歌集 サリンジャーは死んでしまった (コスモス叢書)

著者 :
  • 角川学芸出版
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本棚登録 : 49
レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046524775

作品紹介・あらすじ

青春から大人への移行期、それは人生のなかで最も楽しく、また切ない季節なのかもしれない-。高校生で角川短歌賞を受賞し、話題となった前歌集『乱反射』から4年、待望の第二歌集。

感想・レビュー・書評

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  • 角川短歌賞最年少受賞歌人の第二歌集。著者の母は歌人の小島ゆかり。一首一首の印象が弱いので、ずいぶんと地味な歌集だな〜、と思って読んでいるうちに、捻りのない、しかし、細やかで澄んだディテールが徐々に伝わってきて、もっと読んでいたかった。バブル期に隆盛だったライトヴァースの反動で、しばらくは世界観の狭い日常詠や下世話な風俗詠が流行し、それはそれで違和感を感じていたのだけれど、著者の短歌はそのどちらでもない新しいジェネレーションのもの。日常に現れる家族や恋愛や季節などのディテールを身の丈で詠みながら、それがしっかりと宇宙観や社会観に結びついていて、驚くほどに倫理的なのだ。刺激的でなく声高ではないからといってその声を聴き逃してしまっては、世の中全体が新たな地平への手掛かりを失ってしまうことになるだろう。僕は、僕よりも若い友人たちの顔を思い浮かべながら、そんなことを考えた。「図書館の本棚すべて空っぽにしたら運河が流れ込むだろう」「教会のなかにぼんやり陽の射して光る埃に包まれている」「図書館の本棚の前に来て立てばわれのうちなる誰かも立てり」「救急車のサイレン遠ざかることもあたたかきこの春夜の一部」「しらぬまに春待つ胸となっている雲の図鑑を抱けば重たし」「祖父に会いに行くこと減りしわれのこと誰も咎めず春嵐くる」「ブラスバンドのバスの音ばかり聞こえつつはじめて愛を告げられし夏」「四人にて同じボートに乗り込めばそれだけでどこかおかし家族は」「口に出すまではいかない喜びを幾つかもちてプールへ向かう」「音たてて銀貨こぼれるごとく見ゆつぎつぎ水からあがる人たち」「なつのからだあきのからだへ移りつつ雨やみしのちのアスファルト踏む」「泣き足りてしずかに仰ぐ秋空に何もしないで美しい木々」「漠然と死を思う朝とおい国のとおい広場で雨上がりたる」「わが猫の丸く眠れるさま見ると傲慢な思いこみあげてくる」「トマトトマトひしめいている冷蔵庫開くたび見て再び閉じる」「水抜きしのちのプールに夕焼けのひかりを入れて完了とする」「ひえびえと秋の手摺りの続きいる地上で時に泣いたりもする」「燃えるごみ燃えないごみと積まれいてやはり燃えないごみが寂しい」「少しずつ母に似てきているようだ犬ばかり目につくようになる」「ムササビのような寝姿恋人がいると思えずわが妹よ」「恋の終わりのわれのかなしみ置き去りに祖父祖母ともにどんどん老いる」「年老いたマサイキリンを照らすときもっとも浄き夕陽とおもう」「突然に麒麟を見たくなる朝もわれは会社に行かねばならぬ」「満員の電車に潰され吐き出されほんとうにもう疲れてしまった」「青春と呼ばれる日々はいつのまにか終わってしまい川沿いをゆく」。うちなる誰かの歌、秋の手摺りの歌、ムササビの妹の歌が、僕は好きだ。

  • サンキュータツオ氏がラジオで推薦していた短歌集ですが、いや~~現代的だ・・・。
    それでいてあまりに奇をてらっている訳ではなく、ちゃんと瑞々しくあたたかく、しかし知的。
    人としての温かみがある・・・そんな歌集。

  • 会社員をやりつつ創作している、一つ下の美人さん。
    素敵だなと思います。

    「わたくしも子を産めるのと天蓋をゆたかに開くグランドピアノ」
    「教会のなかにぼんやり陽の射して光る埃につつまれている」

    など、若い女性というより少し老成した視点が好きでした。

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