クドリャフカの順番 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044271039

作品紹介・あらすじ

待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲-。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!!盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに…。大人気"古典部"シリーズ第3弾。

感想・レビュー・書評

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  • 古典部シリーズ第3弾。本作でついに伝統の文化祭・神高カンヤ祭を迎え、古典部は制作文集「氷菓」の販売にあたって、当初30冊販売予定が発注ミスで200冊となり、どうにか完売を目指し奔走するメンバー。

    その文化祭で、事件が起きると言うドタバタ青春ミステリー。

    文集を必死に売ろうとする中で、文化祭で発生した連続盗難事件も相まってもはやドタバタ文化祭。これが私自身の高校時代の文化祭を思い出したりしてニンマリ。


    だがしかし、だがしかしだ。

    市川憂人著者作品【ジェリーフィッシュは凍らない】のレビューでも綴った、ミステリーの女王・アガサクリスティの作品が、またしてもモチーフにされており、作中でも事件が模倣されている旨が明記されている。

    彼女の作品を未だ未読の私からすれば「勿論知ってるよね」のテイで読まされている気がして、途中から冷めてしまった。いや、もとい、拗ねてしまったため、ラストの種明かしパートを流し読みにて読了となった。


    だがしかし、だがしかしだ。

    前の2作は、主人公目線の独白形式で展開していたのだが、本作は初めて古典部メンバー4人の視点が交差しつつ展開していくところは、連読してきた私としては非常に楽しめた。

    それぞれが持つ悩みや、抱くコンプレックス、妬みや羨望。それでも最後は諦めずに自分の役割を果たしていく姿は微笑ましく、総じて本作品は読み応えがあって良かった。

    登場人物に血肉が通う姿を感じられることが、私の読書の楽しみなのだから。

    著者の積読書はまだある。
    また読みたくなった頃合いで会いたいと思う。

  •  洋題の「Welcome to KANYA FESTA!」を見ても分かるように、過去の古典部シリーズ二作で何度も話題に上り期待を募らせてきた、あの『第四十二回神山高校文化祭』を、古典部メンバー四人のそれぞれの視点で楽しみながら、その開催中に奇妙な事件も発生するという、何とも贅沢な物語となった。

     また、物語が贅沢な内容にも関わらず、更に驚かされたのが、その完成度の高さであり、読み終えて思わず唸ってしまう感覚というか、これはちょっと良いもの読んだなと思わせるには充分過ぎるものがあって、文化祭ならではの高揚感で全体を包みながらも、その内側から少しずつ露わになってくるのは、事件と共に皆が密かに隠し持っていた、青春という限られた時間だからこそ抱いてしまうような悲しき繊細な思いであった点に、単純なハッピーエンドではないけれども、だからこそ心を打たれるものがあった、そんな顔で笑って心で泣く、哀愁感漂わせた笑顔のような心境は、物語の中の少し肌寒く感じられてきた風とも呼応しているかのようで、そこにはまさに、昔からよく取り上げられるテーマの一つでもある『青春の光と影』を米澤穂信さん流に描いていたのだと私は思い、それを高校生にとって、最も情熱を傾ける人もいるであろう文化祭の場面で描くことによって、より際立ち強調され、沁みるものがあったのである。

     そして、そのような知られざる思いを酌み取れた事には、今回の古典部メンバー全員の視点で描いた構成も大きく、特に、探偵役の「折木奉太郎(ホータロー)」以外の三人の胸の内は、これまでの彼らの描写が、ホータローの主観によるものが多かっただけに、意外性があって印象深く、それは、彼の親友である「福部里志」の微妙な男心も含めた複雑な思いであったり、古典部部長「千反田える」の本心ではやりたくない事をやった事により、はっきりと実感できたことや、自分にも他人にも厳しい印象のある「伊原摩耶花」にしても、その表の顔だけではない、裏の顔に滲ませたのは高校生らしい、自分の世界を貶された時の確固とした譲れない思いであり、彼女は決して『人は人、自分は自分』とは割り切れず、誰もが望む理想郷は必ずあるのだと強く信じている、そうした純粋さは、時に大人びた部分と子どもの部分とが危ういバランスで成り立っているような、高校生の繊細さと直結しているようでもあった、その内容の違いこそあれどテーマ性として、見事に殆どの登場人物とリンクさせている点に、この物語で訴えたかったものに対する深刻さがあった(だからこそ邦題を洋題のそれにはしなかったのだろうけど)。

     そこには、これから先、何十年も長い人生がまだまだ待っているからではなくて、「今、この時しかない」、「今やらずして、いつやるんだ」といった、刹那的な思いに対する切なさが胸を打ち、それは物語に何度も登場する、ある言葉をきっかけとして広がっていく、様々な思いを読む事でも感じられた、時に残酷すぎる、彼らの世界の一つの現実の姿であり、今の私からしたら、もっと大きな視点で自分自身も含めて、様々な可能性を信じようよと言いたくなるけれども、そんな達観した見方ができるくらいなら、きっと青春なんて大した印象の残らない味気ないものになるであろうことも分かるからこそ、これはこれで良いのだと思ったし、却って、こうした思いを抱いたからこそ、大人になってから好転する可能性だってあるのだと思う。

