砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 11657
感想 : 1214
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044281045

作品紹介・あらすじ

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という"実弾"を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日-。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

感想・レビュー・書評

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  • 10年前に父を亡くし、母・兄と3人暮らしの山田なぎさ。
    引きこもっている兄に代わり、早く大人になって自力で生活する力(実弾)を手に入れたい。生活に必要のないことは興味がない。
    そんなドライななぎさの前に、全く正反対の人格をもつ「海野藻屑」が転校生として現れる。

    彼女は自分を人魚の姫だ、といきなりクラス全員の前で宣言する。
    変な奴、嘘つきで、イライラする。
    なのにどうしても放って置けない。
    砂糖菓子の弾丸を撃ち続ける藻屑。
    周囲から浮きまくっている彼女と、なぎさはどんどん親しい関係になっていく。

    そして彼女の嘘の理由を知り、その辛すぎる人生を知る。

    --------------------------------------------

    この本はミステリーではない。

    冒頭に【海野藻屑の死】が提示され、そこに至るまでをただなぞる物語。

    だからやっぱり藻屑は死んでいなかった、とか
    殺したのはあの人ではなかった、みたいな
    読者をあっと驚かせるような仕掛けは何もない。

    それなのに、読み手の心をぎゅっと掴む力強さがある作品。

    なぎさの中学生らしい素直な心
    藻屑のチャーミングさとミステリアスを兼ねたような、それでいて悲劇を匂わせる様子
    そんな彼女たちのお喋りに引き込まれる。
    これってライトノベルってやつ?と軽いノリで楽しめる。


    かと思えば
    急に吐き気を催すような血みどろの場面が、目の前いっぱいに広がる!!

    友情・青春と暴力はいつも隣り合わせにある。
    爽やかさの影にいつも付き纏う、ドロリとした闇。

    そんな印象がページをめくる手を急がせる。

    【生き残った子だけが大人になる】
    そんな言葉が存在すること自体、恐ろしさを覚える。


    そして彼女の死をきっかけに、なにもかも上手く回り出すのが複雑。
    (友彦の滝ゲロのシーン、要る?面白かったけども)

    彼女はどうして死ななければならなかったのか
    どうして助けを求めなかったのか
    そしてうさぎを殺したのは誰だったのか…

    色々な疑問を呑み込んで、物語は終わっていく。


    『こんな人生、ほんとじゃないんだ。
    きっと全部、誰かの嘘なんだ。だから平気』

    こうやって自分に言い聞かせている子供が本当にいるんだろうか。
    きっといるんだ。知らない私が幸せっていう事実。

    絶対に絶対にあってはならないこと。

    救いが欲しかった。
    何か小説らしいトリックが欲しかった。
    せめて物語の中だけでも。

  • 読み終えたあと、
    「だけもなぁ、海野。おまえには生き抜く気、あったのかよ…?」
    という担任の先生の言葉が残り続けました。
    藻屑は生き抜きたいという気持ちが湧かないくらいの残酷な仕打ちを父親から受けてたのかも…

    「ほんとうはね、ほんとの友達を探しにきたの。大事な友達。ぼくのためにすげーがんばってくれる感じの友達。そいつがみつからないと、海の藻屑になっちゃうの」
    この藻屑のセリフも引っかかります。
    藻屑が行方不明になった時、主人公は必死に彼女を探しているので、ほんとの友達を探すという目的は果たされているようですが、「海の藻屑になる」ということが人魚姫の「泡になる」ことや「死」と同じような意味だとするなら目的は果たされていない、間に合わなかったようにも感じます。

    難しい。
    たくさんの人が助けようとしているのに、助からない命。本人が助かりたいと思っていないのにどうしたら助けられるのか、、、

  •  主人公のなぎさは現実主義で早く自立したいと思っており、神様のように穏やかで部屋から出てこない兄と、明るい母親と暮らしています。
    ある日、明らかに虚言癖のある藻屑が東京から転校してきますが、どうやら藻屑は虐待を受けていて‥という、とても苦しいお話でした。

     藻屑の家から虐待の最中と思われる音が漏れ、それをなぎさが外で聞くというシーンがあります。ここで通りがかったおじさんは、泣きそうななぎさを見て足を止めるものの、そのまま歩き出していきます。物凄く残酷で、リアルなシーンです。

