論語と算盤 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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作品紹介・あらすじ

2019年11月宇多田ヒカルさん椎名林檎さん新曲で注目!
道徳と経営は合一すべきである。日本実業界の父、渋沢栄一が、後進の企業家を育成するために、経営哲学を語った談話録。論語の精神に基づいた道義に則った商売をし、儲けた利益は、みなの幸せのために使う。維新以来、日本に世界と比肩できる近代の実業界を育てあげた渋沢の成功の秘訣は、論語にあった。企業モラルが問われる今、経営と社会貢献の均衡を問い直す不滅のバイブルというべき必読の名著。

感想・レビュー・書評

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  • 古典とは、時代に洗練されて残り、価値観の変化に耐えて読み続けられてきたものだから、普遍的な価値を有しているし、価値観の本質に触れる事ができるという点でも価値がある。しかし、著名人が残した言論は、著名だから残るのであり、その中身に意味があるかは別だ。読み難い、時代の偏見に満ちた考えを後生大事に読むというのは、裸の王様を讃える盲目の所作。同じ古典でも、御伽噺や古事記、資本論を一緒に語れはしない。ということで、本著をニュートラルな目線で読む。

    道徳なき商業における拝金主義と、空理空論の道徳論者の商業蔑視の接着剤。論語は徳育であり、算盤は拝金主義だが、これを背反させずに止揚したいという志が原点。この志の高さは、現代ではエシカル消費、ESG投資のように資本主義に組み込まれ、渋沢栄一の思いが現実のものになりつつある。悪いことをしてでも儲けられた時代が倫理観の高まりと共に終わりを告げ、社会は浄化作用を極限まで高めていく。普遍的価値観というか、先見の名というか、流石である。

    アリストートルは、すべての商業は罪悪であると言ったのだという。え、誰?いや、アリストテレスの事でした。そりゃそうだろう。その頃は、奴隷を売り捌いていた。戦争の価値は、世が進むほど不廉となる。不廉、これも分かりにくい。戦争のコストが上がるから、どうせやらなくなるよ、という話。つまり、無意味な争いは終わり、商業にも秩序が組み込まれていく。まだ時間はかかりそうだが、種の認識範囲が広がる程に、人は平等で優しくなる。

    同氏が設立に関わった帰一協会についても、述べられる。帰一協会は、1912年に設立された、宗教者同士の相互理解と協力を推進する組織であり、神道・仏教・キリスト教などの諸宗教は本来同根であるという「万教帰一」の考えにもとづく。して欲しいことをしてやれ、という教えと、されたくない事はするな、の教えは同根だし、統一できるはずだと。こうしたアウフヘーベン志向が同氏の原動力にあるのだろうか。いずれにせよ、皆大好き言語ゲームと言語秩序とその擦り合わせ、の世界観だった。

  • 論語と算盤
    著:渋沢 栄一
    紙版
    角川ソフィア文庫

    渋沢の冒頭の言

    江戸時代以来、道徳教育を受けていたのは武士層であり、農工商はそれが乏しかった。そのため、商業界では収益だけが目的の拝金主義となってしまっている。
    一方、武士層は朱子学的道徳教育であったため、問題があったとする。すなわち、事実を念頭に置かず、道徳のための道徳教育というような原理主義的であったため空理空論になっていた。
    いわゆる道学であり、現実と遊離していたとする。これは国家を衰弱させる。
    儒教の古典そのもの、「論語」や「孟子」などの本文そのものをすなおに読もうとする。
    知識だけでなく、徳の教育、徳育と、商業の公共性社会性を身につけ拝金主義利己主義を抑制する。
    このことを、「論語と算盤」という理念に集約させている。
    そこに一貫しているのは、人間としての品位であり、「経済人の品格」である。

    本書は、江戸から昭和を生き抜いた、経済人の経営哲学であり知恵である

    気になったのは以下です。

    ・言は多きに努めず、その謂う所をあきらかにするに務む。
     (ことばは多ければよいものではない、その趣旨を明らかにすることが大切)

    ・声は小にしても聞こえざるはなく、行いは隠しても形れざるはなし
     (すぐれた人の意見は、たとい小さくとも必ず聞こえ、その行いは隠していても必ず現る)

