旅人 ある物理学者の回想 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044094300

作品紹介・あらすじ

日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が、自らの前半生をふり返る。「イワン(言わん)ちゃん」とあだ名された無口な少年は、読書を通じて空想の翼を羽ばたかせた。数学に熱中するも「小川君はアインシュタインのようになるだろう」という友人の一言がきっかけとなり、理論物理学への道が開けていく-。京都ならではの風景とともに家族の姿や学生生活がいきいきと描かれ、偉大な先人を身近に感じる名著。

感想・レビュー・書評

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  • 2019年カドフェスの一冊。

    湯川秀樹に触れるのは初めてではないのだけど、以前は対談集を読んだので、言葉が標準語になるだけで随分イメージが変わる。

    幼少期から展開される京都の街並みが、生きている。丸善やら、新京極やらまるで『檸檬』のその後を歩んでいるようだな、と思わされる。
    口数が少なく、父との心理的距離感をずっと抱いていたらしい秀樹少年だが、彼のまなざしや、出会った先生の言葉の数々は、細かく、鮮やかで驚く。

    そして、数学ではなく物理学を選んでゆく、長い道のりも、面白い。
    時勢があり、出会いがあり、そして選択がある。
    彼から数学を疎遠にさせた、「自分の教えた証明の方法しか許さない先生」のエピソードを読むと、自分もどこかで誰かを疎遠にさせているのかもしれないと、胸が痛む。

    「私は昔も今も、親しい友だちが少ない。性格的なものもあるだろうが、私が幼年期、少年期を過したた、京都という町の環境にもよるのかもしれない。
    京都の人家は、大抵、外部からひどく隔絶させるように出来ている。
    入り組んだ町の商店でも、店だけは通りに面して開いている。が、店の奥に下げられた古いのれんを一枚くぐれば、そこには外界から遮断された、暗い静けさがよどんでいる。」

    「私はもうずっと以前に、「名なしの権兵衛」ではなくなってしまっている。だれも、私をほうって置いてはくれない。利用価値があると思われること自体は、私に取って嬉しくないことはない。しかし、それが私にとって重荷であることもまた否定出来ない。」

  • なにかの記事で登美彦氏がおすすめ本として紹介していたり、小川洋子さんが『みんなの図書室』でレビューを書かれていたので、読んでみたかった作品。
    ノーベル物理学者の湯川秀樹博士による自伝です。
    幼少から27歳までの湯川博士の様子が描かれています。

    自身のことにも関わらず、一歩退いたところから自分を見つめて書いているところが科学者の目線だと感じます。
    そして、文章のうまいこと!
    偉大な科学者が書いた文章であることを忘れてしまうくらい、わかりやすく読みやすいのです。

    湯川博士の前に現れた数々の人生の分岐点。
    博士がどんな風に歩み、理論物理学の道に足を踏み入れ、大きな業績を残したのか。
    日々手探りで進むべき道を模索する私たちに、「私はこうだったよ」と静かに語りかけてくれます。
    高校生や大学生世代におすすめしたい1冊です。

  • 朝永振一郎の自伝を読んだので、湯川秀樹の自伝も読んでみた。文章は湯川先生の方が上手。

    学者の一家に育ち、5歳の頃には祖父から漢籍の素読の手ほどきを受けたそうで、昔のインテリ層は格が違うなと思った。
    研究や戦争についての回想はほぼなく、幼少から、青年時代、結婚してからの家庭生活などが内省的に淡々と語られる。孤独を好み、内面世界が豊かなタイプということがよく分かる。また、京大(三高)の自由な気風が彼の気質と才能を養ったらしく、その校風をずっと残していってほしいと部外者ながら思った。
    これが書かれたのが1960年なので無理もないのかもしれないが、パグウォッシュ会議に対する思いなどが書かれているわけでもなく、特に感銘を受けるような本ではなかった。

    湯川先生は太宰治あたりと同時代の人である。作家の小説や自伝以外でこの時代のことを書いたものを初めて読んだので、社会風俗の雰囲気が分かり、それなりに興味深く読んだ。

