- 本 ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044005597
作品紹介・あらすじ
NHK「100分de名著」で出会った約100冊より、伊集院光が、心に刺さった3冊を厳選。名著をよく知る3人と再会し、時間無制限で新たに徹底トークを繰り広げる、100分de語りきれない名著対談!
■川島隆(京都大学准教授)と語る、カフカ『変身』
──“虫体質な僕ら”の観察日記
■石井正己(東京学芸大学教授)と語る、柳田国男『遠野物語』
──おもしろかなしい、くさしょっぱい話たち
■若松英輔(批評家、随筆家)と語る、神谷美恵子『生きがいについて』
──人生の締め切りを感じたとき出会う本
感想・レビュー・書評
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『100分de名著』のスピンオフのような対談集。
伊集院さんが、『100分de名著』で取り上げた作品のうち、本編を読んで、そのうえでもう一度先生方と語ってみたい、と思った三作品、『変身』『遠野物語』『生きがいについて』。
驚いたのですが、伊集院さんは番組収録の前に取り上げる作品を読むことを禁止されているのだそうです。
ほぼほぼ作品の知識が真っ白な状態で収録されてるんですね。
それなのに、あの理解力、例え力、凄いです。
三作品すべて興味深かったのですが、圧巻はラストの神谷美恵子『生きがいについて』。
おふたりが対談を通じて、本を通じて、深く、濃く、通じ合っていく過程を見せてもらえたよう。
これぞ「対話」。
本編を読んでからまた読んでみようと思えました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
カフカ『変身』
元々好きな話だったが、もっと愛着が湧いた。
虫けらは自分であり、下手に妹が認めてしまったものだから、変わる機会を失ってしまった。
柳田国男『遠野物語』
いくつか引用を読んで面白かったが、やはり原文のままだと理解しにくく、解説付きのもので読んでみたくなった。ネットのまとめサイトのようだと表現していたが、そういわれると敷居の高さを感じず、より気軽に手を出せるように思う。
神谷美恵子『生きがいについて』
引用「人間が最も生きがいを感じるのは、自分のしたいと思うことと義務とが一致したときだ」
若松「〜生きがいは徹底的に質的なもの〜金銭や権力といった量的なものと関係し始めたら、それはもう、真の意味での生きがいではない。〜量的に比較しても何の意味もない。そして生きがいの発見とは、いつか行わなくてはならない人生の宿題でもある。」
伊集院「これに長い時間を割けないから生きがいとしては弱いな、みたいな考え方はおかしいわけですね」
上記の部分が特に印象的だった。
近年は“生きがい“という言葉の使い方がおかしく、押し付けがましくなっている。大学や企業が人間を人材と表現し、働くことが生きがい、そうゆう人間を増やそうと若者に押し付け、若者も求められる人材になろうと、枠にとらわれる。 -
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【書評】『名著の話 僕とカフカのひきこもり』 虫の世界は私たちの物語 - イザ!
https://www.iza.ne.jp/articl...【書評】『名著の話 僕とカフカのひきこもり』 虫の世界は私たちの物語 - イザ!
https://www.iza.ne.jp/article/20220327-JHENXNKFU5JNBMFO4257O4TYYI/
2023/01/31
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伊集院さんは、スピーディーな笑いに知性あるワードセンスが隠されていていつも驚かされる。活字で読むとなおさら光って見える。伊集院だけに。(知性なし)
さてと、カフカという偉人については名前しか知らず、柳田國男は民俗学者で自分に火をつけた人。神谷恵美子さんは、、知らなかった。このひどい有様。
それでも面白く読めたのは、伊集院さんが絶妙な比喩やエピソードをあててくるおかげだろう。ひどい有様の私でも噛み砕き方がちょうど良い。セーフティネット。
「(100分de名著の話で)アナウンサーだとそういうことは言えない。ボクなら無知をさらけ出せるんですよ」
自分もそうありたい。未知との遭遇ならぬ、無知との遭遇とは上手すぎるもん。知りませんと言った後の、相手のリアクションを楽しむくらいには余裕をもちたいな。 -
名著の話、特に読むべきとされる本は多くありますが、そうした話をするときに、どうしても読んだ前提での話となってしまいます。
そうした前提で進めていくと、どうしても知識の披露のし合いのような、妙な雰囲気が生まれてくるもの。
読んだことのない、素晴らしい本について、内容は知りたいんだけれども、難しすぎてとっかかりが掴めない、という人に向けての番組が、この「100分で名著」。
