- Amazon.co.jp ・マンガ (152ページ)
- / ISBN・EAN: 9784047350458
作品紹介・あらすじ
将来を嘱望された青年の歯車が、ある女性との出会いをきっかけに、微妙に狂い出す――。怪談文芸の大家・田中貢太郎の傑作怪奇小説集『黒雨集』に収録された退廃的怪異譚を、偉才・近藤ようこが鮮烈に視覚化。
感想・レビュー・書評
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恥ずかしながら長らくこの本の存在を知らず、
たまたまバッタリ出会って購入したという感じだが、
原作は随分前に読んでいた。
怪談を蒐集し、怪奇小説を物した田中貢太郎の短編だ。
短くて素っ気ないが故に一層不気味な印象を残す、
奇妙な作品。
それが近藤ようこさんの独特の筆致で、より妖美で
奇怪な絵物語として新たな命を吹き込まれたかのよう。
……といった具合に見応えはありますが、
本当に何だかわからない変な話です。
昔(大正時代)の都市伝説とでも言えばいいでしょうかね。
身許が不確かな美しい女と同棲することになった
エリート候補の青年が先輩の家から帰る途中、
駅への道順を訊ねてきた女性と同道することになり、
あれよあれよという間に不条理な展開に。
※後でもう少し細かいことをブログに書くかもしれないし、
書かないかもしれません。
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近藤ようこが田中貢太郎の短編怪奇小説をマンガ化した『蟇(がま)の血』(KADOKAWAビームコミックス/720円)を、電子書籍で購入。さっそく、2度くり返し読んだ。
近藤が『コミックビーム』などで近年多数手がけてきた、近・現代日本文学コミカライズ・シリーズ(なのか?)の一作。
私は一連のシリーズの中では、津原泰水の短編をマンガ化した『五色の舟』がいちばん好きだ。その評価は本作を読んでも変わらないが、これもなかなかの出来。
恥ずかしながら原作を読んだことがなかったので、本書を読んだあとに「青空文庫」で読んでみた。かなり原作に忠実なコミカライズである。
私は近藤作品の中にときどき出てくる、怪異でエロティックな女性キャラが好きだ。本作にもそのようなキャラが出てくる。しかも、儚い系キャラと恐ろしいキャラの2タイプが揃って……。
その魅力を堪能するだけでおなかいっぱいになる、上質な幻想怪奇譚である。
恐ろしい場面でも飄々としたユーモアが隠し味になっていて(蟇の血を操るババアのキャラとか)、そのへんの複雑玄妙な味わいもなかなか。
あと、本作は近藤作品の中でもひときわ、風景/背景描写に力が込められている気がした。
暗い夜道に電灯の明かりでポッカリ浮かぶ家並みとか、月明かりに照らされた夜の海辺の松林とか、前半の何気ない風景が、強い印象を残す(後半は主人公がある屋敷に閉じ込められる展開なので、なおさら)。 -
こういうマンガが読みたかった!怪談文芸の祖・田中貢太郎の傑作を、偉才・近藤ようこが鮮烈に視覚化。日本の幻想文学が恍惚の衣をまとった。
高等文官を志す若者・三島譲が山の手で住む先輩の家で「海岸で出会った女の話」をした帰り道に巻き起こる不可思議、あとがきで近藤が語るよう、「昭和のエログロナンセンスを先取りするような、奇妙で可笑しく、しかもわけがわからない恐ろしい話」だ。
闇夜の中に幻灯機が映しだしたかのような怪しさを、近藤の丁寧でしとやかな時間のながれ、淡麗な筆づかいが見事に現出させている。いかがわしく執拗に迫る女たちの異様さ、主人公の所在の不安定さは、原作(青空文庫でも読める)の恐怖をはるかに上回っているのではないか。
もしこれが夏目漱石による作であれば詩的で禁欲的な趣になったであろうし、丸尾末広が漫画化していたなら退廃的な狂喜乱舞に堕ちていったであろうことを思うと、本作のコラボは実に均整の取れた傑作だと言わざるを得ない。 -
女に導かれて家に入った男の運命を描くホラー。