スタァ・ミライプロジェクト 歌姫編 (MF文庫J)

  • KADOKAWA (2024年6月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784046837028

作品紹介・あらすじ

バズを目指し日夜動画を投稿する配信者たち。中でも己の歌声で人々を魅了する少女たちは、新時代の歌姫を目指し日々新曲をアップしていた。
その頂点に立つArielという歌姫は社会現象になるほどの人気だが、その実像は謎に包まれていた。
しかし――。
「Arielが……死んだ?」
歌姫に憧れながらも、視聴するだけでいたごく普通の少女・七音は突然のニュースに目を疑う。しかも彼女が出演するはずだったイベントの代役を探すオーディションも告知され……。
もしかしたら受かるかもしれないし、会場で自分の推しに会えるかも!と軽い気持ちで応募をした七音。
だが、その実態は本当の「生き残り」を賭けた死のオーディションで……。
――――皆様ようこそ、【少女サーカス】へ。
――――生き残った者こそ、次の歌姫です。

感想・レビュー・書評

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  • 内臓は醜いと決まっている。だからこそ、愛と狂気と美しさはここに宿る。

    過剰な人体損壊と少女の残酷さを活かし切った綾里節ここにあり、渾身の一冊でした。
    今を生きる最前線、虚構の歌姫、企業とインディーズの狭間――、彼女たちは夢に生き、夢を見せ、夢そのものである以上はいずれは使い捨てられる。だけど尊い、だから尊い。犯人探しはついでかな?

    そういったわけで本作『スタァ・ミライプロジェクト 歌姫編』はいわゆる「デスゲーム」ものです。
    加えて、2020年代では当たり前になった二次元のアバターを纏った配信業・歌姫を最大のテーマとして置いています。
    ネット空間の匿名性は一応の盾になるものの、ファンとの双方向交流がもたらす可能性と危険性は、もはや言うまでもないでしょう。

    読み始めるにあたって予備知識はあってもなくてもいいけれど、「転生」と言われてピンとくる方なら入りやすいです。
    実在の有名配信者や歌い手をモチーフにしたであろう登場人物も数名いますが、元ネタから大きくずれているので安心してください。キャラ立ちは強烈ですが、こういうタイプいるよねって普遍性への共感の方が上回るかもしれません。

    さて、誰もが夢を見ることができる時代になって久しいけれど、視聴者数、チャンネル登録者数という言い訳のできない数字を前にすればそれすらおぼつきません。
    底辺配信者はもちろん、それぞれビジネスモデルを掲げるものの伸び悩む中堅も現実を思い知らされてばかりでした。
    数多くのファンを抱えるトップ層であれ、どこまでも等身大で切なる悩みを抱えています。

    ならば、トップに立ってみてはいかが? と、誘いをかけるのは少女を夢に導いた「時計兎」の役割です。
    デスゲームの案内人に沿っているかはともかくとして、(悪)夢の案内人にはふさわしい配役でしょうね。
    ルールとしては、現実とは孤絶した謎の空間に招聘されたネット配信者たちが生き残りを目指す。
    勝ち残ったたった一人には、世間を席巻した絶対の歌姫「Ariel」の後釜となる玉座を約束しよう、というものでした。

    この際、直接の殺し合いを誘発するにしてはやや迂遠で困惑が先立つような、ゲームの内容をどう解釈するかもひとまずの見どころでした。特に重要な三つのルールと、付随する四つのルールが至ってシンプルなのも首のひねりどころです。

    おっと、ひねり過ぎて首を落とさないように気を付けてくださいね?

    会場での死と同期して、現実空間でも敗者が死亡するのはこの種のゲームの王道だとしましょう。
    ただ、本作の特徴として、アバターとしての遺体が会場に残り続けるのもポイントです。どれだけ二次元の幻想で着飾っても、お前たちは臓腑の詰まった袋だよ? だ、なんて誰かさんの嘲りの声が聞こえてくるようでした。

    そこは開幕を見た瞬間、納得いただけるでしょうが、時計兎をはじめとしたゲームの運営陣は間違いなく悪趣味です。
    作中で何度も言及されている通りに、間違いなく能力も思考もまともではありません。常識では測れない超常存在です。
    ただし、彼らは最高の歌姫を選び出すにあたって将来性をはじめ複合的な要因、いかにがむしゃらに夢にしがみつくかという姿勢を見るので、一定程度の公平さは保証されています。発想次第では、ルールの横紙破りすら認めます。