     そして、こうした物語と事件とが、また見事なまでに繋がった構成には、プロットの段階から練りに練って組み上げたと思わせながらも、実に自然な感じを抱かせてくれるのが素晴らしい上に、今回は事件自体の内容にグイグイと引っ張られる求心力があって、その動機や謎に、言葉通りのそこかしこに含ませた巧みな伏線、全てが物語を盛り上げる要素としても面白く、肝心の謎解きも論理的でありながら分かり易い上に、あっと驚かされるスッキリ感も具わるといった、ここ最近読んだミステリでは久しぶりに、「ああー!!」と叫びたくなった、その考え方の凄さが理解できるからこそ嬉しい悲鳴を上げられるような謎の凄さは、殺人事件でなくても作ることができるのだなと感じられた、緻密でありながらも面白い日常の謎解きの一つの極みと思われた、それは更に物語最初の課題でもある、『誤って二百部作ってしまった文集を、何とかして売らなければならない』とも繋がっているのだから、何とも心憎いばかりだ。


     それから、本書の良いところはこれだけではなく、特にこれまで読んできたファンにとっては、古典部メンバーそれぞれの視点で改めて知ることのできた、それぞれがそれぞれに想う気持ちに感動し、書くときりが無いのだが、まずは里志の『好きとか面白いとか楽しいとかは、結構ナイーブな部分だと僕は思っている』には、思い切り共感できた上に、摩耶花が彼のことを好きなのも肯けるものがあり、それは彼の『コシュートみたい』が、結果として彼女の心の大事な部分を守ってくれたことからも明らかだと思う。

     次に、里志のホータローに抱く気持ちであり、何となくワトスンがホームズに抱く感傷的なものを覗かせながら、彼の場合、誰に対しても穏やかな笑顔を見せながら、実は自分の事をとても大切にしていることが、今回よく分かり、ホータローはよく、実際は肝の据わった男と言うけれども、決してそれだけでは無いことを、もっと知った方がいいよとも感じつつ、『聞かれても恥ずかしくないから大きな声で言える』というのは、逆に捉えると・・・って思うと、切ないものがあって、改めて里志も高校生なんだなと実感できた。

     最後は、千反田えるであり、彼女だけが見ることのできるホータローの真摯な一面に、改めて、見てくれている人はちゃんといるのだということを感じられた、これらの古典部メンバーの関係性には、お互いがお互いに無いものをカバーしつつ、彼らなりの青春を共に謳歌している様子に、何とも爽やかで微笑ましいものを感じながら、今回は彼女特有の決め台詞の逆バージョン『わたし、気になりません』も収録された、豪華版である。

     更に、わらしべプロトコルのからくりや、摩耶花の漫画研究会ならではの渋い服装に、クリスティのあの作品や、綱渡り的な運とポーカーフェイスも必要な人間味のある探偵像に、クイズ大会と料理コンテストも楽しめると、もうどれだけ詰め込んだら気が済むのと言わんばかりの、米澤さんのサービス精神にはもうお腹いっぱいといった、まさに文化祭のような楽しさと、その後に待つ切なさを体感できた、これまでの古典部シリーズの集大成と思わせる作品であった。


     それでも潜まれていた、解けない謎の存在する面白さ。そんなシリーズ最大の謎は、実はホータローのお姉さんなのかもしれない。

    • 土瓶さん
      こんなレビュー読んだら、本で読みたくなっちゃうな~。
      たぶんアニメでしか観てないから。
      こんなレビュー読んだら、本で読みたくなっちゃうな~。
      たぶんアニメでしか観てないから。
      2024/07/31
    • たださん
      コメントありがとうございます(^^)

      どうも私にはこのシリーズと相性が良いみたいで、読んでいてとても楽しく、ついあれこれと書きたくなってし...
      コメントありがとうございます(^^)

      どうも私にはこのシリーズと相性が良いみたいで、読んでいてとても楽しく、ついあれこれと書きたくなってしまったのですが、それに読みたいと思って下さったようで嬉しいです。ありがとうございます!