タイトル通り、25分×4回の放送で、毎月違う本を取り上げて解説していくという、ユニークな内容。
そんな中での伊集院光氏の役割は、ターゲットとされる視聴者と同じ、読んだことのない人。だから、解説だけでなく、読んでない人からの質問などが、非常に具体的で、専門家だけで置いてけぼりになりにくい構成となっている。また、読んだ人でも、なるほどこういう視点があるのか、という気づきが多い番組です。
さて、そんな2011年から長期間にわたって放映されている番組の中から、伊集院氏が印象に残った3冊について、書かれているのがこの本。
1冊目の『変身 (カフカ)』は、すでに読んでいる内容であり、かつテレビ放映も観ていたのですが、番組の焼き直しかと思いきや、また少し違っていて、非常に面白かったです。
朝起きたら虫になっていた、という衝撃から始まるにもかかわらず、なぜ虫になったのか、名探偵コナンであれば映画の冒頭で毎回説明されるのに、全くそのことに触れられていない不気味さ。
そして、これはネタバレになってしまいますが、結局人間に戻ることもなく、死んでいくという悲惨さ。
読んでいて、なんだか虚しさを感じて、読んだとき、なぜこれが名作なのか、正直全くわからなかった私にとっては、当時はただ読んだという記録だけしか残りませんでした。
しかし、虫が何を意味しているのか、主人公と妹の関係だとか、深く考えるほど面白い部分があって、なるほど共感できる部分も多いな、と趣向している自分がいました。
ブックレビューや考察は、可能性だと思います。
しかし、その可能性とは、無限に広がっていくものであり、それらがまた新しく作品を作り上げているように思えます。アマチュアもプロも、やはりレビューは全く同じものを読んでいたのにも関わらず、全く違った切り口であるところが大変面白く、そうして再び手にとってしまうのが、読書の愉しみではないでしょうか。
ときには、専門家の視点から見てみる文学作品の面白さをこうして疑似体験するのにはよいのかもしれません。 -
伊集院光さんはクイズ番組でよく見かけます。
高校中退なのに高学歴の人にまじって対等に戦って
すごい頭の良い方だと思っていました。
意外にもひきこもりの経験があったと知りました。
そして約十年前からEテレの「100分で名著」の出演は「未読の人」という使命だそうです。
でもその後、読んでいます。
この本ではそのうちの三冊をとりあげ、
専門家と再会して語り合うというもの。
伊集院さんはもちろん面白いですが
専門家の先生たちのお話も面白かったです。
『遠野物語』は読んだことなくて
『変身』と『生きがいについて』は読みました。
後者は大人になってから読んで非常に感銘を受けました。
神谷美恵子さん関連の本は8冊読んだのです。
気に入ってけっこう長文で記録しています。
そして若松英輔さんの分析はさすがとしか言いようがありません。 -
対談方式で読んだ本の感想を伝える本ですね。
3冊の本が紹介されてますね。
自分が読んだ事のあるのは1冊だけです。
それも何十年か前です。
殆ど覚えてなかったのが思い出されました。
そしてこんな捉えかたもあったのかと驚きました。
読んでなかった2冊も読んでないはずなのに共感出来ました。
名著を読む名著と言う事ですかね。 -
「100分de名著」ホスト役の、伊集院光さんと、番組でそれぞれの回に解説者として出演しておられた専門家の事後対談集。取り上げているのは次の三作品。
フランツ・カフカ『変身』
柳田国男『遠野物語』
神谷美恵子『生きがいについて』
共通して見えてくるのは、行き場のない者、出来ることを奪われた者の、その先にある『生きることの問い直し』のように思う。この本については、まず、番組を配信で見直すか、題材になった本をよむのが良い。しかし、それも大変…ということなら、全く知らぬまま、読まぬままより、
「この有名な作品は、こういう内容だったのか。ふうん。」
という感じで、刺さったものだけでもお手に取られると良いと思う。実際私は、『変身』は再読。『遠野物語』は、今はピンとこなくて、『生きがいについて』は初読。明日、カフカと神谷美恵子を借りに行く。柳田を放っておいて良いわけではないが、興味が湧かないものは致し方ない。ただ、人間何がいつ刺さって読み時になるか分からないから、サラッとでも知っておくのが大事。何も知らず、敷居が高いままだと、興味を持つこともないまま過ぎる。読書案内って、成果を求めるんじゃなく、ぱらぱらっと自分の内側に花の種を撒くようなものだ。花じゃなく竹とか生えてきても、それでいい。芽が出なくとも、それはそれで意味があるのだ。
各回の解説担当者の方も、伊集院さんも、番組以上にご自身に作品を近づけて語ってらっしゃるので、自分が読んだ時には、全く違う解釈鑑賞がでてくるかもしれない。でも、良いと思っている。
