テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方 (角川oneテーマ21 A 95)

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  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047101777

感想・レビュー・書評

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  • 秋原原無差別殺傷事件、相次ぐ政権の崩壊…。二〇〇七年から「最悪の年」といわれた二〇〇八年にかけて起きた国内の数々の事件・出来事や『蟹工船』の分析を通じて時代を読み解く筆者の分析力に脱帽です。

    この本はかねてから読みたかったのですが、つい後回しになってしまいました。右巻、左巻 の同時刊行になっていて、ここでは左巻を紹介させていただくことにいたします。僕が読んでいてなるほどなと思った箇所は全八章のうちの一、二、そして七章の三つの章で、第一章の『国家と社会と殺人』では2006年の秋葉原の事件と宮崎勤、陸田真志、山崎義雄の三人の死刑執行がなされたという箇所で、『国家』というものの暴力性と『思想事件』に関するインテリジェンスチームの発足を内閣に提案し、

    第二章の『「蟹工船」異論』では「蟹工船」ブームに沸いた2008年に、あの小説がいかに旧ソ連式の共産主義を礼賛し、現場監督の浅川の人物設定や、物語全体や細部の描写の不備を葉山嘉樹の『海に生くる人々』との比較を通じて、あの小説の矛盾点を指摘している部分には『あぁ、なるほどな』という意味でうろこが落ちる体験でございました。そして少し飛んで第七章の『支持率2パーセントでも政権は維持できる』という箇所では当時のエリツィン政権の支持率があるときに実質2パーセントで、それでも彼の政権が国民投票で選ばれたという事例を紹介しながら、当時の安倍政権、福田政権を考察する筆者の鋭さは、いつものことながらすばらしいものがありました。

    この本には前編にわたって、新自由主義が生み出したものについての功罪が記されていると思いますので、時間があるという方はぜひ一度お読みになっていただけるとありがたく思います。時間はあれから流れてしまいましたが、この本で『最悪の年』といわれた2008年が、今に至るすべての始まりに思えて仕方がないと、最近ではそう思っております。

  •  新自由主義をマルクスの視点から分析し、現在の政治情勢の推移する先に待っているかもしれない革命を阻止するという立場でまとめた論考のようだ。はじめに、秋葉原連続殺人事件と最近死刑を執行された二人の死刑囚に見られる共通点の分析からはじめ、「蟹工船」ブームに見られる現代の政治思想の行き詰まりを示し、国家の体現者たる官僚の内在ロジックを明らかにしている。
     死刑囚の内なる論理構造と新自由主義の思想の共通点や、同時代のプロレタリア文学に見られる現実性と文学性の違いなど、公開情報の中に潜むインテリジェンスみたいなものを表出させているのは面白い。
     ただ、日本社会の将来姿として農本主義を提案しているように感じたが、果たして今の人口を支えられるだけの国土が日本という国にあるかどうかは疑問だ。資源に対する閉塞感が日本を第二次大戦へのレールに乗せる一因だったと思うと、殷周の昔に帰るのは現実的ではない気がする。これが現実になるには、再び日本の国力が今の半分くらいになる必要があるだろう。

     明治維新以後140年以上の時間をかけて、日本人は少しずつ変化してきたのだと思う。著者は、国民が代わらない限り体制を変えても意味はないという趣旨のことを、他の人物の言葉を借りて主張しているが、それはその通りだろう。そして今後も変わり続けざるを得ないのだが、その方向性が明確ではないために迷走する。こんなとき、明確な指針を示す人物が現れれば、一気になびくこともあるのかも知れない。
     歴史の専門家ではないが、日本における革命は外部から引き起こされてきたと思う。草の根運動から湧き上がる革命は起きたことがない。百姓一揆を見ても分かるように、自分たちが変えるという意識よりも、お上に変えてもらうという意識が強いのだろう。だから現代でも、何か事件があれば教育制度や社会などのせいにする論調が生まれやすい。

     もしかすると、こういう気質の国には中央集権制は向いていないのかもしれない。なぜなら、行政には苦情を拾い上げる機能が求められることになり、それを中央官僚に求めることは酷だからだ。大きな政府を目指すとしても、大きいのは中央ではなく地方政府、ということになるかも知れない。。
     ところで、「JCのメンバーは、(中略)機会費用を失っていることになる。」という文章は、経済合理性の批判という論旨から考えて、なかなか面白いジョークだったと思う。

