天災と日本人 寺田寅彦随筆選 (角川ソフィア文庫)

著者 :
制作 : 山折 哲雄 
  • 角川学芸出版
3.79
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本棚登録 : 147
レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044094393

作品紹介・あらすじ

長い時を経て日本列島に築かれた文明の本質を、自然科学と人文学の両面から明らかにした寺田寅彦。その鋭い考察は、地震列島に生きる私たちへ、今なお新鮮な衝撃を与え続けている。日本固有の自然風土と科学技術のあり方を問う「日本人の自然観」、災害に対する備えの大切さを説く「天災と国防」、科学を政治の血肉にしなければ日本の発展はないと訴える「政治と科学」ほか、日本人への深い提言が詰まった傑作選。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災直後(2011年7月)に編まれた、寺田寅彦随筆選である。編者の意図を超え、コロナ禍の現代に読むと、そのあまりにもいまの我々のために言ってるかのような言葉に溢れていて、びっくりした。

    その幾つかを、以下に羅列する。

    「天災と国防」(昭和9年)
    ・文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増す
    ・日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。

    「流言蜚語」(大正13年)
    ・(大地震の最中毒薬を暴徒が井戸に投じたという噂に関して)いわゆる科学的常識というものからくる漠然とした概念的の推算をしてみただけでも、それが如何に多大な分量を要するだろうかという想像ぐらいはつくだろうと思われる。
    ・もちろん常識の判断はあてにならない事が多い。科学的常識はなおさらである。しかし適当な科学的常識は、事に臨んで吾々に「科学的な省察の機会と余裕」を与える。そういう省察の行われるところにはいわゆる流言蜚語のごときものは著しくその熱度と伝播能力を弱められなければならない。

    「政治と科学」(昭和10年)
    ・他国では科学がとうの昔に政治の肉となり血となって活動しているのに、日本では科学が温室の蘭か何ぞのように珍重されている。

    「日本の自然観」(昭和10年)
    ・現代の日本では、ただ天恵の享楽にのみ夢中になって天災の回避のほうを全然忘れているように見えるのはまことに惜しむべきことと思われる。

  • 地震の研究もしていたし、文筆家としても名高い寺田寅彦の随筆から、地震をはじめとした天災に関したものを編纂した一冊。もちろん3・11を受けてのものだ。関東大震災時の日記から昭和10年くらいまでの折々の天災(主に地震と台風)に関して書かれたものが収録されている。少なくとも70年くらい前に書かれたものだが、昔から人が住んできた地区は大丈夫なのに新造成地ばかりが地震の被害に遭っているとか、地震のない西欧の建築をそのまま真似しているとか、天災のパニックからか尋常に考えればありえないデマ・風評を信じる人がいるとか、いま読んでも十分に納得できる。ただし、ということは、私たちはまた同じ轍を踏んだということでもあろう。
    一方で、日本人は日本人なりに、天災とそれなりにうまくつき合ってきたとも述べている。あえて簡素で壊れやすいつくりの家屋文化や、天災に対するあきらめのよさなど。自然を征服するものでなく、謙虚につき合っていくことの大切さも説いている。
    70年前から本書に述べられているような考えがあったというのに、3・11で同じ轍を踏んだというのは、一方では学習能力のなさ、備える意識の欠如であるとともに、もう一方では、このような被害は茶飯事と考える日本人なりの連綿と続いてきた天災との仲と考えてもいいのかもしれない。

  • 文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈度を増す

  • 深刻さはないが、戦争だけでなく、災害にも備えよ、との繰り返しの呼びかけは正鵠を得ている。「愛国心も大和魂も進化すべき」なんてにくい表現である。

    科学的思考で、流言飛語を却下するエッセイも素晴らしい。自分で考え、判断できるようになることが大切だ。

    文明が進むと被害が大きくなることや事故の責任の取り方、地を相する術についての指摘も鋭い。

  •  今般の東日本大震災を機に、改めて災害に対する備えとそもそも災害も含めた自然観を振り返る意味で手にとった本です。
     著者は物理学者であり随筆の達人寺田寅彦氏。日本列島の地勢の特殊性を踏まえ、自然科学を礎としつつも日本人論にも踏み込んだそれぞれの作品は、今読んでもなお大変示唆に富む興味深いものです。
     特に、「天災と国防」「津波と人間」「颱風雑俎」「災難雑考」等の小文で述べられている寺田氏の主張は、まさに東日本大震災の被害を目の当たりにした現代、この瞬間になおさらに活きる箴言だと思います。

