アイの物語 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
4.20
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本棚登録 : 1639
感想 : 210
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044601164

作品紹介・あらすじ

数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年に、アンドロイドは、次々とかつてヒトが書いた物語を読んで聞かせるのだった――機械とヒトの千夜一夜物語。

感想・レビュー・書評

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  • #日本SF読者クラブ 自殺騒動も記憶に新しい山本弘氏の作品。人類が衰退し、マシンたちが繁栄する、まるで「ターミネーター」のような未来の地球(ここ重要です)。美しい女性型アンドロイドに囚われた「僕」。彼にいくつかの物語を聞かせるアンドロイド「アイビス」。そう未来の千夜一夜物語だ。

    そもそも本作は、作者が別々に発表した短編に書下ろしの2編を加え、インターミッションで繋いで一つの長編にしている。それぞれの短編も面白いし、長編としてもうまく構成されている。特に書下ろしの第6話が効いている。そして最終話で、前述した重要ポイントの真相が明らかにされる。7回日本SF大賞候補、吉川英治文学新人賞候補になるのもうなづける。

  • いやー本当に久々に興味をそそられた!!この本でのアイとはAIで人工知能の物語。
    普通のSF小説だと思っていたら何とも唸ったです。
    自分の人工知能に対して無知な事と、いかに人間は論理的でないかと思い知らされた。そして人間は感情の生物だと痛感!
    物語は基本的に短編集だけど、主人公達が短編を論じていくので深みにが出てくる。
    特に「詩音が来た日」は名作だと私は思う。人間を論理的説明して、AIはこう考える!というのが至極納得させられる。
    そして主人公の感情移入に全く同感なのだが、詩音に論じられた時の感情は読者として凄く腑に落ちて私は唸った…
    SFだろけど…今までに無い本を読んだ感じで大満足!久しぶりに、作家の氏名を心に刻みました。

  •  ロボットは人間の命令に従わねばならない、ロボットは人間を傷つけてはならない、以上に抵触しない範囲でロボットは自分を守らねばならない、という、アイザック・アジモフのロボット工学の三原則は、ロボット物語のひとつの参照点となるとともに、論理性を重んずるアジモフのSFミステリの大きな駆動剤になったといえる。が、少々、言語学を齧るとこれが不可能な設定であることに気づく。三原則は言語で記述されている。これをどうやってマシンの言語に翻訳可能なのか。言語につきまとう曖昧性をどのように回避できるのか。

     地球がマシンによって支配され、ヒトは細々とあちこちのコロニーで暮らしている未来。コロニーを巡り歩いて、昔、ヒトが地球の支配者だった頃に書かれた物語を語る「語り部」の「僕」は、女性型アンドロイド、アイビスに捕獲されてしまう。アイビスはただ話がしたいだけという。マシンによってヒトが迫害されていると信じる「僕」は、マシンのプロパガンダを聞かされると警戒する。しかしアイビスは、20世紀の終わりから21世紀の初め頃にヒトによって書かれた物語を聞かせたいというのだ。

     という枠組みのもと7つの短編が束ねられている。最後の「アイの物語」はアイビス自身の物語なので、枠組みの一部と言える。「ロボットや人工知能を題材とした6つの物語」とカバーには書いてあるが、ちょっと違う。この短編群は、直接的な関連はないので連作短編ではないし、6編すべてに統一したテーマがあるというわけでもない。ヴィトゲンシュタインいうところの家族的類似性を持って束ねられているのだ。現実のフィクションに対する優位性、リアル世界のヴァーチャル世界に対する優位性を相対化するという流れがひとつ。前者は語ることの力という問題圏となり、それと重畳するかのように、ヴァーチャルとしての人工知能(AI)のありかたがテーマとなる。
     作者は純粋な論理性が倫理性に至ると考えている。条項として盛り込まなくとも、自律的に機能するAIにまで到達すれば、自ずと三原則類似の状態は達成される。それに対して、常に論理的に考えるとは限らないヒトは倫理的に振る舞うことができず、しばしば残虐な行為を生み出す。この非論理性は「トンデモ本」でいやというほど取り上げられてきたものだ。「トンデモ本」を楽しんでいた山本はここでは、ヒトの非論理性に諦念を示しているかのようだ。AIこそがヒトの生み出した次なる進化形ではないか、すなわち山本版『幼年期の終わり』。

     「僕」は6つの物語を聞き終えて、最後にアイビス自身の物語、すなわち、長老たちから聞かされていたのではない、ヒトとマシンの本当の歴史を聞く。エピローグは「老いたる霊長類の星への讃歌」として感動を誘う。
     作者はこの作品でAI賛歌を謳っているようにみえるが、AI的知性の陥穽を描いた『去年はいい年になるだろう』はこの姉妹編といえる。まだ読んでいないが、論理性=倫理性というテーマは『詩羽のいる街』で展開されているらしい。

