いたいのいたいの、とんでゆけ (メディアワークス文庫)
- KADOKAWA (2014年11月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048668569
作品紹介・あらすじ
僕に殺された少女は、死の瞬間を“先送り”することで生き延びた。彼女は残された貴重な十日間を、自分の人生を台無しにした連中への復讐に捧げる決意をする。「当然あなたにも手伝ってもらいますよ、人殺しさん」
感想・レビュー・書評
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登場人物の暗い部分と明るい部分それぞれの温度感がとてもはっきりしていて本当に気持ちよく読めました。心から冷えてしまうような背景や復讐、心温まる2人の関係性。登場人物の温度感の違いは明確なのに世界がどこまでも寒色で彩度の低くみえる。高3あたりで三秋縋さんの作品にはじめて触れて以来、この温度感が自分にはとても心地よいものとして感じられて救いとなっています。
読んでいて想像したのは映画レオンでした。マチルダの最後を思うと本作の結末後の登場人物はこうかもしれないとか考えてしまいます。ただ、2人は2人だけの人生の落とし穴に落ちているのでそこを勝手に脚色するのは野暮だなとすぐ思考を止めてしまいます笑。
そのかわりに、自分が今嵌っている人生の落とし穴や泥沼のなかで微笑んでいられるような何かを探すことにしています。そう思えるのも本作があまりにも美しくどうしようもないせいであり、まさに醜いあひるが醜いあひるのまま幸せになれる希望や模範を感じさせてくれる作品だからだと思います。どうしようもないとき、救済がほしいときに自分のような後ろめたい気持ちでいっぱいの人にオススメの作品です。 -
幻想に理想を求めた者同士の儚いファンタジーという印象。
文通相手。殺したはずの少女との奇妙な関係。復讐。
それらはラストにひとつに繋がり、そしてあの日の「さよなら」へ。
ほろ苦く哀しい。そんな作品でした。 -
グロい要素が多めな作品でしたが読み終わってみるとやっぱり何とも言えない、けれど微笑みがこぼれるような、そんな気持ちになります。
主人公と少女のやり取りもいいと思いましたが、隣の美大生との独特なやり取りがたまらなく好きでした。
「落とし穴の中で幸せそうにしている人」すごく納得できる表現です。僕がそういう人が描かれた物語を好んでいるのは三秋縋さんとは別の意味で慰められるからだと思います。
いたいのいたいの、とんでゆけ
馬鹿げた気休めの、それでいて本当の魔法の言葉なのかもしれません。
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この作品の評価を☆5にするくらい面白いと感じて途中経過で一万文字ほどの感想文を書いていたのですが全部消えてしまったので端的にまとめますorz
【主人公の魅力】
主人公は二十二歳の、無味乾燥とした人生を送ってきた大学生で名前を「湯上 瑞穂」と言います。典型的な三秋縋さんの書く主人公ですね。
彼は幼少の頃から周りに馴染めず、何事にも意欲を持てずに退屈に生きていました。
大学生になっても、「進藤」という悪友ができて不毛な毎日を楽しめるようになったことしか変わらず、就活も夏休みに入ってしまいます。
まずこの時点で、三秋縋さんの作品を手に取る人の大半は、また読書家の人でも部分的に彼に共感できるのではないでしょうか。何事にも意欲的になれない状態ってありますよね。
私はそういった風に彼に自分を重ね易いところが魅力の一つだと思っています。
そしてもう一つ。俗っぽい言い方になりますが、彼って凄いカッコいいんですよね。
ネタバレになりますが、彼が霧子に「本当に辛くなったら俺が殺してやる」と言うところとか、彼女の義父を殺して「俺は嘘吐きだからさ」というところとか、その尊い自己犠牲の精神が下手な少年漫画の主人公よりもカッコよく見えました。
【日隅 霧子と湯上 瑞穂】