  • 明治に生まれ、大正関東大震災を経験し、昭和初期まで活躍した物理学者で、漱石の門人であることで有名な著者。関東大震災が発生した際、建物の構造を冷静に分析して余裕を見せる姿や、外国人が井戸に毒物を入れる、爆弾を炸裂させるというデマに対し、科学知識があれば惑わされないのに……という知見は流石であった。火山活動を含む地震や、台風を筆頭にする風水害と日本人というテーマでの各随筆を、非常に興味深く読ませてもらった。和辻哲郎の『風土』も読んでみたい。

  • 寺田寅彦の自然災害に関する随筆を集めたもの。寺田の随筆が読み応えがあるのはもちろんとして、わたし、山折哲雄さんの著作にも親しんでいて、随筆の選択、はじめに、と解説も、読み応えがありました。
    読み継がれていくべき一冊です。

  • サイエンス
    文学
    東日本大震災

  • 寺田寅彦の随筆から災害に関するものを集めたものです。
    災害が起きたときの著者の素直な感想等が感じられる本です。

    随筆とかあまり読まないので、とても読みにくく読むのに苦労しました。
    まあ、要は日記ですから、構成が明確でなく、何が言いたいのかよくわからない文章も多いのは仕方ないのでしょう。
    読みやすい文章ばかり読んでいる弊害もあるのでしょう。

    値段の割に、ちょっとページ数が少ない上、裁断状態が悪いとかちょっといただけないですけどね。

  •  津波に懲りて、はじめは高いところだけに住居を移していても、5年たち、10年たち、15年20年とたつ間には、やはりいつともなく低いところを求めて人口は移って行くであろう。そうして運命の1万数千日の終わりの日が忍びやかに近づくのである。鉄砲の音に驚いて立った海猫が、いつの間にかまた寄って来るのと本質的の区別はないのである(p.25)

     理科教育が妙な型にはいって分かりやすいことをわざわざ分かりにくく、面白いことをわざわざ鹿爪らしく教えているのではないかという気がする。子供に固有な鋭い直感の力を利用しないで頭の悪い大人に適合するような教案ばかりを練り過ぎるのではないかと思われる節もある。これについては教育者の深い反省を促したいと思っている次第である。(p.81)

     雨のふり方だけでも実に色々様々な降り方があって、それを区別する名称がそれに応じて分化している点でも日本はおそらく世界中随一ではないかと思う。試みに「春雨」「五月雨」「しぐれ」の適切な訳語を外国語に求めるとしたら相応な困惑を経験するであろうと思われる。「花曇り」「霞」「稲妻」などでも、それと寸分違わぬ現象が日本以外のいずれの国に見られるかも疑問である。たとえばドイツの「ウェッターロイヒテン」は稲妻と物理的にはほとんど同じ現象であってもそれはけっして稲田の闇を走らない。あらゆる付帯的条件がちがいしたがって人間の感受性に対するその作用は全然別物ではないかと思われるのである。(pp.109-110)

     昔の日本人が集落を作り架構を施すにはまず地を相することを知っていた。西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、したがって伝来の相地の学を蔑視して建てるべからざるところに人工を建設した。そうして克服しえたつもりの自然の厳父の揮った鞭のひと打ちで、その建設物が実に意気地もなく壊滅する、それを眼前に見ながら自己の錯誤を悟らないでいる、といったような場合が近ごろ頻繁に起こるように思われる。昭和9年10年の風水害史だけでもこれを実証して余りがある。(p.124)

     まったく予測し難い自信颱風に鞭打たれ続けている日本人はそれら現象の原因を探求するよりも、それらの災害いを軽減し回避する具体的方策の研究にその知恵を傾けたもののようにも思われる。おそらく日本の自然は西洋流の分析的科学の生まれるためにはあまりにも多彩であまりに無常であったかもしれないのである。(p.136)

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著者プロフィール

1878–1935
東京に生まれ、高知県にて育つ。
東京帝国大学物理学科卒業。同大学教授を務め、理化学研究所の研究員としても活躍する。
「どんぐり」に登場する夏子と1897年に結婚。
物理学の研究者でありながら、随筆や俳句に秀でた文学者でもあり、「枯れ菊の影」「ラジオ雑感」など多くの名筆を残している。

「2021年 『どんぐり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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