壊れた脳 生存する知 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 357
感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044094133

作品紹介・あらすじ

靴の前後が分からない。時計が読めない。世界の左半分に気が付かない。三度の脳出血で高次脳機能障害となった著者が、戸惑いながらも、壊れた脳で生きる日常を綴る。諦めない心とユーモアに満ちた感動の手記。

感想・レビュー・書評

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  • 整形外科医だった著者が(脳梗塞を合併する)脳卒中のために、高次脳機能障害になったことを綴る体験記かつ医学的資料(と言って差し支えないと思われます)

    私は脳や神経についての専門的知識は皆無ですが、専門用語を交えつつ、しかし「それはどういうことか」を説明してくれる内容のため、容易に読み進めることができました。

    数々の困難を経て、めげずに一生懸命に日々を過ごしておられる姿を察するに、著者はかなりの努力家であり、またとても聡明な人なのだろうと思います。

    一般人には聞きなれない「高次脳機能障害」ですが、「高次脳」という脳の部分があるのではなく、「高次の、脳機能の、障害」ということだそうで。
    どこを損傷したかによってその人の困難なことは変わってくる、ということは場合によっては言語や視覚そのもの、音の聞こえ方などにも不具合を来すということなのかなと思うと、つくづく恐ろしい病です。

    リハビリテーションに携わる方にとっては、高次脳機能障害の方がどのような世界を見ているのかを知る手がかりになると思います。
    特に、41頁「転落事件」から46ページ「医者のくせに」のあたりだけでも目を通しておいた方がいいかもしれません。まさに「当事者」と「傍にいてみている人」の違いというのか、医療現場で「担当者が冷たい」と言われることの根本がここにあるような気がします(素人考えですが)。

    少しだけ、高次脳機能障害と認知症の共通点について書かれているところがありましたが、脳に何かトラブルがあって日常生活がままならなくなったり、問題が起こってくるという点では確かに親和性があるなぁと思うと同時に、やはり「知らない」ということが自他にとっては最大の損失を生むのかもしれないなと、考えさせられるところもありました。

    そして何よりも、著者の奇跡的な生還とその後の回復の記録を目にすると「人間の生命力というのか、脳に秘められた可能性は侮れない」と感じました。

    貴重な体験を分け与えてもらったような本でした。

  • 医者が自らの脳梗塞の体験を綴ったものとしては、ジル・ボルトテイラーの『奇跡の脳』がある。ジル・ボルトテイラーは、その体験をTED Talkでも語るなど世界的にも有名になっている。本書も整形外科医の著者が、脳梗塞や脳卒中(モヤモヤ病という持病のせいで何度も起こしている)の経験を綴ったもので、そういう表現をするべきではないのかもしれないが非常に面白かった。著者がある程度医学知識を持っていることから、自分の置かれた状態を制約はありながらも客観的に見て表現しているため、外から見るとわかりにくいその症状がどのようなものなのかわかりやすくなっている。著者の症状が言語障害を伴わなかったことから、こういう本が世の中に出るようになったのは、ご本人の不幸は痛ましいが、その上で素晴らしいことだと思う。周りのサポートがあり、働く場が準備されたということもきっと大きいんだろうなと思う。読んでいないが、本書はその評判の良さから漫画にもなっているようだ。

    著者は、視覚が現実と結びつかなくなり、その端的な例として時計が読めなくなったり、階段の上り下りが難しくなったりするが、その描写も説得力がある。書かれていることから推測すると、集中力を極端に欠いた状態に近いのかもしれないなと思う。また、意識で処理できないものでも体が覚えていることがあるということの例として、階段歩行など想像がつくものの他に、漢字を書くことも体が覚えているというの意外な発見で興味深い。日本語が表意文字であるという特殊性がこういった場面でも出てくるのかもしれない。また、何かの行為を行うときでも、いろいろなところで機能を補っているので非常にエネルギーを使うというのも、この本で初めてわかった。

    著者は、高次脳機能障害と認知症との違いを「自分が誰だか知っている」という点であると書いているが、もしかしたら認知症でも軽度の場合にはまだ「自分が誰だかを知っている」状態であったりすることもあるのではないかと思う。いずれにせよ自分自身であったり、周りの人であったりが同じような障害を持つことがいつかあるかもしれない。そのときのために、脳の機能障害であってもリハビリにより回復する可能性があり、回復はずっと続いていくものである、ということはそうなっても忘れないように心の底で覚えておきたい。また、そのときには脳機能障害によってやる気も低下しているので、むやみに「頑張れ」とか叱責とかをするべきではないというのも周りがそうなった場合には参考にしたい。

