アイの物語 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
4.20
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本棚登録 : 1367
レビュー : 187
  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044601164

作品紹介・あらすじ

数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年に、アンドロイドは、次々とかつてヒトが書いた物語を読んで聞かせるのだった――機械とヒトの千夜一夜物語。

感想・レビュー・書評

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  •  ロボットは人間の命令に従わねばならない、ロボットは人間を傷つけてはならない、以上に抵触しない範囲でロボットは自分を守らねばならない、という、アイザック・アジモフのロボット工学の三原則は、ロボット物語のひとつの参照点となるとともに、論理性を重んずるアジモフのSFミステリの大きな駆動剤になったといえる。が、少々、言語学を齧るとこれが不可能な設定であることに気づく。三原則は言語で記述されている。これをどうやってマシンの言語に翻訳可能なのか。言語につきまとう曖昧性をどのように回避できるのか。

     地球がマシンによって支配され、ヒトは細々とあちこちのコロニーで暮らしている未来。コロニーを巡り歩いて、昔、ヒトが地球の支配者だった頃に書かれた物語を語る「語り部」の「僕」は、女性型アンドロイド、アイビスに捕獲されてしまう。アイビスはただ話がしたいだけという。マシンによってヒトが迫害されていると信じる「僕」は、マシンのプロパガンダを聞かされると警戒する。しかしアイビスは、20世紀の終わりから21世紀の初め頃にヒトによって書かれた物語を聞かせたいというのだ。

     という枠組みのもと7つの短編が束ねられている。最後の「アイの物語」はアイビス自身の物語なので、枠組みの一部と言える。「ロボットや人工知能を題材とした6つの物語」とカバーには書いてあるが、ちょっと違う。この短編群は、直接的な関連はないので連作短編ではないし、6編すべてに統一したテーマがあるというわけでもない。ヴィトゲンシュタインいうところの家族的類似性を持って束ねられているのだ。現実のフィクションに対する優位性、リアル世界のヴァーチャル世界に対する優位性を相対化するという流れがひとつ。前者は語ることの力という問題圏となり、それと重畳するかのように、ヴァーチャルとしての人工知能(AI)のありかたがテーマとなる。
     作者は純粋な論理性が倫理性に至ると考えている。条項として盛り込まなくとも、自律的に機能するAIにまで到達すれば、自ずと三原則類似の状態は達成される。それに対して、常に論理的に考えるとは限らないヒトは倫理的に振る舞うことができず、しばしば残虐な行為を生み出す。この非論理性は「トンデモ本」でいやというほど取り上げられてきたものだ。「トンデモ本」を楽しんでいた山本はここでは、ヒトの非論理性に諦念を示しているかのようだ。AIこそがヒトの生み出した次なる進化形ではないか、すなわち山本版『幼年期の終わり』。

     「僕」は6つの物語を聞き終えて、最後にアイビス自身の物語、すなわち、長老たちから聞かされていたのではない、ヒトとマシンの本当の歴史を聞く。エピローグは「老いたる霊長類の星への讃歌」として感動を誘う。
     作者はこの作品でAI賛歌を謳っているようにみえるが、AI的知性の陥穽を描いた『去年はいい年になるだろう』はこの姉妹編といえる。まだ読んでいないが、論理性=倫理性というテーマは『詩羽のいる街』で展開されているらしい。

  • 人に薦める本は?と聞かれたら、間違いなくこの本を薦める。

    短編集なのに、全てが繋がっている。
    SFなのに、メッセージ性が一貫している。
    ディストピアなのに、ユートピアである。

  • この本の舞台は人類が衰退し、マシンたちが世界に君臨する未来の地球。ロボットを憎む1人の青年は、美しいアンドロイド・アイビスと出会う。足を負傷した青年に対し、アイビスは彼に何編かの“フィクション”を聞いてほしいと頼み、語り始める。

    高性能ロボットが人間界を脅かし…という流れはSFでよく見かけるパターンですが、この本はラストまで読むと一辺倒にはいかない結末で新感覚でした。アイビスが語るロボットと人間との交流を描いたフィクションは、個別の短編として興味深く読めるものばかり。個人的には、学習する介護ロボット“詩音”が老人やスタッフとの交流のなかで学び成長する物語「詩音が来た日」が一番印象的でした。
    人間には出来ないことをロボットが達成する。そんな未来を悲観するのではなく肯定するラストは、SF好き著者の願いのようにも思います。

  • 秀逸です!
    21世紀に書かれるSFは、こんな感じなんですね。
    AI(人工知能)の物語です。

    SF作家である著者が書いた短編を、さらにSFのストーリーに乗せて物語が構築されています。

    レイヤー0:「アイの物語」を読む私が存在する世界
    レイヤー1:「アイの物語」の中のアイビスが存在する世界
    レイヤー2:そのアイビスが語る物語「宇宙をぼくの手の上」の世界
    レイヤー3:「宇宙をぼくの手の上」に登場する椎原ななみが主催する<セレストレア>の世界

    と4階層も奥の話を読んでしまった時には、レイヤー0まで戻れるか正直心配でした。

    どの短編もプロットが素晴らしい。
    まったく、どこまでが現実にある技術で、どこからが著者の編み出した空想科学技術か、境界が分かりません。

     読んでる途中で思い出したのは、以前私の部下だった「初音ミク」大好きな奴。どうしても現実の女は嫌だと言い張っていました。
    聞く所によると、現在彼は知人に連れて行かれた「メイドカフェ」のおかげで現実の彼女が欲しい男になったらしい。

