アイの物語 (角川文庫)

著者 : 山本弘
  • KADOKAWA/角川書店 (2009年3月25日発売)
4.23
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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044601164

作品紹介

数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年に、アンドロイドは、次々とかつてヒトが書いた物語を読んで聞かせるのだった――機械とヒトの千夜一夜物語。

アイの物語 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  ロボットは人間の命令に従わねばならない、ロボットは人間を傷つけてはならない、以上に抵触しない範囲でロボットは自分を守らねばならない、という、アイザック・アジモフのロボット工学の三原則は、ロボット物語のひとつの参照点となるとともに、論理性を重んずるアジモフのSFミステリの大きな駆動剤になったといえる。が、少々、言語学を齧るとこれが不可能な設定であることに気づく。三原則は言語で記述されている。これをどうやってマシンの言語に翻訳可能なのか。言語につきまとう曖昧性をどのように回避できるのか。

     地球がマシンによって支配され、ヒトは細々とあちこちのコロニーで暮らしている未来。コロニーを巡り歩いて、昔、ヒトが地球の支配者だった頃に書かれた物語を語る「語り部」の「僕」は、女性型アンドロイド、アイビスに捕獲されてしまう。アイビスはただ話がしたいだけという。マシンによってヒトが迫害されていると信じる「僕」は、マシンのプロパガンダを聞かされると警戒する。しかしアイビスは、20世紀の終わりから21世紀の初め頃にヒトによって書かれた物語を聞かせたいというのだ。

     という枠組みのもと7つの短編が束ねられている。最後の「アイの物語」はアイビス自身の物語なので、枠組みの一部と言える。「ロボットや人工知能を題材とした6つの物語」とカバーには書いてあるが、ちょっと違う。この短編群は、直接的な関連はないので連作短編ではないし、6編すべてに統一したテーマがあるというわけでもない。ヴィトゲンシュタインいうところの家族的類似性を持って束ねられているのだ。現実のフィクションに対する優位性、リアル世界のヴァーチャル世界に対する優位性を相対化するという流れがひとつ。前者は語ることの力という問題圏となり、それと重畳するかのように、ヴァーチャルとしての人工知能(AI)のありかたがテーマとなる。
     作者は純粋な論理性が倫理性に至ると考えている。条項として盛り込まなくとも、自律的に機能するAIにまで到達すれば、自ずと三原則類似の状態は達成される。それに対して、常に論理的に考えるとは限らないヒトは倫理的に振る舞うことができず、しばしば残虐な行為を生み出す。この非論理性は「トンデモ本」でいやというほど取り上げられてきたものだ。「トンデモ本」を楽しんでいた山本はここでは、ヒトの非論理性に諦念を示しているかのようだ。AIこそがヒトの生み出した次なる進化形ではないか、すなわち山本版『幼年期の終わり』。

     「僕」は6つの物語を聞き終えて、最後にアイビス自身の物語、すなわち、長老たちから聞かされていたのではない、ヒトとマシンの本当の歴史を聞く。エピローグは「老いたる霊長類の星への讃歌」として感動を誘う。
     作者はこの作品でAI賛歌を謳っているようにみえるが、AI的知性の陥穽を描いた『去年はいい年になるだろう』はこの姉妹編といえる。まだ読んでいないが、論理性=倫理性というテーマは『詩羽のいる街』で展開されているらしい。

  • この本の舞台は人類が衰退し、マシンたちが世界に君臨する未来の地球。ロボットを憎む1人の青年は、美しいアンドロイド・アイビスと出会う。足を負傷した青年に対し、アイビスは彼に何編かの“フィクション”を聞いてほしいと頼み、語り始める。

    高性能ロボットが人間界を脅かし…という流れはSFでよく見かけるパターンですが、この本はラストまで読むと一辺倒にはいかない結末で新感覚でした。アイビスが語るロボットと人間との交流を描いたフィクションは、個別の短編として興味深く読めるものばかり。個人的には、学習する介護ロボット“詩音”が老人やスタッフとの交流のなかで学び成長する物語「詩音が来た日」が一番印象的でした。
    人間には出来ないことをロボットが達成する。そんな未来を悲観するのではなく肯定するラストは、SF好き著者の願いのようにも思います。

