蛇の神 蛇信仰とその源泉 (角川ソフィア文庫)

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  • KADOKAWA (2024年11月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784044008505

作品紹介・あらすじ

人類と蛇との交渉の歴史は古くて深い。世界の諸民族には、蛇に関するいろいろな民俗が知られている。日本にも豊富にある。しかし、家畜や狩猟の対象になる動物とちがって、自然のままの蛇の利用はそれほど多様ではない。大部分は人類が文芸や宗教のなかにえがきあげてきた蛇である。そこにいるのは、「自然としての蛇」をとおして人間がさまざまな価値を与えた「文化としての蛇」である。時に嫌悪され、時に畏怖されてきた、絶対的な他者である蛇。そのような他者なる蛇が人間の文化にもたらしてきた豊饒な世界を民俗誌からひもとく、画期的な書。

感想・レビュー・書評

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  • 古より蛇は、「正・邪」「善・悪」「敵・味方」など、相反する性質をもたされた揺らぎのある存在とみなされてきたそうです。矛盾が同居させられていて、同じ神話や言い伝えのなかでもケースバイケースでどちらかに転んだ行動を取らされていたり、物語の性質によってどちらかの側に立たされていたりする生きものでした。また、インドの神話では、蛇は宇宙蛇としてこの世界を根本から支える存在とされていますし、北欧神話でもミズガルズ蛇が大地の中心を担い、世界の軸としての役目を持つような神様だったりします。本書は、そんな「蛇」への人類の精神史といいますか、人間は蛇になにを感じ、またなにを見てきたかを、古文書や伝承などから読み取り考察したものを教えてくれます。

    蛇の神って伝統的にけっこうポピュラーな存在だったようです。あの金毘羅神も蛇の神だったと本書で知りました。女の神が蛇の神とまぐわい子をもうけたりする神話が珍しくないみたいにいくつか類例が記されているのですが、これ、言ったら、男根の形状が蛇っぽいから連想してそうなったのではないのか……。

    おもしろかったトピックをひとつ。神無月という呼び名のある10月は日本全国の神様が出雲に集まるためそう呼ばれます。だけれど、東京都府中市周辺の地域に君臨する神様である大國魂神社の神様は蛇体なので神無月に出雲へ行きません。かつて、のろのろ這っていったため遅れてしまい、もう来なくてよい、といわれたと伝わるそう。好いゆるさのある神様界隈ではないですか。ちなみに、ここで例に出した神様以外でも全国各地に蛇体の神様がいて、みな神無月になっても自分の土地を離れないそうです。

    あとは、虹は大きな蛇だとみなす伝統が世界中にあること(日本では蛇の吹く霊気だとするものもある)や、土地の神様とはおそらく別の「蛇神」の話、蛇を呼んだり追い払ったりする法術の話(追い払う呪文には「山立姫」という言葉が見られ、これはイノシシの意味だそう。イノシシはマムシを食べるとされるため呪文に使われる)、中国の白蛇伝説などさまざまな伝承をみていくようなところの多い内容でした。

    小説家・安部公房は、蛇は非日常の存在だと捉えていたそう(p31)。それは手足がない胴体だけの生きものという、当然あるべきものの欠如からくる嫌悪感がベースになっているのですが、あるべきもののない者の日常を想像することはむずかしい、すなわち日常性の欠如、言い換えれば非日常の存在という図式になるのだとありました。本書では、蛇は人間にとって混沌、カオスを意味するとしています。



    では、ふたつほど引用を。

    __________

    虹を指さしてはいけないという伝えが、日本の各地にある。長野県埴科郡でも、虹を指さすと指がくさるという。鹿児島県でも、虹を人さし指でさすと手がくさるという。琉球諸島では、沖縄群島の久高島で、虹をシー・キラー、ティー・キラーという。「手を切るもの」という意味である。虹は神であるから、これを指させば失礼に当たり、指さした指の先から、だんだんにくさってきて、手が切れてしまうという。(p84)
    __________

    →虹の話でしたが、虹と同一視される場合の多い蛇にも、同じことが当てはまるとあります。東京あたりでも、蛇を指さすと指がくさるといい、両手で蛇の長さを示したときには、ほかの人に、そのあいだを切ってもらう、というのがあったそう。指さしは禁忌とする宗教的な要因がなにか存在しているのだろう、と著者は見ています。



    __________

    蛇の腹をつつくと雨が降るという伝えのある土地もある。(p97)
    __________

    →蛇はしばしば水の神とされるのだそう。稲田が気がかりな農民にとっては、田畑にでてくる蛇の挙動に関心があったのだろう、ともあります。また、ヘビは雷の象徴で、水を支配する力を持っていることを解説するところもありました(p112)。雷はイナズマとも呼ばれますが、イナ=稲であるように、稲の妻=イナヅマとして、雷は稲の配偶者として稲をはらませると見ていたところがあるようです。雷が鳴れば恵みの雨が降りますからね。そして、その雷の化身として蛇を見ていたそうなのでした。