     2012年の現在でも、仮想空間の存在する女性を好きになる男はいる。
    数十年前に書かれた「2001年宇宙の旅」でipadが登場している事実がある以上、この「アイの物語」は恐らく未来の形とそれほど違わずに描いているのではないでしょうか?
    そうだったら、イイなぁ~。
    (ストーリー中の人類の衰退は、決して良くはないですよ。)


     もうひとつ感慨深いのは、著者が「人間と言う生き物の愚かさ」を痛々しいほど描き切っている点です。
    時には論理的に、時には倫理的に、また時には感情にまかせて、その時々に都合よく考えを変え、それを正義と言い切る人間と言う訳の分からない生き物を、「しかし、だからこそ愛すべき生命体」として締めくくっています。
     SFと言うステージで、精神性と言うか「人の心」について、ここまで思いを馳せるとは、予想外でした。

    有川さんの本の書評で著者を知り、「詩羽のいる街」でFANになり、SF書くらしい・・・って事で読みましたが、かなりの衝撃でした。

    これが私のブレイクスルーかも・・・

  • ロボットと人間のお話。

    一つ一つの話が教訓じみている。
    専門用語が多数使われているので苦手な人はなかなか読み進めることができないと思うけれど、専門用語の乱用を差し引いても興味深い話だった。

  • いやー本当に久々に興味をそそられた!!この本でのアイとはAIで人工知能の物語。
    普通のSF小説だと思っていたら何とも唸ったです。
    自分の人工知能に対して無知な事と、いかに人間は論理的でないかと思い知らされた。そして人間は感情の生物だと痛感!
    物語は基本的に短編集だけど、主人公達が短編を論じていくので深みにが出てくる。
    特に「詩音が来た日」は名作だと私は思う。人間を論理的説明して、AIはこう考える!というのが至極納得させられる。
    そして主人公の感情移入に全く同感なのだが、詩音に論じられた時の感情は読者として凄く腑に落ちて私は唸った…
    SFだろけど…今までに無い本を読んだ感じで大満足!久しぶりに、作家の氏名を心に刻みました。

  • 今まで触れてきたどのSF作品とも違う、でも馴染みやすいテーマの小説だった。小難しい用語は何となくで読み進めてしまったけど、それでも言いたいことは掴めた…はず。
    「詩音が来た日」が最も心に響いた。今いる時代に一番近い世界設定だったので、ひょっとしたら本当にこんなことが起こるのかも…と思ってしまうようなストーリーだった。どうしてもヒトとしての目線でしか考えられないからうまく言葉で表すことができないんだけど、確実に言えるのは今まで持っていたアンドロイドやAIに対するイメージがガラッと変わったということ。"真実の物語"であるアイビスの話よりも親しみやすかった。これも「詩音が来た日」が"フィクション"だからだろうか…。
    最近は何かとAIが話題になったりするけど、それがどんどん進化していったらどうなるんだろう。この小説を読んでどう思う(この表現は正確ではないか、、)んだろう。…なんてことを考えてしまうのも、ヒトだから?笑

  • SF。
    7作の中短編を、プロローグ、インターミッション、エピローグで繋いで長編とする構成。
    それぞれの短編は、ライトノベル的な軽いノリと、ゲーム的な設定。
    そのなかで「詩音の来た日」が素晴らしかった。個人的には本多孝好『MOMENT』の「FIREFLY」に似た読後感。
    表題作はアクションシーンが好きではない。ただ、最後のインターミッションとエピローグで挽回。
    読みやすく、読み応えがある、人に勧めやすいSF。良作。☆3.5。

  • (「BOOK」データベースより)
    人類が衰退し、マシンが君臨する未来。食糧を盗んで逃げる途中、僕は美しい女性型アンドロイドと出会う。戦いの末に捕えられた僕に、アイビスと名乗るそのアンドロイドは、ロボットや人工知能を題材にした6つの物語を、毎日読んで聞かせた。アイビスの真意は何か?なぜマシンは地球を支配するのか?彼女が語る7番目の物語に、僕の知らなかった真実は隠されていた―機械とヒトの新たな関係を描く、未来の千夜一夜物語。

    前から気になっていましたが、この本は今年読んだ本のNO1になる可能性がありますです。全人類が読むべき本なんじゃないかと思っている次第です。
    人類がこの先どうなっていくのか、ある意味現代に生きている僕たちは関係ないことではありますが、今僕らがしていることがそのまま種となって育っていくので、今の人間のやっていることを見るとろくなことにならない事は明白ですね。なんとも残念な事です。

  • ガッツリSF!
    短編集形式なので読みやすい
    けど長い~

    アンドロイドとか近未来とかについてのSFを語って聞かせるアンドロイド子ちゃん

    ロボ言語が意味不明すぎるww

    介護ロボットとかAIがどうとか

    人類は地球の覇者たりえない
    スペックの限界
    ロボットに地球の支配や宇宙の開拓を任せるべき
    みたいな結論

    おもしろかった
    けど長かったー

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著者プロフィール

作家。2003年に本格SFにして著者初の四六判ハードカバー『神は沈黙せず』(角川書店)を刊行。同作は読者の話題をさらい、日本SF大賞の候補となった。また2006年5月に刊行された単行本『アイの物語』(角川書店)も各書評家に絶賛されている。

「2018年 『怪奇探偵リジー&クリスタル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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