シアター! (メディアワークス文庫 あ 1-1)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048682213

作品紹介・あらすじ

小劇団「シアターフラッグ」-ファンも多いが、解散の危機が迫っていた…そう、お金がないのだ!!その負債額なんと300万円!悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は巧にお金を貸す代わりに「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」と厳しい条件を出した。新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新たな「シアターフラッグ」は旗揚げされるのだが…。

感想・レビュー・書評

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  • 国家資格が1,200以上、民間の資格まで入れると3,000以上の”資格”が、今の日本にはあるようです。私には手術の執刀も許されませんし、法廷を仕切ることも認められません。では、同じ職業でも”役者”はどうでしょうか?『役者になるための免許や資格は存在しない』という通り、その職業に就くのに資格は不要です。そもそも定義自体はっきりしない”役者”というお仕事。『実際の収入はほとんどバイトに頼っている状態でも、どんな端役者しか回って来なくても、芝居を続けている限り役者と名乗れてしまう』というそのお仕事。そして、『実際に役がつかなくたって自分は役者だと言い張ることだけは可能なものだから、何となくずるずる辞められず、潰しが利かない状態に陥る人も珍しくない』というある意味、リスクと隣り合わせとも言えるそのお仕事。しかし、そんな人生を選ぶ人たちには底知れぬ力がみなぎっています。『全員で一つのことを一から作り上げるそのパワー』、その世界の外側にいる人間をただただ圧倒する『未知の世界』がそこにはあります。そんな”役者”さんたちが、自分たちの劇団の存続をかけて舞台を作っていく物語がここにあります。『圧倒的な歓喜の表情は最後は涙にたどり着く』と力の限りをかけて作っていくその舞台。これは、そんな舞台の裏側を有川浩さんが描いていく物語です。

    『ポケットの中で携帯が震えた。しまった』と内心で舌打ちするのは春川司。やむなく携帯の表示を見る司は『春川巧』という発信者名を見て電源を切ります。『春川さん、お電話です』と今度は『事務の女子』に呼ばれた司。『弟さんから、ご家族の不幸なのでどうしても繋いでくれとのことで…』と電話に出た司。『あっ、兄ちゃん!オレオレ、巧!今すっげー困ってて』という相手に『かけ直してきたら、吊るす』と一言返してガチャリと切る司。そして、仕事が終わり自宅へと帰る司。母親の再婚に伴って今は司一人で住んでいる一戸建ての家。『その古びた家の玄関先に丸まっている人影』を見つけます。『遅いよ兄ちゃん!』、『帰れ。そしてほとぼりが冷めるまで俺の前に現れるな』と巧を一喝する司。『司の小言を嫌って大学から一人暮らし』しているという巧が『こんなふうに泣きついてくるときは、何らかのトラブルが漏れなくセットになって』いるという繰り返し。『入れてくれなかったら家の前で夜明かししてやるからな!』という『弟が主張した非常識に兄の常識が敗北』し、家に入れる司。『…そんで、どうしたんだ』と聞くと『このままじゃ俺の劇団が潰れちゃうよぅー』と返す巧。『いっそ潰せ、この機会に』と凄む司は小学校時代を振り返ります。『巧にお芝居を習わせてみたいの』と切り出した母。『物心ついた頃からずっといじめられっ子』だった巧。自分も役者だった父も後押しし、二人で通うことになった演劇のコース。リラックスして学び出した弟。『そうして転機は訪れた』という瞬間の到来。ある出来事から『巧には脚本家の才能があるぞ!』というその転機。それを機に、やがて大人になって自らの劇団を立ち上げた巧。しかし『巧は脚本を書く能力と引き替えにしたのか、一般的な事務処理能力は非常に貧し』かったという結果論が招いた劇団の危機。『額は!』と聞く司に『三百万!』と答える巧。そして、『今日から俺が債権者でシアターフラッグが債務団体だ。今から二年で返せ。劇団が上げた収益しか認めない。ー 返せなかったらシアターフラッグを潰せ』という展開へと進む物語。『二年間死にものぐるいでやれ!』という司が巧たち劇団員に叱咤激励する劇団再建への物語が始まりました。

