明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法 (アスキー新書 202)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048703000

作品紹介・あらすじ

圧倒的な情報伝播力をもつソーシャルメディアが登場して、多くの生活者が発信者になった。「RT」や「いいね!」を通じた控えめな情報発信は、ネット上に新たな共感を拡散する。生活者の共感をいかに獲得するか?「口説く」から「愛される」へ。これが企業と生活者の新しい関係づくりの第一歩となる。

感想・レビュー・書評

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  • 本書のテーマはソーシャルメディア。TwitterやFacebookのような
    ソーシャルメディアがどうコミュニケーションを変え、世界を変え
    始めているのかが興奮気味の口調で語られます。

    震災後、一気に注目度を高めているソーシャルメディアですが、一
    体、何がそんなに凄いのか、実感できていない方も多いことでしょ
    う。既に色々なところで、色々なことが言われていますが、本書は
    ソーシャルメディアの一番の特徴を、「社会や文化、流行、購買な
    どに大きく影響を与える『関与する生活者』をつなげ、強く結びつ
    け、その行動を加速させるプラットフォーム」である点に求めます。

    「関与する生活者」「行動を加速させる」というところがポイント
    です。ソーシャルメディアは、情報を一気に拡散させる「ハイパー
    クチコミ」を生み出すだけでなく、これまでバラバラに活動してい
    た個人や関与したいけれどきっかけがなかったという人々をつなげ、
    大きな一つのムーブメントを生み出す場となるのです。

    実際、オバマ大統領の当選や中東の革命はソーシャルメディア抜き
    に語れませんし、震災後に続々と生まれた新しいイベントやアクシ
    ョンも、ソーシャルメディアがあればこそのものであったことが、
    著者自身の体験も交えて紹介されます。

    今までだと、こういう動きが生まれるためには煽動するカリスマ的
    なリーダーが必要でした。でも、ソーシャルメディア時代には必要
    ありません。無名の、「実際に動く人々」がいれば、その動きがつ
    ながって大きなうねりになり、物事を変えていくことができる。ジ
    ョン・レノンの『イマジン』をどんなに歌っても戦争をとめること
    はできなかったけれど、ソーシャルメディアならば人をつなぐこと
    でそれが可能になる。だから、ソーシャルメディアの浸透により、
    「世の中は『歌う』から『動く』へと舵を切ったんだ」というのが
    著者の主張です。

    なかなか刺激的な議論です。しかし、ソーシャルメディアというプ
    ラットフォームをどう企業が利用すべきかという話が中心になる後
    半部分を読み進むうち、微妙な感情にとらわれ始めました。

    というのも、今後、ソーシャルメディアというプラットフォームは、
    企業や為政者にとっては、ハイパークチコミによるブームを起こし
    たり、人を動かしたりするための場と見なされていくだろうからで
    す。これはインターネットの普及以後、冬の時代に悩んでいた広告
    業界には福音となります。実際、著者は、「生活者」と言う言葉を
    使いながらも、後半部分では、どう企業はソーシャルメディアを使
    って消費を喚起し、ロイヤルカスタマーを生み出すか、という話ば
    かりしているように見えます。

    勿論、今の時代の生活者は盲目の徒ではありませんから、企業や為
    政者、そして代理店の思うようには動かないでしょう。でも、理性
    よりも共感が重視されるというところが曲者で、共感を得ようと、
    ひたすら心地よい、耳障りのよい言葉ばかりが溢れるようになる中
    で、場の空気に支配されやすい日本人は、果して適切な判断をでき
    るようになるのでしょうか。人とつながればつながるほど、個人の
    成熟度が問われてくるのではないか。そんなことを考えました。

    ソーシャルメディアについては勿論、これからのコミュニケーショ
    ンや企業のあり方を考える上でも読んでおいて損のない一冊です。
    是非、読んでみてください。

    =====================================================

    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

    =====================================================

    生活者は、ソーシャルメディア上で「S(共感する)→I(確認する)
    →P(参加する)→S(共有&拡散する)」という消費行動をとる。
    (…)つまり、共感され、厳しい確認に耐え、様々なレベルで参加
    してもらい、彼らに共有・拡散してもらう施策を、各段階で用意し
    なければならない。