  • お父さんやお母さん、二人のお姉さんと1人のお兄さんと1人の弟さん。家庭環境や関わってくれた先生や友人など、大切に覚えていらっしゃって、がいこへ行かれたときも、ちゃあんと、会いたい方には会いに行かれて、(存命である限り)ちゃんと生きるってこういうことかなぁと素敵な人柄が存分に味わえました。ありがたい随筆でした。

  • 伝記物をほとんど読んだことがないと思い、関心のあった湯川秀樹氏の著書を読んでみました。物理学者にして文章が普通におもしろく、最後までとても楽しんで読めました。アインシュタインや朝永氏について、近い距離感から書かれているあたりは、少年マンガの激アツ展開のようで、熱くなりました。他の著者が書くと強いエピソードだけで盛った話になりそうですが、自伝だと等身大の視点で好感が持てます。同じ人の話を、自伝と他伝(?)で読み比べてみるのもおもしろそうです。

  • 湯川秀樹博士の自伝です。
    中間子論の発見の物語を期待して読むと肩透かしを食らいます。最後の10ページくらいにならないと出てこない。
    どちらかというと教科書に出てくる偉人が、幼少期からノーベル賞級の発見に至るまで、どんな人生を送っていたのか、どんな性格で、どんな人との関わりがあって、時代の空気はどんなものだったのか、その薫りを楽しむ本です。
    「学問を尊重する気持が国民の間にあるのなら、学者はなるべく研究室に置いて、ことさら繁雑な世界に引き出さないようにしてほしいと思う」という、現在と同じような感覚を持っていたのだと思う。

    ”「ずいぶんまわり道をしたものだ」というのは、目的地を見つけた後の話である。後になって、真っすぐな道を見つけることはそんなに困難ではない。まわり道をしながら、そしてまた道を切り開きながら、とにかく目的地までたどり着くことが困難なのである。 ”
    もうちょっと頑張ろう!と思えました。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99343221

  • おそらく本人が気づいていないだけであって、周りには小さい時からすごい人だと思われていたんだろう。京都がより身近に感じられるようになった。

  • 幼少期の思い出から研究での悩みまでが綴られており、内容が戦前から数十年前の事柄なのに理解しがたい点が無いくらい明解な文で読むのに快適な本だった

  • 物理学は避けてきた学問で、湯川秀樹教授が日本人初のノーベル賞受賞者であることと、この本の紹介文を読んでそういえばそうだったな、と思い出した。
    たまたまこの本を薦めているブログを読んで、夏休みで時間があることもあり手に取ってみた。

    学生時代に湯川教授が出会った「あの先生はな、自分の講義中にやった証明の通りにやらないと零点なんだ」という先生、私の学生時代にもいたなと思った。
    湯川教授はこのエピソードを受けて数学の道には進まなくなったとのことで、こういうささいなことで、人生は変わるんだなよあと感じた。

    自分も、今まで出会った人に少なからず影響を受けて生きている。全ては糧になる、と思って日々過ごしたい。

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著者プロフィール

理学博士。専門は理論物理学。京都大学名誉教授、大阪大学名誉教授。
1907年に地質学者小川琢治の三男として東京生まれ、その後、1歳で転居した京都市で育つ。23年に京都の第三高等学校理科甲類(16歳)、26年に京都帝国大学理学部物理学科に入学する。33年からは大阪帝国大学講師を兼任し、1934年に大阪帝国大学理学部専任講師となる(27歳)。同年に「素粒子の相互作用についてⅠ」(中間子論)を発表。日本数学物理学会の欧文誌に投稿し掲載されている。36年に同助教授となり39年までの教育と研究のなかで38年に「素粒子の相互作用についてⅠ」を主論文として大阪帝国大学より理学博士の学位を取得する(31歳)。1939年から京都帝国大学理学部教授となり、43年に文化勲章を受章。49年からコロンビア大学客員教授となりニューヨークに移る(42歳)。同1949年に、34年発表の業績「中間子論」により、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。1953年京都大学基礎物理学研究所が設立され、所長となる(46歳)。1981年(74歳)没。『旅人―ある物理学者の回想』、『創造への飛躍』『物理講義』など著書多数。

「2021年 『湯川秀樹 量子力学序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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