心より心に伝ふる花 (角川ソフィア文庫)

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  • 角川学芸出版
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レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044080013

感想・レビュー・書評

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  • これも、Facebookで紹介して頂かなければ読まなかったというか、出会わなかったであろう本。
    スタニスラフスキイからしてそうなのだけれど、演芸論を読むとついつい消えてなくなる接客サービスとの相違に思いを馳せてしまう。
    そこまで思いを馳せられる本は芸の本質に迫っているものだけだと思うのだけれど、とても考えさせられました。
    その考えた内容はこちらに書くとうっとうしいので、こっそり「サービスを考える」https://www.facebook.com/groups/1522509231314655/
    のグループに書きます。少しだけ、宣伝(^^

    ・能の中にしばしば、「居グセ」とよばれる部分がある。演者は黙ってじっと座り、地謡が主人公について、あるいは主人公に代わって「クセ」というかたちをとって語るのである。舞台中央に正面を向いて、ただ黙って動かずに居るそのかなり長い時間、一体どんな心持で、どう演じようとして座っているのかと、能の役者は時々訊かれることがある。その問いに、いつか私は答えたことがあった。
    ー自然に咲いている花みたいに、舞台に居たいーと。
    ー観客一人一人がさまざまなイメージを育み持てる、ひともとの花のように。その花は生きている。息をしていなければならない。舞台はその花の物語を語っている。―と。

    ・花は心、種は態。

    ・能のリズムーこれは詳しく書き始めたらきりがない。日本語というものを考える上にもこんなに面白いものはない。だがまあ、リズム論議はまたの機会にして、ただ、声は出した時が終わる時、という話だけにとどめておこう。声は出した時が終わる時。そうなのだ。声は出すまでが問題なのである。出してしまったらもう決着は着いてしまったのだ。声の意味も声の調子も、声となって出るまでこそが大切なのである。
    楽器の音も同じだ。鼓なら鼓は、ポ、と音が出てしまったときはその音の終わった時だ。音として外に出るまでが、その音の生命だ。間も、音の大小も、すべて音になるまでが問題。だからカケ声や打つべき体内の準備こそがリズムをつくる。ここがヨーロッパ風感覚と全く正反対のところである。音を出してからその音が始まるのではないのだ。音が出たときは終わっている。

    ・そして大人の年齢になりかける頃から、だんだんとカマエ―立った姿勢―と、ハコビ―歩くこと―の稽古をすることになる。カマエとハコビ。これは能の、体を動かす面での最も基本である。能、殊に夢幻能においては、演者はあの吹き抜けの舞台で、一人の生身の肉体であることを超越してそこに居たい。空間というものが演者によって変貌させられてほしい。そのために演者の姿は舞台に根が生えたような存在感を伴わねばならぬ。ただ立っているだけで一つの宇宙を象りうる存在感。どうやってそれを持つか。
    舞台で、立っているということは、能の場合、前後左右から無限に引っ張られているその均衡の中に立つということなのだ。逆に言えば前後左右に無限に力を発して立つ。無限に空間を見、しかも掌握する。それがカマエである。
    …もっとも代表的な、もっとも能らしい例として「サシコミ・ヒラキ」というのを取り上げてみよう。
    動きかたはまことに単純である。右手を体の中心前方へ上げながら、何歩か前進する。これがサシコミ。ヒラキは、左、右、左と三足で退がる。退りながら両手を横からひろげる。それだけである。
    しかし、静止していたとき前後左右から引っ張られていた力は、サシコミで、手を前方に伸ばしながら歩を進めるとき、次第に凝縮して前方だけに向けられ、運歩が停まったときは非常な強さとなって前方に透徹していたいのだ。水道の水を細い蛇口から出すと噴射力が強くなるように。

    ・演者はそうした能面の裏、つまり暗闇の中へ姿を隠しているのである。しかも、たしかに姿を隠しているのではあるが、隠れているからこそ逆に、役者が自分の訴えたいことを思いのままに舞台上に画き出すことが出来るということもあるし、面というワンクッションおくことが、演者と観客という、常にお互いが対立者でも協力者でも批判者でもある複雑な関係を、素直にときほぐしてくれもするのである。

  • 【読みたい】
    齋藤先生の『勉強力』より

  • 解説を読んでみたら、最近読んだことが書いてある。松岡心平氏だった。観世寿夫という存在が彼の生き方を変えてしまうほどのものだった。

  • 未読。

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