    ■処世と信条
    ・人は平等でなければならない。節制あり礼譲ある平等でなければならない。

    ■立志と学問
    ・私は常に精神の向上を富とともに、進めることが必要であると信じる
    ・自己の立場と他人の立場とを相対的に見ることを忘れてはならない
    ・学問の社会との関係を考察すべき例を挙げると、あたかも地図を見る時と実地を歩行するときとのごときものである。

    ■常識と習慣
    ・幼少期から青年期を通じては、非常に習慣のつきやすい時である。それゆえに、その時期を外さず良い習慣をつけ、それをして個性とするようにしたいものである
    ・人が完全に役に立ち、公にも私にも、必要にしていわゆる真才真智というのは、多くは常識の発達にあるといっても誤りないと思うのである

    ■仁義と富貴
    ・いやしくも世の中に立って完全の人たらんとするには、まず金に対する覚悟がなくてはならぬ。
    ・もつ人の心によりて宝とも、仇(あだ)ともなるは黄金(こがね)なりけり 昭憲皇太后

    ■理想と迷信
    ・商業の徳義はどうしても立て通すようにして、もっとも重要なるは、信、である
    ・利殖と仁義の道は一致するものであることを知らせたい

    ■人格と修養
    ・今日の修養は、力行勤勉を主として、智徳の完全を得るのにある。修養が単に自分一個のためのみでなく、一邑一郷、大にしては国運の興隆に貢献するのでなければならぬ
    ・修養ということは広い意味であって、精神も智識も身体も行状も向上するように錬磨することで、青年も老人も等しく修めなければならない

    ■算盤と権利
    ・仁に当たっては師に譲らず

    ■実業と士道
    ・武士道はすなわち実業道なり

    ■教育と情誼
    ・青年は良師に接して、自己の品性を陶冶しなければならない
    ・孝の大本は何事にも強いて無理をせず、自然のままに任せたる所にある
    ・理論より実際

    ・学ぶに暇(いとま)あらずと謂う者は、暇(いとま)ありといえども、また、学ぶこと能わず
    (勉学しようと思っても仕事が忙しくてその暇がないというような者は、たとえ、暇があったとしてもとても勉学することはできない)

    ■成敗と運命
    ・人生の運というものは、自ら努力して運なるものを開拓せねば、決してこれを保持することは不可能である
    ・成敗(成功と失敗)に関する是非善悪を論ずるよりもまず誠実に努力すれば、公平無私なる天は、必ずその人に福し、運命を開拓するように仕向けてくれるのである
    ・人はただ人たるの務めを全うすることを心がけ、自己の責務を果たし行いで、もって安んずることに心掛けねばならない。


    目次
    日本企業の先駆者の汲めど尽きせぬ知恵  加地伸行
    凡例
    格言五則

    処世と信条
    立志と学問
    常識と習慣
    仁義と富貴
    理想と迷信
    人格と修養
    算盤と権利
    実業と士道
    教育と情誼
    成敗と運命

    格言五則

    解題 加地伸行

    ISBN:9784044090012
    出版社:KADOKAWA
    判型:文庫
    ページ数:320ページ
    定価:760円(本体)
    発売日:2008年10月25日初版
    発売日:2022年05月25日50版

  • 「汚れちまつた、資本主義に」な自分を見つめ直す一冊。
    いや、でも本当に、資本主義の渦に飲まれれば飲まれるほど、倫理の大切さを実感する。
    タイトルがね、秀逸よね。論語と算盤。これ以上ない。
    「道徳に基づいた商業」って、本来そうあるべきなのに、どうしてか忘れてしまう。
    自分の中の傲慢さを発見したら読み返したい本。
    「論語と算盤は一致すべきである」と、そんな世の中であって欲しいし、少なくとも自分はそうありたい。

  • 第一次世界大戦後の日本経済の立役者。最近富に有名になった方なのでひねくれものの私は読むのを躊躇していたが読んで良かった。

    通読すると矛盾する内容も多々含んでいるが、元々が講演集・論文集のようなものなのでその辺は致し方ないか。

    大雑把に言うと「論語と」と書いてあるが日本人が通常持つであろう普遍的な道徳に従って企業経営も行うことが望ましいという話。
    競争に勝つことだけにこだわらない。自分に利することだけで判断しない。
    普通の神経の人なら当たり前のことを書いている気もするが経済界の大物が”こうあるべき”と言うと説得力がある。

