エンバーミング・マジック 魔法を殺す魔法 (MF文庫J)

  • KADOKAWA (2024年12月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (328ページ) / ISBN・EAN: 9784046843432

作品紹介・あらすじ

目の前で女の子が車に撥ねられた。
その日、初めて僕は禁忌と知りながら一般人に魔法を使った。
彼女は助かったが、「破壊」以外の魔法が下手な僕は家入ナギを猫にしてしまった。
『魔法憑き』の人間は魔法を使えるようにならないと魔物になってしまう。

……このままだと、僕がナギさんを消さなくてはならない。

彼女に魔法を使えるようになってもらうため、師匠の千歌さんにも力を借りて特訓を始める。
だが、ナギさんが呪文を唱えても魔法は発動しない。
迫るタイムリミット、何かを隠す師匠、どこかちぐはぐなナギさん。
そして僕、斬桐シズキの空白の過去。

現代の魔法使いと少女の生き方を描く、退廃的ジュブナイルファンタジー開幕!

感想・レビュー・書評

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  • 言葉尻を捕らえる軽みと、言葉にできない空気の苦みと、それらをすり抜けるしなやかな猫の魅力が詰まっています。

    定番の「ボーイ・ミーツ・ガール」――、おあつらえ向きの運命の話だなんて聞いて斜に構えてみてもいいのですよ?
    想像以上に夢がなく、同時に未来もない「魔法」のある世界というかなり思い切った話ですが、それがいい。逆にいい。
    はい。ということであらすじと表紙、試し読みに惹かれて購入してみたわけですが個人的には大当たりでした。

    粗削りなところがあるとはいえ、これは大賞受賞も納得です。
    文字通り、するりと腕の中から抜け出てしまうような捉えどころがないヒロインと。
    輪にかけて芯が抜け落ちているようでいて、諦念と悲観を軸に男の子として意地を通し我も示す主人公「斬桐シズキ」。

    このふたりを中心として繰り広げられる会話が全編通してかなり面白かったのです。
    重心を捉えたと思いきや、いなされてくるりくるりと転回して展開するような相互の掛け合いがすてきでした。

    タイトル通り魔法が世界の裏側に存在する世界観なのですが、そちら自体には冒頭で申した通り「夢」がありません。
    一人一能力の能力バトル的な駆け引きや、派手なエフェクトのドンパチは期待すんなといったところでしょうか。
    物語のカギを握るのが魔法の成り立ちであって、個々の魔法体系に対する作者の関心は薄そうです。
    あとがきに書かれた作品の裏事情も事実その通りで、納得です。私の場合は、そのそっけなさに惚れたのですけどね。

    そういったわけで本作における魔法使いは斜陽の時代を迎えているようです。
    そのことあってメインキャラは軒並み若いのに、どん詰まりの限界集落のような閉塞感に囲われてうんざりしている節があります。もっとも前述した通りに主役ふたりの、とぼけた会話だけで乗り切っていけそうな魅力があるのですけどね。

    それとわりと話は壮大なようでいてミニマムなのですが、作品背景を考えれば納得といったところでした。
    世界観の中核を担うのが魔法なら、ストーリーの枢軸を占めるのが少年少女の出会いをきっかけに紐解かれる過去の事件の真相に他ならず。それこそ必然というものですから。ひねくれてるようで、意外と根っこは王道なのかもしれません。

    それから主役ふたりの脇を固める大人のおねーさんたちも、ライトノベルらしく華が重視というけれど。
    作品の雰囲気に沿わせて軽薄だけど、腹に一物抱えていそうで趣深い。
    それでいて、おねーさんその1な師匠が優しく主人公たちのことをカバーリングしてくれていたってわかるのが心憎い。
    本人は真正面からなんの衒いもなく全力ですっとぼけましたがなにか? って感じでモーマンタイ。

    言葉遊びはそこそこに、話は変わって。
    ヒロインの魔法属性が「猫」ってのは面白いですね。変身魔法なのでサービスシーンも兼ねて服が脱げるのはご愛嬌か。
    そのため、変身に独特の生々しさがあって現実感を高めてくれるのがなんかいいなと思いました。
    反応全般がとぼけてるのと、血色を薄めに描いたイラストが醸す雰囲気もあってエロって感じはさほどしませんけどね。

    ところで言ってはなんですが、私は変身で服の着脱がセットになってない作品はちょっと甘えなんじゃないかなって思う派閥(※ほかの構成員が誰なのかは知りません)の人間です。実はここだけで評価を上げた部分があったりします。
    重ねて申せばサービス云々じゃなく、コレがあるとリアリティが増すのでなかなか外せないと思うんですよ。

    ええ、コミカルは元よりシリアスにも流用できる魔法ってのが見逃せないのです。
    たとえば場を改めるユーモラスだったり、もしくは自罰的な痛々しさだったりに、丸裸はよく効きます。
    その都度情景と合わせ、ヒロインの本音を引き出すための演出としてこの上なく働いてくれてる気がしました。
    結果、ヒロインの「ザ・少女」って感じのキャラ造形に内も外も「猫」なテイストを与えてくれて大満足なわけですよ。

