推定少女 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044281038

作品紹介・あらすじ

とある事情から逃亡者となった"ぼく"こと巣篭カナは、逃げ込んだダストシュートの中で全裸の美少女・白雪を発見する。黒く大きな銃を持ち、記憶喪失を自称する白雪と、疑いつつも彼女に惹かれるカナ。2人は街を抜け出し、東京・秋葉原を目指すが…直木賞作家のブレイク前夜に書かれた、清冽でファニーな成長小説。幻の未公開エンディング2本を同時収録。

感想・レビュー・書評

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  • 桜庭一樹の小説は
    闘う者たちのバイブルだ。

    ページをめくるたびに聞こえてくる
    反逆のメロディー。

    理不尽な大人たちからの制圧に
    反旗を翻す
    少女たちの咆哮。

    新しい何かを始める時、
    諦めの鎖を断ち切りたい時、
    自分を奮い立たせたい時、
    僕は桜庭さんの小説を欲し
    弱虫な心に楔を入れるかのように言葉を刻みつけ、
    『抗う意志』と
    『ドン・キホーテの精神』(到底適わない相手であっても、一矢を報いようとする気概)を手に入れる。

    危険な街のことを
    『ほんとの夜を持った街』と表現したり、
    行間から立ち上っては香る
    『夜の匂い』だったり、
    10代の頃のあのどうしようもない焦燥感だったり、
    色白で儚げな美少女と黒光りする無骨な銃の
    絶妙なコントラストだったり、
    桜庭さんが紡ぎ出す切ない物語や血まみれの世界観は
    どれも僕の琴線に触れて
    いつまでも心を揺さぶり続ける。


    思春期特有の未来への不安。
    人生という戦場から流れ込んでくる
    見えない硝煙の匂いに
    恐怖し押し潰されそうになる
    15才の少女、巣籠カナ(すごもり・かな)。

    恋もまだ知らず
    ユニセックスで少年のような体型のカナだけど
    ガラス細工でできた少女人形のように
    本当は繊細で壊れやすい心を持っている。

    物語はひょんなことから
    義父に怪我を負わしてしまい
    警察に追われる身となったカナが
    銃を持ち記憶を無くした
    全裸の美少女・白雪(しらゆき)と出会い、
    夜の街、東京を舞台にした逃避行劇が描かれていく。

    行きたい場所などなく、
    ただただ此処ではない何処かへ
    逃げるためだけの絶望的な逃避行。

    だけどこの作品のスゴいところは
    カナたち少女の絶望的状況を
    生き生きとしたキャラ設定のおかげで
    あくまでも軽やかに
    ユーモラスに描いていること。

    ゲーマーで電脳戦士のオタクなお兄ちゃんや
    ガンマニアの火器戦士・千晴との
    友情や絆を絡ませながら
    旅を続ける中で苦悩し成長していく少女たちが本当に眩しいし、
    ハードボイルド小説としても見事であり
    良質な青春小説とも呼べる作品となっている。

    それにしても何故大人は
    かつて自分が子供だったということを、
    いとも簡単に忘れてしまうのだろう。

    どんなにあがき一矢を報いたいと願っても
    まごうことなく15才の現実は
    圧倒的に無力であり、
    ほろ苦い結末をもって激しく胸に迫ってくる。

    初期の桜庭作品に顕著なラノベ的世界観は
    読む人を選ぶだろうけど、
    大人たちに心を殺され
    無力感に夜空を見上げたことのあるすべての子供に、
    またはそんな子供だった大人には
    強烈な余韻と共に
    間違いなく心を射抜く稀有な作品だと思う。

    なお、この作品は
    桜庭さんが当初構想していたがボツになったバッドエンド版と、
    ファミ通文庫で実際に発表されたハッピーエンド版と、
    ハッピーエンド版をさらに改良したファイナルカット版と、
    ゲームさながら
    異なった三つのエンディングが収録されていて、
    より深くその世界観を味わえます。

  • 衝撃的な小説だった。
    大人と子供って何だろう。

    すっかり忘れていたあの頃のことを思い出した。
    私にも確かに十五歳のころがあった。

    何が辛いのか何が嫌なのか全然分からなかったけど、
    いつだって漠然と不安で辛くてしんどくて死にたくて苦しかった。
    大人になんかなりたくないし、そもそも大人になれるような立派な人間じゃないし、
    だからと言って努力はしたくないし、
    だけど戦死したくはなかった。

    どうしたらいいか分からなかったし、何がしたいか、何になりたいかも分からなかった。
    世の中のほとんどのことは嫌いで、
    お菓子だけ美味しくて、
    バンドの追っかけだけが楽しかった。



    「いまこんなに苦しいこと、あとほんの何年かして大人になったら、忘れちゃうのかな?
    それで、いいわねぇあれぐらいの年の子、悩みなんてなくて、なんて平気で言えるようになっちゃうのかなぁ?」(p132)



    私はまだまだ子供のままだと毎日思っていたけど
    よく考えれば十五歳のころからもう十年弱も経っていた。
    私はなんとなくうまくやってきて、うまくいろんなことをやりすごして生き抜いて、
    年齢だけは大人になった。
    そして果たせもしない責任ばかりを押し付けられて、はっきりとした現実のいろいろな事に苦しめられている。
    仕事がどうとか、生活がどうとか、お金がどうとか。
    何が嫌なのか、自分が何をするべきなのか、はっきり分かってる。
    だけど自分の力不足とか気力不足とかその他色々な理由で問題に打ち克つことができなくて、毎日しんどいしんどいと溜息をついている。

