日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川学芸出版
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044092245

作品紹介・あらすじ

古代から近世まで、古典に登場する人物のうち、給料をもらう人物の年収と私生活を、米の値段などをもとに現代のお金に換算。丁寧な分析で、山上憶良、菅原道真、紫式部などの収入を明らかにしていく。

感想・レビュー・書評

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  • 奈良、平安、鎌倉、室町・戦国、江戸の5つの時代の人々の収入が紹介されている。現物支給だったものについては、当時の物価価値で換算した額が出されていて、なかなか面白い。

    分量的には平安時代の貴族に関する記載が最も充実しており、その次に江戸時代。奈良、鎌倉室町・戦国はけっこう薄い。現存している史料によって調査の濃淡が異なるということか。

    個人的には江戸時代の庶民の生活水準や金銭感覚を知りたいと思って読んでみたのだが、そのへんの記述はほとんどなく、ちょっと期待外れ。というか、どの時代をとってもいわゆる「一般人」の懐事情の記載はほぼ無く、これも信頼できる史料がないためなのだろう。平安時代の章など、貴族のとてつもないレベルの収入と、それを得られる地位を買うための策謀やら政略やらが目立って辟易してしまう。

    先に書いた通り、平安時代の記述が最も濃いので、この時代の貴族の生活について知りたいなら良書。また、それ以外の時代についても「エリート層」の生活を見てみたいなら得られるところは多いだろう。

  • 『王朝貴族物語』『平安貴族のシルクロード』以来、この人の著作に触れる。
    懐かしい友達に街角で思いがけず出会ったような気分で。

    米を基準に、山上憶良の年収から、源内、南畝の懐事情まで、記録を精査して換算する。
    「貧窮問答歌」は中国の詩の理念(民の窮状を描いて政治を慷慨する)の移入だった、という指摘にハッとする。
    平安時代の売位、売官の状況も、初めて知って面白かった。
    ますます山口ファンになってしまう。

    一つ一つの費目を記録から拾い、換算している作業は大変だったろうなあ、と想像する。
    表などでそうしたデータがふんだんにまとめられており、重宝しそう。

  • よもすずし ねざめのかりほ たまくらも まそでもあきに へだてなきかぜ
      兼好法師

     古典文学を読んでいると、当時の人々の経済事情も知りたくなってくる。国文学者山口博による「日本人の給与明細」は、「古典で読み解く物価事情」という興味深い副題がつけられた著書。巻末には奈良時代から江戸時代までの「物価表」もあり、単身赴任者や財テク武者、脱サラ・コピーライターなど、現代ふうにそれぞれの「給料」が解説され、発見に満ちていた。

     兼好法師は、「徒然草」で知られる鎌倉時代の随筆家。中級官僚の家に生まれ、30歳前後で出家するまでは、官僚といういわゆる「サラリーマン」でもあった。「ボーナス」も支給され、十分な給料をもらっていたが、本書によると、文芸の才能を生かすために自由出家の道を選んだらしい。

     とはいえ、生活費は当然必要なもの。出家後まもなく、ある田地を購入し、そこでとれる年貢米を金に換えて貯蓄していたという。10年後、その土地を「寄付」の名目で売却し、今でいう「土地転がし」のような手段で生計を立てていたそうだ。

     権力者のラブレターの代筆も手掛け、金の工面には苦労があったようだが、精神的な自由だけは確保していたのだろう。

     掲出歌は、実は、友人に経済的援助を乞うたもの。各句の1文字目を上から下に続けて読むと「よねたまへ(米給へ)」となり、終わりの文字を下から上に続けて読むと、「ぜにもほし(銭も欲し)」の言葉が現れる。
     とはいえ、遊び心たっぷりの歌であることに、どこかほっとさせられる。
    (2017年9月10日掲載)

  • 本屋で衝動買い。当時の物価から見えてくる古典文学というテーマのエッセー集。江戸時代の武士の収入はどれぐらいだったか?や、平安時代の貴族の収入はどれほどだったか?などがわかって、とても面白く読めた。末尾に各時代の物価の詳細が載っている表があって、今後の古典文学や歴史小説を読む際の参考となりそうである。

  • <目次>
    第1章  奈良時代
    第2章  平安時代
    第3章  鎌倉時代
    第4章  室町・戦国時代
    第5章  江戸時代

    <内容>
    各時代の様々な資料を駆使して、収入や支出の様子を描いたもの。著者は平安時代が専門の文学系の人らしく、前半のほうが詳しくて面白い。日本史を教えている立場からすると、こういう資料は授業で活用しやすいのでうれしい。経済的な話以外にも、『紫式部日記』のなかの清少納言や和泉式部への酷評とか、室町時代の文学から見る歴史の様子など、なかなかいい視点だと思う。

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著者プロフィール

1932年(昭和7)東京に生まれる。東京都立大学大学院博士課程単位取得退学。富山大学・聖徳大学名誉教授、文学博士。
著書に『王朝歌壇の研究』『万葉集形成の謎』(共に桜楓社)、『閨怨の詩人小野小町』(三省堂選書)、『王朝貴族物語 古代エリートの日常生活』(講談社現代新書)、『万葉集の誕生と大陸文化 シルクロードから大和へ』(角川選書)、『心にひびく日本の古典』(新潮社)、『こんなにも面白い日本の古典』(角川ソフィア文庫)、『創られたスサノオ神話』(中公叢書)、『大麻と古代日本の神々』(宝島新書)、『こんなにも面白い万葉集』(PHP研究所)など他多数

「2020年 『草莽の防人歌 万葉のわだつみの声をきく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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