世界を読みとく数学入門 日常に隠された「数」をめぐる冒険 (角川ソフィア文庫 K 107-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044091019

作品紹介・あらすじ

世界は数でできている!賭けに勝つために、また最も賢い貯金法を編みだすために役立つ数学とは?整数、分数、無理数、虚数などの数の成り立ちとその不思議な性格をやさしく解説。日常生活でいつも気になる「数の現象」から、量子コンピュータや暗号理論など、数の「特性」を利用した最先端技術の仕組みと秘密までを徹底的に謎解きする。人間と社会、そして自然を繋ぎ合わせる「世界に隠れた数式」に迫る、極上の数学入門。

感想・レビュー・書評

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    小島寛之
    1958年、東京生まれ。東京大学理学部数学科卒業。同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。帝京大学講師を経て、同大学准教授。宇沢弘文に師事し、数理経済学、環境経済学、意思決定理論を専門とする経済学者として旺盛な研究・執筆活動を行うかたわら、数学エッセイストとして活躍。中高生向けの入門書から高度な学術書まで多くの著書を持つ。日本ペンクラブ会員


    なぜなら、数を表わすのに記号が2種類しか必要ないからである。0と1という特別な二つの数字だけを使って、すべての数を表わすことができてしまうわけである。8進法についてはの指で説明したが、2進法を理解するにはドラえもんを想像すればいいだろう。指がないから、腕を上げ下ろしして数を数えるのである。 10 進法の数を2進法に直していくと、次のようになります。

    フォン・ノイマンは、数学・物理学・経済学など広範囲にまたがって多くの科学的な業績を残した。それに敬意を表して「悪魔の頭脳」とあだ名がついているぐらいです。

    しかし、完璧な規則が発見されていないとはいっても、数学者たちは素数についてぼんやりとした性質ならば発見してきている。たとえば、素数は大きな数になると、どんどん少なくなっていく(希薄になっていく)ことがわかっている。  具体的にいうと、 までに素数は 25 個あり 25 パーセントもの高濃度で存在するが、1億までには、576万1455個で6パーセント程度しかない。調べる範囲を広げるにつれ、存在する素数の濃度は、どんどん薄くなっていくことが証明されている。しかも、それはおおよそ調べる個数の「ケタ数から1を引いた数」に反比例することが、 19 世紀の数学者たちによって突き止められているのです。

    古くから数学者に興味を持たれた数に、「完全数」というのがある。これは、「自分自身を除いた約数の和が、自分自身になるような数」のことである。  最初の完全数は、6である。6の約数で自分自身以外のものは1、2、3であり、これを加えると自分自身の6に戻る。紀元前のギリシャの数学者が、これを完全数と呼んだのは、これが「世界」を表現しているかららしい。1は神、2は男、3は女、これを合わせると世界を表わす6になり、6には神、男、女のみが部分として存在する、そう考えたのである。  次の完全数は 28 である。 28 の約数は、1、2、4、7、 14 なので、1+2+4+7+14=28だからです。

    しかし、現代を生きる私たちに、「分数」は別の意義を与えている。それは「確率」という考え方である。現代社会は、さまざまな不確実性の正体を明らかにし、それを制御するところまで進んできている。不確実性を表現するものが「確率」であり、この「確率」は、「分数」という数こそがみごとに表現できるのです。

    世の中が不確実性に満ち満ちていることは、ずっと昔から人間にはわかっていた。だから世の中も人生もままならないわけである。しかし古代の人類は、「その不確実性にも数学的な法則がある」ということまでは思いいたらなかった。それに気づいたのは、 16 ~ 17 世紀の数学者たちであったのだ。当時はサイコロ 賭博 が流行していた。賭博では、戦略やルールを作るうえで、有利不利を考えるのは不可欠なことである。だから、賭博師たちは数学者に相談を持ちかけた。そこから確率の研究がはじまったのである。賭博からはじまる数学、というのも起源としてはなかなかです。

    右図のように、全体を1として方程式を立てると、2次方程式ができる。これを解くことで、長い方の線分は分数 の長さであることがわかる。小数で書くと、おおよそ0・618だ。これが黄金比の正体である。式の中に5の平方根()が現われた。黄金比の美しさ、それは平方根に秘密があったのです。

    平方根は中学生のときに習うが、そのときは計算に終始するだけで、とても平方根にリアリティを感じる余裕などない。だから、中学終了後、ほとんど理科系に接触しなかった人にとって、平方根というのは、荒唐無稽 で日常生活とは縁のない数だという印象しかないであろう。  ところがどっこい、そうではない。平方根はわれわれの日常生活のいたるところに見かけられるものである。  そのよい一例は、「振り子」である。ひもの長さがLメートルの振り子の周期は、 であることが物理学で証明されている。振り子の周期というのは、振り子が行って帰って元の状態に戻るまでの時間のことである。この算式で、 はご存じの通り円周率、 g は重力加速度で地表上では約(メートル/毎秒毎秒)と知られています。

