脱原発を決めたドイツの挑戦 角川SSC新書 再生可能エネルギー大国への道

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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047315815

作品紹介・あらすじ

福島第一原発事故から4カ月足らずの2011年6月30日、ドイツは原子力発電所の完全廃炉を決めた。同国は、2050年までに再生可能エネルギーの発電比率を80%にするため、国を挙げて動き出した。脱原発だけでなく、脱化石燃料への挑戦である。なぜドイツはそれが可能なのか。日本の電力事情と比較しながら、脱原発に至る40年の歴史、電力完全自由化までの障壁、産業界の反応、国民の覚悟など、再生可能エネルギー大国へ突き進むドイツ・エネルギー政策の現状をレポートする。

感想・レビュー・書評

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  • (2016.04.07読了)(2015.07.10購入)
    副題「再生可能エネルギー大国への道」
    東日本大震災関連で3月に読むつもりだったのですが、4月にずれ込んでしまいました。
    東日本大震災に伴う福島の原発事故に衝撃を受けて、ドイツは老朽化した七つの原子炉の即時停止と2022年12月末までに稼働中のすべての原発の廃止することを決めました。
    ドイツには、17基の原子炉があるようです。
    脱原発に向けて、今後のエネルギーの安定供給をどうするのか。
    電力供給の現状はどうなっているのか。
    核エネルギーを使わないだけでなく、地球温暖化対策のためにCO₂の排出量削減にも熱心なドイツは、どうしようとしているのでしょう。
    ドイツでは、電力の自由化が始まっているようで、発電と送電の分離も行われているようです。送電が別会社でないと新規参入の発電会社が不利になるためということです。
    自国内で、電力が足りなくなる場合は、ヨーロッパの他の国からの輸入も可能ということです。
    自然エネルギーの利用では、太陽光発電が注目されますが、あまり効率のいいものではなさそうです。
    太陽光にしても、風力にしても、自然相手ですので、安定した電力の供給は難しいようです。そうなると、火力発電などの安定した電力供給手段をバックアップに取っておく必要はありそうです。

    【目次】
    まえがき
    第一章 なぜドイツは原発を捨てたのか
     イザー一号機停止!
     福島事故の衝撃波
     原発の素人の意見の方を重視
     ほか
    第二章 日本と大きく異なるドイツの電力市場
     誰でも電力会社を変更できる
     精算書に見るドイツの情報開示
     電力価格を検索してみた
     ほか
    第三章 エネルギー革命の全貌
     脱原子力は氷山の一角
     ドイツでも気候変動の兆候
     急拡大するエコ電力
     ほか
    第四章 ヨーロッパ電力市場の行方
     福島事故後も純輸出国だったドイツ
     単一化を加速するEU電力市場
     サハラ砂漠からエコ電力を輸入せよ!
    あとがき
    参考文献

    ●メルケル首相の演説(15頁)
    福島原発で、事態がさらに悪化するのを防ぐために、人々が海水を使って原子炉を冷却しようとしていると聞いて、日本ほど技術水準が高い国でも、原子力のリスクを完全に制御することはできないということを理解しました。福島事故は、私の原子力に対する態度を変えたのです。
    ●チェルノブイリ事故(24頁)
    ドイツ人が強い不安を抱いたのは、1986年のチェルノブイリ事故によって南部のバイエルン州を中心に、土壌や野菜、粉ミルクなどが放射性物質によって汚染されるという経験を持っていたからである。特に事故後の九日間は、政府から放射能についての正式な警告が出されなかったため、ドイツ人の間には「政府は、原発事故の直後には正確な情報を公表しない」という不信感が根強いのだ。
    ●電力会社の精算書(44頁)
    イエローの精算書には、電力がどのエネルギー源によって作られているかの内訳や、一キロワット時の発電を行うためにどれだけのCO₂が排出され、核廃棄物が出るかも表示されている。ドイツの電力会社は法律によって、こうした情報を表示することを義務づけられているからだ。
    ●自然(68頁)
    典型的なドイツ人は、自然を、人間が勝手に支配してよい対象とは考えない。むしろ自分を自然の一部と見なし、自然との触れあいを大切にする。自然の破壊や汚染には猛烈に反発する。
    ●倹約(70頁)
    彼らのメンタリティーの一つに、倹約好きということがある。お金に困っていない人でも、「ある商品をこれだけ安く買えた」ということを、うれしそうに自慢する人が多い。
    ●風力(126頁)
    日本では、将来の再生可能エネルギーの柱として太陽光発電に大きな期待がかけられている。これに対してドイツの再生可能エネルギー拡大計画の主役は、風力発電である。2010年の再生可能エネルギーの設置容量のうち、48%が風力だ。
    ●洋上風力(129頁)
    2022年までの12年間に設置容量が最も急激に伸びると予想されているのが、洋上風力である。
    ●太陽光発電は効率が悪い(146頁)
    2011年にドイツの電力消費者は、再生可能エネルギー助成のために、約1兆3500億円のコストを払ったが、そのうち、ほぼ50%が太陽光発電の助成に使われている。それにもかかわらず、太陽光発電が発電量全体に占める比率は、2011年の時点で3%にすぎなかった。
    ●炭素分離貯留(197頁)
    ドイツ政府と電力業界は、火力発電所で石炭や褐炭を燃やした後、CO₂を排気から分離して地中に永久貯蔵することによって、環境への排出を防ぐCCS(炭素分離貯留)という技術を開発している。