    代表作の一つである「図書館戦争」に出演された沢城みゆきさんのお芝居を見た有川さん。”実は今、商業的に黒字が出せる劇団を目指してみんなで頑張ってるんです”というお話を聞いたことがきっかけで誕生したというこの作品。その「図書館戦争」だって、図書館を訪れた有川さんが”図書館の自由に関する宣言”をたまたま目にしたことから生まれた作品でもあります。有川さんという方は、本当に日常のちょっとした出来事をきっかけにして、これだけの空想世界を作り上げることができる方なんだと、改めて驚きます。また、その誕生までには演劇の世界に関わる方への取材の数々があります。この作品では、そんな演劇に人生をかける人たちの熱い思いが強く伝わってくるシーンが満載です。もちろん想像が作り上げていく部分もあるのだと思いますが、恐らくはそんな取材の過程で耳にした言葉の数々がヒントにもなっているんだと思います。『不器用な彼らなりの全力疾走を楽しんでいただければ』と語る有川さん。そんな有川さんが描く舞台裏は、『債権者』として関わることになった司の他に、羽田千歳(はねだちとせ)という新しい入団希望の女性を登場させることで劇団というものに対してもう一つの視点を用意し、物語に奥行きを持たせていきます。

    小学校時代に脚本家としての可能性を見出された巧は、やがて自らの劇団を立ち上げ、同好の士とともに、演劇の世界にどっぷりと浸っていきます。”役者”という免許も資格もいらない人たちの集まりは、ある意味で一つの独立した世界でもあります。『好きだからやる、楽しかったらそれでいい。評価なんかされなくてもかまわない』。演劇が好きで好きでたまらない人たちの世界におけるその考え方。それに何の疑いも持たずに生きてきた巧。しかし、『俺たちずっと二十代じゃいられないんだよ。何となくでずるずる続けてさ、十年後に何にも残ってなかったらどうする?』という問いに、現実から目を逸らしてきた自分たちの行く末に漂う暗雲に気づく巧たち。一方で、そんな世界に新人として飛び込んできたものの、人気声優として『自分の名前で金が稼げる』存在でもある千歳。『千歳は千歳じゃないとダメな仕事してる』という『値段のついてる』世界に生きてきた千歳。そんな千歳が『面白いと思った』とシアターフラッグに飛び込んできたことが、『羽田千歳は現れただけで春川巧を本気にさせた』という一つの起点を巧の中に生みます。一方でこの作品の主人公である司は、劇団に債権者として運営側の立場でサポートをしていきます。そんな司は巧たち劇団員が常識としてきたことを否定し、一方で巧たち劇団員はそんな司も驚く力を発揮していく物語が展開します。同じ空の下に暮らしていても、今まで決して交わることのなかった世界に生きてきた人たちが、思いの丈をぶつけ合い、全力を尽くして一つの舞台を作り上げていく。そのコラボレーションの中で新たな何かが生まれていく。そんな舞台裏を、まるで劇場のS席独り占め状態で存分に楽しめる我々読者。普段見ることのできない演劇が立ち上がっていくまでの舞台裏をまるで一つの演劇を見るかのように、その場に立ち会える読者。ああ、とても贅沢だ、そんな風に感じました。

    そして、舞台を作り上げていく中で、当初、演劇の世界では新人だった千歳もどんどん演劇の人たちの中に溶け込んでいきます。一方で『関わった全員で驚喜し、はしゃぎ、泣き出す』という演劇を作り上げていく人たちを、一歩離れた場所から見つめる司。そんな彼らの盛り上がりを見て『一体どれだけの人間が死ぬまでに経験するのだろう』とそのシーンを冷静な眼差しで見る司。『外からどれだけ手を貸していようとやはり部外者なのだと改めて思い知った』という司。この感覚に似た思いは、普通の会社員でも感じることだと思います。これは会社組織の中における現場と管理部門の人間の感じ方の違いのようなものではないでしょうか。私も両方の立場の経験がありますが、組織として何か大きなことを成し遂げた時に現場にいて直接関わっていた場合と、それを単に報告として上がってきた数字で見る管理部門に属しての受け止め方の違い。どちらも組織には欠かせない存在、でもその当事者としての感覚は決して同じになることはない、この感覚が恐らくはそうなのかなと思いました。

    そんな物語は、どう考えても続編前提に幕を下ろします。続編もとても楽しみなこの作品。有川さんらしく、登場人物の動きが見えるような躍動感のある物語。その台詞の数々が活き活きとした生命感に溢れる物語。そんなワクワク感に溢れる作品でした。