    天才オイラーの発見した無理数でもっと有名なものがある。それは 階 乗数の逆数の無限和である。  階乗数というのは、1から n までのすべての自然数を掛けてできるような数のことで、 n!(「 n の階乗」と読む)という記号で書く。  たとえば、 といったぐあいである。特別に0!=1と決められている。  これらの逆数を無限の彼方まで加えていってできる数、 をネイピア数と呼ぶ。ネイピアは対数を研究した学者であって、この数は自然対数の底として利用されるのでネイピア数と呼ばれるが、この数を定義し、無理数であることを示し、 e という記号を与えたのはオイラーである。その値は、おおよそ2・71828。  このネイピア数は、現在、数理科学を研究するには欠かせない数となっている。ピタゴラスの定理ぐらいの重要度だといっても過言ではあるまい。物理現象、生物現象、社会現象、とあらゆるところに顔を出すものなのだ。その中で、最も身近で、簡単なものを紹介しておこう。それは利子の公式である。  利子は銀行預金やローン契約などを通じて、われわれにはとても身近なものである。利子は普通、年利で換算される。たとえば、年利 10 パーセントでお金をN万円借りると、1年後にはN×0.1だけを積みまして返済しなければならない。つまり、1年後の借金はN×(1+0.1)に膨らむわけです。

     また、この方法論が、分子運動論を通じて熱現象にも応用されるに至り、人間を取り巻くあらゆる自然現象は、原理的には予言可能だというふうに思わしめた。人間の意識も、脳内物質の化学反応だとすれば、人間の運命もまた決定していることとなる。  このような運命論的な 捉え方を、「 ラプラスの悪魔」と呼ぶ。数学者ラプラスは、ある時刻のすべての粒子の位置と運動量を知ることができれば、後は膨大なニュートンの連立微分方程式を解くことによって、その後、宇宙に起きることをすべて正確に予言することができると主張した。この能力を持った悪魔が、「ラプラスの悪魔」と呼ばれるようになったのである。  ラプラスの時代の雰囲気を表わすのにちょうどいいエピソードがある。ラプラスはナポレオンに、「お前の本には神のことが書かれていないようだが」と尋ねられ、「私の理論にそのような仮説は必要ありません」と胸を張って答えたと言われています。

    初期設定の数値を微小に変えただけで、対流の姿が途中から大きくずれていってしまうのである。つまり、 微かな違いしかないような温度・気圧・風向きからスタートした2つの対流が、そう長い時間を経ないうちに劇的に違った状態に分かれてしまうのである。この性質を「初期値敏感性」という。初期値のほんのわずかな違いが、大きな結果の違いを生むのである。これには「 バタフライ効果」というあだながついている。「北京で 蝶 がはばたくとニューヨークで嵐が起こる」という 喩え話に由来する話です。

    これと同じことが、ピストンを押すときにも起きるのである。ピストンを押すと、気体の分子はピストンに当たる前よりも速いスピードで跳ね返っていく。これは気体の運動エネルギーが大きくなったことを意味するから、それによってシリンダー内の温度は高くなるわけである。大きくなった分のエネルギーは、ピストンを押す手の力によって与えられたのである。  逆に、ピストンを引くと、跳ね返った分子の速度は小さくなる。これもテニスの経験からわかる。それによって運動エネルギーは減少し、シリンダー内の気体の温度が下がるわけである。われわれが暑い夏を快適に過ごせるのは、この分子運動論のおかげなのです。

    しかし、驚くのはこれからである。 19 世紀までは、虚数はあくまで数学の中だけの架空の絵空事にすぎなかったのだが、 20 世紀になって私たちの住む現実の中にリアルに存在していることが 見出されることになったのである。ミクロの世界の物質法則である量子力学がその舞台です。

    そもそも負の数は、歴史的に、商業での必要から発明されたといわれている。紀元あたりの中国や 12 世紀のインドなど商取引がさかんになった社会では、売り上げや資産の貸し借りを記録するために、負の数を利用したそうだ。いつの時代でも、必要こそが発明の母なのだ。現実が広がると数も広がるのである。  では、「 虚数」はどうだろうか。負の数の平方根である虚数には、どんなリアリティがあるのだろうか。それを追求するのが本章の目標です。