  • 秀逸です!
    21世紀に書かれるSFは、こんな感じなんですね。
    AI(人工知能)の物語です。

    SF作家である著者が書いた短編を、さらにSFのストーリーに乗せて物語が構築されています。

    レイヤー0:「アイの物語」を読む私が存在する世界
    レイヤー1:「アイの物語」の中のアイビスが存在する世界
    レイヤー2:そのアイビスが語る物語「宇宙をぼくの手の上」の世界
    レイヤー3:「宇宙をぼくの手の上」に登場する椎原ななみが主催する<セレストレア>の世界

    と4階層も奥の話を読んでしまった時には、レイヤー0まで戻れるか正直心配でした。

    どの短編もプロットが素晴らしい。
    まったく、どこまでが現実にある技術で、どこからが著者の編み出した空想科学技術か、境界が分かりません。

     読んでる途中で思い出したのは、以前私の部下だった「初音ミク」大好きな奴。どうしても現実の女は嫌だと言い張っていました。
    聞く所によると、現在彼は知人に連れて行かれた「メイドカフェ」のおかげで現実の彼女が欲しい男になったらしい。

     2012年の現在でも、仮想空間の存在する女性を好きになる男はいる。
    数十年前に書かれた「2001年宇宙の旅」でipadが登場している事実がある以上、この「アイの物語」は恐らく未来の形とそれほど違わずに描いているのではないでしょうか?
    そうだったら、イイなぁ~。
    (ストーリー中の人類の衰退は、決して良くはないですよ。)


     もうひとつ感慨深いのは、著者が「人間と言う生き物の愚かさ」を痛々しいほど描き切っている点です。
    時には論理的に、時には倫理的に、また時には感情にまかせて、その時々に都合よく考えを変え、それを正義と言い切る人間と言う訳の分からない生き物を、「しかし、だからこそ愛すべき生命体」として締めくくっています。
     SFと言うステージで、精神性と言うか「人の心」について、ここまで思いを馳せるとは、予想外でした。

    有川さんの本の書評で著者を知り、「詩羽のいる街」でFANになり、SF書くらしい・・・って事で読みましたが、かなりの衝撃でした。

    これが私のブレイクスルーかも・・・

  • ロボットと人間のお話。

    一つ一つの話が教訓じみている。
    専門用語が多数使われているので苦手な人はなかなか読み進めることができないと思うけれど、専門用語の乱用を差し引いても興味深い話だった。

  • 人に薦める本は?と聞かれたら、間違いなくこの本を薦める。

    短編集なのに、全てが繋がっている。
    SFなのに、メッセージ性が一貫している。
    ディストピアなのに、ユートピアである。

  • SF。
    7作の中短編を、プロローグ、インターミッション、エピローグで繋いで長編とする構成。
    それぞれの短編は、ライトノベル的な軽いノリと、ゲーム的な設定。
    そのなかで「詩音の来た日」が素晴らしかった。個人的には本多孝好『MOMENT』の「FIREFLY」に似た読後感。
    表題作はアクションシーンが好きではない。ただ、最後のインターミッションとエピローグで挽回。
    読みやすく、読み応えがある、人に勧めやすいSF。良作。☆3.5。

  • (「BOOK」データベースより)
    人類が衰退し、マシンが君臨する未来。食糧を盗んで逃げる途中、僕は美しい女性型アンドロイドと出会う。戦いの末に捕えられた僕に、アイビスと名乗るそのアンドロイドは、ロボットや人工知能を題材にした6つの物語を、毎日読んで聞かせた。アイビスの真意は何か?なぜマシンは地球を支配するのか?彼女が語る7番目の物語に、僕の知らなかった真実は隠されていた―機械とヒトの新たな関係を描く、未来の千夜一夜物語。

    前から気になっていましたが、この本は今年読んだ本のNO1になる可能性がありますです。全人類が読むべき本なんじゃないかと思っている次第です。
    人類がこの先どうなっていくのか、ある意味現代に生きている僕たちは関係ないことではありますが、今僕らがしていることがそのまま種となって育っていくので、今の人間のやっていることを見るとろくなことにならない事は明白ですね。なんとも残念な事です。