      これまでのシリーズ三作が、文化祭繋がりのひとまとまりのようなので、新展開にあたる四作目も楽しみです。
      2024/07/31
  • 神山高校文化祭。
    我が「古典部」では、発注した部数より七倍も多い文集を抱え、頭を悩ませている。
    山のように積まれた二百部もの文集「氷菓」をいったいどうやって売りさばくのだろうか。

    「氷菓」のPRをするために福部が参加したクイズ研のイベントや、千反田と伊原を加えて三人一組で挑んだお料理対決は、ハラハラドキドキで大盛況でした。

    そして、店番と称してひとり平和に過ごしていた奉太郎は、学内で起きた奇妙な盗難事件を解決する羽目になってしまうのですが、実際に登場はしないけれど、奉太郎の姉貴が絡んでくるところなど、前作の『氷菓』の雰囲気を思い出してしまいます。

    どことなく哀愁漂う<古典部>シリーズだけど、今回は4人の視点で交互に読めて、とても楽しかったです。

  • 文化祭の雰囲気出てました。懐かしいですね。平和な駆け引きはするべきです。→遠まわりする雛へ

  • 古典部シリーズ第3弾。文化祭の出来事が古典部4人の視点で描かれるため、心情が直で伝わる。面白かった。十文字の犯人は絶対あの人と思ってたのに、わからなかった。圧倒的な才能を持っていてもそれに興味がなければ始まらないし、それを欲している周りが知っていればどれほどの挫折や嫉妬につながるものだろうか。

  • 古典部シリーズ第三弾。
    奉太郎以外のキャラが、前ニ作よりもそれぞれの個性を活かし、奮闘しているのが良かった。
    奉太郎も省エネを掲げている割には、なんだかんだ青春している所が微笑ましい。

  • 氷菓、愚者のエンドロールから続けての本作。
    個人的には愚者のエンドロールが1番好きではあるもののやっぱりこのシリーズは面白い。
    出てくるキャラクター全員が好きになれるというのが嬉しい。
    米澤穂信さんの小説はできる限り読み尽くしたいとあらためて思った。

  • 古典部シリーズ第3作目。
    舞台となる神山高校の文化祭で物が次々と盗まれる事件が発生。今度も奉太郎が大活躍?というか陰で暗躍していた。省エネの立場は変わらずに、でも回を追うごとに才能を開花させていくのがすばらしい。友達の里志が今回は自分が謎を解いてやると頑張りながら途中で手に負えないと断念し、奉太郎に希望を抱くというシーンが印象的だった。
    というか、古典部は皆すごいけどね。

  • 『米澤穂信と古典部』を再読したら懐かしくなり読み返した。4人の視点で文化祭で起きる謎を追う、読み始めたら止まらない感がやっぱり楽しい。奉太郎が行動的だったのと里志が鬱屈感あるのが意外だった。

  •  青春だった。文化祭の楽しさもそう。登場する高校生たちがそれぞれ抱えるモヤモヤもそう。櫻田智也さんのミステリー小説が、「ミステリーであることを忘れて読みふけってしまう」という感覚で好きなのだが、「謎解きパズルや探偵のかっこよさではないところの魅力に引っ張られて読んでしまう」という意味では、ちょっとそれに似た読み心地を提供してくれるシリーズだな……と私の中では整理されつつある。
     念の為、ミステリー部分に魅力がないという意味ではない。でも論じる言葉も持っていないので多くは語れないけれど、『ABC殺人事件』は読んでおこう。クリスティ宿題がたまっていく。ホータローが安楽椅子探偵的なことでもやりそうなフリに見えて、そんな安易な展開ではないところも良かった。
     摩耶花と里志、ホータローと千反田える、四人それぞれの個性も四人同士の関係も今作でさらに深く描かれ、ますますみんなを好きになった。強いて選ぶなら、個人的には千反田さんの気付きがいちばんハッとさせられたかも。入須先輩もレギュラー続行で嬉しい。
     「わたし、気になりません」など、単純に笑える筆致の軽さも小気味よい。

    • たださん
      akikobbさん、こんばんは♪

      遅くなってすみません。
      仕事が忙しかったもので(^_^;)

      事件をちゃんと解決する一つの流れもありなが...
      akikobbさん、こんばんは♪

      遅くなってすみません。
      仕事が忙しかったもので(^_^;)

      事件をちゃんと解決する一つの流れもありながら、古典部に於ける目標や、文化祭の楽しさや切なさもきっちりと纏め上げているところに、今作は私の中で古典部シリーズの一つの到達点とも思えて、最後のホータローのやり取りにも胸が熱くなりましたし、千反田、里志、摩耶花もそれぞれにそれぞれらしさを見せてくれて、お腹いっぱいの大満足といった読後感でした。
      2024/09/06
    • akikobbさん
      たださん、こんばんは。
      お仕事お疲れ様です。謝らないでください〜、でもコメントいただけて嬉しいです♪

      「お腹いっぱい大満足」ですよね!
      私...
      たださん、こんばんは。
      お仕事お疲れ様です。謝らないでください〜、でもコメントいただけて嬉しいです♪

      「お腹いっぱい大満足」ですよね!
      私は長いレビューを書く気力が今はなかったので触れていないことばかりですが、たださんの充実したレビューには私の思ったこともたくさん書かれていたので「そうそう!」と頷きながら読ませてもらって勝手に満足してました^^; ありがとうございます!
      あれもこれもと語りたくなる要素たくさん、決して分厚い本というわけでもないのに、よくこれだけ盛り込めるものだ…と思います。
      2024/09/06
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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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