- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784047366633
作品紹介・あらすじ
神社の娘・宮子の初めての友達は、幽霊だった。友情を手放したくない宮子に、行者見習いの少年寛太は「下手な同情はやめろ」と突きつける。そんな寛太もまた、母親を凄惨な事件で殺され、心に深い傷を負っていて…。
感想・レビュー・書評
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奈良の桜井や吉野を舞台に、殺人事件の被害者遺族の姿を身近な第三者視点からみる社会派的な面が軸となった作品なのだけど、それだけに留まらず。ファンタジー、青春、恋愛、歴史、死生観、宗教の持つ機能や意義、はたまたその曖昧さ、実在の土地の細かな描写によるローカル性…等々、構成要素がとても多い。
けれど、破綻なく丁寧にまとめあげられた吸引力のある小説で、一気読み。作者さんのこだわりと強い愛を感じました。
「視える」体質のせいで周囲から孤立している、神社の娘である小6の宮子。彼女の初めての友達は、残酷な亡くなりかたをした幽霊の少女・沙耶だった。
けれど、同じく「視える」体質で、母を強盗犯に殺された後に救いを求めるように修験者に弟子入りしていた同い年の少年・寛太から、彼女を成仏させるべきだと言われて…。
12歳で図らずも繋がれた宮子と寛太の関係は、その後も続いていく。
共鳴し、惹かれあっているのに縮まらない距離感はいかにも思春期という感じで、もどかしさよりも、微笑ましさを感じます。
けれども、ニ年後、寛太の母の事件の裁判にある判決が下された時に寛太が選んだ道は、二人の仲を隔てるもので…。
寛太は修行に励み、心を落ち着かせようとしているけれど、母をある日突然不条理に奪われた悲しみや犯人への激しい憎しみ、自責の念を、決して忘れることはできず、苦しんでいる。
宮子は、もがき続ける寛太を支え、力になりたいのに、自分が彼にかけた「励まし」の言葉がかえって彼を追い詰めてしまったのでは、と考えてしまう。
どうすることもできないまま、さらに四年の月日が流れた時、一層大きく寛太の心を掻き乱すことが起こって…。
二人が辿った六年間は、決して平坦な道ではなく。
悲しみは一生続くし、もしかしたら今後も、何かの機会に激しい憎しみに囚われる時が訪れるのかもしれないけれど。
それでも、ラストの二人の姿には心洗われた気分で読み終えました。
テーマゆえに明るい展開とは決して言えませんが、重くなりがちなところを、ファンタジー他様々な要素を巧みに盛り込んだ描写の細やかさが、作品を読みやすいものにしています。
余談ですが、本作を読んで、ひさしぶりに吉野の金峯山寺に行ってあの心惹かれる秘仏本尊にお会いしたくなりました。
そう言えば、桜の季節の吉野には行ったことあるけど、紅葉の季節には行ったことがないなあ、と思ったり。
そんな描写も巧みで素敵なのです。
様々な角度からの魅力がある作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
神道エンターテイメントの王道であり、シリアスで緊迫感のある場面も多々あり、読者を刺激し続ける構成になっている。特に、絶対に許せない相手をどう許すのか。神道・仏教の二つの習合でもってその難問に挑もうとする長編で、恋愛も絡んでとても素敵な作品になっている。
そしてなんといっても舞台が奈良県桜井と吉野である。ご当地ものといえばそうなのだが、キャラクターが生き生きとそこを歩き、生きているのが実感できる作りになっている。奈良県民は必読の小説だと思う。
そして最後に購入を検討されている奈良の(もしくは奈良好きの)読者諸氏への質問がある。
最後の戦いを終え、二人の主人公、宮子と寛太は並んで道を歩く。
そこで寛太は問いを発する。
「弁当に煮物を入れると汁が垂れるのはどうすればいい」
行者として成長した須藤寛太が最後の場面で問いかけるこの言葉に、主人公柏木宮子はどう答えたか?
気になってしまったあなたは必ず本を買って、その回答を目撃しなければならない。 -
奈良を舞台に繰り広げられる、神社の娘の少女と修験者の少年の物語。
主人公たちは普通には見えないモノが見えてしまう人々。見えない世界を扱う話なので「ファンタジーもの」と括られてしまえばそれまでなのですが、本著はそれにとどまらない。
宗教者の家、宗教者の立場にいる彼らは心に齟齬と悲しみと悩みと闇を抱えて、それでも目指すべき浄らかな世界との間で迷いながら成長していく。
時間経過も小学生から中学生、高校生、そして大人へ踏み出す大学生へ。
各章が構成さてれています。
はじめはどんな結末になるのだろうと見えなかったのですが、そんなことに……と、クライマックスは一気に読み切りました。
精神のジュヴナイルを見せてくれるお話です。 -
オッサンでもキュンとするストーリー。いや、オッサンだからキュンとするのかも。
うーん、おもしろいッ! -
この手の先駆者にはすごい名作あるから
超えるのはできないね
雰囲気は、出てる -
神社の娘、宮子の初めての友達は、『幽霊』だった。
幼い頃から“視える”力を持つ宮子にとって、それはごく自然なことだったのだ。
ある日宮子は、母親を凄惨な事件で亡くし、壊れそうな心と向き合うため修験者の弟子となった少年・寛太と出会う。
「あいつは死んでいる。お前ももう、わかっているんだろう?」
寛太に現実を突きつけられた宮子は、この世に未練を残す魂――友達を【あるべき姿】に戻すことを決意するのだった。
以来、互いに“視える”ことで感覚を共有し、“正しく”心を育てる寛太に惹かれていく宮子。
そんななか、寛太の母親を殺した犯人の判決が下される。
宮子は憎しみと後悔で揺れ動く寛太の救いになりたいと願うが、寛太は「女人に触れない」というさらに厳しい戒を己に課してしまい――!?
芦原瑞祥さんのデビュー作。主人公は小学六年生の柏木宮子。神職の血筋である彼女は、妖(あやかし)や人間の負を見ることができる不思議な力を持っていた。人に害をなす妖を自分で何とかしようとするのだが、まだ未熟ゆえピンチになって……というストーリー。この手の物語にあがちな実は無敵の能力を持った主人公ではないのが良い。 -
神職の父と暮らしている宮子の成長を描いた物語。宮子があくまでも普通の女の子なのがよかった。妹もよいこでよかった!