    ため息をつきながら、毎朝バスで見かける中高生に対して、
    ああ、学生は気楽でいいわね、なんて思ってしまっていた、のだ。

    私の思春期は知らないうちに終わっていて、私は知らないうちに大人になってしまっていたみたいだ。



    でも、十五歳のわたしは確かにあのときあの場所にいた。

    私は証、をどこか遠くに置き忘れてきたかもしれないし、
    最初からそんなもの私にはなかったかもしれないし、
    そもそもわたしは冒険なんてしなかったかもしれないけれど、
    十五歳のわたしのことを、久しぶりに思い出してあげることができた。



    何度でも言うけど、桜庭一樹?ラノベ作家でしょ?なんて言っててごめんなさい。

  • この本を初めて読んだのは中学3年生の頃でした。当時は主人公の巣籠カナと同じ学年だと思いながら、カナが言っていることや思っていることに共感したり、そういう考え方もわかる、といった雑駁な印象を抱いていました。
    けれど世間知らずな私は、カナが見ている繁華街や東京の景色がイメージできず、漠然とした読み味だったのを覚えています。
    大人になってから久しぶりに読み直してみましたが、むしろ大人になってからのほうがグサグサに刺さる小説だったことを思い知らされました。
    かつて中学3年生だった私がどんなことに毎日悩み、苛々したり、将来に迷って苦しんでいたか、私はすっかり忘れてしまっていました。
    白雪が渡してくれたドールと「いまの巣籠カナを大事にしてよね」というセリフは、まるでそれを初めて読んだ私より、その先の未来にいる私に向けて言っているかのような気がして、とても印象に残りました。
    当時の自分を忘れないように、この本を大事にしたいと思います。

  • とらえどころのない話だなあと思って読み進めた。
    男なのか女なのか、宇宙人なのか、異常者なのか、主要登場人物たちのキャラクターをつかめないまま話が進んでいく。
    挙げ句、結末すら曖昧というか読者に解釈を任せるような感じだ。
    と思ったが、なるほど、このとらえどころのなさは、登場人物たちの思春期の不安定さ、危うさ、自我のゆらぎ、そういったモヤモヤそのものなのだと捉えると、少しスッキリした。
    あっと驚くどんでん返しを期待したり、伏線回収を期待したり、大団円を期待したり、そういう小説の読み方は「大人」なのであって、そういうカッチリした流れのストーリーを期待してしまう読者はこの小説に登場する大人そのものなのだ。
    思春期の雑多な妄想を思い出させるようなお話でした。

  • 思春期が終わったって戦場は終わりはしないのだ。
    戦って戦って戦って死ねって大人たちは怒鳴るけど、生きてるだけでせいいっぱいなのに、ひとかどの人物になったり誰かを愛したり子供を産んだり社会の役に立つなんてそんなの無理無理、頑張れない。
    みんな、忘れちゃってるのかなあ……

  • うーむ、ハマる!!
    一回読み始めたら止まんないって感じ。
    カナの幻はどこからだったんだろう…ってずっと考えてしまう。
    白雪も宇宙に帰ったのかなあとか、本当はいなかったんじゃないのかなあ、とか。
    読み終わった後からも心に残る作品だと思います!!

  • 砂糖菓子に続き、心のもやもやした、自分でも手付かずの部分に触れてくるなこの人の作品。どうしても「自分はどうだっただろう」と振り返って感傷的になってしまうので気力がいる。中・高で読んでいたら、確実に今とはまた違う揺さぶられ方(共感や憧れ)で影響受けまくりだったと思う。
    お話自体はSFやら幻やら先が見えずにダレかけたけど、最後は勢いで引っ張られて面白く読めました。分岐エンドは全部でひとつな印象だけども、[放浪]がインパクトあるしなんか好きだな。そのまま逃げ続ける、怖いけど羨ましい。

  • 主人公の家庭が自分の家庭とよく似ていたので、
    よく気持ちが理解できました。
    話がわかりやすく、スリルもあり、どんどん読み進めることができました。
    違うパターンのエンディングも用意されていておもしろかったです!

  • 大人じゃなく女じゃなく、幼い女の子「少女」を書くのがこの人はじょうずだなと思います。でも後半の展開に驚きを隠せなかったです・・・。

  • ダストボックスで出会った少女が、拳銃を持っていたこと、宇宙人?誘拐された少女?と正体不明なだけでもわくわく。
    ゲームの世界のようなスピード感がたまらなく、どうなるの?早く続きが続きがとページをめくると、エンディングが一つのストーリーなのになのに3パターン。
    作者の想像力にたまげちゃいました。

    • 山本 あやさん
      うわー、なんだか想像を超えちゃう感じで楽しそうーー♡

      桜庭さんの文章ってするっとココロに入りやすくて
      読みやすいし、わくわくするよねーっ。...
      うわー、なんだか想像を超えちゃう感じで楽しそうーー♡

      桜庭さんの文章ってするっとココロに入りやすくて
      読みやすいし、わくわくするよねーっ。
      ワタシも読みたいーー[*Ü*]♡
      2012/09/19
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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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