  • 安定の有川浩。小演劇の世界の空気を目一杯吸い込んで、平凡だけれどもしごく真っ当に、お天道様に恥じないように頑張る人たちが報われるストーリーを吐き出すとこんな小説になるんだなぁ。そんなストーリーの登場人物の1人に自分もなりたいなぁと思いました。

  • 羽田千歳!良い娘だなぁ。
    春川巧!良い若者だなぁ。

    春川司!厳しいのに愛情深い!
    こんな切れ者になってみたいなぁ。

    有川浩さんの小説には珍しく、ラブコメが前面に出ていなくて、劇団存続のために悪戦苦闘(?ただわちゃわちゃしてるだけ?)する貧乏劇団員たちの奮闘記。
    風に例えたら、つむじ風みたいな1冊かな。

  • 子どもの頃、いじめられっ子で家にこもりがちだった巧は、
    兄の司とヒーロー戦隊のキャラクターである赤と青色の人形で
    ストーリーを考えながら遊ぶのが唯一の楽しみだった。

    現在は工務店で営業の仕事をしている司は
    巧が学生時代に立ち上げ、主宰している劇団「シアターフラッグ」が
    赤字で立ち行かなくなっているのを知って
    お金を貸す代わりに「2年で返済できなかったら、劇団をたため!」と条件を出す。

    優しい性格で人と争うことを好まず、劇団員全員に役を与えることを優先し、
    作品の質を上げるために配役を精査し脚本をより厳しい姿勢絞り込むことに
    今までは手を付けずに来た巧だった。
    声優としてキャリアを積み、「シアターフラッグ」に新たに参加することになった
    千歳の出現で、巧にも作品の成功を目指す欲が出てきて・・・。


    子どもの頃にいじめられた経験から傷つくことを恐れつつも、
    なぜか甘え上手で、人の心をつかんで離さない巧。
    人たらしなんだよね。
    お勉強も、スポーツも子供のころから何でもできて、その上信頼される司。
    一見隙がなさそうなのに、思わぬところに人間らしさが垣間見え、これまた大変魅力的な人。
    姉御肌でしっかり者、看板女優の牧子さんは、巧のことが気になる様子だけれど、
    どうやら巧は他の人が気になる様子で、何角関係なんだろう・・・?


    ああ、これは作る者だけが分かる言語だ
     <中略>
    同じ場所にいて同じ言葉を聞いても絶対に届かない。
    そんな領域を『彼ら』は持っている。(P209)


    どこまでも深い愛情と信頼でつながる兄弟。
    弟の辛さも喜びも包み込むように認めてきた兄にも、入り込めない世界。

    スポーツでも仕事でも何かに打ち込み、同じように高みを目指さしていても、
    その先へ行ける人とそうでない人がいる。
    行けた人の中には魂の言葉というのか、寄り添い理解しあえる言葉があるのだと思う。
    どこまでも研ぎ澄まされる才能を認めあえる人に出会えるってうらやましい。

    そういう人たちが発する言葉や雰囲気を楽しみつつ、
    心が縮こまらず自分らしくのびのびと居られる人間関係もそこにある。
    有川さんの描く気持ちのよい世界を十分堪能できる1冊です。

  • 有川浩さんも、ここ最近は作者買い♪
    あらすじなんか読まずに手に取ったけれど、ものの数ページで物語に引き込まれた。

    小劇団の舞台は、人生で3~4回だけ観たことがある程度。
    テレビCMも流され、普段からテレビで見かける俳優・女優が出演するような規模のミュージカルを観たことも、3~4回。

    映画ではなく生身の人間が目の前で演じるという、いわゆる「劇」は昔から好きだったものの、いかんせん・・・

    作中でも語られるように「難解」なものも多く、かつ「映画より高い料金設定」ということも相まって、劇を観ることが好きなくせに、実際に劇場に足を運んだのは上記の数回のみ。

    だからこそ、主人公の弟の葛藤や、ヒロインが劇団シアターフラッグの門を叩いた経緯に、より感情移入できた。

    演劇の世界だけの話ではなく、絵画も、映画も、小説も・・

    難解だから高度である
    分かりやすいから低度である

    だなんて、本当にナンセンスだと改めて思った。

    劇団未経験者はもとより、自分のように(小学校の学芸会の延長上な感覚で)「劇を観るのが好き」な層を取り込みリピーターにしていけるような作品がもっと増えていけば(作中のシアターフラッグのような)