    主役ふたりのキャラ造形の完成度を高める上で、「猫」、ここは大きい。

    ひるがえって、一巻のラスボスは通り一遍な主張はわかるのですが、どうも自身のエゴが見えてこないのが痛いなと感じました。こちらは正直言って「お前、おもろないんじゃ」って関西弁で言いたくなってしまいます。
    まぁ、ぜんぜん本調子ではないことと、まだまだ引っ張る余地があるというメタ事情を言ってしまえばそれまでですが。
    是が非にでも目的を成し遂げたいという狂気なり過去なりが見えて来ず。必然、負ける気もしませんでした。

    一応擁護しておくと、主人公ふたりの過去の真相に話を絞る上で現時点であまり焦点を当てるべきではないと判断された可能性はあります。狙いは当たっていると思いますし、作品の雰囲気に沿ったキャラをしているのも悪くはないです。
    一巻時点にして二巻の刊行は決定しているわけですしここはひとつ、やや長い目で見守らせていただくといたしますね。

    以上。
    総評としては、意外と王道でかっちりまとめています。
    軽薄な皮相をめくると、思ったよりも救いのない真実が隠れていました。
    けれど、そこで足踏みを続けることなく主人公が意志を示して当座の未来を掴み取った流れがグッドでした。

    正しく青春ビターテイスト・ジュブナイルファンタジーだったことになります。
    それと合わせて「謎」が紐解かれると同時に、このキャラクター造形に至った理由を読者に一気に悟らせ、納得させる流れも絶品です。とみに優れていました。その辺の鮮やかさについて、まこと素晴らしいと評する次第です。

    続いて、幻想的だけど痛々しい印象も受ける魔法によるデコレートを加えての情景描写もお上手でした。
    淡々として、寒々しさも感じるなど、正しく退廃美な小説だったと思います。
    タイムリミットの明示もあって、じりじり真綿で首を絞めるような焦燥感もなかなか描けていたのではないでしょうか。

    また、本作は世界の滅びが目に見えているような絶望とは無縁な一方、今日君がいなくなっても世界は回るよと断言されるような無情感が先に来る小説です。
    なので先述した通り地味に嫌らしい部分もあるのですが、読後感はかなり良かったです。

    軽快と軽薄の両方に当てはまるような、“軽い”会話もそちらを和らげる上でよく働いてくれていたことになりますね。
    その軽さは現状を笑い飛ばして先に挑んでいくための励ましであるとも、乾いた笑いで現状を追認する虚勢であるとも。
    両方に取れますから。ゆえにこの小説は、この掛け合いでなければ成り立たないと断言させていただく次第です。

    P.S.
    作中でちょっと面白い考察をされていたのが気に入りました。
    内容は、日本人が生まれてまず最初に出会うであろうあのヒーローと悪役の関係についてです。
    原作者の見解は出ているのですが、それを承知の上で作者が主人公の口から語らせた答えががむしゃらで面白い。

    あと、夢いっぱいな魔法社会の喩えに『ハリー・ポッター』が引かれていましたが、アレも実像としては進歩なく停滞し続けている魔法限界集落の話と捉えられなくもないのです。性格が悪いようですが、クスッと笑っちゃいました。
    本作と重なる部分があって、これってブラックユーモア? ってなりましたから。

    と。後者は私見なので否定されるべき考えとして、ほんのり甘いからこそ苦みも引き立って癖になるのも確かですよね。
    本作は、ブラックなコーヒーを期待していると違うけど、砂糖たっぷりというほどには甘くはなくて。
    まさしく大人と子供の境にあるような、甘苦と猫を共にするファンタジーといったところになるのかもしれません。

  • 『エンバーミング・マジック 魔法を殺す魔法』は、死と魔法という相反する概念を同じ場に据えながら、そこに静かな尊厳と揺るぎない希望を見いだしていく物語だった。魔法が万物を可能にする万能の象徴ではなく、むしろ“奪ってしまう力”として描かれる本作の世界には、どこか冷たい陰影が差している。それでも、登場人物たちはその暗がりの中で確かに前へ進もうとする。そこにこの物語の強さがある。

    エンバーミングという行為が「魔法を止める手段」となる設定は、単なる特殊能力としてではなく、死と向き合う技術そのものに光を当てている。誰かの最期に触れ、残された者の痛みと向き合うからこそ、その手は他者の未来を守る力に変わる。とても静かなのに、圧倒的な重みを感じる瞬間が何度もあった。

    物語の核には、喪失を抱えた人々がどう再び立ち上がるかというテーマがある。痛みは簡単に消えないし、過去は取り返せない。けれど、失われたものと向き合う過程で、彼らは「まだ守れるものがある」ことに気づいていく。その姿は決して派手ではないが、一歩ずつ積み重ねるような強さがあり、胸の深いところに響く。

    そして読後に残るのは、陰りではなくほのかな光だ。絶望を背景にしながらも、物語は“生きていく”という意志を静かに肯定してくれる。死を巡る世界で紡がれるこの小さな希望の灯りこそ、本作の最大の魅力なのだと思う。

  • 現代に生きる魔法使いのお話としての雰囲気が滅茶苦茶良い。ルールを作りすぎずに自由に、それでいて不自由さを感じさせられる塩梅なのが癖になる。不思議さを出しつつもどこか退廃的、それでいて寂しさもある。現代魔法ものという空気を綺麗に演出できてる!

    主人公・ヒロイン共に周囲から隔絶されたような印象を与えながらも意外にもいい意味で現代人らしさがあるのがまた良い。激しさはない会話パートでも2人が生き生きとしてたように感じる。あと猫関連の魔法がかわいい。

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