    だが、真摯に読むと形式だけの道徳に拘る企業(経営者)さんには耳の痛い話も多かろう。
    流行りで終わらないことを望む。

  • ビジネスは道徳があって真に価値のあるものとなると、武士、官僚、実業家を経た渋沢栄一の長年・多様な経験の実例とともに学べる良本
    言葉、言い回しは古いものの内容は納得できることが多く、もっと深みを理解するためには少し勉強不足感はあり、論語を学んでから改めて読み返したい

  • 少しずつ引き込まれた。
    文章から渋沢栄一の考えや思想が伝わり、自分の器の小ささに気づいた。
    誰もが知っている徳川家康は300年続いた徳川幕府を創設したとして有名だが、渋沢栄一は彼の人物像高く評価しており、何故このような功績を残したのか、他の偉人の例を出しながら解説していたのが、印象的だった。

  • 文が古い形態で書かれているというのもあるかもしれないけど、

    読んでいて、
    引き込まれる瞬間と突き放される瞬間の振れ幅が半端ない。

    論語と算盤は、
    道徳と経済や私と公などとも言い換えられる。

    また、理論か実践かではなく、
    理論も実践も共に大切である、
    ということを教えてくれる。

    一見、矛盾しているようにも思えるが、
    そのことによって、
    読めば読むほど味わい深くなる本。

  • 大河ドラマと並行して再読してみた。いまの資本主義の歪みを見直す際の一つの軸にはなりうる。人の心のもちようは時代を超える部分はある。一方で当時の尺度で現代を解決することの限界もあるだろう。

    いろんな解釈ができそうな本であり、読者会をして意見を交わしてみたい気分になった。さらに言えば、これだけテクノロジー主導型になった現代を渋沢栄一ならどう評価するか聞いてみたいと感じた。

  • 「論語と算盤」渋沢栄一著、角川ソフィア文庫、2008.10.25
    319p ¥836 C0112 (2021.05.31読了)(2021.02.20購入)(2020.10.30/43版)

    【目次】
    日本企業の先駆者の汲めど尽きせぬ知恵  加地伸行
    凡例
    格言五則
    処世と信条
    立志と学問
    常識と習慣
    仁義と富貴
    理想と迷信
    人格と修養
    算盤と権利
    実業と士道
    教育と情誼
    成敗と運命
    格言五則
    解題  加地伸行

    ☆関連図書(既読)
    「青天を衝け(一)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.01.30
    「雄気堂々(上)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
    「雄気堂々(下)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
    「論語とソロバン」童門冬二著、祥伝社、2000.02.20
    「渋沢栄一『論語と算盤』」守屋淳著、NHK出版、2021.04.01
    「明治天皇の生涯(上)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
    (「BOOK」データベースより)amazon
    道徳と経営は合一すべきである。日本実業界の父、渋沢栄一が、後進の企業家を育成するために、経営哲学を語った談話録。論語の精神に基づいた道義に則った商売をし、儲けた利益は、みなの幸せのために使う。維新以来、日本に世界と比肩できる近代の実業界を育てあげた渋沢の成功の秘訣は、論語にあった。企業モラルが問われる今、経営と社会貢献の均衡を問い直す不滅のバイブルというべき必読の名著。

  • 仕事をする上で、大切にしなければいけないことは何だろう。
    売り上げ?利益?もちろんそれは大切だ。仕事なのだから。
    でも、もっと他に大切なことがあるはずだ。


    題名にある「論語」は「道徳」を表し、「算盤」は「仕事」を表している。仕事には道徳が必要、というメッセージだ。
    道徳というと古臭いイメージを持つ人もいるだろう。しかし、「論語と算盤」は、大リーグで活躍する大谷翔平選手も読んでいたそうだ。野球の世界も上手いだけではダメなのだろう。どんな分野の人でも本書から学ぶべきものがあるということだ。