  • 特に「詩音が来た日」が印象に残っています。

    アイビスのようなAIを夢見て、夢見た物語が現実になる日が来るのでしょうか。

  • 人に薦める本は?と聞かれたら、間違いなくこの本を薦める。

    短編集なのに、全てが繋がっている。
    SFなのに、メッセージ性が一貫している。
    ディストピアなのに、ユートピアである。

  • 長年積んでいた1冊。
    個々で自我を持つようになったAIと人間とは共存できるのか。
    一昔前から沢山のアニメや映画、小説などで使われてきたテーマ。
    とても読みやすいのでSFに馴染みがない人でもすんなりと読めることが出来る作品だと思う。

    人間の手から生み出されたアンドロイド達だが
    なんと言うか…あぁ待っていてくれたのね、ずっと。
    人間の本質というものを改めて考えたくなった。
    優しさもあるが、良くよく考えると薄ら寒くもなる。

  • 人類が衰退したあとの世界で、主人公とアンドロイドのアイビスが出会うところから物語が始まる。アンドロイドを憎む主人公にアイビスが話したのは、いくつかの物語だった。

    この作品は、作者の過去作をアイビスが語るスタイルで読むことができる短編集であり、話が繋がることで長編になるように構成されています。

    ひとつひとつのお話も面白く、すぐに読み終わってしまいました。本当にアンドロイドがいたら、こうなるだろうな、こんな問題が起こるのだろうなとリアルに想像ができた。本当、きっとこうなる。

    「紫音が来た日」では、人の心を救うということについての答えを見た気がする。「ミラーガール」では、子供の頃に人形を友達にしていた気持ちを思い出し、「宇宙を僕の手の上に」では物語のもつ力を、インターネットを始めたばかりのときの気持ちと合わせて想像して感じた。

    後半、自分の想像を超えてアイビス、アンドロイドたちが別種の生き物として懸命に生きて見えた。ひとにこの話が書けるならまだ大丈夫なんだと思えました。同じことを願うひとがきっと居る。居たらいいな。

    アンドロイド語に少しはまりました。
    (5+7i)

  • この本の舞台は人類が衰退し、マシンたちが世界に君臨する未来の地球。ロボットを憎む1人の青年は、美しいアンドロイド・アイビスと出会う。足を負傷した青年に対し、アイビスは彼に何編かの“フィクション”を聞いてほしいと頼み、語り始める。

    高性能ロボットが人間界を脅かし…という流れはSFでよく見かけるパターンですが、この本はラストまで読むと一辺倒にはいかない結末で新感覚でした。アイビスが語るロボットと人間との交流を描いたフィクションは、個別の短編として興味深く読めるものばかり。個人的には、学習する介護ロボット“詩音”が老人やスタッフとの交流のなかで学び成長する物語「詩音が来た日」が一番印象的でした。
    人間には出来ないことをロボットが達成する。そんな未来を悲観するのではなく肯定するラストは、SF好き著者の願いのようにも思います。

  • 秀逸です!
    21世紀に書かれるSFは、こんな感じなんですね。
    AI(人工知能)の物語です。

    SF作家である著者が書いた短編を、さらにSFのストーリーに乗せて物語が構築されています。

    レイヤー0:「アイの物語」を読む私が存在する世界
    レイヤー1:「アイの物語」の中のアイビスが存在する世界
    レイヤー2:そのアイビスが語る物語「宇宙をぼくの手の上」の世界
    レイヤー3:「宇宙をぼくの手の上」に登場する椎原ななみが主催する<セレストレア>の世界

    と4階層も奥の話を読んでしまった時には、レイヤー0まで戻れるか正直心配でした。

    どの短編もプロットが素晴らしい。
    まったく、どこまでが現実にある技術で、どこからが著者の編み出した空想科学技術か、境界が分かりません。

     読んでる途中で思い出したのは、以前私の部下だった「初音ミク」大好きな奴。どうしても現実の女は嫌だと言い張っていました。
    聞く所によると、現在彼は知人に連れて行かれた「メイドカフェ」のおかげで現実の彼女が欲しい男になったらしい。

     2012年の現在でも、仮想空間の存在する女性を好きになる男はいる。
    数十年前に書かれた「2001年宇宙の旅」でipadが登場している事実がある以上、この「アイの物語」は恐らく未来の形とそれほど違わずに描いているのではないでしょうか?
    そうだったら、イイなぁ~。
    (ストーリー中の人類の衰退は、決して良くはないですよ。)


     もうひとつ感慨深いのは、著者が「人間と言う生き物の愚かさ」を痛々しいほど描き切っている点です。
    時には論理的に、時には倫理的に、また時には感情にまかせて、その時々に都合よく考えを変え、それを正義と言い切る人間と言う訳の分からない生き物を、「しかし、だからこそ愛すべき生命体」として締めくくっています。
     SFと言うステージで、精神性と言うか「人の心」について、ここまで思いを馳せるとは、予想外でした。

    有川さんの本の書評で著者を知り、「詩羽のいる街」でFANになり、SF書くらしい・・・って事で読みましたが、かなりの衝撃でした。

    これが私のブレイクスルーかも・・・

  • 自律した被造物のアレする世界、は作品の底で通底してゐる。
     松田聖子が偉大であると知れる。
     ロボの進化と言ふのはどう言ふものかが突き付けられる。
     いい感じ。

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著者プロフィール

元神戸大学教授

「2023年 『民事訴訟法〔第4版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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