歌集 トリサンナイタ

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  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046527493

作品紹介・あらすじ

いま注目の歌集、『トリサンナイタ』の〔新装普及版〕。受洗、妊娠、出産を経て、仙台で平穏な日々を過ごしていたが東日本大震災により一変。原発事故の影響を案じ、宮崎に避難するまでの激動の日々を詠う。

感想・レビュー・書評

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  • 2013年第17回若山牧水賞受賞歌集。
    片岡忠彦装幀 鳥と樹木が交互に並ぶイラスト

    大きく3つに分けられて小テーマが設けられ、日常の様子や育児、震災、宗教など等身大の大口さんの生活を伴走するような気持で味わった。旧かなつかいは真似したい
    わたしが見落としたのか、トリさんの歌は探しきれなかった


    スキップで八十八歩わが家の近くには良き居酒屋あり
    (お酒好きなのかな 近所という距離を八十八歩とあらわしていてスキップも高揚している様子が感じられる いいなあ、こういうお店ほしい)

    泣くときはひとり泣くべしぽうぽうとたんぽぽの綿毛にじんで見える
    (オノマトペが効いている ぽうぽうって初めて聞くけどたんぽぽと合っている じんわり悲しみが伝わってくる)

    海の日と海の記念日の違ひなど言いつつきみがワインを開ける
    満月のカマンベールを分け合ひて大きい方はわたしがもらふ
    (なんだか平和な時間 ワイン乾杯してあとの何気ない話題も楽しそう 
    満月という比喩で食卓の様子に彩を添える 大きい方もらうわたしとあなたの関係性 安心している感じの表現が素敵)


    祈るときヨガのとき合はするてのひらの小さき闇に蛍がともる
    ベビーカー押しどこまでも行けさうな蒼天の下どこへも行かず
    お迎への時間に遅れまいとしてエレベーターに母殺到す
    子育てののちわれに来る老いらくの恋を予言し人は去りたり
    豆腐握りつぶして食べて言葉持たぬ子どもは豆腐にもつとも近し

    吾亦紅の2010年子殺し事件を羅列しての歌は衝撃だった
    子育て中の母の殺気を浄化させるような祈りに近い歌が並ぶ

    犯行の動機に「疲れた」とあれば夫はいたく共感したり
    可哀想な子どもは可哀想なわれになり可哀想なわれの父母になる


    近い将来必ず来ると言はれゐし揺れと思ひつつ子を抱き耐へつ
    (地震の揺れの恐怖を予感しつつ子を必死に抱く様子が臨場感あり)
    被災地はここなのかわれは被災地に居るのか真闇にラジオ聴きつつ
    (災害が起こった当初の混乱した状況 ラジオは本当に助かる 真闇で特に緊迫感が伝わる)
    のど風邪を子にうつされてハシゴするたんぽぽ薬局なのはな薬局
    (今のコロナ禍でもしっくりきそうな薬を求めてさまよう心許ない不安な様子)

    感電
    ウクライナ製国防軍正式採用放射線計測器でのシーベルト値と九州各地立ち寄った土地の歌

    アルバイトの宮本武蔵は汗ぬぐひ息子の汗もぬぐひくれたり
    (熊本城天守閣見学時の暑い夏の様子が浮かぶ)
    なぜ避難したかと問われ「子が大事」と答へてまた誰かを傷つけて
    (理由を問う方も問われる方も後ろめたさを共有しその場の何とも言えない空気が漂う)

  • 『歌集 トリサンナイタ』  大口玲子 著  (角川書店・1365円) - 西日本新聞
    http://www.nishinippon.co.jp/nlp/book_kyushu/article/41240

    角川書店のPR
    「いま注目の歌人

    【第17回】若山牧水賞
    【平成24年度】
    芸術選奨文部科学大臣新人賞 ダブル受賞!

    仙台での妊娠、出産。東日本大震災後、原発事故の影響を案じ、移住という決断を迫られるなかで、母として、人として、どう生きるか。揺れ動く心情を静謐に詠い上げた感動の歌集。」

    (角川短歌叢書)
    「晩春の自主避難、疎開、移動、移住、言ひ換へながら真旅になりぬ

    幼子との何気ないささやかな暮らしが東日本大震災によって一変する。仙台で被災、原発の事故、九州への避難。日常が非日常となり、めまぐるしく変わる生活のなかで生きる意味を問う。待望の第4歌集。

    受洗、出産、被災、仙台から宮崎への移住…。この六年の間には大きな変化があった。
    特に東日本大震災以降はさまざまな決断を迫られ、困難も多かったが、同時に、いかに自分がたくさんの恵みをいただいているかを実感する日々でもあった。
    被災という大きな困難を経て――待望の第四歌集!」

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著者プロフィール

1969年東京都大田区生まれ。歌誌「心の花」所属。早稲田大学第一文学部日本文学科卒業。中国長春市、東京や仙台市や福島市で日本語教師をつとめる。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第44回角川短歌賞受賞。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。歌集に『海量』(雁書館 1998)、『東北』(雁書館 2002)、『ひたかみ』(雁書館 2005)、『トリサンナイタ』(角川書店 2012)、『桜の木にのぼる人』(短歌研究社 2015)、『ザベリオ』(青磁社 2019)、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』(邑書林 2008)、『神のパズル』(すいれん舎 2016)がある。

「2020年 『自由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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