序盤で書かれている通りに二人はとても気が合います。文通を続け価値観を共有、自分達が似た人間であると知るや否や瑞穂は彼女に依存します。それは転校先、中学での生活が順風満帆とは呼べない陰鬱なものであったからです、現実が悲惨な彼は手紙の中で理想の、彼女に心配されないような「湯上 瑞穂」を作り上げます。
自分は文通のやり取りの件を見ていて、素直に羨ましいと思いました。
「魂の同窓会」と形容される二人のやり取り、それはなかなか稀有なことだと思います。私も少なかれど友人が何人かいます。親友と呼べる人物もいますが、意見(といったら狭義の意味で語弊がありそうなので言い換えますと、価値観の方が適当でしょう)が何から何まで合致する人間というのは話していてとても心地良いはずです。
私は一般論から離れた甚だ極端な考え方をする人間なので、普通の人とはあまり会話が弾まず、陰鬱な、スケールを間違えた話ができる人ばかりで囲ってしまいます。しかし、そんな人はあまり多くなく自分は時折、社会のはみ出しものなんじゃないかと激しい自己否定に駆られることがあります。そんな中で全く同じ価値観を共有できる仲間というのはとても心強い、魅力的な存在だと思いました。ましてや端麗な異性なんて……
【日隅 霧子の魅力】
彼女の魅力的な点を一つに絞ると(挙げ出すとキリが無さそうなので笑)、これもまた俗っぽい言い方になりますが、とても可哀想なところですね。彼女は義父や義姉、クラスメイトから酷い虐待や虐めに遭います。それは「なかったことにする」能力があっても後年のトラウマになるほどの禍根を残します。
彼らに復讐しても彼女は吐き気を覚えたり、腰を抜かしたり、不安で寝付けなかったりとどこまでも救われません。
また、当たり前の幸せも知らず、瑞穂との文通のみに生きる意味を見出しているところも「悲劇のヒロイン」らしくていいです。
【二人は復讐を通して愛の実在を知る】
瑞穂と秋月の二人は彼女の復讐相手である十七人の人間を殺します。その過程で瑞穂は彼女の「確かに復讐は無意味かもしれない」いう旨の発言に酷く失望し、懐疑します。彼女が復讐を無意味だと思えば、自分が五人目になる必要が無くなるし彼女がこれ以上、復讐のトラウマに懊悩する必要も無くなるからです。
しかし、彼女と別れ五時間ほど一人で行動して眠りにつくと。夢の中の進藤の言葉で自分の内で燃える意志があること、復讐をする彼女に恋をしていたということに気付きます。
それから予定外の十三人を殺し、十七人目を殺します。そしてその日の夜、深夜の0時を回った時に彼女の最後の復讐、自分を轢き殺した瑞穂への復讐が始まります。瑞穂は自分が彼女の復讐相手の一人になることに激しい喜びを覚えます。
しかし、いくつかの問答を得た末に彼女は「殺されたがっている相手を殺しても復讐にならない。 殺してあげないことが復讐」だ、と洋裁鋏を投げて復讐を放棄、「傷だらけの自分のことを美しいと言ってくれてありがとうございました」と目を隠し口付けし、最後の一言「ごめんなさい」を残して部屋から姿を消します。
彼女に殺されないと知ると瑞穂は落ち込み、自決してしまおうとします。洋裁鋏を首に突き付けて最後の音楽鑑賞に打ち込んでいるとなかなか死ねないまたアルバムが後半まで来てしまいます。
そこで隣の美大生が現れ、音楽を止めて自分の想いを伝えると彼を後押しします。「それでもあの死神に会いに行くの?」。
秋月の「ごめんなさい」の真意を考えた瑞穂は一つの答えに辿り着きます。そして、あの日に自分が一日中、霧子を待った公園へと向かいます。
そこには案の定、彼女がいました。あの日自分が待っていたようにベンチに座って。日隅 霧子が待っていました。
二人は互いが霧子(瑞穂)であることを確かめ合うとそのまま家に帰り、霧子が全てを打ち明けるに相応しい場所に向かいます。
そこはなんと瑞穂が何度も夢に見ていた遊園地だったのです。
そこで打ち明けられる真実。秋月というのは霧子の母が再婚した義父の姓だったのです。
彼女は義父や義姉、クラスメイトから酷い肉体的精神的暴力を受けていて瑞穂との文通だけが心の支えでした、安らぎの時は図書館で居眠りをしている時と美しい音楽を聴いている時しかありません。しかし義父によってそんな唯一の支えすら奪われんとしていました。文通すら難しくなるかもしれないと思った霧子は最後の希望として瑞穂本人と会うことを考え、実際に会いたいという旨の手紙を書いて送ります。