     また、なぎさの母親は多分すごく普通の人です。私たちの母親に置き換えても同じリアクションをとると思えます。その母親の、藻屑が酷い虐待を受けていると知った時の「ー海野さんちの子、大丈夫なの?」という責めるような暗い口調や、藻屑が死んだ後の「げ、げ、現代の病魔っていうのかしら。歪んでるのね、みんな‥」という我が家は違うけど、と言っているような言葉。
    なぎさや、藻屑や、大人と2人の間の年齢にいる兄と母親とでは事実の認識の仕方が違うことが切実に伝わります。どうしても母親は我が子が優先で、他人の子に関しては興味であり、我が子への影響でしか理解できないような感じがしました。

     どちらでも、現実の傷ましさを1番理解しているのに砂糖菓子の弾丸しか持てない子供と、実弾を持っているのに理想の中で生きる大人の対比のようでした。暫くは読めないけれど、本棚にしまっておきたい一冊です。

  • 私は、子どもの身近にある問題への抵抗・反発・虚勢を指して「砂糖菓子の弾丸」と表現していると理解したのだが、言い得て妙だと感じた。


    当然、飴玉鉄砲では相手に深刻なダメージを与える事はかなわず、せいぜいちょっとベタベタをくっつけたり鬱陶しくさせたり、そんなものだろう。滑稽さすら感じられる。
    だからと言って与えられるがまま、強制される状況全てに無抵抗で従順でいるのも癪だし嫌なものには嫌と表明したい。
    なので、いずれ「実弾」を入手するまでは、兎にも角にも砂糖菓子で弾幕を張るしかない…という世知辛い’青春の受難’を描いた小説なのかなと思った。


    とにかく衝撃の結末。
    救いとかそういうのじゃないんだな…と唖然茫然。

    海野藻屑という人間が残したものは、なんだったであろうか。

    そして私は何を受け取ったか。
    じっくり取り組みたい作品。


    13刷
    2021.10.3

  • 「ぼく、おとうさんのことすごく好きなんだ。…好きって絶望だよね」頭のおかしい美少女「海野藻屑」と、リアリストの「あたし」の物語。ぺらぺらの本なんだけど、死にたいくらい衝撃的でした。なんだ、これは!冒頭からすでに誰が死んでしまうか分かってるんだけど、祈ってしまう。悲しいし切ない本です。読んだあとに何かを学べるかと言ったら何もないです(えー!)。誤解を恐れずに言おうと思う。自分を慕う子どもを殺す親は、絶対に許されない。どんな事情があっても、これがまだ子どもを持ったことがない小娘の戯れ言だとしても、子育てにどんな苦労があったとしても、許されない。わたしは親になったことはないけど子どもだったことはある。誰にでもある。是非読んで欲しいです。

  • 「好きって絶望だよね」

    やらかしてしまった〜( ˟ ⌑ ˟ )
    このお話は1ページ目にプロローグがあって、そこに結末が書かれてるというもの。
    なのに肝心なとこすっ飛ばして半分くらい読んでしまった、、(´・ω・`;)ハァー・・・
    知っていたら、もっと感想違ってたかも、、

    とても衝撃的で読み終わったあと、だいぶ引きずってしまった。
    桜庭さんの繊細で美しい言葉のセンスが、より悲しみを際立たせる。

    「お父さんにしか殴られたことないんだから」
    この言葉が凄く印象的。

    子供は実弾を持たない。
    甘くて脆い"砂糖菓子の弾丸"しか撃てない。
    とても心に残る作品でした。

  • 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』再読。
    「好きって絶望だよね」「こんな人生、ほんとじゃないんだ」
    胸がはちきれそうになるほどヒリヒリした。作中に登場する言葉なんだけど、もう無理です(いい意味で)こんな内容だったっけか?少し忘れていた部分もあったけどよかった。
    後半からすごい勢いで引き込まれた。劣悪な境遇を悲嘆し自分の置かれている立ち位置を呪いたくなった時期があったな…と思春期の頃の自分を思い出しながら読んだ。虐待を題材にしてるけど、どこかふわっとしていて現実味がない。けれど、これが現実なんだろうと思ってしまう。胸が痛くなった。
    生き残った子と死んじゃった子がいたこと。私も忘れない。無かったことにしたくないって思った。
    本当はさ、自分も含め大人がしっかりしなきゃいけないわけよ。子どもを邪険にし蔑ろにする風潮は昔から変わらず続いてる。そういうことを考えるきっかけになる本だと思いました。