    と言いますか、これ自体はネタバレされたからと言ってどうこうという話ではないのであえて申し上げておきます。
    彼らの正体は、面白いものを見たいというネット空間における集合無意識の化身のようなものらしいのです。
    現時点では彼らをどうこう語っても仕方がないのでしょうね。
    誰もが持つ、露悪趣味の権化です。私たちと同じです。でも高く尊いものを望んでもいます。それも私たちと同じです。

    ところで、どんなに美しい少女でも一皮むけば臓物がむき出しというのなら、確かにその通りでしょう。
    しかし、内臓をむき出しにしたまま歩いている人間はいません。
    そしてこの作品は人間のハラワタ=本音が醜いとかいう、当たり前の結論で終わることはありません。
    だってこの物語を書いているのは他ならぬ「綾里けいし」先生ですから。

    誰もが目を背けたくなる死体は、確かにそれ自体は醜いままです。
    けれど私たちの目を惹きつけたまま、視線を外せなくさせてくれます。
    「死」という絶対的な停止とともにやってくる亡骸の描写は確かに鮮烈で無惨です。
    しかし、清濁では括れない彼女たちの生きざまとは関係なく存在する、ただの飾りに過ぎないとも思わせてくれます。

    結果として、諦念と絶望に満ちて、それでも再起を図ろうとする彼女たちの意志は切なくも、尊いのだと確信できました。死と同時に人は完結するのだと教えてくれます。決して綺麗とは言えない彼女たちのあがきが映えるわけです。
    「綺麗は汚い、汚いは綺麗」――シェイクスピアを引くまでもなく、自明の理なのでしょう。

    また、綾里先生のキャリアはミステリーから始まっただけあり、本作もその色合いが強めです。
    一人につき一能力を与えられる中、参加者のうち誰かの犠牲を前提とするような悪趣味な仕掛けを発想と組み合わせでどうクリアするか? そして協調を重ねた果てにどこで切り札を切るか? 蹴落とすか、出し抜くか、裏切るか? 
    ゲーム会場から出るインターバルが置かれるというのもポイントで、盤外戦も駆け引きの要素として加わってきます。

    それらデスゲームに求められる予想外の展開はさすがに堂に入ったものといいますか、まさかの結末に驚かされました。
    ただし、誰が生き残るかより、前述したグロテスクで容赦のない遺体の描写も相まって、眼前の絶望的な状況をどうクリアしていくかに精一杯にならざるを得ないのが最大の落とし穴であったわけです。

    これにはいいこともあって、嫌な展開が真相を遠ざける心理的迷彩として機能するため、探偵役を務める主人公視点に全面的に乗っかれるわけです。謎解きに邪魔されず、等身大でわかりやすい主人公のドラマに注視することができました。
    よってレビューの冒頭で申し上げた通り、犯人探しはついでかなって印象になったわけです。

    犯人? いや、この場合の犯人ってダレなんでしょうね? その定義からして至難な気がするわけです。
    時計兎たちが視聴者の化身であるのなら、読者もある意味では共犯者ですから。名も無き消費者の集積こそが世界であるのなら、ページを読み進める度に間接的に犯行に加担させられているかもしれません。

    この手のデスゲームはどうせ皆殺しになるんだろ? って読まずに冷めた感想を送る方もいるでしょう。
    ネタバレはしませんが、その点で言えば一定の意外性はありました。
    合わせて、わりと読者目線と黒幕目線がダブるのがグロテスクで良かったと皮肉を返してきます。
    予想外を求めているのは誰だって同じです。所詮は他人事でよそごとなんです。

    ……いや、レトリックのいたずらはやめておきましょうか。
    読者は自分の悪意に気づいた上で、「自分は違う」と反論する権利を持ちます。それに、本書で言いたいことは五臓六腑を踏みしめた先にやってくるので、悪趣味だけに気を取られると本質を見失います。
    おのれが惹かれるものに、おのれのすべてを投じたい人はいるんです。

    なので本書の本領のひとつを挙げさせていただくと、それは作り手と受け取り手の関係性です。
    そちらをはじめとする数々の本領については、綾里先生が答え合わせをするかのようにあとがきで語ってくださっているので、ご自身の目で全文を確かめたのちに採点してみてください。
    私の答えとあなたの答えが同じなら嬉しいですが、たとえ同じだったとしてもあなたの答えはあなたにしか出せません。

    以上。
    まとめに入る前に、ネタバレを極力避けながらキャラクター造形に目を向けていくとしましょう。
    しがらみに満ちた人間関係、夢を追いかけつつ保身に走っている鬱屈とした現状、あるいは過去のトラウマ。いろんなものに絡め取られた果てに、後悔にまみれて死んでいく少女たちの姿には、無情ながらに心惹かれるものがありました。