そして配達員の人の計らいでなんとか霧子は彼からの返信を見て、会えることになりました。
しかし、その当日に霧子は学校の先生から盗難の疑いをかけられて約束の時間になっても帰らせてはもらえませんでした。
疑いが強まるのを覚悟して学校を抜け出した霧子は全速で待ち合わせ場所の駅まで向かいますが不運にもその途中で男子高校生の乗る自転車に轢かれて足を怪我してしまいます。その後、その高校生の乗る自転車に乗せてもらって駅まで向かいますが、一向に瑞穂は来ません。諦めかけたその時、隣にいる自分を轢いた男子高校生が瑞穂だと気付きます。
瑞穂は文通の中で架空の「湯上 瑞穂」を作り上げていたことを告白します。霧子は自分と同じような境遇にあった彼を愛おしく思い、同時に自分が心配されて今の関係が壊れるのは嫌だと思い自分は手紙の中の「日隅 霧子」を装ったまま、人間関係のリハビリと称して二人で会う機会を設けます。(ここの心配されて今の関係が壊れるのを嫌だと思う心理が瑞穂のそれと完全に一致しているのも感慨深いんですよね)
そうして定期的に会うことになった二人は互いに持ち寄った音楽を二人でイヤフォンを共有して聴いたりして仲を深めていきます。しかし、そんな日々も長くは続きませんでした。
窃盗の疑いをかけられた霧子が同級生にカバンの中身を放り出されてドブに蹴落とされてしまいました。いつもならそんなことで泣かないはずの霧子も、堪えきれなくなったのか、しくしくと声をあげて泣いてしまいます。更に不幸なことにそこに自分の弱い所を見せたくないと思っていた瑞穂が通りかかってしまいます。
あろうことか瑞穂はドブ川で泣いているのが霧子だと知ると自分もカバンの中身を投げ捨ててドブに降りてきます。そこで霧子は瑞穂に全てを伝えると、瑞穂は無言で抱きしめます。
弱音を吐き出した霧子は自分に対するフォローの言葉など、期待してはいませんでした。しかし、それをいい意味で裏切ってくれた瑞穂は「本当に何もかもが嫌になったら、その時は言ってくれ。 僕が、君を殺してあげよう」と言います。
何もかもが嫌になった人生を、最愛の人に終止符を打ってもらえるなんて、なんて素晴らしいことでしょう。
それからは図書館が工事中で使用できなくなって、睡眠時間が確保できないこともあり、霧子は瑞穂の家のベッドで休むことになりました。それから二人で実父の墓地に行ったり、そこでキスをしたり。不幸でありながらも幸せな日々を過ごしていました。
しかし、現実はどこまでも非情。そんな日々も長くは続かず、義父が霧子の母を殺したことで全てが壊されます。命からがらに逃げ出した霧子は偶然、通りかかった瑞穂に拘束具を外されます。「ちょっと待ってて」そう言った瑞穂は霧子の家の中に入ると包丁で義父を刺殺します。
「嘘吐き、殺す相手を間違ってますよ。 私を殺してくれるって、言ったじゃないですか」
瑞穂は笑って「僕が嘘吐きなんて今に始まったことじゃないと言います」
二人は血塗れ傷だらけの状態で、遊園地に向かいます。瑞穂が頻繁に夢に見ていたあの遊園地、全てを思い出すために二人が向かったあの遊園地へ。
ジェットコースターに乗った二人、しかし不運にも事故で瑞穂は死んでしまいます。
そもそも自分なんかが瑞穂に会いたいと思わなかったらと、心の底から後悔した霧子は「二人が会った事実」を無かったことにしてしまいました。そうして今の世界線(という言い方は適当ではなく、便宜的なものです)になります。
(ちなみに霧子が十七歳で女子高生なのは、せめて愛されていた時の姿でいたかったらと、加齢をなかったことにしているからです)
遊園地の明かりはどんどん消えていく、なかったことにしていた瑞穂がジェットコースターの事故で死んだ事実が元に戻り、閉園した遊園地になりつつあるのです。
観覧車が頂点に達した時、瑞穂の記憶が完全に戻ります。
ジェットコースターの事故で死んだ瑞穂が先に死ぬか、車に轢かれて死んだ霧子が死ぬか。どちらにしろ二人とも近いうちに死ぬことになります。
