旅人 ある物理学者の回想 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.80
  • (20)
  • (41)
  • (28)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 495
感想 : 54
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044094300

作品紹介・あらすじ

日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が、自らの前半生をふり返る。「イワン(言わん)ちゃん」とあだ名された無口な少年は、読書を通じて空想の翼を羽ばたかせた。数学に熱中するも「小川君はアインシュタインのようになるだろう」という友人の一言がきっかけとなり、理論物理学への道が開けていく-。京都ならではの風景とともに家族の姿や学生生活がいきいきと描かれ、偉大な先人を身近に感じる名著。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2019年カドフェスの一冊。

    湯川秀樹に触れるのは初めてではないのだけど、以前は対談集を読んだので、言葉が標準語になるだけで随分イメージが変わる。

    幼少期から展開される京都の街並みが、生きている。丸善やら、新京極やらまるで『檸檬』のその後を歩んでいるようだな、と思わされる。
    口数が少なく、父との心理的距離感をずっと抱いていたらしい秀樹少年だが、彼のまなざしや、出会った先生の言葉の数々は、細かく、鮮やかで驚く。

    そして、数学ではなく物理学を選んでゆく、長い道のりも、面白い。
    時勢があり、出会いがあり、そして選択がある。
    彼から数学を疎遠にさせた、「自分の教えた証明の方法しか許さない先生」のエピソードを読むと、自分もどこかで誰かを疎遠にさせているのかもしれないと、胸が痛む。

    「私は昔も今も、親しい友だちが少ない。性格的なものもあるだろうが、私が幼年期、少年期を過したた、京都という町の環境にもよるのかもしれない。
    京都の人家は、大抵、外部からひどく隔絶させるように出来ている。
    入り組んだ町の商店でも、店だけは通りに面して開いている。が、店の奥に下げられた古いのれんを一枚くぐれば、そこには外界から遮断された、暗い静けさがよどんでいる。」

    「私はもうずっと以前に、「名なしの権兵衛」ではなくなってしまっている。だれも、私をほうって置いてはくれない。利用価値があると思われること自体は、私に取って嬉しくないことはない。しかし、それが私にとって重荷であることもまた否定出来ない。」

  • なにかの記事で登美彦氏がおすすめ本として紹介していたり、小川洋子さんが『みんなの図書室』でレビューを書かれていたので、読んでみたかった作品。
    ノーベル物理学者の湯川秀樹博士による自伝です。
    幼少から27歳までの湯川博士の様子が描かれています。

    自身のことにも関わらず、一歩退いたところから自分を見つめて書いているところが科学者の目線だと感じます。
    そして、文章のうまいこと!
    偉大な科学者が書いた文章であることを忘れてしまうくらい、わかりやすく読みやすいのです。

    湯川博士の前に現れた数々の人生の分岐点。
    博士がどんな風に歩み、理論物理学の道に足を踏み入れ、大きな業績を残したのか。
    日々手探りで進むべき道を模索する私たちに、「私はこうだったよ」と静かに語りかけてくれます。
    高校生や大学生世代におすすめしたい1冊です。

  • 湯川秀樹博士の自伝です。
    中間子論の発見の物語を期待して読むと肩透かしを食らいます。最後の10ページくらいにならないと出てこない。
    どちらかというと教科書に出てくる偉人が、幼少期からノーベル賞級の発見に至るまで、どんな人生を送っていたのか、どんな性格で、どんな人との関わりがあって、時代の空気はどんなものだったのか、その薫りを楽しむ本です。
    「学問を尊重する気持が国民の間にあるのなら、学者はなるべく研究室に置いて、ことさら繁雑な世界に引き出さないようにしてほしいと思う」という、現在と同じような感覚を持っていたのだと思う。

    ”「ずいぶんまわり道をしたものだ」というのは、目的地を見つけた後の話である。後になって、真っすぐな道を見つけることはそんなに困難ではない。まわり道をしながら、そしてまた道を切り開きながら、とにかく目的地までたどり着くことが困難なのである。 ”
    もうちょっと頑張ろう!と思えました。

  • 湯川秀樹さんの自伝。新しい理論に到達するに至る研究者の生き様を感じられ、めっちゃ感動した!