カフカの主人公、グレゴール・ザムザがりんごを投げつけられる意味も、アダムのりんごのように性的なメタファーだと読む説も紹介されていたが、それでは収まりきらないという。私自身は、あれは、虫になったザムザに対する、人間界、一般社会からの追放を意味するのだと読んだ。りんごは知恵の実。知恵があるから人は人足りうる。その知恵を凶器にされて大怪我を負うのは、まるで「もうお前はこの世界の住人ではない」と、知恵を剥奪されているように見える。
実際は彼の内面は、人のままなのに。周囲にとって『虫に変容してしまった人』から『ただの虫』にされてしまった、決定的瞬間だ。りんごをぶつけられるまでは、ザムザは虫の姿をしていても、人間だった。人間でなく虫なら、知恵も思考もいらないもの。叩き潰していい。そんな無言の理屈が成り立った時、ザムザは一家から排除されてしまう。事実あれ以降彼は忘れられ、衰えてゆく。
一方、神谷美恵子の存在した場所。一身を捧げた場所もまた、そこに行く前と後で、人生の色合いを強制的に変えられてしまう場所だった。らい病患者の方々の療養所。神谷自身は患者ではなく、外からの来訪者だった。
旧来、正しい知識や有効な治療法が理解されず、苦しむ方の多かったらい病。その療養所にあって、患者の方々が、どうご自身のこころを守り、日々を生きたか。
どちらの作品も、『自ら望んだ人生の変化ではない』のに、それを自分で引き受けてゆかざるを得ない状態が描かれている。ザムザは、虫になっても仕事が気になる。どこまでもこころは人間だからだ。実在の闘病する方々は、言うに及ばない。失うことの多い中、こころは確かに社会に在るままだ。
私達が、この生きづらい日々を切り抜けていく時、その描かれた有り様から、何を感じ、すくい取ることができるだろう。原典を読んでみようと思い至ったのは、こんなことをぽつぽつと考えたからだ。コロナ禍にしても、重い病や生活苦にしても、気がつけば捻れてしまった心にしても、懸命に生きているのに、まるでりんごが虫の殻を破るように、不意に私達を押しつぶす時がある。そこで、そのままになるか、ゼロ、いやマイナスからでも、新しい思慮によって生き直せるか。
本を読んだからとて、飛んできたりんごが、どくわけではないが、ついた傷に自ら手を添え
「まだ、もうちょっと。」
と言えるのか。何かの価値観の変換がないと、ひとりで生き方のギアを変えるのは難しい。そこのところを変える伴走者、渇ける人の隣を流れる伏水には、どの本もなってくれそうだ。
それと、余談であるが、このご本の中に、故・井上洋治先生の事が述べられている。若松先生は、井上先生に師事しておられたとか。道理で若松先生のお話ぶり、書かれる言葉が懐かしく、慕わしいはずである。ずっと、
「どなたを思い出すのかしら?」
と思っていた。井上先生だった。18歳からはたちの、まだ心のやわらかな時に、キリスト教学や人間学のお授業を受けた。いつも、誰に対しても、声を荒らげたり、不快な顔をなさったことのない先生で、慈しみに満ちた笑顔で学生に接してくださっていた。出席票の裏をコメントペーパーにして提出するのだが、どんな意見を記しても、そのお声の温かさは変わることなく、誰にも真摯に向き合ってくださっていた。
その頃は、何も思わずご一緒させて頂いたが、この歳になって、自分が新たに病を得たり、家族の支えにならなければいけない時、ふと先生のお講義を思い出すことがある。あのように接しなくては、と。自分のことや、ちいさな家の中の出来事など、コップの水の乱れのようなものだけれど、考えるのだ。
『投げ出してはいけませんよ』
と、きっとおっしゃるだろうと、自分にもう一度力をつける。不肖の学生で、当時ご心配もたくさんきっとかけた気がする。井上先生お一方だけでなく、あの頃出会ってくださった先生方に、それぞれ勉強だけでなく、普段から学ばせて頂いていた。感謝しかない。こんなところで思い出深い方と再会させていただけるとは……。
生きているのも、いいものである。 -
伊集院さんの意見に共感しまくりだった。
カフカについて語っていた時、人と繋がっていたい、話したいと言う気持ちがありながら、面と向かって話すのは抵抗があるし怖いから電話や手紙が繋がっていたいと主張は、特に共感した。 -
名作にはなるべく触れておきたいと思いながらもなかなか手にするきっかけがない。カフカは昔、『城』を読もうとして途中でやめた記憶がある。他にも中上健次の『枯木灘』、中南米のアカデミー文学賞をとった作家のやつも途中でやめた。挫折の記憶が心をチクチクとさいなむ。こうして振り返ると今は、当時よりも読書習慣が身についていて、つまらなくても最後まで読む根性もあるので、いまこそ再挑戦したい。
名作で言えば『罪と罰』『嵐が丘』は最後まで読んで、どっちも登場人物がクレイジーでとても面白かった。『星を継ぐもの』はとても面倒だったけど最後まで読んだら感動した。
『遠野物語』は文語体で読むのが難しそうなので『変身』をまず読んで、次に『生きがいについて』を読んでみたい。
著者プロフィール
伊集院光の作品





