ヘンな論文

  • KADOKAWA/角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046533418

作品紹介・あらすじ

珍論文ハンターのサンキュータツオが、人生の貴重な時間の多くを一見無駄な研究に費やしている研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する、知的エンターテインメント本!

感想・レビュー・書評

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  • 「こんな物こんな事について研究している人なんているのだろうか?」と、思いつく物事のおよそ全てにおいて、世の中には研究している人がいる。

    というようなことを何十年も前にテレビで言っていたのを聞いて以来、「そうだろうなぁ」と私はすんなり受け入れてきている。

    だから本書は(ザッと飛ばし読みしたので申し訳ないが)面白かった。
    【女子高生と「男子の目」】の章が面白かった。

    【湯たんぽ】の伊藤先生の章が一番面白かったのと同時に、伊藤先生の論文が盗用されている件については悲しくなったし、そこに苦言を呈している著者には、「論文について研究する論文」とも言えそうなご自身の活動を続けていただけたらなと思う。
    伊藤先生の為にも。

  • 予想よりずっとおもしろくて良い本だった。「ものの役にたたん学部はつぶしてしまえ」などという暴論に怒ったり心を痛めている人(私です)にとっては、心から共感できる一冊。

    何が良いと言って、理系文系問わず研究者という存在への敬意と愛がこもっていることだ。著者は、ワセダに学部5年・修士3年・博士6年、しめて14年も在籍した「日本初の学者芸人」だそうな。専門は日本語学。うわあ、これってすごーくジミでオマケにやたら根気のいる学問分野だよね。でもまあ、たいていの「学問」はいたって地味なものだ。華々しい成果をあげて脚光を浴びるのはほんのひとつまみ(握るほどもない)の方で、それだって長年の地を這うような研究の末だもの。

    ここで取り上げられてるのは、一見「なんじゃそりゃ?」と思うような「ヘン」な研究の論文だ。そのトホホな感じをおもしろおかしく書いてあるのかと思ったら(そういう面ももちろんあるが)、なにゆえに彼ら彼女らは、そのちょっと(かなり)変わった研究に情熱を傾けているのかを結構真面目に考えていくのである。研究者というのはどういう人たちかということについてこう書かれている。

    「美しい夕景を見たとき、それを絵に描く人もいれば、文章に書く人もいるし、歌で感動を表現する人がいる。 しかし、そういう人たちのなかに、その景色の美しさの理由を知りたくて、色素を解析したり構図の配置を計算したり、空気と気温を計る人がいる。それが研究する、ということである」

    確かにねえ。考えてみれば、わたしたちが当たり前のように思っているいろんな知識も、誰かが調べたり考えたり、営々と積み重ねてきた努力の末に獲得されたものだ。そりゃあ「それがわかったからってどうなんだ?」というたぐいのこともあろうが、いいじゃないの、そのこと一つ分世界はわかりやすくなったんだから。(とは言うものの、本書の三本目「浮気男の頭の中」論文名「婚外恋愛継続時における男性の恋愛関係安定化意味付け作業」は心の底からどうでもいいと思ったが)

    十三本の論文が登場するが、何と言っても圧巻は最後の「湯たんぽ」研究でしょう。執筆者の伊藤先生がもう本当にいい味わいなのだ。家政学の先生なのだが、工業デザイナーとしても一流で、国際浮世絵学会の理事まで務めているという方が、研究者としてのキャリアの最後にうちこんだのが「湯たんぽ」。いいなあ。湯たんぽってこれまで誰も注目してこなくて(そうだろうなとは思う)すごく謎が多いらしい。誰も大して感心しないのに、そんなこと気にもせず、先生は飽くなき探究心で湯たんぽを追い求める。学問ってこういうことだよね。

    「珍論文には、役得がないかわりに、純度の高い情熱が詰まっている」とあるが、本当にそうだと思う。研究の世界に身を置いていた著者ならではの視点が新鮮だった。論文紹介の合間にコラムが四本挟み込まれているのだが、これが一般人には縁遠い研究者の世界を簡単に紹介するものとなっていて、とてもわかりやすいのも良いところだ。たくさんの人に読まれるといいなあと思う。