    といったところでした。本書中盤では、世界に伝わる蛇の寓話や童話などを紹介してくれるのですが、物語前半では助けてくれる存在だった蛇が後半では裏切ってくるなど、このレビューのはじめに書いたように、蛇は「敵・味方」などの相反する性質をになうトリックスター的な生き物として位置付けられている印象を強く持ちました。古来より、にょろにょろと独特なやり方で歩いていく蛇の生態は、人間にとっては不思議な在り方だし畏れを抱かせる存在だったのかもしれません。ただ、おもしろいのは、欧州では蛇を飼ったりなど慣れ親しむ習俗があったようで、伝承でも、「蛇にミルクを飲ませて家に住まわせると家が繫栄した」などがあります。日本でも、家に蛇が入ると家が栄える、と言われる地方があり、そういわれる一因として、どうやら作物を食い荒らすネズミなどを蛇が食べてくれるからという害獣駆除の面が重宝されたところがあるみたいです。ネズミ捕りとして有能な猫がまだペットとしてみなされていない頃からの習俗なのでしょうね。

    蛇をどう見てきたのか。現代では、気持ち悪さや毒のために忌避する傾向が強いと思いますが、そこにもっと昔の人はさまざまで豊かなイメージを持たせたのだなあと知ることができてよかったです。

  • 小島 瓔禮(よしゆき)さん | 10月6日に愛川町文化会館で開く歴史講演会の講師を務める | 厚木・愛川・清川 | タウンニュース(2024年9月27日)
    https://www.townnews.co.jp/0404/2024/09/27/753010.html

    蛇の宇宙誌 : 蛇をめぐる民俗自然誌 小島 瓔礼(著/文) - 東京美術 | 版元ドットコム
    https://www01.hanmoto.com/bd/isbn/9784808705756

    小島 瓔礼 - Webcat Plus
    https://webcatplus.jp/creator/36382

    「蛇の神 蛇信仰とその源泉」小島瓔禮 [角川ソフィア文庫] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322408000063/
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    (yamanedoさん)本の やまね洞から

  • 情報量が多く、難しいかも。
    人間は蛇に何を見いだしてきたのだろうか。理解したい。

  • 巳年だし…と思って読んでみた。情報量すごい!めちゃくちゃ風土記を読みたくなる。
    日本人から見た蛇の呼称や神との関係、蛇信仰、世界的な蛇神話…などヘビの話しかない(当たり前)
    知らない話ばかりで面白かったんだけど、情報量が多すぎて要約とかできない。
    一つ言えるのは、日本各地で蛇に対する畏れや信仰のようなものがあった。なんなら世界的にあった。
    言語も文化も違う国で、同じような信仰や考えが起こることにロマンというか不思議さを感じてワクワクするタイプなんだけど、今回もそれだった。

  • 蛇の習性から、歴史の中で神性と忌避の両立がされた最初の動物と思う。

  • 国内外の蛇にまつわる文化をざっくばらんに語った本で取っ散らかっているものの面白かった。当然ながら、去年最初に読んだ『龍の起源』と重なる内容も多い。
    川崎市のネタがちょいちょい出てきて、川崎も70年前は水田地帯だったのだなぁと思わされた。
    また、沖縄のハブ除けのおまじないに詳しい。藤原秀郷を騙って蛇を威嚇するなど、どうしてこうなった感があって楽しい。

  • 日本各地の蛇に纏わる伝承から、海外の主要な神話における蛇の立ち位置までを網羅的に書き記した一冊。テーマを蛇とその周辺に集約することで、信仰がどのように土着のものと化していったかが分かりやすく記載されている。

  • 日本の蛇信仰 - 主要な洞察と文化的意義
    蛇の多面的な存在
    自然と文化における蛇の役割
    水神・地の神としての崇敬
    神話と伝承における重要な象徴
    畏怖と尊敬の対象
    主要なテーマ
    1. 蛇の多様な認識
    多様な蛇の種類の理解
    地域による蛇の呼称の違い
    恐れと尊敬の共存
    2. 神話的・宗教的意義
    水神信仰との深い結びつき
    異形の蛇の伝承
    創造と再生の象徴
    3. 虹と蛇の関連
    世界各地に見られる虹と蛇の観念
    水や雨との象徴的関係
    創造神話における蛇の役割
    4. 文化的実践
    蛇を祀る習俗
    蛇除けの呪術
    蛇との共生と畏敬の念
    グローバルな文脈
    世界の蛇信仰
    インド・東南アジアのナーガ信仰
    西洋の蛇のイメージ(悪魔vs聖なる存在)
    再生と豊穣のシンボル
    結論
    蛇は日本の精神文化に深く根ざした存在
    自然観察と神話的想像力の交差点
    多義的で複雑な文化的意味付け
    今後の研究課題
    他の宗教的要素との相互作用
    時代による蛇信仰の変遷
    文化間の比較研究

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著者プロフィール

1935年生まれ、神奈川県出身。柳田國男・折口信夫の学問にあこがれ、國學院大學文学部へ進学、佐藤謙三に師事、文献学的な日本古典文学を専攻、大学院博士課程修了。琉球大学教育学部・大学院で、日本古典文学・民俗学を担当、現在、名誉教授。成城大学文芸学部非常勤講師、同民俗学研究所客員所員歴任。(公財)国立劇場おきなわ運営財団 評議員。
主な著書・編著に、『案山子系図』『神奈川県語り物資料』『武相昔話集』『校注風土記』『琉球学の視角』『日本の神話』『中世唱導文学の研究』『日本霊異記』『蛇の宇宙誌』『人・他界・馬』『太陽と稲の神殿』『猫の王』『歌三絃往来』ほか。

「2020年 『中世の村への旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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