テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方 (角川oneテーマ21)

著者 : 佐藤優
  • 角川学芸出版 (2009年2月10日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047101777

テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方 (角川oneテーマ21)の感想・レビュー・書評

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  • 秋原原無差別殺傷事件、相次ぐ政権の崩壊…。二〇〇七年から「最悪の年」といわれた二〇〇八年にかけて起きた国内の数々の事件・出来事や『蟹工船』の分析を通じて時代を読み解く筆者の分析力に脱帽です。

    この本はかねてから読みたかったのですが、つい後回しになってしまいました。右巻、左巻 の同時刊行になっていて、ここでは左巻を紹介させていただくことにいたします。僕が読んでいてなるほどなと思った箇所は全八章のうちの一、二、そして七章の三つの章で、第一章の『国家と社会と殺人』では2006年の秋葉原の事件と宮崎勤、陸田真志、山崎義雄の三人の死刑執行がなされたという箇所で、『国家』というものの暴力性と『思想事件』に関するインテリジェンスチームの発足を内閣に提案し、

    第二章の『「蟹工船」異論』では「蟹工船」ブームに沸いた2008年に、あの小説がいかに旧ソ連式の共産主義を礼賛し、現場監督の浅川の人物設定や、物語全体や細部の描写の不備を葉山嘉樹の『海に生くる人々』との比較を通じて、あの小説の矛盾点を指摘している部分には『あぁ、なるほどな』という意味でうろこが落ちる体験でございました。そして少し飛んで第七章の『支持率2パーセントでも政権は維持できる』という箇所では当時のエリツィン政権の支持率があるときに実質2パーセントで、それでも彼の政権が国民投票で選ばれたという事例を紹介しながら、当時の安倍政権、福田政権を考察する筆者の鋭さは、いつものことながらすばらしいものがありました。

    この本には前編にわたって、新自由主義が生み出したものについての功罪が記されていると思いますので、時間があるという方はぜひ一度お読みになっていただけるとありがたく思います。時間はあれから流れてしまいましたが、この本で『最悪の年』といわれた2008年が、今に至るすべての始まりに思えて仕方がないと、最近ではそう思っております。

  •  新自由主義をマルクスの視点から分析し、現在の政治情勢の推移する先に待っているかもしれない革命を阻止するという立場でまとめた論考のようだ。はじめに、秋葉原連続殺人事件と最近死刑を執行された二人の死刑囚に見られる共通点の分析からはじめ、「蟹工船」ブームに見られる現代の政治思想の行き詰まりを示し、国家の体現者たる官僚の内在ロジックを明らかにしている。
     死刑囚の内なる論理構造と新自由主義の思想の共通点や、同時代のプロレタリア文学に見られる現実性と文学性の違いなど、公開情報の中に潜むインテリジェンスみたいなものを表出させているのは面白い。
     ただ、日本社会の将来姿として農本主義を提案しているように感じたが、果たして今の人口を支えられるだけの国土が日本という国にあるかどうかは疑問だ。資源に対する閉塞感が日本を第二次大戦へのレールに乗せる一因だったと思うと、殷周の昔に帰るのは現実的ではない気がする。これが現実になるには、再び日本の国力が今の半分くらいになる必要があるだろう。

     明治維新以後140年以上の時間をかけて、日本人は少しずつ変化してきたのだと思う。著者は、国民が代わらない限り体制を変えても意味はないという趣旨のことを、他の人物の言葉を借りて主張しているが、それはその通りだろう。そして今後も変わり続けざるを得ないのだが、その方向性が明確ではないために迷走する。こんなとき、明確な指針を示す人物が現れれば、一気になびくこともあるのかも知れない。
     歴史の専門家ではないが、日本における革命は外部から引き起こされてきたと思う。草の根運動から湧き上がる革命は起きたことがない。百姓一揆を見ても分かるように、自分たちが変えるという意識よりも、お上に変えてもらうという意識が強いのだろう。だから現代でも、何か事件があれば教育制度や社会などのせいにする論調が生まれやすい。

     もしかすると、こういう気質の国には中央集権制は向いていないのかもしれない。なぜなら、行政には苦情を拾い上げる機能が求められることになり、それを中央官僚に求めることは酷だからだ。大きな政府を目指すとしても、大きいのは中央ではなく地方政府、ということになるかも知れない。。
     ところで、「JCのメンバーは、(中略)機会費用を失っていることになる。」という文章は、経済合理性の批判という論旨から考えて、なかなか面白いジョークだったと思う。

  • 安倍政権は、アメリカと衝突必死の「戦後レジューム」からの脱却を、集団的自衛権行使容認と防衛費増額のバーターで実現しようとしている。

  • 安倍一時政権で中国、韓国との外交が改善したのは、その時の外務次官が谷内正太郎だったから。
    新自由主義的な世界観ではアトム(原子)が基本おtなる。したがって民族や国家に重要性を置かない。司教国でない日本にとって新自由主義は決して有利な処方箋ではない。
    戦後レジームとは憲法9条と日米案z年保障条約がパックになった平和主義であり、人権を不可侵とするアメリカ型民主主義によって成立している。