    企業は自身の中身を磨き、実際に行動し、貢献し、彼らに「愛され
    る」ことを目指さなければならない。そのためのコミュニケーショ
    ン・デザインのポイントは、人と人のつながりでできているソーシ
    ャルメディアに、企業も「人」として丁寧に誠意をもって入ってい
    くということである。そのとき、もう「広告」とか「広報」とかい
    う枠はない。さまざまな領域にコミュニケーションの知見が必要な
    時代がやってくるのである。

    あえて、ボクは、U2のボノのこんな発言に与したい。
    「レノンの歌で一番嫌いなのはイマジン。こうなるといいな、と頭
    で考えているだけではダメだ」(…)
    そう、ボクたちはゴールを示すだけで満足してしまったのではない
    か。歌うだけで自ら酔ってしまい、アクションを起こさなかったの
    ではないか。

    なんで『イマジン』はブッシュの戦争を止められなかったんだろう。
    そのことをここ10年くらい、ボクは折に触れて考えてきた。
    それはボクが広告を生業としてきたからかもしれない。
    なぜなら、広告は「歌う」ものだったからだ。美しいコンセプトを
    世の中に提示して共有するものだったからだ。

    我々は何かすごく新しくて大切なプラットフォームを手に入れつつ
    あるのではないだろうか…。
    それは、「歌」以上に人々を結びつけ、共感させ、実際に動かすプ
    ラットフォームだ。「歌」はバラバラだった人々の気持ちをひとつ
    にする大切なプラットフォームである。でも、この新しいプラット
    フォームは、気持ちをひとつにした大きな塊こそ作らないが、ひと
    りひとりの気持ちをつなげ、それをスピーディに連鎖させ、次々に
    アクションを実現させるプラットフォームなのだ。

    ソーシャルメディアは、人と人を身近にし、当事者意識をもたせる。
    そして「自分ならどうするか」「自分は何ができるか」を考えさせ、
    実際に関与させ、アクションさせる。つまり「関与する生活者」を
    生み出すのだ。

    バラバラに動いていた影響力ある個人がソーシャルメディアという
    プラットフォームでつながったのが「ソーシャルメディア時代」な
    のである。

    発信者側にとってはなんとありがたいことに、個別プラットフォー
    ム時代にバラバラだったつながりが、ソーシャルグラフによって勝
    手につながってくれたのである。

    企業は関与する生活者の「確認」に耐えうる価値を提供するために、
    一貫性をもって偽りのないコミュニケーションをしないといけない
    し、それを透明性をもってオープンにしていかなければならないだ
    ろう。その過程で何らかのウソや矛盾が発覚してしまったら、でき
    る限りスピーディに誠意ある謝罪と対応、そして修正をしないとい
    けないだろう。

    発信元=企業そのものへの共感を築くことがとても重要になるので
    ある。そして、それを築くためには生活者と企業の長く良い関係性
    が必要だ。

    テレビはソーシャルメディアととても相性がいいのである。
    ツイッターやフェイスブックのような「リアルタイム・ウェブ」が
    浸透したことにより、テレビ同時視聴の流れが戻ってきつつある。
    これがとても大きいのだ。

    今までCMはいかにアテンションを強くするかに血道をあげてきた。
    もうそれでは通用しない。アテンション・クリエイティブから「共
    感クリエイティブ」に大きく舵を切らなければならない。
    いや、舵を切るというより、戻る、ということかもしれない。

    ソーシャルメディアは「人」と「人」のつながりでできているから、
    そこで生活者とコミュニケーションをとりたいなら、企業といえど
    も、ひとりの「人」としてそのつながりに入っていかないといけな
    いからである。

    信用や信頼を築くには時間がかかる。
    時間がかかるということは、その間にいろいろと見られてしまうと
    いうことだ。本当の自分がバレてしまう。見栄も誇張もその場限り
    のウソも通用しない。
    だから最初から隠さないことが肝要だ。

    「人と人のつながり」の中に入っていく時のポイント
    ・役に立つ(生活者の役に立つ企画を中心にすえる)
    ・地道に長く貢献する(生活者に誠実に向き合う。手離れ悪く努力
     する)
    ・切っても切れない仲になる(コンテクストを創出する)
    ・お土産を持っていく(いま流行っていることを企画にとりいれる)
    ・話のネタを提供する(友人に話したくなる話題を作る。発見させ
     る)