    先ほどは「完結」と言いましたが、完結は完成ではありません。
    因果の糸がぷつりと切られるようなあっけなさもあって、願いが中途で断ち切られた未完成だからこその儚さが心に響いたのです。だからこそ、自分に正直に生きたり、本当の願いに気付けたことで満足して逝けた少数が輝くわけですが。

    内臓(本音)は隠したままでないと生きられない。でもあらわにされた時には解放感があった。
    そういうことです。
    それに狂気は狂気としてしか書けない。だからストレートにぶつけるという割り切りっぷりにとても惹かれました。

    参加者十名のうち、誰が一番好きかというのなら私も「たまちゃん」が好きです。
    一見すると捕まえやすい、わかりやすいキャラに見えて、捉えどころがなくて素敵です。
    読み返す度に彼女の本質はブレる気がします。狂気の一言では片づけられない、奇妙で危険な魅力を持った少女です。

    ところで、デスゲームものなのに「生き残るのは誰だ?」という王道の売り文句をしていないのは巻頭に登場人物一覧を置いていなかった辺りで明白ですかね。本作は結果ではなく、過程そのものに重きを置いている気がします。
    全員集合のピンナップが無かったのは、商業的にも大きなミスだったとは思いますけどね。
    せっかく魅力的なデザインが語られているのに、ビジュアルがない参加者が目立つのはいささかではなく残念でした。

    その一方で「白」を基調とした冷淡な絵を、効果的なタイミングで挿し込んでいるのは高評価です。
    読者としては世界から突き放されたような印象を受けて、心地よい困惑を味わうことができました。
    さんざんショッキングなワンフレーズを使ってこの作品を物語ってきた私が言うのもなんですが、少女たちの誇りや高貴さはしっかり出ているので本作は一面だけで説明できるわけではないのです。

    ありきたりな物言いは承知の上で申し上げます。どうかご自身の目で見極めていただきたい。
    本音を言うならもっと個別にキャラを語りたいのですが、私にはひとつの定義を送り出すだけで精一杯でした。
    また、どこかで語る機会を得られればいいのですけれど。

    なお、「歌姫編」と銘打たれているのでシリーズ化の構想もあったようですが、2026年6月現在では続刊はありません。
    しかし、第一巻だからこそ出せた火力は確かにありました。
    だから、読者それぞれにとって忘れられなくなる何かはあるはずです。他の誰でもない、あなたにとって特別になる鮮烈な情景や魂の慟哭が、きっとどこかに存在するはずなんです。
    だって私の場合は、“推し”というなんでもない軽い言葉に、本物の愛と狂気が隠されていることを教わったんですから。

    どうかあなたも内臓を揺さぶられてください。
    これはダブルミーニングなのですが、腹の中を曝け出した子たちのことは嫌でも好きになれるでしょうから。

  • 綾里けいし先生の作品を読むのも随分久しぶり…と思ったら、『B.A.D』シリーズ完結からもう10年も経ってるのか…。その後に読んだのも『ヴィランズテイル』くらいだし
    それだけに死体描写等は随分懐かしい気持ちに成りながら読んでしまいましたよ


    本作で扱われるスタァがヴァーチャル空間の歌姫というのは現代的だね
    今やテレビで活躍する者ではなく、インターネット空間でアバターを用いて活動する者がスタァとして扱われたって可怪しくない時代
    けれど、彼女らの姿はアバターだから視聴者に見えるその姿は仮初に過ぎず本当の肉体は別にある。現実には炎上等により引退に追い込まれる事は有っても、仮初の姿が危害に遭う事は基本的にない
    だからこそ、そんな歌姫候補達がアバターのままデスゲームに巻き込まれたら異常な事態と言えるし、アバターが受けた死が現実に反映されるなんて人智を超えている

    でも、別の考え方をしてみれば、アバターの姿を取った彼女らが歌姫としてスタァに登り詰める現代も実は人智を超えたものなのかも知れない。そこに超常的な神の手が関わっているとしたら?という前提は面白い
    エンターテインメントは誰かが操作しているのではないか?とは昔から邪推の対象となってきた部分では有るけれど、そこに本作はデスゲームを絡めたわけだ


    第一幕で描かれるのは純粋なファンとスタァ候補の遣り取りだね
    七音は歌姫に憧れつつもまだ何者にも成れていない。どちらかと言えば愛が強いファンに過ぎない
    七音が熱を上げる神薙も認知度は低い。あの活動を続けていても羽ばたける可能性は少ない
    でも、そこに有る二人の遣り取りはとても純粋。七音は歌を聞きたいと応援して、神薙は応援に向き合って歌って
    そこにスタァに通じる要素は微塵も無いけれど、それだけに人を好く、好かれた想いに応えるというエンターテインメントの原点的要素が詰まっている

