短くて恐ろしいフィルの時代

制作 : 岸本 佐知子 
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
3.64
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本棚登録 : 418
レビュー : 81
  • Amazon.co.jp ・本 (143ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047916449

作品紹介・あらすじ

小さな小さな"内ホーナー国"とそれを取り囲む"外ホーナー国"。国境を巡り次第にエスカレートする迫害がいつしか国家の転覆につながって…?!「天才賞」として名高いマッカーサー賞受賞の鬼才ソーンダーズが放つ、前代未聞の"ジェノサイドにまつわるおとぎ話"。

感想・レビュー・書評

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  • 国民が一度に一人しか入れない、小さな小さな〈内ホーナー国〉と、それを取り囲む〈外ホーナー国〉という設定だけで既になにやら可笑しいのに、どうも人物たちも人間の形ではないようなのだ。

    こんな、奇妙でユーモラスな物語、訳すのはさぞかし大変だろうな、と思うけれど、喜々として訳してやっしゃるようにも思われる。
    岸本さんの書かれるエッセイと通ずるものがあるようだ。(私はふと「枕の中の行軍」を思い出した。)

    フィル。フィルは恐ろしい。
    恐ろしいけれど、目が離せないのは、ある集団には必ずいる人、どんな人の中にもその片鱗がきっとあるに違いない人、だからかもしれない。

    でも、教訓として読んだらつまらない。ただ、奇妙で、ちょっとシニカルで、くすくす笑ってしまう物語として、楽しんで読めばいいのだと思うよ。

  • こんなに笑える虐殺があるだろうか…?
    とだけ言うと、何を言っているのかとゾッとするだろうし、私自身もゾッとしている。
    でも、面白い。
    でも、虐殺なのだ。
    脳が滑り落ちるとカリスマ的独裁者になるというのが秀逸。
    1場面1場面が焼き付いて、読み終わってしばらく経っても離れない。
    これほんとに今の日本がモデルじゃないんですか?
    もっと前に書かれた?
    そうですか…。

  • 発売の時から気になっていながら読みそびれていた本。鮮やかな表紙と小口染めがインパクト大。

    ある日、内ホーナー国に突然起こった自然現象と、外ホーナー国のカフェでくつろいでいた、フィルという名のただのおっさんが内ホーナー国に対して抱いた感情から始まる物語。フィルが内ホーナー国の人々に吐く言葉は激しく、国の行く末を憂える人々(自称)が日々ネットに書きこむ言葉に似ている。それが、ごくごく個人的な感情や出来事に端を発していることも、かなりの確度で似ているのではないかと思ったりする。嫌悪感を抱きつつ、自分の中にもそういう片鱗があるのかも…もごもごもご、という感じもじわじわと。

    フィルをはじめとする人々の言葉と振る舞いに、教訓や戒めを求めることは簡単だと思うけれど、そういうことは頭の片隅に置いておき、舞台となる「内ホーナー国」や「外ホーナー国」の設定をなぞりながら、小説脳をフル活用してイメージを楽しむ作品だと思う。国名からしてすでにヘンすぎるし、その住民たちも相当に不思議なビジュアルと構造である。両国の人口比って、どうなんだ、これ?フィルはあるタイミングで身体のパーツを落っことすし、両ホーナー国の隣国の習慣も妙…意外なほどにSF感に満ちた物語だった。

    著者・ソーンダーズは「小説家志望の若者に最も文体を真似される小説家」の異名を持つらしく、会話のキャッチーさと、きっちりした地の文にほどよくまぶされたユーモラス加減がグッドバランスだと思う。しかも、岸本佐知子さんの絶妙に毒の効いた軽やかな訳がワンダフル。岸本さんの翻訳作品ではいつも、本編と同じくらいに「訳者あとがき」を楽しみにしているのだが、今回も、怖くて面白悲しく、そしてポップなこのお話を明晰に解説してくださっていて爽快だった。

  • 帯読んで、カバー読んで、そしたらなるべくそれ以上の「訳者あとがき」やレビュー的知識を入れずに、まず本文から読んでください。
    そしたら、「訳者あとがき」が生きます。

    タイトルにあるように Brief ではあるのだが。
    読み終わって、ほぉーっと息を深く吐き出した。
    諦めが少しと希望がもっとたくさん、吐き出した息には混じっていたはず。
    不思議に不安で、でも不敵に楽観的になって。