    ・一本目の論文の研究対象は「河原町のジュリー」。70年代に京都で有名だった今で言うホームレスのおじさんのことだが、私は学生のとき実際に見たことがある。次の日バイト先で「ジュリーを見た」と言ったら、「きっといいことあるよ!」って言われた。実は京大出で金持ちっていう噂も確かにあったなあ。でも断じて言うが、絶対にジュリーには似てなかったから!
    ・一番「その気持ち、わかるなあ」と思った論文は、六本目「男子生徒の出現で女子高生の外見はどう変わったか - 母校・県立女子校の共学化を目の当たりにして」。「目の当たり」という表現に「チクショー」という気持ちがうかがえるような。
    ・「本の雑誌」7月号に著者のサンキュータツオさんが寄稿している。これもおもしろい。

  • ・世間話の研究
    ・公園の斜面に座る「カップルの観察」
    ・「浮気男」の頭の中
    ・「あくび」はなぜうつる?

    などなどの珍論文の内容をお笑い芸人の方が紹介をしている本。

    これらの題は、論文の正式名称ではない。
    たとえば
    ・「おっぱいの揺れ」とブラのずれ
    という題の論文の正式なものは
    「走行中のブラジャー着用時の乳房振動とズレの特性」
    わかりやすい題にして、とっつきやすくしてある。

    内容は、これらの論文のキモの部分を感想を交えつつ、軽いタッチで書かれている。しかし、研究というものに対する向き合い方はとても真摯で、好感がもてる。
    「断定口調は、論文では滅多に使われない。自分の主観で判断せず、出てきた事実からたどり着いた結論、という意味で「だと思われる」を使うし、立場をフラットにする意味で、いいとか悪いの判断はしない。それを「いったいなにが言いたいんだ」なんて断じるのは暴力でしかない。人の話を聞けない、頭を使わない人の一方的な主張だ。」
    論文の改竄やコピペも厳しく批判していて、研究者に対する尊敬とあたたかな眼差しを感じる。

    珍論文は、身の回りのことへのちょっとした問いから始まる。寺田寅彦の大量の随筆が、そのような性格を持っていたように、身の回りには不思議が満ちている。

    珍論文を楽しみつつ、学問とは何かということに触れることのできる楽しい本だった。

  • 珍論文を集めることが趣味…というサンキュータツオさんが選りすぐった、珠玉の論文コレクションです。
    時々、仕事中につい二度見をしてしまう論文があったりしますが、なかなかじっくり読む機会を作れずにいたので、うはうはしながら本書を読みました。

    研究者たちが思い切り楽しみながら研究したんだろうな、という様子が行間から伝わってきます。
    堅苦しい論文そのままではなく、著者が茶々を入れつつ、わかりやすく読み下してくれているので親しみやすいということも本書のポイント。
    なによりタツオさんご自身の珍論文にかける情熱がすごい!

    個人的に一番楽しく読んだのは、公園の斜面に座るカップルの観察についての論文。
    これを学術的に表現すると、「傾斜面に着座するカップル」となるそうだ…じわじわおもしろい。
    そのほか、猫カフェ、湯たんぽ、浮気男の頭の中の検証…などなど、思わず身を乗り出してしまう楽しげな空気を醸し出す論文たちに、学術論文の幅の広さを実感させられたのでした。

  • 博士課程を修了したお笑い芸人が珍奇な論文を紹介する本。くだけた表現ではありますが取り上げた論文はどれも面白く検索し読みたくなる事必至。「湯たんぽ」の研究が特に興味深かったです。

  • ヘンなタイトルに変わった著者名。
    学者で芸人をしている人だそう。経歴も変わっています。

    変わった論文を読むのが好きという著者。はたから見れば無駄にみえることを、一生懸命研究している研究者の論文が紹介されます。
    書いた本人は大まじめながら、普通に見ると珍論文でしかないというもの。えてして研究は、なかなか周りに理解されないものではありますが、それにしてもこんなの研究している人がいるんだ…と引いてしまうような内容のものが目白押しです。

    芸人の面を見せて冴えた突っ込みをする著者が、学者の面を見せて解説するというところがおもしろく、人の論文紹介ではありますが、この著者だからこうした本にまとめられたのだろうと納得できます。