霧子はすぐに後を追うと言いましたが、瑞穂は否定します。が、内心は嬉しくてたまりませんでした、愛する人が一緒に死んでくれるなんて。
そしていつ死んでもおかしくない二人は文通でのあるやり取りを思い出す。そういえば、昔に文通で言っていた「本当の愛」ってあったな、と。
霧子の声が少し変わったと思うと、隣には二十二歳の姿になった、なかったことにしていた加齢が元に戻った霧子がいました。
二人は幸せなキスをして終了。
瑞穂が最後に見たのは、メリーゴーランドに乗る幼い二人の姿。これは霧子がなかったことにして見せてくれた記憶か、それとも幻覚か。
不幸に不幸が重なり死んでしまった二人ですが、自分は決してその二人の人生が最悪だったとは思いません。
【落とし穴に落ちても微笑んでいられる人】
三秋縋さんがあとがきで述べている。そこら中にある落とし穴に蓋をして見ないことにするストーリーよりも、落とし穴に落ちても、笑っていられる人間のストーリーを書きたいという。
私は凄い共感を覚えると同時に、この作品のあとがきに相応しいと思いました。
二人はとても、幸せとは言えない人生を送ってきました。しかし、そんな中でも幸せな気持ちで、愛する人が隣にいて最後を迎えられたのならそれは幸せではないでしょうか。
まさにあとがきの「落とし穴に落ちても笑っていられる人」ではないでしょうか。
【さいごに】
この作品は三秋縋さんの作品には珍しく、復讐とあるように残酷な描写が多く人を選ぶかも知れません。でも私はこの作品をとてもオススメします。面白くて、ロマンチックで切ない感傷に浸れる作品であるというのもありますが、何よりもラストとあとがきの話で凄い慰められました。
いつ、どこで落とし穴に嵌るとも分からないこの世界で、本当に大切なのは穴から出ようと臨機応変に対応する能力でもなく、考え方ではないでしょうか。
いつか、私にも落とし穴に落ちても一緒に笑ってくれる人間ができたらいいなと思います。 -
途中で最後はこうだろうがだんだんと見えて来る。けれどそれを数歩超えた結末が用意されている。
話自体も面白いし、人物も生きていて良い。でもそれ以上に読んでいて飽きない。こうなるのかな?と思わせるよりも、彼らと同じものを見ているイメージ。
私はこの本を待っていたのかもしれない。 -
三秋縋の小説はハッピーエンドじゃないハッピーエンドなんて言われるけどそんな感じの小説
暴力の描写があり、苦手な人は読まない方がいいかも
泣くポイントが何か所かある泣ける小説
ギミックも面白かった
分かり易い伏線もあったが、ヒロインの独白からの最後のどんでん返しは圧巻で一気読みしてしまった
また、お気に入りの小説家が一人増えてしまった -
自分が殺した女の子に恋をしてしまうSF 純愛小説です。
グロい描写もおおく読んでいて苦しいが最後読み終わった時えも言えない美しさを感じます。救われてないようで、ちゃんと救われてる、そんなこの物語が大好きです。
あとがきも秀逸です。落とし穴の中で幸せに暮らす物語が美しいっての、三秋縋さんの魅力を簡潔に言語化してて感動した。 -
かつて文通をしながら密かに想いを寄せていた霧子へもう1度会うため、僕は手紙を書く。
待ち合わせの時間を過ぎても彼女は現れず、瑞穂はとうとう嫌になった。
自暴自棄になり、酒を飲んで、車を飛ばす。
酒が回り、意識がはっきりしなくなった時、瑞穂は交通事故、それも、人を殺す程度には酷いものを起こしてしまった……はずだった。
自分が轢いてしまった少女は、いつの間にか自分の車へ乗り込んでいた。
状況が飲み込めない瑞穂に、彼女は言う。
「私、死んじゃいました。どうしてくれるんですか」
起こったことを先延ばしに出来る少女と、自暴自棄になった少年。
決してあり得なかった、2人で過ごす時間。
2人は、次第に気づいていく。
ーーー僕は、自分が轢き殺した少女に、恋をした。
あとがきから読むと、この話で言わんとしていることが分かる気がする。
一度最初から最後まで読んで、あとがきを読んで、再び最初から読むと、なるほどそういことか、となる。
2度楽しめそうなので、私ももう一度読んでみることにする。 -
いたいのいたいのとんでいけ〜