    そう思えるだけにArielの死を契機として【少女サーカス】の募集が始まり、デスゲームへと至っていく流れは現実離れしているとしか言い様がない

    【少女サーカス】発表からのインターネット空間における反応は面白いものが有るね
    Arielの代役を死後すぐに求める発表には誰もが憤る。その光景は理解できる。けれど、センセーショナルな盛り上がりはセンセーショナルだからこそ一過性でありAriel自身は忘れ去られていく。彼女が残した動画は残ったとしても歌姫の死を悼む光景とは微妙に異なる要素を内包している

    だからこそ、異質に過ぎる【少女サーカス】に挑む者達が現れるのも自然の流れであり、そこで異質なデスゲームが行われても進行を遮る事はできないわけだ


    本作の面白さとなる要素の一つとして、リタイアした歌姫候補達の悔やみと追い込まれた心境が描かれている点だね
    既に退場しているのだから、その段階で彼女らの内面を描いても応援したくなるような親近感は沸かない。けれど、現実のヴァーチャル歌姫でも生じていそうな心の擦り切れ具合はエンターテインメントとして消費されるとはどのような意味かという点を余す所なく描いている
    言ってしまえば、このように追い詰められたのならばArielの死により空座となった歌姫になる為にデスゲームに挑む事もやぶさかでないと思ってしまうのも意外ではないと云うか

    あれらの描写からはヴァーチャルで活動していようと、アバターの殻を被っていようと、その内側には人間が居るのだと伝わってくるね


    デスゲームに登壇する事になった七音は意外な才覚を持つタイプだったようで
    歌姫に憧れつつもそれ以上の活動は殆ど出来ていない。その意味では歌姫レースにおいて最下位を走っていると言える。でも、得体の知れないコメントに歌えと強要された際に「一理、ある」と思考できるのは割りと普通ではない
    パニックによって思考を放棄しないなんてデスゲームに於いて最も秀でた才能と言っても良いかも知れない

    だからといって、死後に内面が描かれた歌姫候補達のように追い込まれていなかったわけではない。彼女もデスゲームに参加しても良いと思えるだけの自暴自棄が有った
    それでも彼女がある種の希望を持ったままに【少女サーカス】に挑めたのは偏に推しを守りたいという純粋な感情だけは捨てなかったからだね

    その点では七音はあのデスゲームにおいて、ジョーカーのような存在
    歌姫に成る事を第一目標と掲げて参加した訳では無い。他者を蹴落としたい訳でもない。純粋に神薙を守りたいだけ
    七音の心構えは他の者と違うから度重なるトラップや諸問題に対して的確な切り抜け方が出来る

    ただ、七音にとってどうしようもなかったのは他にジョーカーが二人も混ざっていた点か。皆が無事に脱出できるようにと七音が考えても、殺戮を望む者が混じっているなら抗いようがない
    七音がその時々で状況の最適解を選ぼうとも、他の者が状況を進めるなら歌姫候補は脱落していく

    それでも七音が確かに持つ強みであり、同時に神薙も持っていたのは推しに恵まれて欲しいという本当に単純なファン心理かな
    二人共追い詰められる形で参加した【少女サーカス】だけど、その果てに見定めたのは神薙が、または七音が生き残る結末
    ファンとしての在り様はデスゲームを切り抜けると同時に、最後のジョーカーであるArielへの対抗策と成るね
    Arielが渇望した純粋なファンを誰よりも体現した者達が眼の前に居るならばArielはファンが望む歌姫として自身を締め括る事ができる

    それは幾人もの死が生じてしまった後としては本当に今更な態度なのだけど、エンターテインメントを提供した者の死に様としては不充分だなどとは決して呼べないものだったよ


    まるで何事もなかったかのように舞台の幕は降ろされたのだけど、果たして本作の続きの物語は書かれたりするのだろうか?
    今巻を『歌姫編』と題してしまったなら次は別のジャンルを扱う事に成るのだろうけど、その場合七音や神薙はどう関わるのだろう?というか、七音と神薙のイチャイチャはもっと見たい気がしますよ?

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著者プロフィール

2009年『B.A.D ―繭墨あざかと小田桐勤の怪奇事件簿―』(刊行時『B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる』に改題)で第11回エンターブレインえんため大賞小説部門優秀賞を受賞し、翌年デビュー。主な著書に「異世界拷問姫」シリーズ、他多数。

「2022年 『偏愛執事の悪魔ルポ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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