ペネロピアド (新・世界の神話)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047915091

感想・レビュー・書評

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  • トロイア戦争へ行った夫オデュッセウスを20年間待ち続けた貞淑な妻ペネロペイア。
    詩人ホメロスの描いた壮大な冒険譚『オデュッセイア』の中では影の存在、言葉無き女が語りだしたら止まらない。
    そのおもしろさといったらない。

    王無きイタケー王国を守り、一人息子のテレマコスを一人育て、財産目当ての求婚者たちを必死で追い払う日々をペネロペイアが語る。奮闘、駆け引き、寂しさも、笑いの中に沁みてくる。
    トロイア戦争の原因となった絶世の美女ヘレネ(従妹)との関係にも女心が溢れていて笑っちゃう。
    オデュッセウスの帰還、その時の騒動、その後『アスポデロスの野』の冥界にいる登場人物たちの様子など、もう悲喜劇を観ているよう。

    12人の女中のコーラスラインを挟みながら、女中(奴隷)たちの心情も語られる。ここで語られていることがまた問題定義を起こしそうだ。
    『オデュッセイア』では無きに等しい存在の女中たちにスポットを当てているところが素晴らしい。
    12人の女中たちの本編を茶化すコーラスラインは、ギリシャ悲劇で使われる合唱隊へのオマージュだそうだ。

  • オデュッセウスの妻ペネロペイアを新解釈で描いた凝った構成の作品。ホメロスの叙事詩の中では、トロイア戦争に行ったきり帰らない夫を待ち続けた貞節な妻として描かれているペネロペイア。
    戦争の原因となった美女ヘレネとは従姉妹にあたるのですが、まったく対照的。
    20年も主のいない王国と幼い息子を守り続けた女性の側から見た真実とは…?
    オデュッセウスが帰国した途端、宮廷で王位を狙っていた求婚者だけでなくペネロペイアの女中達も処刑されてしまったことに注目、彼女たちはペネロペイアのスパイだったという解釈で、身分の違う女性同士の葛藤も含めて描いています。
    母系社会から嫁とり婚へと変わっていく時代が神話の背景にあるというのは、そうかも知れませんねえ。
    黄泉の国に行ってからも美貌を誇り、男性の魂を引き連れて歩くヘレネには笑ってしまいます。
    アトウッドはカナダの作家で、一筋縄ではいかない語り部ですね。やや実験的とも言える作品。
    この本は2005年11月世界同時刊行「新・世界の神話」〜超一流作家による神話の書き直しを毎年数点ずつ出していこうという壮大な企画だそうです!

  • 神話を女性目線で語る試みは面白いことが多い気がします。
    トロイア戦争をカサンドラ目線で語ったヴォルフの「カッサンドラ」も面白かったし。

  • 『オデュッセイア』を、オデュッセウスの妻ペネロペイアが自分の物語として紡ぐ。

    吊るし首にされた十二人の女中たちがコミカルにコーラスを奏でる。内容がむごたらしくその差に慄く。

    神話は教訓でもあるのかな。貞淑な妻として描かれたペネロペが称えられたように。

    何千年も後にこんな小説が書かれたと知ったら当時の人々はどう言うだろう。現在とは一般的な価値観が違うとしても、女性の少なくない人たちは理解できるんじゃないだろうか。

  • 図書館で。
    ホメロスのオデッセイは高校時代、授業でやったな~と懐かしく思いだしました。その妻のペネロピアドは貞淑で賢い妻、というのは覚えてましたが彼女の視点からの物語はちょっと面白い。死者の国に居る亡者が降霊で時々呼び出されるってのも面白い発想だなぁ。確かに貞淑な妻よりも傾国の美女の方が話は聞いてて面白そうだよな。

    ペネロピアドは覚えてたし、寝台の話も覚えてたんですが求婚者と同時に殺された12人の侍女ってのは覚えてなかったなぁ…。このお話ではペネロピアドの密偵のような扱いだった事になってますが…確かに何を思ってオデッセイは彼女たちも惨殺したんだろうか?

    過去の記憶は美化されるものだし、罪は仕方の無かった事だと思いたがるものですが…それを許さない、過去の自分の罪をまざまざと思い起こさせる存在が居たら… 確かに居たたまれないだろうな。でも当事者の口から語られる過去はその人に都合が良い展開になっているのはまあ仕方のないことなのかもしれない。そんな事を思いながら読みました。面白かったです。

  • ギリシャ神話の英雄、オデュッセウスの妻であるペネロペイアから見た、オデュッセウスが旅から帰還するまでの物語。作者としては、特に帰還後殺されてしまう12人の女中たちのことをどう解釈したらいいのかを描きたかったらしい。

    文体はお気楽な感じで処刑までもがあっけらかんと進んでいく。なんだか面白い作品。

  • いつだってとばっちりを食うのは名も無き乙女。
    神話に潜む現実。

    アトウッドらしい短編、面白かった。

  • ●新聞読むのもしんどいくらい目がやられてる今日この頃。
    いやあ、これだけ字組みに余裕があると、よみやすいなあ。ヽ(´∇`)ノ
    て、そんなことを言うくらいなら、ネットやめりゃいいんですけどね・・・パソコンないと成立しない仕事だもんで・・・・・・。

    ●それはさておき。
    ホメロスの『オデッセイア』で有名な妻の鑑ペネロペイアを語り手とし、
    「しかし、本当に彼女は貞女だったのか? オデュッセウスは英雄だったのか?」
    と問いかけ、語り(騙り)直す物語。と言うより詩。詞?
    おみごとな文章です。
    雰囲気的に、『バタフライ・キス』をちょっとおもいだした。話の内容はまったく似てませんが。

    ●信用できない語り手ペネロペイアちゃんに1票で賞。
    短くても読みでがあるで賞もダブルで。

  •  ギリシア神話で有名なオデュッセウスの妻であるペネロペイアのお話。彼女は死後の世界から、夫がトロイ戦争へ行き、帰還するまでの20年について語る。

  •  アマゾンでは、あまり評価が高くないみたいだけれど……でもアトウッドのような作家が、この題材に取り組みたくなるのもわかる気がする。「オデュッセイア」を読むと、男どもの身勝手さがほんと半端ないから。

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著者プロフィール

マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood):1939年カナダ生まれ、トロント大学卒業。66年にデビュー作『サークル・ゲーム』(詩集)でカナダ総督文学賞受賞ののち、69年に『食べられる女』(小説)を発表。87年に『侍女の物語』でアーサー・C・クラーク賞及び再度カナダ総督文学賞、96年に『またの名をグレイス』でギラー賞、2000年に『昏き目の暗殺者』でブッカー賞及びハメット賞、19年に『誓願』で再度ブッカー賞を受賞。ほか著作・受賞歴多数。

「2022年 『青ひげの卵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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