日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044092245

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  • よもすずし ねざめのかりほ たまくらも まそでもあきに へだてなきかぜ
      兼好法師

     古典文学を読んでいると、当時の人々の経済事情も知りたくなってくる。国文学者山口博による「日本人の給与明細」は、「古典で読み解く物価事情」という興味深い副題がつけられた著書。巻末には奈良時代から江戸時代までの「物価表」もあり、単身赴任者や財テク武者、脱サラ・コピーライターなど、現代ふうにそれぞれの「給料」が解説され、発見に満ちていた。

     兼好法師は、「徒然草」で知られる鎌倉時代の随筆家。中級官僚の家に生まれ、30歳前後で出家するまでは、官僚といういわゆる「サラリーマン」でもあった。「ボーナス」も支給され、十分な給料をもらっていたが、本書によると、文芸の才能を生かすために自由出家の道を選んだらしい。

     とはいえ、生活費は当然必要なもの。出家後まもなく、ある田地を購入し、そこでとれる年貢米を金に換えて貯蓄していたという。10年後、その土地を「寄付」の名目で売却し、今でいう「土地転がし」のような手段で生計を立てていたそうだ。

     権力者のラブレターの代筆も手掛け、金の工面には苦労があったようだが、精神的な自由だけは確保していたのだろう。

     掲出歌は、実は、友人に経済的援助を乞うたもの。各句の1文字目を上から下に続けて読むと「よねたまへ(米給へ)」となり、終わりの文字を下から上に続けて読むと、「ぜにもほし(銭も欲し)」の言葉が現れる。
     とはいえ、遊び心たっぷりの歌であることに、どこかほっとさせられる。
    (2017年9月10日掲載)

著者プロフィール

1932年(昭和7)東京に生まれる。東京都立大学大学院博士課程単位取得退学。富山大学・聖徳大学名誉教授、文学博士。
著書に『王朝歌壇の研究』『万葉集形成の謎』(共に桜楓社)、『閨怨の詩人小野小町』(三省堂選書)、『王朝貴族物語 古代エリートの日常生活』(講談社現代新書)、『万葉集の誕生と大陸文化 シルクロードから大和へ』(角川選書)、『心にひびく日本の古典』(新潮社)、『こんなにも面白い日本の古典』(角川ソフィア文庫)、『創られたスサノオ神話』(中公叢書)、『大麻と古代日本の神々』(宝島新書)、『こんなにも面白い万葉集』(PHP研究所)など他多数

「2020年 『草莽の防人歌 万葉のわだつみの声をきく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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