  • 何度となく同じようなことを言っているかと思うけれど、本を読むという行為は自分の中にある思考の欠片のようなものと本の中の言葉を結びつけて、「勝手に」様々なことを思いついたり考えたりするようなものだと思う。恐らくは作家の意図した以上に、読者は一つ一つの言葉に敏感に反応し、何かを読み取ろうとする。それに何も悪いところがある訳ではない。しかしソーンダーズのこんな作品に巡り合うと、それで本当にいいのかな、とも思ってしまう。

    ここに正義のようなものやテロのようなものの隠喩を見い出すのはそれ程難しくはない。でもそんな倫理観をかざして何かを読み取ろうとすることは、本当に詰らないことだ。例えば手の込んだ一粒のチョコレートを味わう時、それが何故美味しいかは問う必要のないことだと思う。美味しいと感じること、それが全てではないだろうか。この本も何かを読み取ろうとするのではなく、どこまでもナンセンスな物語を頭の体操のように読んでみてもいいんじゃないだろうか、と思ってしまうのだ。

    そう言明してみて少しすっきりするものの、一方で不安にもなる。我ながら実に小心者だと思う。不安になるのは、結局そういう感覚的なものに言及すると、ある言葉に突き当たってしまうからだ。「で、解るの?」、と。

    ここで「何故美味しいかは問う必要がない」なんて断言できるのなら、「解る必要はない」と言い切ってもいい筈だ。但し、ここで言う「解る」とは、まだ理解という意味を含んでいる。その部分は「理解する必要はない」と言い切ってもいいと自分を納得させることはできる。問題は「解る」に含まれるもう一つのニュアンス「感じる」という部分だ。それは「感じる必要はある」のだと思う。それが無ければ本を読む楽しみも何もない。

    ところが「感じる」と言った瞬間、何を感じているのかが問題となり、それがお門違いじゃないだろうかと不安になる。不安になるものだから理屈をこねて「解る」つもりになりたがる。それが野暮だと理解していても。解るって単純で面白みのないことだけれど、安心には繋がることだから。

    そこまでたっぷりと予防線を張っておいて、じゃあこの本は感じるのか、というと感じるような気はする、という声が聞こえる。面白いとも思う(全部が全部面白い訳でもないけれど)。特に、湿ったニュアンスものがいきなり乾いたようになる、住民がパーツに分解されるシーンなんて、そこで躓いたようにギャップを感じて、頭の中で脳が揺さぶられたような感覚がする。それは身体的にとても面白い。でもそんな風に理屈っぽく言ってみた途端面白みは失せる。

    誤解のないようにしておきたいけど、もう自分は一通りそんな風に理屈をこねてしまったので最初に感じた面白みが何だったのか解らないような気にもなっている。だからこそ敢えて聞きたいのだけれど、みんなは何が面白いと思うんだろう。

  • 機械のようなものが権力闘争を繰り広げるファンタジイ
    キリスト教だなあ

  • 文学

  •  うーん。
     面白いし、どんどんと先に先にと読ませる推進力は強大だと思う。
     ハラハラさせられるし、フィルの非情な采配には強い怒りを覚える。
     だからとてもよくできた作品なのだと思う。
    「私たち一人ひとりの中にフィルはいます」という作者の発言も充分に納得できる。
     それでも、この物語の最後がどうしても好きになれない。
     なんで神様?
     まるでゲームのリセット・ボタンと変わらないじゃないか。
     これじゃ何の問題も解決されてないじゃないか。
     そう思ってしまう僕は間違っているのだろうか。
     今、本書と並行して同じ作者の「パストラリア」を読んでいる。
     この「パストラリア」の方が僕は本書よりも何倍も好きになれそうだ。

  • 祝ブッカー賞受賞。
    短いので1時間ほどでさっと読めるが、すごく面白かった。「Lincoln in the Bardo」の翻訳に期待!
    この寓話ですぐ連想したのはナチスだが、戦争や覇権争い、差別や軋轢が絶えない現代においても身近なテーマだ。ともあれ、真面目に「人類の正義とは」と語るだけではなく、内外ホーナー人の造形の(フィジカルな)ユニークさ含めた「ぶっとんだユーモア」を楽しみたい。

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著者プロフィール

1958年生まれ。現実の裏にある真実を奇妙な想像力で描き、現代アメリカを代表する作家として高く評価されている。邦訳に『短くて恐ろしいフィルの時代』『パストラリア』など。2017年本書でブッカー賞受賞。

「2018年 『リンカーンとさまよえる霊魂たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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