  • ガッツリSF!
    短編集形式なので読みやすい
    けど長い~

    アンドロイドとか近未来とかについてのSFを語って聞かせるアンドロイド子ちゃん

    ロボ言語が意味不明すぎるww

    介護ロボットとかAIがどうとか

    人類は地球の覇者たりえない
    スペックの限界
    ロボットに地球の支配や宇宙の開拓を任せるべき
    みたいな結論

    おもしろかった
    けど長かったー

  • とても興味深い内容で、とても面白くとても良かった。
    SFは例え日本人作家でも想像しにくい、とっつきずらい印象があったが平易でわかりやすい文章かつ想像しやすい描写のおかげでスムーズに読めてテーマに集中できた。
    楽しいひとときを与えてくれたことに感謝したい。

    前半短編5本は初出が雑誌、描き下ろし中編2本の7本と、その間を「僕」とアイビスの邂逅のエピソードのプロローグ、インターミッション1~8、エピローグで繋げられている。
    本書の構成やあらすじは他の方の詳しい記述にまかせるとして。

    詩音が出した「すべてのヒトは認知症」という結論はとても面白かった。
    ヒトとAIは身体も精神も別の生物なのだから相互理解ができない、けれど共存はただ許容することで可能というのはとてもリアリティある話で、これは別にフィクション内のヒトとTAIの間だけの話じゃない、現実のヒトの同種族同士だってできてないので(TAIに言わせれば認知症だからだけど)そこを乗り越えることが人間種族の進化できるか否かにかかっているのじゃなかろうかとぼんやり考えた。
    TAI同士は虚数を交えた感情表現を伴う独自言語で話すなど、興味深いアイデアが満載で楽しく読めました。

  • 美しい戦闘用アンドロイドが、人々に物語を聞かせて回る語り部と呼ばれる主人公に物語を聞かせるという不思議な話。
    物語を聞かせるとだけあって、長編なのに短編集のような構成になってたのが面白かった。
    どの物語もメッセージ性があって面白かったから単行本出だしても良さそう。
    詩羽の話は単行になってるんだよな、確か。

    面白いと思った物語の感想をば。

    ■宇宙をぼくの手の上に
    ネットのコミュニティを通して、メンバーで殺人を犯してしまったショウンと主人公でキャプテンであるジニのやり取りが好きだ。
    ネットやSNSを使う身だから、この物語からのメッセージ性はとても響いた。
    たかがネット、されどネットの繋がりは絆とも呼べるものだったりする。

    ■ミラーガール
    麻美とシャリスの関係がとても良いなと思った。
    本当の友達と同じように接することで限りなく人間に近づいたAI、シャリスが麻美の旦那によって更に進化し、より優れたAIになった。
    麻美が人間の心をシャリスに分け与えてたからこそ、あそこまで完璧な仕上がりになったんだろうなぁ。

    ■ブラックホール・ダイバー
    イリーは、自分のことを人間と同じように扱い、接してくるシリンクスだからこそ心をあれほど動かされたんだな。
    本体は一緒には行けなくても、コピーを共に行かせたいと思うほどに。
    あの二人は無事、ブラックホールを抜けて旅を楽しんでると良いな。
    ブラックホールネタ大好きな自分には堪らない話だった(笑)

    ■詩音が来た日
    詩音の導き出した答え、苦しんでたり泣いてたりする人間の心を救い楽しくさせたい、そして自分も楽しい記憶をもらいたい。
    ロボットの生きる目的を突き詰めた真理。
    ロボットとはいえ、AIを搭載しているとただ単に働き続けひたすら絶対服従の元というのは、アレだもんな。
    詩音は本当にこの答えをよく掴んだな、と思った。
    詩音が学んで成長していく姿は、読者も学ぶべき点が多いなと感じた。

    最後は、表題。
    アイビスが物語を主人公に聞かせてたのは、語り部を通じてロボットとの共存を促すためか。
    途中から想像はついた。
    しかし、生き残ってる人類が、皆、ロボットと憎きものと捉える反共存主義とは思わなんだ。
    でも、アイビスの話を聞くうちに納得。
    そうだよなぁ、ロボットを受け入れると衰退していくよな自然と。
    ロボットを愛する者が出てくれば結婚しなくなる者が出てくる訳で。
    ロボットが一番効率的で理想的だという超現実主義者も出てくる訳で。
    そうすると、緩やかに人口は減るよな。

    話がよく出来てたから、遠くない未来、実際こういうことが現実になるのではないのかと思ってしまった。
    有り得なくはないよな。

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