    「すこし愛して、なが〜く愛して」
    これこそがロング・エンゲージメントだろう。

    従業員を大切にし、彼らに満足してもらい、彼らにネガティブな感
    情を起こさせないこと。いや、もっと積極的にいこう。従業員が、
    自分のソーシャルグラフに対して、勤めている企業を褒めたくなる
    ようなことをどんどん実行すること。そのためには「いい商品やサ
    ービスを提供している」という本業への誇りがまずは一番に来ると
    は思うが、社会活動や社会貢献なども大きく寄与すると思われる。

    従業員を大切にし、彼らの共感に日々気を配ることは、企業にとっ
    て、従業員と生活者の両方に共感を広げられるという意味で、一石
    二鳥の施策なのである。
    そういう意味で、インナー・キャンペーンが必要な時代だと思う。

    ソーシャルメディア時代になり、コミュニケーションは本当に自由
    な平原に出つつある。ボーダーがなくなり、上下もなくなり、受信
    者も発信者もなくなった。ようやくここから、対等で双方向なキャ
    ッチボールが始まる。(…)
    ボクたちはその萌芽の最初期に生きている。

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    ●[2]編集後記

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    12日の満月の夜、肺炎で入院していた妻から、「来たよ、破水し
    たよ」と連絡をもらいました。予定日より少し早いですが、満月
    だから来るかもね、と言っていたら、本当にやってきました。夜
    中1時過ぎに病院に到着。すぐに陣痛が始まりました。

    陣痛を待つ合間に妻が聞かせてくれた話だと、夜中トイレに起き
    て、小便をしていたら、「コツコツ」とお腹を叩く音が聞こえて
    きたとのこと。それは明らかにそれまでとは違う、ノックとしか
    言いようのない叩き方で、「今から行くよ」という明確な意志を
    感じたのだそうです。そして、「あ、来るな」と思った瞬間の破
    水だったと言います。

    赤ちゃんはちゃんと自らの意志でノックしてから世界の扉を開け
    るのですね。そして、ぐいぐいと自らの意志で産道を降りてくる。
    母親は自らの身体を開き、いきむことで赤ちゃんの動きを助けて
    あげる。どちらが欠けてもうまくいかない、まさに啐啄同時とし
    か言いようのないプロセスがお産なのだなと、初めて知りました。

    夜明け前に、無事に赤ちゃんが誕生。元気な男の子でした。自ら
    の意志で、しかも夜明け前にやってきたこの世界。新しい世界は
    彼にはどんなふうに見えているのでしょうか。

  • とりあえず一気読み。

    印象に残っているのは、
    ・商品自体に「共感」と「確認」と「参加」が必要
    ・テレビCMを「拡散」のフェーズで使用すると、「参加」して当事者意識を持っている消費者の背中を押し、クチコミを加速させる
    ・企業の従業員は「発信元への共感」を築く大切な武器

    今考えなければいけない事が、分かりやすくまとめられている。
    これから何度か読み返すことになりそうです。

  • 明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法 (アスキー新書)

  • 疲れているのに頭にスッと入ってくる感覚。少人数での講演を聞いているような錯覚に陥りました。どっぷり漬かっている人しか体感できない濃密で深い内容がさらりと軽い筆致で語られています。
    書名「明日の広告」第2弾なので「明日のコミュニケーション」が妥当なのでしょうが、個人的には重要なキーワードである「関与する生活者」にもっとフォーカスし、さらにこだわってほしかったです。まあこれは著者ではなくて編集者や出版社側の事情によるものなんだと思いますが。

  • 多くの生活者が発信者になった。企業は共感をいかに獲得得するか?企業もひとりの人間として生活者と接するこことができる企業が生活者に支援される。だって企業の従業員もみんな生活者なのだ。企業もトップの方にも読んで欲しい一冊だ。第2弾もおもしろい!「明日の広告」を読んでいない方は是非こちらも読むべし。

