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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784044004606
作品紹介・あらすじ
かつてこの国にあった美童文化。江戸・明治の錦絵に刻まれた男倡の影。文豪が変名で寄せた同性愛小説。菊、梅、杜若、水仙の華に込められた、若契と衆道のサイン――。幾重にも響きあって呼応する文化の複層にわけいれば、ときに秘され、ときに失われた男色の景色が浮かびあがる。万葉集の相聞歌から、平安貴人の日記、世阿弥、琳派、三島由紀夫、川端康成、中原淳一まで。今はなき東京の盛り場を訪ねた「東都戦後男色地図」を増補。
感想・レビュー・書評
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最近、角川ソフィア文庫のラインナップがちょっと面白い。本書は六章から成っているけれど、古代から近代まで順を追って・・・という構成ではない。それぞれ独立したエッセイとして読めるのは良いのだけれど、その分ちょっと雑多な印象も受けた。
第一章「嘆息」は、誰の嘆息かと思えばなんと井伏鱒二(の山椒魚)で、これはちょっと意外。といっても、井伏鱒二本人にそういう嗜好があったというわけではなく(自殺した親友・青木南八との関係が若干怪しまれている程度)早稲田大学在学中に、ある教授に言い寄られてこれを拒絶したために休学、のちに復学しようとするも、件の教授に邪魔をされて退学することになった。
この教授・片上伸は、井伏以外にも何人もの生徒に手を出しており、ついに問題視されて被害生徒たちから排斥運動が起こって退職することに。今なら早稲田の教授が男子生徒にセクハラ三昧なんて大炎上の案件。井伏の小説にもこの教授のことはちょいちょい出てくるらしい。そしてこの片上の実弟・竹内仁は、婚約者に破談されたことを恨みその両親を殺害、しかしどうやら彼も同性愛的傾向があったようだ。
その他、足穂の先輩として有名な今東光は言わずもがな、大杉栄もそっちの趣味があったとは知らなかった。あとは早稲田中学界隈の会津八一、安藤更生らの名前と、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の息子の小泉清が大変な美少年(ハーフだもんね)で想いをかける者が多数いたらしいなど。明治大正の学生間では同性愛はけして珍しくなかった例が多数あげられている。そして大半が普通に妻帯者。
第二章「連れ鳴く雁」は、おなじみ三島由紀夫と「薔薇族」の話から、後半は乱歩の親友・岩田準一へ。「薔薇族」は日本初のゲイむけ商業誌として1971年に刊行。三島が匿名で書いたゲイ小説「愛の処刑」も掲載。のちに三島が切腹した時に介錯した森田必勝が、『禁色』の悠一のモデルになった「勇ちゃん」というかつて三島が入れ込んだ少年に似ているという話から、「薔薇族」編集者の一人であった藤田龍が三島に誘われて一夜を過ごしたエピソードまで、三島のそっち系交友関係について詳しい。
それにしても藤田龍本人のみならず、さらにその藤田のパートナーであった内藤ルネ(薔薇族の表紙も長年担当)にまで、三島はナルシスト、フェロモンではなく体臭がきつかった腋臭がひどかった等と証言されちゃってるのはさすがに気の毒。内藤ルネといえば少女雑誌のレトロ可愛いイラストレーターというイメージだけれど、師である中原淳一にも思いをかけられたというのだからビックリ。
岩田準一は乱歩の『孤島の鬼』に影響を与えたことでも有名な男色文献研究家。もともと画家を志して竹久夢二に師事。夢二にもとても可愛がられたらしい。熊楠との文通も有名。
第三章「一条の水脈」は画家の村山槐多のエピソードに始まり(「悪魔の舌」は読んでみたい)、湯島の陰間から、江戸時代さらにその先へと遡る男色ヒストリーへ。歴史上の有名人、あのひともこのひとも。まあ日本はね、遡ったら遡っただけ大昔からそっちの文献がいっぱい出てくるっていうね。
第四章「華苑」は語源について。いわゆる「おかま」という言い方、もともと男女問わず「おしり」の意味では江戸時代から使われていたようで、だんだん男性のほうに特化されていったらしい。「かげま」は諸説あれど、「か」と「け」の間に「きく」があるという説は面白いですね。そしてその「菊」のルーツについても。最終的には尾形光琳の話に。
第五章「そへ歌」宮武骸骨が明治後期に創刊した「此花」という浮世絵雑誌、内実は結構そっち系の話題も多々あり。そもそも「この花」とはどの花かという前章にも通じる話題。花の中でいちばん早く咲く梅が兄貴分、最後に咲く菊は弟分、というわけで同性愛の象徴に使われていた模様。その他「岩つつじ」「杜若(水仙)」なども。
第六章「礼装」で再び三島界隈のお話。若き日の美輪様や野坂昭如も働いていたという銀座のブランスウィックというお店(三島の『禁色』に出てくる「ルドン」のモデルとなった)についてや、その『禁色』の主人公・老いた作家の檜俊輔のモデルが川端康成だという説、そして川端康成が中学生時代に同性愛関係にあったらしい「清野少年」について(『少年』読んでみたいけれど全集にしか入ってなさそう)、『伊豆の踊子』への影響まで。
なるほど、伊豆の踊子を、踊り子のほうではなくその兄の栄吉と主人公の関係に着目して読むとそういう解釈もできるのか、と。総じて、「山椒魚」や漱石の「こころ」、そしてこの「伊豆の踊子」まで、なんでもゲイ文学として読むことができてしまうという腐女子もびっくりな着眼点に驚きです(※この本の趣旨はそこではない)とりあえず三島の『禁色』を再読するところから始めたい。
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