戦略拠点32098楽園 (角川スニーカー文庫 153-1)
- KADOKAWA (2001年11月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044267018
作品紹介・あらすじ
青く深く広がる空に、輝く白い雲。波打つ緑の草原。大地に突き立つ幾多の廃宇宙戦艦。-千年におよぶ星間戦争のさなか、敵が必死になって守る謎の惑星に、ひとり降下したヴァロアは、そこで、敵のロボット兵ガダルバと少女マリアに出会った。いつしか調査に倦み、二人と暮らす牧歌的な生活に慣れた頃、彼はその星と少女に秘められた恐ろしい真実に気づいた!新鋭が描く胸打つSFロマン。第6回スニーカー大賞金賞受賞作品。
感想・レビュー・書評
-
長谷敏司のデビュー作。
彼の作品は『ビートレス』を以前読んだことがあるのだが、2段組600ページという長さと、硬くて回りくどい文章が合わなくて途中で挫折してしまった。
本作はデビュー作ではあるが、『ビートレス』よりもレベルが落ちることもなく、むしろ硬さがなくて私にはこちらの方が読みやすい。
また、ライトノベルレーベルではあるが、今の感覚からすると「これがラノベ?」と疑いたくなってしまうような作りこみの世界観と登場人物の動きを見せてくれる。
やはり一昔前の「ライトノベル」と、最近の萌えや奇抜さに走った「ラノベ」は全く別物だと感じる。
物語の前半部分は、敵軍が守る謎の惑星に降下した兵士ヴァロワと、その星に住む少女マリアと敵軍兵士のガダルバとともに暮らす日々が描かれる。
食料を探しに出かけたり、みんなで大きなお風呂を作って入ったり。
マリアがとにかく感情豊かでかわいい。
しかし、その生活の中でいくつかの疑問が出てくる。
この星は何のためにあるのか?
マリアはどうしてここにいるのか?
後半では優しくて残酷な真実が明らかになる。
その一方で、ヴァロワは自軍に戻るか惑星に残るかの選択を迫られる。
兵士としての自分と人間としての自分、それにマリアへの愛情だとか、感情が複雑に入り混じってヴァロワの行動を鈍らせる。
ラストは少し寂しさが残るものの、きっと多くの人が納得できる結末だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
SFだけど人間を描いている。
-
時間は流れている。「いつでもできるように思えること」をする機会は、本当は今しかないのだ。
(P.174) -
厚みのある本ではないが、内容は申し分なかった。
少女と兵士と言う、SFでは特別ではない設定ではあるが、背景が良く練られている。
心に"ずん"と響きました。 -
初読はまだ学生の頃
あの頃はただただ衝撃を受けていたという覚えがありますが、いま読み直してみるといろいろと考えてしまいます
お風呂とそこから続く不安な雰囲気が印象に残っています -
何もない大地、青い空、突き刺ささる巨大戦艦、白いワンピースの少女と付き従うロボット……いきなり、こういうイメージをまず出してきた時点でかなり勝利であると言える。
少女がたった一人の場合高熱を出したらどうなるのかとか、戦争そのものが世界を維持するための「流動」にすぎないんじゃないか、とかいろいろ思うことはある。
作者の処女作にしては非常にレベルが高い。 -
ライトノベルである。それ故に読み口は軽いがテーマは面白い。
かなりの遠未来、銀河同盟と人類連合がいつ終わるとも判らない消耗戦を続けている(スターウォーズが銀貨英雄伝説かという舞台立てですな(^^ゞ
人類連合の戦略拠点上にある「楽園」と呼ばれる惑星が舞台。四季折々にいろんな花が咲き実を付ける惑星だが、動物は住人であるマリアと人類連合軍の制御官ガダルバしかいない。人類連合が必死で防御するこの星の秘密を探るべく星に降りてきた銀河連盟の降下兵のヴァロワ。登場人物はこの3人のみ。
いったいこの惑星にどのような秘密が隠されているのか。
3人の日々が淡々と進み、最後は切なくなる物語。
デビュー作ということもあり、文章も甘いし設定も如何なものかと言うところもあるものの、バックグランドとなるディテールにもしっかりこだわった作品になっています。
お勧めの一冊。 -
1,000年続く星間戦争に宇宙戦艦に機械化兵と、広大で確かなSF設定を背景にして、メインストーリーはとてもセンチメンタルに進んでいく。ヴァロアが段々と“誤差”に振り回され始める流れがいい。SFの枠には収まらない、しっとりしたラノベだった。
-
主語がコロコロ変わったりと若干読みづらさを感じたものの、出会いと別れまでの話の展開もよく、まさにライトノベルと呼べる作品でした。
-
楽園に落ちた二人の機械化兵士と少女の物語。
SF要素はあくまでバックボーン的な扱いに回しつつ、遠未来の高度システムに取り込まれた兵士達の、漂白された人間性の再獲得に語りの焦点が合わされる。
限りなくピュアに設えられた楽園世界の中、三人の登場人物達の逡巡する内面が感傷たっぷりに描かれている。