本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (614ページ) / ISBN・EAN: 9784048723596
感想・レビュー・書評
-
Minmoさんのレビュー『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』が気になり読んでみたくなったところ、田辺聖子さんの『むかし・あけぼの』上下巻もオススメしていただき、先に読む機会に恵まれたこちらから『枕草子』の時代に入っていく。
清少納言がまだ清少納言とよばれていなかったころ。橘則光と結婚した彼女は家にひきこもり、心の渇きや焦燥感に喘いでいた。
そんな彼女がある時、ふと紙に書きつけたのは「心ときめきするもの。」
心は華やいで抑えようもなく、想いはのびやかにひろがってゆく。
“「初秋のころ……風がひどく吹いて、雨などがひどく降る日。涼しくなったころ。
そんなとき、汗の香のかすかに残る薄い衣を、あたまから引きかぶって昼寝したりする、その、はかなくも、物悲しく、好ましい情趣──」
(ここに わたし います
生きて います
はかなくも なつかしい
秋にのこる 汗の香
わたし ここに 寝ています
あなたは どこに おわしますか)”
「あなた」は、感懐を共感しあえない夫ではない。「あなた」は、あこがれ、わが献身の対象。
“水晶のように砕け散る、清らかな水の飛沫や、蓬の香に、ふと「物狂おしく」心そそられる私。
(あなた、どうか理解して下さい、
この物狂いに同じように興じて下さい)”
まだ見ぬ「あなた」への恋文、それは彼女が記した『春はあけぼの草子』。
そしてついに彼女は「あなた」に出会う。
運命の人、定子中宮に。
定子中宮ならば、私の情趣を解して下さる、と。
わたしは清少納言になりたい。
それも田辺聖子さんの描いた清少納言になりたい。
田辺さんの描く彼女は、大好きな山本淳子先生の著書で知った清少納言の姿そのものだ。
定子のためだけに、定子が楽しむように。そして笑顔の定子を皆が忘れぬように。そうやって『枕草子』を執筆した清少納言。
その彼女がここに存在した。
わたしは清少納言のなかに入り、彼女の目を通じて定子中宮を仰ぎ見る。
“なんという美しい方。雪のように白いおん頬に浮ぶ、媚めかしい微笑。漆黒のお髪が、紅の唐綾の表着に流れていて、お袖からこぼれる小さい手は、うす紅梅の色に匂っていた。”
清少納言の心はわたしの心。わたしは恋に落ちる。わたしの「あなた」、定子中宮に。
“夜の灯に、そこかしこ、螺鈿や金銀蒔絵が光った。厨子棚やその上の手筥、唐櫃、みなきらきらしい金蒔絵であった。棚には紺瑠璃、緑瑠璃の壺があった。青簾のこなたに、女房たちのさまざまな衣裳が打ち重なり、乱れて、紅、紫、青、萠黄の波となっていた。”
わたしの目の前にあるのは、まさに物語の世界。豪奢な夢の世界。いいえ、これは現実。
わたしは今、清少納言となって物語世界の中にいる。
わたしは男たちと対等に話ができることに、心がときめかずにいられない。
すぐれた教養・見識のある殿方、光輝く貴公子たち。藤原伊周、藤原斉信、藤原経房、藤原実方……、彼らとこんなに気軽におしゃべりができるようになるなんて。彼らは時におおらかに、時に密やかにわたしの名を呼ぶ。わたしは彼らをからかい彼らはその誘いにのる。彼らと笑いあう時間はとても楽しいものだった。またある御方とは、たった一度の忍ぶ夜も。それはそれはフワフワとした夢のような一夜だった。
わたしの憧れは明るく華やかな伊周の君ではあるけれど、心の別の部分では、道長の君の凛とした佇まいのなかにどこか陰を纏った雰囲気に惹かれていた。定子中宮はお見通しだったようで、とても恥ずかしい思いをした。
わたしは、定子中宮と主上、そして定子の兄である大納言・伊周の君が楽しそうに談笑される、ある春の日の情景が大好きだった。
その頃、中宮より年下の主上は15歳。“華奢な、けだかいお顔立ちで、みるからに聡明・怜悧”なご表情の主上は、中宮さまのことが好きで好きで堪らないといったご様子。
主上にとって、定子さまと伊周の君のご兄妹は気の置けない方々なのでしょう。3人寄るといつも皆が心から笑いあわれる。そのご様子にわたしたちも笑いあう。
あるときは、柱によりかかって居眠りをしてらっしゃる主上を眺めて、定子中宮と伊周の君がそっと笑ってらっしゃる場面なんてのも。なんて幸福な日々。
わたしは人の噂も大好きだ。いつも意地悪な右衛門の君とワルクチを言い合うのも好き。彼女にはチクリチクリといつも意地悪なことを言われたけれども、それでも彼女の美貌や辛辣な口ぶりが大好きだった。小松京の陰気臭いところには辟易としたけれどね……
朋輩の女房たちが、わたしのことを「知ってるかぎりの学才をひけらかして、男たちの冗談ごとに割り込み、いい気になっている」なんて言ってるのは知っている。
それでも、それでもわたしは人が好き。彼女たちが好き。おかしくて、愛すべき存在の人間が好き。この想いがどのようなものなのか、わかって頂けるのは定子さま、おひとりだけでしょう。