    採り上げられた論文は、おっぱいの揺れや、不倫男の頭の中、古今東西の湯たんぽ、猫カフェの効果など。
    しょうもないことのように思えますが、たしかに内容が気になって読んでみたくなるものばかり。

    「女子高よりも共学化後の方が女子は髪が長い」というのも、分析に裏打ちされた事実のようです。

    横浜の「ヨコハマメリー」なら知っていますが、京都には1970年代にカリスマホームレス「河原町のジュリー」がいたということは知りませんでした。

    さまざまな珍論文を取り上げては笑いのネタにしているようでありながら、こうした社会的には無価値のように思えるものに、人はどれだけ真剣に取り組めるか、その純粋な情熱を礼賛している本。

    刻々と変わりゆくビジネスや経済の世界とは全く無縁のニッチなテーマに必死に取り組んでいる人々を知ると、「効率性重視の世の中でも、気にせずやりたいことをやってこそ、人は幸せになるんだなあ」と思えてきて、なんだか元気が出てきます。

  • いとをかし。書籍版「タモリ俱楽部」のようでした。北尾トロ氏に通じるものがあります。特に「カップルの観察」「あくび」「湯たんぽ」は興をそそられました。唯一ハッとしたのが、「コーヒーカップの音」でした。まさに論理的・科学的な思考を体得するための教科書のようで目から鱗の内容でした。続編もあるようなので読んでみたいと思います。

  • 最高にムダな知的興奮! 研究者たちの知られざる奮闘をあぶり出す。珍論文ハンターのサンキュータツオが、人生の貴重な時間の多くを一見無駄な研究に費やしている研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する、知的エンターテインメント本!
    (2015年)
    —- 目次 —-
    はじめに
    1本目 「世間話」の研究
    2本目 公園の斜面に座る「カップルの観察」
    3本目 「浮気男」の頭の中
    4本目 「あくび」はなぜうつる?
    5本目 「コーヒーカップ」の音の科学
    6本目 女子高生と「男子の目」
    7本目 「猫の癒し」効果
    8本目 「なぞかけ」の法則
    9本目 「元近鉄ファン」の生態を探れ
    10本目 現役「床山」アンケート
    11本目 「しりとり」はどこまで続く?
    12本目 「おっぱいの揺れ」とブラのずれ
    13本目 「湯たんぽ」異聞
    Column. 1 論文とはどんなもの?
    Column. 2 研究には4種類ある
    Column. 3 画像がヘンな論文たち
    Column. 4 タイトルの味わい 研究者の矜持
    あとがき

  • こんなにオモシロ論文があるなんて!
    秀逸な表現、語彙センスでどんどん読み進めたけど
    最後の「あとがき」で、
    単純に面白かった!な感想ではいられなくなった。
    湯たんぽ先生の失意は想像に余りある。

    特に、女子高生と「男子の目」は、その後の研究にも興味あるなー

    ーーー
    ・ジュリーが歩きまわると火事よけになる
    ・ジュリーにアウト近いうちにいいことがある
    などといった、もはや拍子木とか福の神としか思えないような、神様的な噂まであったのである。13

    20代の血気盛んな男女が、調査のためとはいえカップルになるとは。これがアニメとかだったら、完全にくっつくパターンじゃないか!28

    論文て、真面目な文章のなかに、ふとこういう決めつけみたいなひょうげんがたまに出てくるところもおもしろい。97

    そんな環境に中高6年間置かれたおかげで、大学に入るころには、女性となにを話していいかわからない体になっていて、女性と普通に話せるまで、丸4年かかってしまった。100

    そんな先生に、「湯たんぽの魅力とは?」という、非常に単純かつ答えがなさそうな質問を、バカのふりしてうかがった。211

  • 古今東西のへんな論文を集めた本。誰の役に立つこかもわからないへんな論文には、下心もなく、純粋に探求する研究者の生きざまがあった。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。漫才師「米粒写経」として活躍する一方、一橋大学・早稲田大学・成城大学で非常勤講師もつとめる。早稲田大学第一文学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。文学修士。日本初の学者芸人。ラジオのレギュラー出演のほか、雑誌連載も多数。主な著書に『これやこの サンキュータツオ随筆集』『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』『ヘンな論文』『もっとヘンな論文』(以上、KADOKAWA)など。

「2021年 『まちカドかがく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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