    「論語と算盤」の初版は大正5年(1916年)なので100年ほど前の言葉で書かれているが、本書は昭和2年(1927年)刊の版を現代仮名遣い、当用漢字に改めたものなので、私たちでも問題なく読み通せる。

    著者は渋沢栄一氏。江戸時代に生まれて、明治、大正の実業界を牽引し昭和に逝去した巨人である。設立に携わった企業は500以上といわれ、王子製紙やキリンビールなど有名な会社も含まれる。

    そんな凄い実績を残した渋沢翁は、何を大切にして仕事をしていたのか。

    現代に生きる私たちのような普通の人でも、参考になる部分があるはずだ。

    私は著者の「論語講義」も読んでおり、著者の論語に対する深い理解に触れているので、それが実業にどのように応用されているのか、以前からとても興味があった。

    なので、この本が街の本屋で面陳されているのを見たとき、思わず「あっ!」と声を上げてしまったことを覚えている。そして迷うことなく手にとってレジに直行してしまった。もう10年以上も前のことだが。


    【目次】
    ・処世と信条
    ・立志と学問
    ・常識と週間
    ・仁義と富貴
    ・理想と迷信
    ・人格と修養
    ・算盤と権利
    ・実業と士業
    ・教育と情誼
    ・成敗と運命


    私たちエンジニアは、よく営業から「エンジニアは視野が狭くてビジネスがわかっていないからダメだ」という言われ方をする。私も以前は、その言葉に違和感を感じながらも、そんなものかなと思っていたが、本書を読んで、この違和感の理由がわかった。

    それは、営業担当の言葉に「道徳」を感じないからだ。会社から与えられたノルマの達成だけを気にしているのがわかるからだ。

    私たちエンジニアの仕事は、何か問題を抱えて困っている人がいたら、自分が持っている技術力を使って、それを解決してあげることだ。その結果として売り上げや利益を得られるものだと思う。

    しかし、その流れをすっ飛ばして売り上げや利益を前面に出されると違和感を感じる。というか嫌悪感を感じる。著者が言う「士魂商才」に反すると直感するのだろう。

    仕事である以上、売り上げと利益が必要なことは当然わかっている。しかしその奥に「道徳的な何か」が欲しいのだ。

    とは言っても、何も難しく考えることはない。
    著者は言う。

    ”論語は決してむずかしい学理ではない。むずかしいものを読む学者でなければ解らぬというものではない。論語の教えは広く世間に効能があるので、元来解りやすいものであるのを、学者がむずかしくしてしまい、農工商などの与り知るべきものではないというようにしてしまった。これは大なる間違いである”

    論語は宗教ではない。誰もが日常生活の中で使えるハンドブックなのだ。

    そしてそれを仕事の現場に応用することで、人の道から外れることなく、成果を生み出しながら、より良い方向に向かって進んでいけるのであろう。渋沢翁がそれを実践し証明しているではないか。

    現代は先行きが見えない不安な時代だ。

    だからこそ、論語という千年以上も前から日本人に読み継がれてきた指標を頼りにして、これからの時代を力強く歩んでいきたい。

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著者プロフィール

渋沢栄一:1840(天保11)年2月13日、現在の埼玉県深谷市血洗島の豪農に生まれる。幕末はのちの将軍・徳川慶喜に仕え、家政の改善などに実力を発揮し、次第に認められる。 27歳のとき、慶喜の実弟・昭武に随行し、パリの万国博覧会を見学するほか、欧州諸国の実情を見聞し、先進諸国の社会の内情に広く通ずることとなった。帰国後は「商法会所」を静岡に設立。その後、明治政府に招かれ、のちの大蔵省の一員として国づくりに深くかかわる。1873(明治6)年に大蔵省を辞した後は一民間経済人として活動。第一国立銀行の総監役(後に頭取)として、同行を拠点に、株式会社組織による企業の創設・育成に力を入れた。また、「論語と算盤」として知られる「道徳経済合一説」を説き続け、生涯に約500もの企業にかかわった。さらに、約600の教育機関・社会公共事業の支援や民間外交に尽力。実業家のなかでは最高位となる子爵を授爵する。1931(昭和6)年11月11日、多くの人々に惜しまれながら、91歳の生涯を閉じた。

「2024年 『渋沢栄一 運命を切り拓く言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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