    タルターリアはこの数学試合で全戦全勝であった。それもそのはず、タルターリアは世界でただ1人、3次方程式の完全解法を知っていたからである。そのタルターリアのもとに1人の男がやってきた。カルダノという名前の数学者であった。この男は、第2章でも確率理論の先駆者として登場した。カルダノは非常に怪しい人物である。 娼婦 の子として生まれ、後に開業医となるが、花嫁の持参金を持ち出してすっかり 博打 ですったりするような無軌道な男だったようだ。このカルダノが、3次方程式の解法を教えろ、とタルターリアにしつこくつきまとうのである。根負けしたタルターリアは、他言しないことを誓わせたうえで、秘伝をカルダノに教えてしまう。もちろん、そんな約束が守られるはずはない。カルダノは裏切って、自著にその解法を発表してしまうのです。

    見ているだけ、あるいは体験しているだけでは理解できない現実の正体を、われわれは虚構を利用して理解するのである。数学の世界にも、そういうことがあるのだ。実数を完全に理解するのは、実数の内部に閉じこもっていては不可能である。虚数というフィクションの世界に飛び込んでこそ、実数の本性に肉薄することができるのである。これは世界を知覚する上で、とても示唆的なことです。

    こういうと読者諸氏は、虚数のかかわる物理現象なんて見たことない、とおっしゃるかもしれない。それもそのはずである。なぜなら、虚数のかかわる物理現象は、ミクロの世界、目に見えない極小の世界にしか存在しないからなのである。この章のこれから後半は、物理現象に現われた虚数のお話を展開することにしよう。

  • 文字通り、数学の入門書。

    入門書といっても虚数まで出てくるので、全く数学に関心ない人にとってはハードルが高く、特に後半に行くにつれて難しく感じられるかと。
    それでも、現在の物理学にも虚数を含む数学が大きく影響してるということがよくわかった。

  • 多彩な話題を扱っていて面白い。条件付確率、確率の独立性、ネイピア数、ポワッソン分布、カオスあたりは実生活や仕事に馴染み深いか。一方、素数や複素数といった理論的な話もRSA暗号のところで実生活にかかわる。ただし、RSA暗号の量子コンピューターによる解読のくだりは完全にお手上げ。ベルヌーイシフトなんかも分からん。他にも分かったつもりで分かっていない箇所はたくさんあるのだろう。

  • 数学って面白いと感じさせてくれる本。
    正直、数式は解説があっても分からないところもあったがそれでも数学世界に惹き込まれた。

  • 理系が得意な方には当たり前の考え方が多いのかと思いますが、完全なる文系の私には新鮮な内容でした。
    少し難しい箇所もありましたが、単に読み物として楽しめたので、普段あまり理数系の本を読まない方には新しい視点を得られるのでオススメ出来ます。
    数学は苦手ですが、こちらの本は苦手意識なく、最後までさくさく読めました!

  • 高校時代に出会っていれば数学に対する学習も進路も変わっていた、かも。「数学なんて社会で役立たない」という言葉に華麗に反論する一冊。

  • 保険や先物取引、独占、バブルなどなんとなくわかるけど実際はよく分かっていなかったことが、ああそういうことだったのか!と腑に落ちました。
    数学は苦手だし嫌いなのですが、多くは日本語で説明してあり、数式の意味も分かりやすいので、めげずに読み切ることができました。

  • 「数学は社会に出ても使わない」という考えを持っている人は多いだろう。確かに、学校の授業以外で二次方程式を解いたり、三角関数を使って計算したり、+-×÷以外に、微分積分などの計算方法を日常生活で用いることはほとんどないだろう。
    しかし、今ある技術や、この社会全体を見渡した際に、「数学のない世界」は考えられない。それは、潜んでいるだけで、無駄ではない。そう感じさせてくれる1冊。

  • ところどころに面白い点があったのだが、全体的には緩慢な印象。

  • 今まで公式丸暗記で意味を理解しない勉強していたつまらなかった数学が、この本によって、公式の生まれた経緯や意味を学ぶことによりとても楽しく感じられた。

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著者プロフィール

小島 寛之(こじま ひろゆき)
1958年東京都生まれ。東京大学理学部数学科卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。
現在、帝京大学経済学部経済学科教授。専攻は数理経済学、意志決定理論。
数学エッセイストとしても多方面で活躍しており、そのわかりやすい語り口には文系・理系の読者を問わず定評がある。
主な著書に『使える!経済学の考え方』『数学入門』(以上、ちくま新書)、『天才ガロアの発想力』『ナゾ解き算数事件ノート』『21世紀の新しい数学』『証明と論理に強くなる』『【完全版】天才ガロアの発想力』(以上、技術評論社 )、『無限を読みとく数学入門』(角川ソフィア文庫)、『数学的推論が世界を変える』(NHK出版新書)など多数。

「2021年 『素数ほどステキな数はない  ~素数定理のからくりからゼータ関数まで~』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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