    2022.5.15(2回目)

  • 砂糖菓子の弾丸は、地に足のついていない、虚構、嘘といったものだろうか。
    実弾と違い力はないが、それでも必死に生きるために、誰かの愛を求めるために、砂糖菓子の弾丸を撃ち続ける藻屑の姿は、どことなく不気味だし理解できない言動もあるが、それでも気になってしまう危うい魅力があった。

    藻屑の砂糖菓子の弾丸には、彼女の願いや夢が詰められていたように感じる。それは人形になって泡となって消える前に本当の友達を見つけたいというものなのかもしれない。

    読み終わった後がとても苦しい。
    読み終わってタイトルを見返すとぐっとくる。

    砂糖菓子の弾丸は「撃ちぬけない」
    少女の願いや夢は、撃ちぬこうとするものに阻まれるという無力さや社会の不条理さを表しているように感じた。

    二人が弾を撃たなくても良い、抗うものがない、自由な世界で生きていくのを見たかった。

  • 冒頭で読者に結末を知らせるという手法は、解説によればギリシャ悲劇がもともと用いた手法らしい。解説にそう述べられているように、物語の冒頭で、陰惨な結末が、新聞記事の抜粋という形で語られる。新聞記事という形式を採ることで主人公は結末を知らないという作者と読者の暗黙の了解ができている。

    物語は「海野藻屑(うみのもくず)」という何ともヘンテコな名前の転校生が訪れるところから始まる。藻屑とは名前も変であるが、行動も相当に変わっている。主人公が藻屑の奇妙な行動に振り回される過程を綴ることで、物語は進行する。主人公と藻屑の行動を通して、読者はあらかじめ了解している結末に向かう主人公や藻屑の結末に至る理由を知ることとなる。このあたりは謎解きのような趣向もあって、いつしか独特の物語世界に引き込まれていることだろう。

    この物語を悲しい、切ないといった言葉で評することは間違っていないが、あまりにも紋切り型な表現でもあろう。この何とも言えない情感を読み解くひとつのキーワードが「ストックホルム症候群」である。この言葉の意味を解説してしまうと、物語の根幹に触れてしまう気がするので伏せるが(調べればすぐにわかってしまうだろうけれど)、藻屑が日常的にとる奇怪な行動、もともと有名な歌手だったという父親との共棲、そして物語の舞台が田舎として描かれている鳥取であったこと……これらが既に知らされている結末に収斂して、読者は結末を事前に了解しているがゆえに意外性や驚きとは別のものを得る。それこそが解説によれば、「魂の浄化」、すなわちカタルシスである。

    作者はおそらくこの物語の重要なバックグラウンドとして、鳥取という田舎の地を選んだ。それについて、作者はこう表現している。「山のほうには、あたしが生まれた頃にできた原発がある。ていうか、田舎に作ったほうがいいと都会の人が考えるすべてのものがこの町にある。原発。刑務所。少年院。精神病院。それから自衛隊の駐屯地」――ここに列挙されたものが立ち並ぶ「山」こそ、本作品の重要な舞台である。この一文は本作品の物語世界を象徴しているように感じられた。

    もともとラノベとして書かれた作品とのことだが、なるほど主人公は女子中学生だし、登場人物の多くは思春期の真っただ中を生きている者たちだ。著者の作品には、この世代の者たちが登場する作品が多くある。そして、桜庭一樹という人は、思春期の者たちだけが「感受性」という武器を備えていることを熟知している。少し年を経れば、たちまち錆ついて、切れ味が鈍ってしまう感受性を武器に懸命に生き抜く者を描かせたら、桜庭氏の右に出る者はそうそういるものではないだろう。

  • 生き残れた者だけが大人になれるということに、ずっしりと重さを感じました。
    始めは、藻屑の突拍子なキャラクターに惑わされたけれど、多感な二人の少女が、子供時代を生き抜こうとする姿に胸が熱くなりました。
    藻屑は生きる気があったのかと、担任は言ったけれど、少なくとも、最後になぎさに見せたあの笑顔は、信じていいものだと思います。
    藻屑もなぎさと一緒に幸せになって欲しかった。

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著者プロフィール

2000年デビュー。04年『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が、ジャンルを超えて高い評価を受け、07年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞を受賞。08年『私の男』で第138回直木賞受賞。

「2016年 『GOSICK GREEN 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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