    通常、インテリジェンス活動は国家によって統括されているが、日本えはそれがなされていない。戦後の日本が復興する過程でも、独自のインテリ限す期間が育たないように仕掛けられてしまった。しかし、国家が生き残っていくためにはインテリジェンスが不可欠である。

  • 昆明無差別殺人事件があり,テロリズムとはなにか?
    をしりたかったので、読んだ。

    佐藤優というヒトは,頭が良すぎるのか
    実に,散漫な文章構成である。
    これは,編集者が わるいのだろう。

    国家権力の本質が 暴力であることは理解した。
    それを,行使することは 国家権力が弱っている
    という指摘は わかりやすい。

    小泉の新自由主義による 格差の広がり
    第1期 安倍の 新自由主義から 保守主義に移行する
    といのが、非常に難しかったのだろう。
    そういう意味で シニカルな 福田が 
    あまり役立たずだったのは、
    何ともいえない話だ。

    小林多喜二の 蟹工船と 葉山嘉樹の 海に生くる人々
    の 図式的な 構図を 小林多喜二が つくるのに、
    葉山嘉樹は リアリズムに徹するが故に 道が鮮明である
    というのは,面白いが,
    この論題には 関係がないようにも見える。

    やはり,ロシアについてのアプローチは 
    専門的であって具体的だ。
    それにしても,マルキシズムというのが,
    影が薄くなっているのはよく理解した。

    これだけ長い 引用を多用する方法は 斬新に感じた。
    ブログの延長のような本にも見えたり,
    週刊誌のようにも見えたり、
    編集術が 安易な気もするが。

  • 著者は、秋葉原の無差別殺傷事件やその後に執行された死刑を取り上げて、暴力を独占しようとする国家の性格について考察をおこなっています。著者の議論のポイントは、国民の統合が弱くなると、国家の暴力傾向がより直接的な形をとるようになり、テロはそのトリガーとなる恐れがあるということです。また、小泉内閣のもとで推し進められた新自由主義を、ともに国家の結合に危機をもたらすものとして批判しています。その上で著者は、むき出しの暴力によって国家の統合がなされるような事態に陥ることを防ぐような方途を探らなければならないと論じています。

    著者は、小林多喜二の『蟹工船』がソ連にあまりにもナイーヴな希望を託していることを批判し、労働者の置かれている状況を冷徹に把握する葉山嘉樹の『海に生くる人々』を高く評価しています。また、権藤成卿の「君民共治」に基づく農本主義をみなおすべきだという議論を展開しています。

    著者の考えの方向性には賛同を覚えますが、やや議論が散発的で、著者がどのような日本の行く末を展望しているのか、あまり理解できませんでした。

  • 先の衆議院選挙で自民党が圧勝したことにより、政治の世界は再び「新自由主義」の傾向を強めることが予想され、そもそも「新自由主義」とはどのようなものか理解を深めたくて手にした本。

    著者の立場は序章で明らかにされている。新自由主義は、国家(=官僚により維持されるシステム)の暴力性を強化する傾向があり、一方で貧富の差の拡大、国家の弱体化、政治的無関心などをもたらすので、これに歯止めをかけなければいけない、というもの。この視点を軸に、様々な時事問題(鈴木宗雄事件・情報漏えい事件)や政治について分析・議論を展開していく。

    興味深かった箇所は、2007年の第一次安倍政権の分析。小泉政権が新自由主義的だったのに対し、それを引き継いだ安倍政権は、より保守主義に重心を移そうとしたが、最終的には新自由主義と保守主義という相反する路線の矛盾を解消できずに自壊したという点。今回(2012年)の安倍政権が、この過去の教訓を、どのように生かしていくのか気になる。著者の保守主義についての定義(以下引用)もなるほど、と思った。

    “保守主義は、過去の歴史的出来事や伝統から、特定の要素を抽出して、再構成し、国民を統合する物語を作り出す。知的に高度な能力が求められる思想である。”(160ページ)

    ただ、ほとんどの章の初出はWebマガジンで、個別の事件や出来事についての分析を集めた本という印象があり、新自由主義そのものについての論説があまり多くない点は、少し物足りなかった。

  • あとがきの「テロとクーデターを避けるために」がテロリズムの罠というタイトルを非常に簡潔にわかりやすく説明されている。
    第1章「国家と社会と殺人」、第2章「蟹工船」異論と第4章「農本主義と生産の思想」がより面白かったかな。
    全体として右巻きよりもはるかに読みやすかった。
    もう一度左巻きも読みなおしてみようかな。

  • 官僚出身だからなのか、
    国家・官僚とは暴力的存在である。というのには、ドキッとした。

    文中、半分くらいが別の本や新聞からの引用で、
    引用し過ぎなのでは?と思った。
    明記しないときちんと述べられないというのもあるのかもしれないが、
    著者の考えを読みたいのに、何ページにも渡って引用されるとがっかりする。

  • 右巻よりかは、ぼくの好みでした。
    ちょっと主観よりかなーって気もしますが、強烈に鼻につく感じではないので読めます。
    『蟹工船』読解は面白かったです。

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