男色大鑑 (角川ソフィア文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044004927

作品紹介・あらすじ

江戸時代、武家社会を中心に男どうしの恋は公然のふるまいとされていた。そのなかでも王道の組み合わせは、おじさんと美少年である。三角関係のもつれ、容色の衰えによる歌舞伎若衆の悲劇や役者の苦労話……男たちの恋物語を西鶴が浮世草子に活写。美貌を誇った少年たちの末路は、恋に殉じての切腹や、この世の無常をはかなんだ出家しかないのか。近世文学「異色」の最高傑作、初の文庫化。上方文化に精通した小説家の抄訳版。

感想・レビュー・書評

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  • 『男色大鑑』(なんしょくおおかがみ)は1687年発行の浮世草紙。全8巻、各巻5章、計40章のまあ現代風にいえば短編集。全8巻のうち前半の4巻は武士もの、後半の4巻は若衆歌舞伎ものとなっている。しかし本書には全部は収録されていない。40編中の26編のみ。(ちょっとがっかり)

    一応現代語訳ということになるのだろうけど、どうも現代語というには読み辛く、解説によると訳文自体は昭和46年(1971年)のもの。なんというか、現代語訳ならいっそもっとくだけた文章で、かつ主語等をおぎなってくれていればいいのだけど、読み下し文よりはちょっとマシな程度の教科書的な直訳で、これならいっそ読み下し文に注釈を詳細につけてくれたほうがマシだったような・・・。

    1編あたりは短く、こういうことがあったよ、というだけのダイジェスト的展開で、深い情緒や心理はあまり感じ取れない。とりあえず美少年が出てくる。武士ものは切腹エンドが多く、だいたい横恋慕でもめて斬ったり斬られたり心中したり。若衆歌舞伎のほうは出家しがち。もしくは貧乏になりがち。

    エピソードとして印象に残ったのは「墨絵につらき剣菱の紋」の、恋人の屋敷に通うのに川を泳いで渡っていたら鳥(魚じゃないの?)と間違えられて他人に弓で射られちゃったのとか、「傘持つてもぬるる身」は妖怪狸の退治もする勇敢な美少年が浮気したせいでお殿様に両手を切り落とされて首も落とされるその殺され方が残酷でインパクト大、「玉章は鱸に通はす」は恋人にねちっこい恨み言の遺書みたいなのを書くくだりの、その内容のねちっこさがなかなかいい。「詠めつづけし老木の花の比」はかつて美少年だった二人が60代になっても連れ添っている話で、天晴という感じ。

    「声に色ある化物の一ふし」は珍しく若い娘が出てくるがどうやら幽霊。「執念は箱入りの男」は美しい歌舞伎役者に恋してしまった人形(もちろん男姿の)が、説得されて聞き分けよく諦める。(諦めずに色々起こったほうが面白いのに!)その他、本書には収録されていないものの中に、私好みの幻想的要素のあるものもあったようで残念。

    明治になってキリスト教による同性愛禁止の概念が入ってくる前の江戸時代は男色も当たり前、西鶴は別にゲイではなかったろうが、本書では女性をディスりがち、おそらく古代ギリシャ的な、男色のほうが精神性が高尚という傾向が日本でもあったのかと思う。現代のBLは女性の娯楽だけれど、西鶴の時代の読者は男性だったろうし。

    最後の締めくくりが「我が国では衆道が専ら盛んである。女道があるために馬鹿者の種がつきない。願わくば、若道を世の契りとし、女が死に絶えたら男島と改めたい。夫婦喧嘩の声を聞かず、悋気も治まって、静かなる御代にあうだろう」とあって、ここまでくるともはや潔くて笑ってしまう。

    ※収録
    <武士編>
    巻一(一 色はふたつの物あらそひ/二 此道に。いろはにほへと/三 垣の中は松楓柳は腰付/四 玉章は鱸に通はす/五 墨絵につらき剣菱の紋)
    巻二(一 形見は二尺三寸/二 傘持つてもぬるる身/五 雪中の時鳥)
    巻三(一 編笠は重ねての恨み/二 嬲りころする袖の雪/四 薬はきかぬ房枕/五 色に見籠は山吹の盛)
    巻四(三 待兼ねしは三年目の命/四 詠めつづけし老木の花の比/五 色噪ぎは遊び寺の迷惑)
    <若衆歌舞伎編>
    巻五(一 泪のたねは紙見世/二 命乞ひは三津寺の八幡/四 江戸から尋ねて俄坊主/五 面影は乗掛の絵馬)
    巻六(一 情の大盃潰胆丸/三 言葉とがめ耳にかかる人様)
    巻七(三 袖も通さぬ形見の衣/四 恨見の数をうったり年竹)
    巻八(一 声に色ある化物の一ふし/三 執念は箱入りの男/五 心を染めし香の図誰)

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著者プロフィール

1913-1987。小説家・詩人。毎日出版文化賞(第22回・昭和43年)、「桂春団治」(大阪芸術賞・昭和46年)。代表作に「贋・久坂葉子伝」「小詩集」「帝国軍隊における学習・序」「たんぽぽの歌」「大河内伝次郎」「富士正晴詩集1932~1978」などがある。水墨、彩画を趣味とする一方で、伊東静雄、竹内勝太郎、久坂葉子の研究をし、その紹介者としての功績もある。晩年は竹林に囲まれた自宅から殆ど外出せず、「竹林の仙人」と呼ばれた。

「2019年 『男色大鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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