科学と人生 (角川ソフィア文庫)

著者 :
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044006884

作品紹介・あらすじ

「雪は天から送られた手紙である」の言葉で有名な中谷宇吉郎。世界で初めて人工雪の製作に成功した物理学の権威は、恩師・寺田寅彦の影響を受け、一般読者向けの随筆を数多く残している。科学的なものの見方とは、人間の愛情や道徳観から離れ、物質や法則をそのままの形で知ろうとすることとする「科学と人生」をはじめ、「科学と政治」「科学のいらない話」「寺田研究室の思い出」など、著者自選11編を収録。解説・永田和宏

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  • 世界で初となる人工雪の製作に成功した物理学者による、表題「科学とエッセイ」にまつわるものから集められた自選エッセイ集。全11編でそれぞれ20ページ前後。あとがきによれば自選した時期は昭和31年(1956年)、今回はその文庫化ということになる。

    著者については、科学者とそのエッセイを紹介した、高野文子による漫画『ドミトリーともきんす』で初めて知った。『ドミトリーともきんす』の影響で科学者のエッセイを読むのは、同じく物理学者である湯川秀樹による『宇宙と人間 七つのなぞ』につづいて2冊目になる。

    前半は著者にとって科学がどのようなものかを定義して科学的な考え方の重要性を説くなど、啓蒙の意図を込めて著者の思いを語るものが主となる。後半は戦争前後の時期を中心とした回顧録といえるものが増え、終盤は師である寺田寅彦をはじめとした著名な故人への印象も綴っている。

    所感としては、非常に素直で素朴かつ平明なエッセイといったところだ。ひねりはなく、とくに話を面白くしようといった意図も見当たらず、とてもあっさりとしている。これは、先に紹介した湯川氏によるエッセイ集の読後感と相通じる。

    「疑問をもつこと、考えてみること、実験をしてみること、自分が納得すること、次の疑問を出すこと。この順序で進むことが、科学的な考えを進めることなのである」
    「自然科学でも人文科学でも、科学というものはすべて、われわれの内外を含めた自然の万象の中から、普遍性のある概念を抽出して、それらの概念を分析と綜合とによって纏めたものである」

    主に前半で展開される上記のような科学をめぐる考え方は至極真っ当なもので、(今となってはかもしれないが)常識的すぎて平凡にさえも映る。回想のなかでは、「寺田研究室の思い出」で描かれた、師である寺田寅彦の影響力の大きさが印象に残り、随筆家でもあるという寺田氏に興味をもった。子どもたちとの思い出を綴った、「イグアノドンの唄」は、本書のなかでは数少ない感情に訴えるエピソードが語られる。

  •  角川ソフィア文庫では、『雪と人生』に続く、中谷宇吉郎2冊目の著作。
     標題作の「科学と人生」。敗戦後、科学による国家の再建ということが良く言われたが、それが皮相的なものとならないよう、大事なことは科学的なものの見方、考え方であるとして、具体的な例に拠りながらその大切さを説いていく。

     そのほか、戦前、天皇の行幸時に、人口雪の結晶を天覧に供したことや、戦後御進講をしたことなどの思い出「雪今昔物語」、師である寺田寅彦への敬愛の念がまざまざと感じられる「寺田研究室の思い出」、幸田露伴が科学に大変な興味関心を持っていたことを記した「露伴先生と科学」など、エピソードとしても興味深い。

     終戦の年、厳しい北海道羊蹄山麓の疎開先で冬を過ごした時に、子供たちのためにお話をするために利用したコナン・ドイルの『失われた世界』。特に人気のあったイグアナドン、そのイグアナドンの唄を作って歌っていた下の男の子が、病気で急に亡くなってしまったことを、作者はサラッと書いている。戦争前後の厳しい時代、同じような死を経験した者は少なくなかったであろうが、子どもたちが楽しんでいたこととの落差に、衝撃を受けた一文であった。

  • 名医の話が特に面白かったです
    人工雪の科学者としてしか知りませんでしたがシャレの利いた話で良かったです

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著者プロフィール

1900–1962
石川県生まれ。
東京大学理学部を卒業し、理化学研究所で寺田寅彦の助手として勤務。
後に北海道大学教授を務め、雪と氷の研究で新境地を開く。
物理学者でありながら随筆家としても活躍。師と仰いだ寺田寅彦の想い出を綴った「寺田先生の追憶」をはじめ「日本人のこころ」「私の生まれた家」など作品は多数。

「2021年 『どんぐり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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