歴史に裏切られた武士 平清盛 (アスキー新書 200)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048705820

作品紹介・あらすじ

信長の400年前、龍馬から700年前に、海の向こうに夢を馳せた平清盛。武士棟梁家の嫡流として生まれ、貴族社会が揺らぐ混迷の平安末期を駆け抜け、初めて武家政治の時代を築いた変革者でもあった。そんな清盛がなぜ長い間日本史上で「驕る独裁者」「悪逆非道な人物」とされてきたのか?歴史に裏切られた武士の実像に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 中世の扉を開いた平清盛の再評価。
    何故時代を切り開いた彼が「悪人」と呼ばれたか、一つ一つ例を挙げてわかりやすく検証している。
    ユニークな権力者であった例として、彼の女性活用が挙げられており、面白い。なるほど、以降の武家社会では模範とし辛いわけだ。
    なお、筆者上杉和彦は昨年早逝。
    中世ブームともいえる今、彼の新たな所論に触れることが敵わないのは本当に残念。

  • 「最近の研究で明らかになっている」のって、歴史学では「新しい史料が見つかった」のか、「それっぽい新しい解釈が出てきた」のか、どっちなんだろう?

  • 昨今の通説ではあるが、院政から平家政権にかけてが中世のはじまり。清盛は鎌倉幕府に先んじる武家政権を築いた。もちろん藤原摂関家のやり方をまねる公家的な面もあった。清盛が悪人というイメージがあるが、藤原氏と源氏の視点からみれば悪人であり、それが連綿と受け継がれたのだろうか。確かに鹿ケ谷の陰謀以降は乱暴な面があったが、仕方のない部分もあった。

    本書は清盛の生涯、政治姿勢、平家の財力、武家政権としての平家、悪人としての清盛、後世の評価など分かりやすくまとめられている。

  •  とある県の知事が最近、NHKの大河ドラマの演出に苦言を呈している様だが、なぜそんなギャップが生じるのか、本書を読めばその一端が理解できるかもしれない。それは一言で表現すれば、世代ギャップなのだ。
     30代以上の平家のイメージと言えば「驕る平家は久しからず」という平家物語の一節に起因するものだろう。本来武家の棟梁である平清盛が、藤原氏の摂関政治を真似て位人臣を極め、その奢りを本来の武家の姿を残した源頼朝により平家は滅ぼされた。武家を捨てて貴族になり、悪逆の限りを尽くした人物というのが、典型的な平清盛像かもしれない。

     それを見直すのが本書の骨子だ。平清盛を、政治力、経済力、武力という大きく三つの視点から見直し、なぜ彼に悪人というイメージがつけられたのか、時代背景と当時の状況を辿りながら解き明かしていく。おそらく内容的には、近年の教科書にて説明されているものだと思う。

     政治力の視点から見た場合、それは院政という要素によって語られるらしい。天皇が退位し上皇として政治を牛耳る中で、天皇家の権力対立を調整し実行する立場の人間が重要になる。それに都合が良い位置にいたのが平清盛だったらしい。
     しかし、延暦寺の様な宗教的権力と、世俗的権力の対立に巻き込まれやすいポジションでもあり、バランスを取ってうまく乗り切れなければ、不要な恨みを受けることもあり、それが彼を仏敵と呼ばれる遠因にもなったらしい。

     経済力の点からみれば、清盛が天皇家や摂関家に娘を嫁がせ、それを背景として荘園の受領となったり、後家として摂関家の財産を管理するなどして、莫大な富を得ることとなった。
     だがそれは一方で、彼の権力ラインから外れた天皇家や摂関家の恨みを得ることにもなる訳だ。

     武力の視点で見れば、平清盛は貴族化した武士として、惰弱な存在と思われているだろう。だがそれは必ずしも真実とは限らず、彼の敵手であった源義朝からも称賛される武士団を持っていたと考えられる。
     これらのことを併せて考えれば、平清盛というのは武家の政治支配の端緒をつけた人物であり、中世の扉を開いた人物と解釈するのが適切だというのが、現在の評価なのだという。

     ここまでくれば、冒頭の世代ギャップの理由も分かってくる。ある一定以上の年代には、平家とは繁栄の象徴であり、貴族的な煌びやかな生活と、そこからの没落という華々しいイメージがつきものなのだろう。しかし実際は、鎌倉幕府に先駆けて中世の扉を開いた、実直な、平衡感覚に長けた武家政治家と解釈すべきだと思われる。その認識の差が「画面が暗い」に象徴される様なズレを生むのだろう。

  • 平清盛の歴史的意義の変化を、事績、源頼朝との比較、伝承、後世の史書での像で提示している。大河ドラマで清盛について興味を持った人向け。
    山川の高校日本史教科書では平家政権を既に「中世のはじめ」として扱ってるんだなあ。

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著者プロフィール

1959年、東京都生まれ。1988年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得、文学博士。東京大学史料編纂所助手、明治大学文学部教授などを歴任。2018年、没。
【主要著書】『日本中世法体系成立史論』(校倉書房、1996年)、『大江広元』(人物叢書、吉川弘文館、2005年)、『源平の争乱』(戦争の日本史6、吉川弘文館、2007年)、『鎌倉幕府統治構造の研究』(校倉書房、2015年)

「2022年 『源頼朝と鎌倉幕府』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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