  • 自分は、ウェブはバカと暇人のもの派だけど、一応読んだ。
    そっちよりの意見を言ってしまえば、バカと暇人にものを売る売り方、とも言える。
    テレビ見ながらスマホで一生懸命SNSでネットの向こうの人たちと会話してる姿は、自分としては滑稽にうつる。テレビ見ながら隣にいる人と話をする方が自分にとってはいい人生を送れる気がする。

  • 発信元への共感はまさに身近でよく起こっていることで大切だと思う。私自身、何人か全面的に肯定している著名人がいて彼らの勧めや発言には大きく影響されるからだ。本書でいうところのロイヤルカスタマーあたりか。
    パーティシパント、ファン、エバンジェリストって名前がかっこよすぎて思わず使いたくなる笑 SIPSの概念の理解が深まってよかった。
    これからの広告は「一晩限りのナンパ」から「結婚を前提にした長いつきあい」を目指さなければ…うーん、分かりやすい笑
    広告はなくならない、そしてこれからの広告はおもしろいと内容がポジティブで楽しかった。

  • ソーシャル関係の書籍としては現時点で「決定版」といえると思う。FB等でも多くの方が推薦されているとおり、SNSがもたらす「企業・消費者間のコミュニケーションのあり方の変化」が、「関与する生活者」「SIPS」という概念を中心として、非常にわかりやすく示されている。
    著者は日本のSNSの利用者が急増しているとはいえ、人口比からすればまだまだ「少数派」であることや、既存マスメディアを中心とした旧来のマーケティング手法も完全に淘汰されるわけではないことを冷静に俯瞰した上で、これからの企業が顧客の「ロング・エンゲージメント」を獲得するためにどのようなコミュニケーションをとるべきなのかを論じており、今やSNSが単なる「時代の流行」ではないことはもちろん、それらのツールを活用することで、企業と顧客のコミュニケーションが「共感」を軸とした「あるべき姿」に近づくのだということがよくわかる。
    一点、自分としてまだ理解しきれていないのが、本書の後半で出てくる「SIPS」と、「AIDMA」「AISAS」に含まれる「A」「I」との関わりの部分。SIPSの様々なフェーズに「AI」が絡んでくるというところがまだ腑に落ちていないので、手軽に読める新書ながら、あと数回読み返す必要がありそうだ。

  • マーケティングの中でも、近年のメディア環境の変化特にソーシャルメディアの登場により、4Pの中の、今後のコミュニケーションについて、書かれた本。
    筆者のさとなおさんは、SIPSの発案者であり、ソーシャルメディアの流行による消費者の変化を元に、今後企業が行うべき消費者とのコミュニケーションが書かれている。
    キーワードは、関与する生活者の出現、共感特にコンテンツならびに発信者に対する共感が大事、そして企業は共感を徐々に生みだしながら、長い時間かけて消費者とロングエンゲージメントを築き、ライフタイムバリューをあげていくことが大事であると書いている本である。

    筆者自身の事例が書かれていたり、メディアの変化、消費者の変化が書かれているが、筆者自身も述べているように、メディア特にソーシャルメディアの変化が激しいため、それに対応する施策に関しては、ややβ版かつ数が少ない印象。

    ただ、共感を生み出すために、信頼が大事である事や、消費者とのコンテクストの共有・商品作りへの参加ならびにクラウドソーシングの活用など、実務に活かせる視点も多い本である。

  • 最新版が読みたい
    そして、『明日のプランニング』に伝わるというわけ

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著者プロフィール

◉──株式会社ファンベースカンパニー創業者、取締役会長。大阪芸術大学客
員教授。助けあいジャパン代表。花火師。1961年東京都生まれ。
◉──㈱電通入社後、コピーライター、CM プランナー、ウェブ・ディレクタ
ーを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築す
る仕事に従事。2011年に独立し、㈱ツナグ設立。19年、㈱ファンベースカンパ
ニー設立。
◉──著書に『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(アスキー新書)、
『明日のプランニング』(講談社現代新書)、『ファンベース』(ちくま新書)な
ど。最新刊は『ファンベースなひとたち ファンと共に歩んだ企業10の成功ス
トーリー』(津田匡保氏と共著、日経BP)。

「2022年 『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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