    ここで描かれているような「好きだけど食えない」若者が、少しは減るのではないかな。

    ★4つ、7ポイント半。
    2020.10.31.古。

  • 2へ。

  • 有川さんの小説の特徴は、物語が先にあってキャラが生まれるというよりも、キャラが先にあって、その人物達が好き勝手動いた中で物語が生まれるという感じ。

    だから、実話を俯瞰してみている感覚になる。登場人物一人一人が今そこに生きている気がするのだ。

    このシアターには特にそれを強く感じてしまう。演劇に興味なくても読み終わった後は観に行きたくなってしまった。

    解散か期限内の借金返済か。追い詰められた劇団の葛藤と成長が描かれている。
    劇団シアターフラッグのファンになって応援したくなる作品。

  • つぶれかかった小劇団を再生する話。
    どうせお金にはならないが好きだから続けたいという気持ちでやって来たため、大赤字を抱えることになった劇団シアターフラッグ。
    主催で脚本家の春川巧が俳優全員を出演させるという脚本の方針を変えた所、俳優の半数が辞めてしまい、恋人のために出資してくれていた人物も辞めたのだ。
    巧が方針を変えたのは、声優として売れている若い女性・羽田千歳がこの劇団が好きだからと入ってきたためだった。
    プロに届いたという感激から、それまでは欠点を指摘されても変えないで来たのが、より上を目指すことを考えたのだ。
    シアターフラッグの看板女優・早瀬牧子は巧が好きだったが全く気づいて貰えないまま。千歳になりたかったと思う。
    千歳は声の演技力はあるが、最初は全然動くことが出来ないというのも面白い。子役から始めて25歳になっており、声優は動いてはいけないものだったから。

    巧の兄の司は、サラリーマンで31歳。内気でいじめられっ子だった弟を何かとかばってきたが、見込みのない仕事なら辞めた方がいいと考えてきた。
    それというのも、母と離婚した父が売れない俳優で、若死にしてしまったから。
    しかし、実は誰よりも弟の才能を買っているのも司。
    300万円出資する代わりに、2年間で返済できるように劇団員全員で頑張る(バイトでなく演劇で)という条件を付け、出来なければ解散しろと言う。人手が足りないので、これまでの経理状況やどこに無駄金がかかっているかなども検討していく。
    口は悪いが債権者というよりほとんど制作。皆も恐れつつ頼りにするようになっていく。

    個性豊かな面々の欠点と軋轢と、それでも~それぞれの努力が少しずつまとまって結果を出していく。
    お喋りやメールでのやりとりが多くて、わかりやすい。
    パンフレットを綺麗にして、広告を載せるとか。
    公演のDVDは初日からすぐ売れるようにしておくとか。
    稽古用のスタジオが高いので、あちこちの無料の所を点々とし、公演直前だけ広い所を借りるとか。
    具体的な情報が面白く、このご時世、やりようによって何とかなるものかもと励まされます。

  • モノを作る人の情熱が伝わる1冊だった。

    先日、付き合いで小劇団の舞台を見に行ったため、演劇を題材にする『シアター』を再読しようと思った。
    その舞台を見終えて彼らが好きなことを何歳になっても続けていることを羨ましいと思った。と、同時に実際どのくらい演技で食べていけるのだろうと疑問に思っていたため、この本で演劇への解像度をかなり上げられて良かった。

    実際知人が小劇団での活動にのめり込んでいたら本当に不安になると思う。私が司の立場なら絶対巧に辞めてほしいと思う。だが、司は猶予を与え、全力で勝負ができる状態を整えてあげてとても優しい。私は司と巧なら司派!!!

    そこまで長くない本で、舞台での台詞などが尺を取っているため、キャラの印象が少し薄い。巻頭のミニポスターで何回か名前とキャラを確認する必要があった。有川先生の描くキャラクター好きの自分としては『シアター2』でもっと彼らのことが知れたらいいと思う。

  • 小劇団「シアターフラッグ」の話。経営難に陥った劇団に訪れる解散の危機。お金がないのだ!
    そこに現れたのは、鉄血宰相!?

    危機を脱することができるのか!

    これは面白かった。一気読みしました!

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著者プロフィール

高知県生まれ。2004年『塩の街』で「電撃小説大賞」大賞を受賞し、デビュー。同作と『空の中』『海の底』の「自衛隊』3部作、その他、「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『旅猫リポート』『明日の子供たち』『アンマーとぼくら』等がある。

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