    ☆関連図書(既読)
    「私のエネルギー論」池内了著、文春新書、2000.11.20
    「激変する核エネルギー環境」池田清彦著、ベスト新書、2011.05.05
    「原発社会からの離脱」宮台真司・飯田哲也著、講談社現代新書、2011.06.20
    「内部被曝の真実」児玉龍彦著、幻冬舎新書、2011.09.10
    「原発・放射能子どもが危ない」小出裕章・黒部信一著、文春新書、2011.09.20
    「ドイツの憂鬱」熊谷徹著、丸善ライブラリー、1992.03.20
    「新生ドイツの挑戦」熊谷徹著、丸善ライブラリー、1993.07.20
    「住まなきゃわからないドイツ」熊谷徹著、新潮文庫、2001.03.01
    (2016年4月20日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    福島第一原発事故から4カ月足らずの2011年6月30日、ドイツは原子力発電所の完全廃炉を決めた。同国は、2050年までに再生可能エネルギーの発電比率を80%にするため、国を挙げて動き出した。脱原発だけでなく、脱化石燃料への挑戦である。なぜドイツはそれが可能なのか。日本の電力事情と比較しながら、脱原発に至る40年の歴史、電力完全自由化までの障壁、産業界の反応、国民の覚悟など、再生可能エネルギー大国へ突き進むドイツ・エネルギー政策の現状をレポートする。

  • ドイツの電力事情を理解するには十分。
    さらに3年経って状況はまた変化しているので、続報を欲す。
    ただ、日本の電力への提言は、周波数統一、というだけなのはさみしい。

  • ドイツでは誰でも電力会社を変更できる。
    簡単な書類に記入するだけで良い。前の会社との解約は新しい会社がやってくれる。

  • 驚いた。ドイツの電力自由化がこんなに進んでいるとは知らなかった。EUの圧力があったとはいえ、環境に関する意識の高さが後押ししていると思う。日本の電力自由化を阻害している要因を、今後注視していこうと思った。

  • 昨年(2011)3月の福島原発事故を受けて、日本を含めて多くの国で原発の推進を見直す動きがありましたが、日本の場合は原発を本格的にやめると困る人や部署があるようで、次第に復活していきそうな気がしています。この本の主題のドイツでは本当に脱原発を決めて、それに向かってエネルギー政策を策定しているようです。

    ドイツの場合は、長らく太陽エネルギーが主力だと思っていましたが、事実上諦めて現在では「風力発電」に軸を移しているようです。更には日本と異なって陸続きの欧州では、簡単に電力(原発で発電したものも含む)の購入ができる点が、ドイツがこのような政策をとれるポイントのようです。

    また、風力発電の弊害がドイツでも出てきているように、人の住んでいる陸地では難しいようで、文句の出ない海上風力発電がメインのようですね。海の無いバイエルン地方では今まで原発に頼ってきたようなので、代替エネルギーをどうするのかは難しい判断を迫られそうです。