  • タイトルから内容がわからなかったですが、外交官としての経験や考え方がとても学びがあると思えました。ただ、それを持ってしてもロシアの行動や意図を予想することは難しいのだなと改めて。新自由主義の問題点について、それに伴い民族としての団結の低下という保守の逆をいく結果に帰結しているという指摘。官僚の気風(目の前から逆らう人、煩わしい人を消したいという感覚はとても腑に落ちる)、プロレタリア文学の比較が面白かった。

  • 絶対的貧困とテロリズムへの期待を生み出し、国家と社会を弱体化させる新自由主義の論理を読み解いた本。

    新自由主義は国家と社会が持つ暴力を加速させる傾向にあると、佐藤優さんは言います。無差別殺傷事件や国策捜査、マルクスなど、さまざまな視点から新自由主義がもたらす弊害について、本書は分析をしています。

  • 社会

  • "佐藤優さんの本は、時々読むようにしている。本書を読むと佐藤さんの視点からの世界をかいまみることができる。現在の日本の現状や領土に関する国家の視点、国家のあり方などが語られる。
    哲学や神学をもっと理解しなければいけない気持ちになる。思想をしっかり語ることができるような人物になりたくなる本。"

  • 安倍政権は、アメリカと衝突必死の「戦後レジューム」からの脱却を、集団的自衛権行使容認と防衛費増額のバーターで実現しようとしている。

  • 安倍一時政権で中国、韓国との外交が改善したのは、その時の外務次官が谷内正太郎だったから。
    新自由主義的な世界観ではアトム(原子)が基本おtなる。したがって民族や国家に重要性を置かない。司教国でない日本にとって新自由主義は決して有利な処方箋ではない。
    戦後レジームとは憲法9条と日米案z年保障条約がパックになった平和主義であり、人権を不可侵とするアメリカ型民主主義によって成立している。

    通常、インテリジェンス活動は国家によって統括されているが、日本えはそれがなされていない。戦後の日本が復興する過程でも、独自のインテリ限す期間が育たないように仕掛けられてしまった。しかし、国家が生き残っていくためにはインテリジェンスが不可欠である。

  • 昆明無差別殺人事件があり,テロリズムとはなにか?
    をしりたかったので、読んだ。

    佐藤優というヒトは,頭が良すぎるのか
    実に,散漫な文章構成である。
    これは,編集者が わるいのだろう。

    国家権力の本質が 暴力であることは理解した。
    それを,行使することは 国家権力が弱っている
    という指摘は わかりやすい。

    小泉の新自由主義による 格差の広がり
    第1期 安倍の 新自由主義から 保守主義に移行する
    といのが、非常に難しかったのだろう。
    そういう意味で シニカルな 福田が 
    あまり役立たずだったのは、
    何ともいえない話だ。

    小林多喜二の 蟹工船と 葉山嘉樹の 海に生くる人々
    の 図式的な 構図を 小林多喜二が つくるのに、
    葉山嘉樹は リアリズムに徹するが故に 道が鮮明である
    というのは,面白いが,
    この論題には 関係がないようにも見える。

    やはり,ロシアについてのアプローチは 
    専門的であって具体的だ。
    それにしても,マルキシズムというのが,
    影が薄くなっているのはよく理解した。

    これだけ長い 引用を多用する方法は 斬新に感じた。
    ブログの延長のような本にも見えたり,
    週刊誌のようにも見えたり、
    編集術が 安易な気もするが。

  • 著者は、秋葉原の無差別殺傷事件やその後に執行された死刑を取り上げて、暴力を独占しようとする国家の性格について考察をおこなっています。著者の議論のポイントは、国民の統合が弱くなると、国家の暴力傾向がより直接的な形をとるようになり、テロはそのトリガーとなる恐れがあるということです。また、小泉内閣のもとで推し進められた新自由主義を、ともに国家の結合に危機をもたらすものとして批判しています。その上で著者は、むき出しの暴力によって国家の統合がなされるような事態に陥ることを防ぐような方途を探らなければならないと論じています。

    著者は、小林多喜二の『蟹工船』がソ連にあまりにもナイーヴな希望を託していることを批判し、労働者の置かれている状況を冷徹に把握する葉山嘉樹の『海に生くる人々』を高く評価しています。また、権藤成卿の「君民共治」に基づく農本主義をみなおすべきだという議論を展開しています。

    著者の考えの方向性には賛同を覚えますが、やや議論が散発的で、著者がどのような日本の行く末を展望しているのか、あまり理解できませんでした。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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