。特に後半は怪談というより敵討の物語。因果関係や巡り合せに驚きます。人間の欲や業というもの、女の執念がどういうものなのかを突きつけられるようでした。当時何回にも分けてこの落語を聞いた人たちはどんな思いで先を待ったのでしょう。

  • ・三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠・怪談乳房榎」(角川文庫)は 先の「真景累ヶ淵」に続く角川の円朝第2弾である。こちらの方が有名であらう。特に「牡丹灯籠」は、歌舞伎としてよりも怪談として有名であらう。それに対して、「乳房榎」は歌舞伎として有名であらう。「累」の方は豊志賀の死が歌舞伎として有名であるが、ここだけ独立して演じられる。だからこの芝居全体を知ることはできない。実際問題、「累」があんな筋の作品であつたと知つたのはあれを読んだからであつた。ところが今回の2作、いづれも怪談として知られてゐ る。特に「牡丹灯籠」は例のお札はがしの場で有名で、ここだけで終はつてしまひさうな気もするほどである。しかし、実際にはお国がゐたりして話はまだまだ続く。そして最後はやはり敵討ちで終はる。歌舞伎ではもちろん、近世の物語は敵討ちに終はるものが多い。「牡丹灯籠」もそれであつた。もちろん、「乳房榎」もまた敵討ちである。歌舞伎では落語に出てこない人物がゐて、最後の本水と早替はりで終はる。怪談だからといつて、怪談では終はらないのである。
    ・「怪談乳房榎」は一部を落語できいてゐる。浪江がおきせを口説いてものにするあたりから重信殺しに至るあたりまでで、最後の敵討ち成就の場面はきいたことがない。これだと敵討ちに至るまでにどうなるのかが分からないが、前半、中盤の聞き所は収まつてゐよう。このあたりには特別に複雑な、そして恣意的とも言へさうな人物関係もない。ここまではごく普通である。浪江とおきせ、浪江と正介と重信、この浪江を中心とした二つの関係の中での愛憎劇である。この点、 「累」のやうに入り組んでいないから分かり易い。浪江とおきせと正介の語りわけがポイントになるが、この3人はいづれも性格がはつきりしてゐるから、やり やすさうな気がする。そして最後の敵討ちの場面、これは文庫で長くみても2頁分といふところ、ごくあつさりと終はる。歌舞伎のやうに見せ場にはならない。 ただし、落語だとこれが最後の日の話となるわけで、それ以前を振り返つたりする必要があるらしく、浪江の来る前に重信の息子の真与太郎に正介が事情を話 す。それも含めてやつと2頁分である。歌舞伎の本水を使ひ、三役早替はりをするのとは違ふ。舞台にかけるにはかうでもしないとおもしろくないのであらう。かういふのが落語と歌舞伎の差、違ひなのであらう。落語の「牡丹灯籠」でも最後の敵討ちが短い。長々と描写しない。すぐに殺し、殺される。殺しは聞かせどころにならないのであるらしい。本筋はそこにないからだと言へばそれまで、あくまでそこに至る過程を語るのが落語なのである。そこでの語りわけが聞き所となる。落語と歌舞伎の違ひである。「乳房榎」はたまたま両方、たとへその一部でも知つてゐるからそのやうなことが言へる。「らくだ」でもさうなのだが、歌舞伎には視覚的要素が大きく入る。1人で座つてやる落語にはできないことである。逆に、観客の想像力を刺激して聞かせることもできる。それができるのが名人なのであらう。円朝は話を作るのもうまかつたが、語るのもうまかつた、たぶん。「累」のやうに長い話を幾日もかけて語り通すのである。今では考へられないことである。その点、「乳房榎」はコンパクトにまとまつてゐる。これならば通ふにしても通ひ易い。テレビがない代はりに、昔の人はかういふことを楽しみ にしてゐたのだと思ふ。言文一致に大きな影響を与へた速記本が今読んでもおもしろいのは、それ自体が読みやすい文章であるのと、噺家の質ではなく、噺家の 話す話の内容によるのだらうかと思ふ。昔の話を読んでみようと思ふ。

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著者プロフィール

1839~1900。幕末から明治の落語家。人情噺を大道具・鳴り物入りで演じて人気を博す。近代落語の祖といわれる。代表作に「真景累ヶ淵」「怪談牡丹灯籠」「塩原多助一代記」など。

「2018年 『怪談牡丹燈籠・怪談乳房榎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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