    一番気になったのは、最近の地球レベルでの寒冷化を受けて、私の感覚では、CO2による地球温暖化のトーンが下がってきている中で、この本の著者である熊谷氏は、「地球温暖化の脅威は、地球全体の平均気温が一律に上昇することだけではなく、気温上昇が気候システムを大きく変化させて異常気象を引き起こすこと、異常な寒波も間接的に地球温暖化の影響である」(p115)と気象学者のコメントを引用しています。誰かがいずれ言い出すと思っていましたが、すでにそれを言っている人がいたとは驚きでした。

    数年後には、地球温暖化というフレーズから「地球異常気象」を防止するためにCO2削減運動が展開されるのでしょうか、それも罰則規定までつけて。なんだか複雑な気持ちです。

    以下は気になったポイントです。

    ・福島事故を受けて、ドイツは前年に決めていた原子炉の稼働年数の延長を取りやめ、今後11年間で全ての原発を廃止することを決めた(2011.6.30に原子力法改正案を可決、2022.12.31までに全廃を連邦議会で決定)(p15)

    ・ドイツはナチス時代に中央集権制をとって失敗した経験があるので、戦後は地方政府の権限強化に力を入れた(p31)

    ・ドイツでは日本のように原発がある地方自治体に多額の補助金は降り注がない、営業税収入や雇用が増える程度(p32)

    ・ドイツと日本の電力市場の大きな違いの一つは、EU指令により1998年に法律上で自由化を開始し、地域独占を廃止したこと(p42)

    ・ミュンヘン市役所が有する地域電力SWMは、2015年までに家庭向け電力を100%再生可能エネルギーに、2025年までには企業向けも同様にする、ドイツ国内の都市では初めて(p64)

    ・自由化(1998)により最初の2年間に19%下がった個人世帯の電力料金は、2001年以降は上昇した、2010年には合計70%増加した(p88)

    ・ドイツで送発電分離が進んだ理由として、1)EUの圧力、2)脱原子力政策による大手電力の業績悪化にともない送電網の売却(p93)

    ・1000を超える電力販売会社を持つドイツの手法は、日本にはそのまま当てはめるのは難しい、日本の状況にあった自由化の道が探る必要がある(p110)

    ・ドイツは、2011年の再生可能エネルギーが発電量に占める割合は20%だが、2050年には80%を目指している(p117)

    ・ドイツは世界で初めて、送電網の運営者に対して、再生可能エネルギーを固定価格で「全量」買い取って送電網に受け入れることを法律で義務付けた、1990年可決、1991年施行(p135,138)

    ・2011年に需要家がエコ電力促進のために払った金額は、1.3兆円程度、2000-2012年までの助成金合計は、およそ9兆円(p141)

    ・風力発電は、開始料金というボーナスが12年間適用される(p143)

    ・曇天の多いドイツでの太陽光発電は効率が悪い、それでも太陽光発電装置による買取価格は 57.4セント@2004、28.7セント@2011である(p147)

    ・ドイツの太陽光モジュールメーカは2005年から2008年まで空前の好景気を経験したが、現在では最大手のQセルズは破産した、製造コストが中国に比べて高いため(p151)

    ・ドイツでは、売り手がお金を払わなければ電力を買ってもらえないという、商いの常識に反する「ネガティブ価格」が発生した(p183)

    ・CO2を排気から分離して地下に貯蔵する実験(CCSプロジェクト)は、連邦議会を通過したが、州政府の代表が構成する連邦参議院では、建設候補地である両政府が拒否権を行使した(p197)

    ・2011年のドイツのCO2排出量が前年比で2.3%減少したのは、冬の寒さが厳しくなかったこという効果を含む名目排出量、気温の影響を差し引けば、1.2%増加したというのが電力会社によるコメント(p202)

    ・原子力と化石燃料からの脱却を目指すエネルギー革命は、エコロジーというイデオロギーに基づくもので、経済的な理由によるものではない(p213)

    ・ドイツに出入りした電力量は、全て消費されたのではなく、すぐに他国へ出ていく「トランジット電力」が多い(p223)

    ・50ヘルツと60ヘルツを併用している国は、インド・アフガニスタン・パキスタン・スリナム・アフリカの一部など(p229)

    2012年10月14日作成

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。
著書に『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』『ドイツ人はなぜ、年「290万円」でも生活が豊かなのか』(ともに小社刊)、『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか』(SB新書)、『パンデミックが露わにした「国のかたち」』(NHK出版新書)など多数。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。

「2023年 『ドイツ人はなぜ、年収アップと環境対策を両立できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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