  • 請求記号 289/Y 97

  • 湯川秀樹の自伝。

  •  湯川秀樹が出生から27歳までを回想した自伝。50歳のころから2年にわたり朝日新聞に連載していたものを文庫にしたもの。東京から京都に移り住んだ幼いころ、研究者として身を立てるためいろいろな勉強をしていた頃、そして、最後中間子論の着想を得たところでこの本は終わる。著者はこの後、敗戦を経て日本人初のノーベル賞を受賞、科学者として日本、いや人類の発展をリードしていくのだが、おそらく、勉強や研究以外の雑務(義務?)に追われる時間を忌まわしく感じていたのだろう。
    「これから先のことは、私はいま書く気持ちがない。いちずに勉強していた時代の私が、無性になつかしいからである。そして、これから先を書けば書くほど、勉強以外のことに時間を取られてゆく自分が、悲しくなってきそうだからである。」
     と言っている。実際、研究者として成果が今一つの時期や、先取りされた悔しさに触れつつも、新しい知識を得て考えることの楽しさを活き活きと描いている。何より、文章がうまく、「人間的な矛盾や苦悩を超えた調和と単純を求める潜在意識」が科学者としての人間性につながったことが感じ取れる名著である。

  • 日本人初のノーベル賞受賞者である著者が、27歳になるまでの半生を語った本です。

    地質学者である小川琢治の三男として生まれ、貝塚茂樹、小川環樹を兄弟にもつ学者一家のなかで育った著者の家庭環境や、物理学を志した三校時代のエピソードなどが、わかりやすい文章でつづられています。幼少時から幅広い教養に触れることのできる来歴であることはいうまでもありませんが、その一方で、著者が育ってきた家庭においても、物理学の道をえらぶにあたっても、どこか自分の歩んできた道に対して距離を置き、冷静にそれを見つめている態度がうかがえるように感じられます。

  • 子供の頃の切ないエピソードを綴ったものを教科書で読んだのが氏を身近に感じた最初でそれきりで、やっとこの本を読んだ。そして、子どもの頃に感じた氏の優しさと言うのか、誠実さと言うのか、そんな気持ちと同じ気持ちで読めたと思う。

    人は夢中になれるものを持っていることが第一にすばらしいのだが、氏がそれに誠実に取り組み、決して諦めない。そして自分の手柄は披瀝しない。学校の活動もちゃんと参加したり、遠泳などさせられ、ラグビーまでしてくたびれたり、和歌も詠んだり、で幼少のころから訓練されている。
    専門だけ知ってる偏った人ではないし、偏ったところは自覚してもいるところが良いと思う。

    これを読んでいると若いころにちゃんとしなかった自分が思い起こされて恥ずかしくなってしまった。読んで良かった。

全54件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

理学博士。専門は理論物理学。京都大学名誉教授、大阪大学名誉教授。
1907年に地質学者小川琢治の三男として東京生まれ、その後、1歳で転居した京都市で育つ。23年に京都の第三高等学校理科甲類(16歳)、26年に京都帝国大学理学部物理学科に入学する。33年からは大阪帝国大学講師を兼任し、1934年に大阪帝国大学理学部専任講師となる(27歳)。同年に「素粒子の相互作用についてⅠ」(中間子論)を発表。日本数学物理学会の欧文誌に投稿し掲載されている。36年に同助教授となり39年までの教育と研究のなかで38年に「素粒子の相互作用についてⅠ」を主論文として大阪帝国大学より理学博士の学位を取得する(31歳)。1939年から京都帝国大学理学部教授となり、43年に文化勲章を受章。49年からコロンビア大学客員教授となりニューヨークに移る(42歳)。同1949年に、34年発表の業績「中間子論」により、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。1953年京都大学基礎物理学研究所が設立され、所長となる(46歳)。1981年(74歳)没。『旅人―ある物理学者の回想』、『創造への飛躍』『物理講義』など著書多数。

「2021年 『湯川秀樹 量子力学序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

湯川秀樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
村上 春樹
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印

旅人 ある物理学者の回想 (角川ソフィア文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×