サーフィングラフィティー

  • 角川学芸出版 (2007年8月3日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784046211095

作品紹介・あらすじ

波の上に、流線型の板が浮き、その上に人がたっている――。一枚の写真から、日本で初めてサーフボードを作った男とは!? 「下山事件最後の証言」「TENGU」の著者・柴田哲孝が描く、伝説のサーファー。

感想・レビュー・書評

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  •  わたしはサーフィンをやったことがない。だから活字上の波の上で、ボード一枚を隔てて感じるうねりと、岸辺の景色とを想像した。

     ロングボードに拘る主人公の、純朴な波乗りへの情熱に魅入られた。能力主義や損得感情の色濃いビジネスとの対比が繰り返し語られた。

     サーフィンの背景にある、勝ち負けへの無頓着さとか、自然への憧れとか、都会と都会を象徴する時間や空間、価値観への失望、もしくは慰めも書き手の文章からは垣間見えた。

     主人公はそんな都会とサーフィンで繋がる波乗りとの間で浮かんでいるような人生を歩む。彼の生き方が、岸辺に打ち寄せた波が、沖へ引き戻される様子に被った。

     破産や裏切り、火事などの事故。いずれも、自ら命を絶ってもおかしくないような苦境に立たされるたびに「いいときもあればわるいときもある」という、サーフィンの感性に救われてきた彼に少しだけ嫉妬した。

     わたしたちは、この狭い、自然から隔離された人工的な環境のなかで、ゲームのプレイヤーとして、あるルールを絶対の価値観にして生きていく。
     
     プレイヤーのつもりが、傍から見れば、CPUやモブのように立ち振る舞まっている。

     主人公が田舎に隠居して、新聞配達と農作業で半自給自足しながら、金銭の世界と自然との間で充実して生きている晩年がいちばん印象に残った。

     同じ50代以降の人たちのは、市場からリタイアしたあと、生気を失ったように、TVや酒などの娯楽を十分に楽しむことも出来ずに、燻っている。それか、まだそのゲームに縋りつこうと傷んだ体を引きずって歩く。

     本書の節々には夢を持つことの重要性が記されていたけど、主人公本人は、成果主義的な夢とか目標とかを追いかけたのではなくて、少年のように純粋に好奇心のままに生きたような印象があった。

     サーフボードを一から作ったのだって、売れると思ったからじゃなくて、波乗りに憧れたから。大会を立ち上げたのも、サーフボードを作り続けたのも、サーフィンを普及させたかったからだし、仲間に楽しく波乗りさせたかったからだ。

     資本価値に換算されてしまった、自己啓発書の象徴する「夢」とは異なる価値観を生きた人。

     それがサーフィンである必要はないと思う。海でなくてもいい。何かの波がきたときには、ワイプアウトを恐れずに乗ってみるといい。背中を押される一冊。

     『老人と海』『怒りの葡萄』を彼が愛読しているシーンには突っ込まずにはいられなかった。
     

  • 2013/04/27
    自宅

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著者プロフィール

1957年、東京都出身。日本大学芸術学部写真学科中退。フリーのカメラマンから作家に転身し、現在はフィクションとノンフィクションの両分野で広く活躍する。パリ〜ダカールラリーにプライベートで2回出場し、1990年にはドライバーとして完走。1991年『KAPPA』で小説家デビュー。2006年、『下山事件 最後の証言』で第59回「日本推理作家協会賞・評論その他の部門」と第24回日本冒険小説協会大賞(実録賞)をダブル受賞。2007年、『TENGU』で第9回大藪春彦賞を受賞し、ベストセラー作家となった。他の著書に『DANCER』『GEQ』『デッドエンド』『WOLF』『下山事件 暗殺者たちの夏』『クズリ』『野守虫』『五十六 ISOROKU異聞・真珠湾攻撃』『ミッドナイト』『幕末紀』など、多数ある。

「2021年 『ジミー・ハワードのジッポー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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