「捨て子」たちの民俗学 小泉八雲と柳田國男 (角川選書)

著者 :
  • KADOKAWA/角川学芸出版
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本棚登録 : 65
レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047033986

作品紹介・あらすじ

柳田國男が幼い頃、妄想した虚構の母。小泉八雲が拘泥したジプシーの血筋。彼らは何故、仮構の人生を夢見ずにはおれなかったのか。民俗学者たちを呪縛する不可解な「捨て子」意識を手がかりに「民俗学の起源」を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • さんざ愛読しておきながら、最近になってようやく気付いたのだが自分は大塚氏の大学の後輩だった。図らずも自分の趣味嗜好が何に由来していたのか、答え合わせが出来てしまった。

    [more]
    それでは虚構の血統を捏造しようとしたハーンの動機はいったいハーンを何者たらしめたとぼくは考えるのか。/それは民俗学者である。/ハーンの血統幻想は、ハーンを民俗学者たらしめた。 p18


    つまり本稿は、この国の民俗学が来歴否認者によって創出されてきたという一つの具体例としてラフカディオ・ハーン及びこの国の民俗学を理解していこうとする試みである。 p19

    ラフカディオ・ハーンの愛好家には今さら指摘するまでもないが、アメリカ時代のハーンはシンシナティの新聞記者としてまず頭角を現す。といってもそれは今の我々が小泉八雲の名から連想する甘美で幻想的な言説とはかなりかけ離れていると言わざるを得ない。例えばハーンのアメリカの記者時代の雑文を集めた『アメリカ雑録』から収録作品の題名だけをいくつか拾ってみると、「皮革製作所殺人事件」「人間遺体の利用に関する覚え書」「毒殺の歴史」といったものが目につく。実を言えば、ハーンが新聞記者としてまず注目を浴びたのはこのような「殺人」や「したい」の記事の生々しい描写ゆえなのである。 p48

    一つ一つの語り、独り言としての説話を一つの意味=全体に向かわせる制度こそが「民俗学」に他ならないからだ。 p150

    僕は柳田、ハーン、そして折口信夫といった起源の民俗学者たちが一様に来歴否認者、すなわち自分の出生を捨て子物語として語らずにはいられない人々である、と本書の始まりに記した。民俗学はその意味で常にファミリーロマンスとして構想される運命にある、とも。つまり私的なファミリーロマンスへの衝動を「国家」に着地させることが民俗学の本質なのである。 p195

    それが家との関わりの中の私の発見にとどまれば私小説などの近代文学となり、国家や民族という大きな物語の捏造に向かえば民俗学となるのである。西インド諸島時代例外的に失敗作とされた小説を残した以外は「再話」と批評的な文章のみを残し、「日本」を語るに至るハーンは、その意味ではやはり民俗学者であったといえる。 p221

    【目次】
    1.民俗学とファミリーロマンス
     ラフカディオ・ハーンと「ジプシーの血」
     民俗学と「貰い子妄想」
     起源の民俗学と民俗学の起源
    2.民俗学のダーウィニズム的背景
     殺人事件の描き方
     民俗学と人相学
     天皇制イデオロギーは「遺伝」するか
     ハーンはなぜ「君が代」を論じたか
    3.ナショナリズムと無意識
     「勇子」の気持ち
     「無意識」と民俗学
     ハーンの「心」、漱石の「心」
    4.探偵と民俗学
     犯罪民俗学という隘路
     異常心理と伝承
     探偵という方法
    5.偽ハーンの来歴否認
     『一異端者への手紙』を読む
    6.捨て子のための民俗学
     ウルフ・チャイルドとゴースト・チャイルド
     捨て子の民俗学

  • 父は自分が父親から捨てられたことをいまでもひきずっている。捨てられた、というよりは、存在を歯牙にもかけられなかった、の方が正確かな。だから同じ家で暮らす子供たちを見捨て続けた。なぜそんなことになったのだろう?

    小泉八雲も柳田圀男も興味深い人ではあるけれど、私の知りたいことを知るには、明治以降の家制度や婚外子差別、団塊の世代についての本の方がいいかも。

  • 大学図書館380.1o88


    習慣が遺伝するって頭おかしいんじゃないかとは思いますが、この本はもっと冷静に読むべきなんですよね。ラフカディオ・ハーンがそもそもファミリーロマンスを持っていて日本の文化に親近感持ってしまったと。日本の文化というのは没個性的な「我」であり、それは色彩が違うだけで西洋の自我の考え方と同じもの。(個人的に賛成できない)

    民族意識の由来は血液だよ、って言説はやっぱり論理的に考える前に拒否反応出るな。本当はそういう態度はダメなんだろうけど。

    そういえば獲得形質の遺伝がとうとかってどこかで読みましたがあれ結局獲得形質の遺伝はする可能性あるんだったかないんだったかまだわからないんだったか…

    集合意識みたいなものって結局は抑圧なんじゃないかと思います。

  • わたしも、よく橋の下って言われたような気がします。

    大塚 英志は、どうしても最近は政治的な語りになってしまいますね。これも、小泉 八雲と柳田 國男のファミリーロマン的な言動をみていく本なのですが、どうしても、それが、国粋主義的な方に向かう部分を必死に否定しています。

    まあ、真面目な本なので、ウソを紛れ込ませてはいないとは思いますが、大塚さんの本だからねぇ(笑)偽ハーンの話とかは、けっこう出来すぎていると思ったり。
    まあ、最終的には、「本当のこと」を知りたければ、自分の足で調べなさいということでしょう。もしくは、この与えられた物語で納得するか。

    うーん、小泉 八雲も、柳田 國男も、あんまり読んでいるわけではないですが、けっこう好きなんですよねぇ。でも、その好きな部分というのは、たしかに、大塚 英志のいうように、「日本人」という幻想に支えられている部分はあるのだと思います。

    でも、だからどうなんだろう?

    とも、思ってしまうのは、あんまりにも無責任で、モラルがないのかな?

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著者プロフィール

1958年生まれ。まんが原作者、批評家。国際日本文化研究センター研究部教授。まんが原作者としての著書に『多重人格探偵サイコ』(田島昭宇画)『黒鷺死体宅配便』(山崎峰水画)、民俗三部作『北神伝奇』『木島日記』『八雲百怪』(森美夏画)、『恋する民俗学者』(中島千晴画)など。本書に関する批評として『「捨て子」たちの民俗学‐‐小泉八雲と柳田國男』(角川選書/第5回角川財団学芸賞)、『公民の民俗学』(作品社)、『怪談前後 柳田民俗学と自然主義』『殺生と戦争の民俗学』(ともに角川選書)などがある。

「2021年 『恋する民俗学者1 柳田國男編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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