    他の著作でも、AI研究者が高次脳機能障害を負った経験を書いたクラーク・エリオットの『脳はすごい』や、作家であり状況の表現がうまくて読みやすい鈴木大介の『脳が壊れた』も読んだが、同様におすすめ。脳の不思議さと意外なしぶとさを気づかせてくれる。その他にも世の中には高度脳機能障害を負った人がその体験を書いた本が実はたくさんあることに気が付いた(Amazonがおすすめしてくれる)。自分もいつかそうなるのかもしれない。そのときにこういう本に書かれたことを知っているか知っていないかでずいぶんと回復に向けてどこまで努力できるかが違うような気がするのだ。


    ーーーー
    『奇跡の脳』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4105059319
    『脳はすごい』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/479176885X
    『脳が壊れた』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4106106736

    医師も同じ人間なのでそういった経験をしている人は当然たくさんいて、英語では体験談がまとめられていたりもするらしい。脳の出血部位によりその影響は様々なので、色々な話があるのだろう。

  • 今も医師であり(かつて整形外科医として働いていた医師であった)「モヤモヤ病」・「高次脳機能障害者」の筆者の生きる姿を自分自身で自分を語る。生きることとは、生存すること。生かすことは、はずかしがるではなく、惜しむことなく、カミングアウトすることであり、回復することであり、現状を受け入れて生きていくことである。ふとしたことから、手にすることになったのだが、淡々と読んでいくうちに、ぐいぐいと引き込まれていきそうになるのを、ぐぐっと、できるだけ、事実を読んでいこうという姿勢で読んでいくように心がけた読書であった。

  • 知らない事を知るために読書する。この本は障害を持ってしまった人生・心の葛藤・気持ち・を知るために大切な一冊。とても分かりやすく書かれている。

  • 著者の方には大変申し訳ないが、医師にして脳出血の当事者という非常に稀有な存在の人がいてくれて良かったと思わずにはいられない全脳出血当事者必読のバイブルともいうべき良書。
    勇気を貰える記述が多数あった。
    特に日常生活を平穏に過ごすのと回復のため、超高速にフル回転している脳のエネルギー源を補給するには糖分を取る必要がある。との記述には我が意を得た気持ちになった。

  • 障害があるというマイナスイメージを、見方を変えて面白がる。工夫次第で前向きに障害と共存していける。筆者の楽観的な姿勢と行動力に、病気は違えど同じ障害者として学ぶべきところが大いにありました。

  • 病気とか障害って辛いけど、
    「とりあえずもう治らないから諦めて」
    「どうせできないから、できる事だけ楽しんで」
    「そんなにがんばらなくてもいいけど、やりたい事は諦めないで」って事だと思う。笑

    とりあえず脳ってすごいなぁ。よく作れたね。奇跡?

  • 高次脳機能障害をもつ医者目線の話から、脳の障害に対する印象が変化したと同時に、人間の脳の可能性、すごさを知った。そして、脳に限らず障害とバリアフリー、社会について考えさせられる。

    さんろく

    所蔵情報:
    品川図書館 493.7/Y19

  • 母親の高次脳機能障害がどんなもんか知りたかったので読んだ。やっぱりうまいこと想像つかないな。また読む。

  • 素晴らしい、モヤモヤ病で脳出血を起こし、高次脳機能障害になった医師で母親でもある著者。
    こんなに不自由でも、前向きに生きる努力をする著者に、敬服する。
    本人の明るさもだが、友人や家族も素晴らしい。
    環境の大切さ、そして専門職としての態度、教えてくれる。

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著者プロフィール

1964年、香川県生まれ。東京女子医科大学卒。同大付属病院、香川医科大学(現・香川大学医学部)勤務を経て、山田整形外科病院院長に。37歳で3度目の脳出血を体験し、重篤な高次脳機能障害を発症。自分の症状や自前のリハビリ法などを綴った『壊れた 生存する知』が話題に。

「2011年 『壊れた脳も学習する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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