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Amazon.co.jp ・マンガ (138ページ) / ISBN・EAN: 9784046821461
作品紹介・あらすじ
大正時代の日本で暮らす小さな魔女の物語。
大正時代の日本と西洋の魔術。 異なる文化を繋ぐのは 嫌われものの魔女でした。
感想・レビュー・書評
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けしてやさしくはないけれど、腕まくりしながら見届けたくなる小さな魔女のものがたり。
本作『大正忌憚魔女』は大正時代の日本へ異国から単身旅立った、小さな魔女「夜迷」を主人公とした童話的な物語です。彼女は人々の奇異と偏見の目に晒されつつも、確かな理解者を得て日夜奮闘します。
ただしタイトルに入るのは不思議なお話を意味する「奇譚」ではなくタブー視される「忌憚」の方でした。
その名の通り、魔女が大衆から受け入れられることの難しさが、物語の冒頭から突きつけられます。
奇妙さが心をくすぐる表紙絵からわかるように、欧州から持ち込まれた魔法は極東の地でも確かに息づきました。
善良な夜迷は故郷の魔法を再現し、故郷と現地、世のため人のために尽力します。
しかし、彼女のがんばりが魔女の悪評を裏付ける形になってしまうのは皮肉なことにほかなりません。誤解を跳ね返して受け入れてもらうのも並大抵のことではありません。夜迷の生活様式も魔女らしく、日本人とはややなじみません。
ただし、展開が重苦しくならないための工夫も施されています。魔女に向けられる悪意や奇異の視線を絵柄で和らげ、理解者を得たことによる希望を垣間見せる筋運びと雰囲気づくりが絶妙に調和していました。
夜迷を見守るように紡がれたナレーションはさしずめ、あなたは決して孤独ではないと教えてくれるかのようでした。
それはというもの、夜迷が異国で得た協力者の女学生「雅鳳麟」の気風が良かったのです。
彼女は、誤解があってもすぐに切り返して率先して頭を下げられる魅力的な麗人でした。頼もしさと竹を割ったような性格とさばさばとした言動が眩しかったです。学術肌で好奇心旺盛なのも、研究者である夜迷との相性を良くしています。
対する夜迷は礼儀正しくて一生懸命なのですがおどおどとした少女でした。
それは人の目をうかがうことに慣れていい子にならざるを得なかった裏返しとも言えて、なんとも切ないです。
ただし、彼女は誰かを恨むことができる子ではありません。ここぞという時に大切な人を守るため踏み込める勇気を持っているので、物語の主人公を務める素質は十分といえるでしょう。
補足すると、麟の方も我が意を通すあまり、孤高のスタンスを取りがちな気ままな少女です。
互いの気負いと気後れがあり、言葉が噛み合わなくとも友を欲したのは麟も同じでした。
よって、このふたりは早々に相互に思い合う関係になれます。出会うべくして出会った、素敵なお友達同士なのではないでしょうか。
以上。
本作のテーマは異邦人が誤解や先入観を乗り越え、いかにしてコミュニティに受け入れられるかというものです。
相互理解は人類にとって普遍の課題ですが、人の心が十人十色なこともあって絶対的な解法はないのでしょう。
そのため全四巻を通して夜迷と麟は確かに救われましたが、課題は残る形で締めくくられます。
ある種、真摯でした。むしろ、大正に限らず「令和」を生きる我々の心にこそ、それら課題は残り続けるので。
麟の紹介によって出会い、夜迷に力を貸してくれた作家であり師匠でもある「影藤硅」先生にせよ、集団と個人を区別して率直に意見を述べるタイプです。偏屈で仏頂面ですが道理をわきまえ、理不尽に抗うことができる頼れる大人でした。
魔女が嫌いなら嫌いと面を向かって言ってのける影藤先生のスタンスは確かにデリカシーの欠如ですが、ある意味で誠実と言えます。理詰めで思案したうえで、まずは対処療法として夜迷への誤解を解くよう住民に提言を行ってくれました。
先生の公平な立ち位置は、ふたりの少女と並んでこの作品のあり方を決定づけたと言ってもいいかもしれません。
すべてが玉虫色では収まらない、ここにいると決めた以上は軋轢から逃れられない。
だけど、目に見える人と人とのつながりは、顔の知れない大衆の心に立ち向かう上での糧になった。そういうことです。
総じて、自由という新風が吹き込みつつも現代と比べれば遺風が残る狭間の時代ならではの趣の漫画でした。
絵本のような画風である以上、大正時代の厳密な時代考証を避け、ぼかしてもよいと思ったのも確かです。
ただし、描かれた範囲では路面電車など都市の華やかさと雑然とした下町の風景を共存させていて当時の雰囲気を巧みに切り取っていました。
むしろ、当時の人々の意識を美化せず多少悪意は割増しながら、納得いくよう描く姿勢を積極的に評価したい所存です。
また、雑貨店や骨董市のように思える、雑然とした中に確かに輝く宝物が見え隠れする絵柄は好みでした。
へんてこりんとさえ評せる、奇妙な魔術の産物のビジュアルセンスも魅力的です。
どう語るべきかは一巻時点の情報からではいささか足りませんが、厳しくも的を射た意見と優しい対処が歩を同じくしてやってくるので不思議とリアリティがあったりもします。
さて、二巻からは大衆の視線はいったん脇に置いて。
ここからは夜迷はもちろん、麟もまた、それぞれが向き合おうとしている問題にも焦点を当てていきます。
しっかり者の彼女たちも等身大な少女であり、人並みの不安に涙することがあるのだと教えてくれました。
そしてその上で前を向く希望ある姿を、きっと読者に向けて示してくれるでしょう。詳細をみるコメント0件をすべて表示
著者プロフィール
うさみみきの作品
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