日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情 (角川ソフィア文庫)
- KADOKAWA/角川学芸出版 (2015年8月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044092245
作品紹介・あらすじ
古代から近世まで、古典に登場する人物のうち、給料をもらう人物の年収と私生活を、米の値段などをもとに現代のお金に換算。丁寧な分析で、山上憶良、菅原道真、紫式部などの収入を明らかにしていく。
感想・レビュー・書評
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『王朝貴族物語』『平安貴族のシルクロード』以来、この人の著作に触れる。
懐かしい友達に街角で思いがけず出会ったような気分で。
米を基準に、山上憶良の年収から、源内、南畝の懐事情まで、記録を精査して換算する。
「貧窮問答歌」は中国の詩の理念(民の窮状を描いて政治を慷慨する)の移入だった、という指摘にハッとする。
平安時代の売位、売官の状況も、初めて知って面白かった。
ますます山口ファンになってしまう。
一つ一つの費目を記録から拾い、換算している作業は大変だったろうなあ、と想像する。
表などでそうしたデータがふんだんにまとめられており、重宝しそう。 -
よもすずし ねざめのかりほ たまくらも まそでもあきに へだてなきかぜ
兼好法師
古典文学を読んでいると、当時の人々の経済事情も知りたくなってくる。国文学者山口博による「日本人の給与明細」は、「古典で読み解く物価事情」という興味深い副題がつけられた著書。巻末には奈良時代から江戸時代までの「物価表」もあり、単身赴任者や財テク武者、脱サラ・コピーライターなど、現代ふうにそれぞれの「給料」が解説され、発見に満ちていた。
兼好法師は、「徒然草」で知られる鎌倉時代の随筆家。中級官僚の家に生まれ、30歳前後で出家するまでは、官僚といういわゆる「サラリーマン」でもあった。「ボーナス」も支給され、十分な給料をもらっていたが、本書によると、文芸の才能を生かすために自由出家の道を選んだらしい。
とはいえ、生活費は当然必要なもの。出家後まもなく、ある田地を購入し、そこでとれる年貢米を金に換えて貯蓄していたという。10年後、その土地を「寄付」の名目で売却し、今でいう「土地転がし」のような手段で生計を立てていたそうだ。
権力者のラブレターの代筆も手掛け、金の工面には苦労があったようだが、精神的な自由だけは確保していたのだろう。
掲出歌は、実は、友人に経済的援助を乞うたもの。各句の1文字目を上から下に続けて読むと「よねたまへ(米給へ)」となり、終わりの文字を下から上に続けて読むと、「ぜにもほし(銭も欲し)」の言葉が現れる。
とはいえ、遊び心たっぷりの歌であることに、どこかほっとさせられる。
(2017年9月10日掲載) -
本屋で衝動買い。当時の物価から見えてくる古典文学というテーマのエッセー集。江戸時代の武士の収入はどれぐらいだったか?や、平安時代の貴族の収入はどれほどだったか?などがわかって、とても面白く読めた。末尾に各時代の物価の詳細が載っている表があって、今後の古典文学や歴史小説を読む際の参考となりそうである。
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<目次>
第1章 奈良時代
第2章 平安時代
第3章 鎌倉時代
第4章 室町・戦国時代
第5章 江戸時代
<内容>
各時代の様々な資料を駆使して、収入や支出の様子を描いたもの。著者は平安時代が専門の文学系の人らしく、前半のほうが詳しくて面白い。日本史を教えている立場からすると、こういう資料は授業で活用しやすいのでうれしい。経済的な話以外にも、『紫式部日記』のなかの清少納言や和泉式部への酷評とか、室町時代の文学から見る歴史の様子など、なかなかいい視点だと思う。