やがて雅で華やかな日々はある日を境に終わりを告げる。
中宮と伊周の君のお父上であられる中関白道隆公が病でお亡くなりになったのだ。そして続くこと、新関白となられた道兼公が疫病で10日と経たずに亡くなられる。
そうして道長の君が関白となり、道長公の栄華が幕を開ける。伊周の君は失脚し、定子中宮の立場も苦しくなっていく。
先のことを思えば不安ばかりだ。
けれどもわたしの『春はあけぼの草子』にはそんなことは描かない。草子のなかでは、定子中宮を中心とした明るく華やかな宮廷生活が続くのだ。
明るく、
明るく。
わたしたち中宮さまの女房は、男たちが手に負えないほどやんちゃな女房たちだ。
高い鐘楼に登ったり、役人たちが座る椅子を全てひっくり返して壊したり。それでも中宮さまはおかしそうに笑われるだけ。どんなときも、明るく、明るく。
「元気を出しましょう、楽しいことをせい一ぱい心に思い描いて。負けないでいましょうね、少納言、支えてくれるわね、わたくしを」
わたしは物語の世界から目覚める。
ページ上の清少納言は再び草子を書きはじめる。中宮のお美しさと、そのお心弾み、ご即興のおもしろさを。
そうだ、彼女が書かなければ。誰が書くというのだ。
メモ:文庫版の上巻だと勘違いし、こちら単行本版に上巻の感想を記す。 -
春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。
うーむ、いいですねー。絵になりますねー。
やっぱり春というと思い出してしまう。
「枕草子」を取り出して読むともなく見ていると、昔より意味がわかるではないか。古語辞典なくてもね。ということは年取ると古語に近くなるのかな(笑)じっくり読みたく思う。
ところで田辺聖子氏の「むかし・あけぼの」はじつに面白い。
氏が「私は『枕草子』をこうよんだ」という感性で書かれた清少納言の物語。
だから、「枕草子」の訳本ではない。
『清少納言に、自分の脈搏がひびきあうのを感じ、かねてから好ましく』思い、
『現代の人は、あまりに性を肥大化して考えすぎている。』ていて、
『充足の対象を異性関係に限定』するを好まず、
『人間の充足感は、同性への敬慕、自然と人生への心おどる観察、あるいは創作の喜び、可能性に挑戦する意欲、それらで燃焼されることも多い。』から、散文派の聖子氏は「枕草子」的エッセーに共感した。
と氏があとがきで述べている。
でも「むかし・あけぼの」に挿入されている歌は『涙多い恋に身を灼く女』の部分が出ている歌集「清少納言集」からとったそうな。
私のお薦め本です。 -
先日亡くなられた田辺さんの作品です。枕草子で有名な清少納言の生涯を描いた大作でした。宮中の中の女性社会が魅力的に描かれていました。定子中宮への愛が溢れんばかりでした。こういう生き方は、たぶん幸せなんだと思います。思ったほどドロドロしたところはなく、キレイにかっこよく爽やかに明るく描かれているので、陰陽師などの同じ平安時代をあつかった小説とは少し趣も違います。どっぷり王朝時代時代の雅に浸かれる秀作だと思います。
-
中学生の頃、担任の先生に教えていただいた本です。枕草子の現代語訳だけではなく、清少納言の人生に焦点をあてた長編小説といえます。
今古典を勉強している中高生の方にも読みやすく、時代背景がみえるので役に立つと思います。
読み返してみて、特に「心ときめくもの」の段など、女性の感性がキラリと光る言葉にはっとさせられました。
心の底から敬愛できる中宮定子に遣えた清少納言。
さらに二人は、同じ感性を味わう事ができました。
何か「をかし(趣深いもの)」な事があると互いに知らせたいと願う関係は特別な絆をもたらしています。
定子亡き後孤独な晩年であったと言われることもある清少納言ですが、 熱愛する相手(定子)に出会い、人生や自然のよさを味わい、創作の歓びを感じるー田辺聖子さんが描く清少納言はなんてたのしい人生なのだろうと感じます。
(六) -
清少納言についてあまり、知らなかったので、「はなとゆめ」を読んで、概略が、分かりました。また、みんなのレビューを読んで、この作品を知りました。それが、読み始めたきっかけです。しかし、つらいくらい、事件がない。たわいない日常の繰り返し。さすがに、辛くて、挫折。読破できませんでした。
-
中宮さまが可愛すぎるお話。弟ぎみも可愛いなー
平安時代の人々の感性が大好きです。
そして田辺聖子の文章は美しい。よみやすい。
大変おすすめです。
著者プロフィール
田辺聖子の作品
本棚登録 :
感想 :

実は...
実はこれ、予備校の先生に受験対策で薦められたのですが、そんなことも忘れて、当時すっかりハマりました。グッジョブ、先生。
ちなみに田辺聖子さんには『新源氏物語』もあり、これまたオススメです(^^)。
上巻は、本当に自分が清少納言になってしまったかのように物語の世界に入り込んでしまいました。
今は下巻の最初の...
上巻は、本当に自分が清少納言になってしまったかのように物語の世界に入り込んでしまいました。
今は下巻の最初のほう。則光となんだかすれ違いはじめたところです。
こんな面白い小説を受験対策でお薦めされちゃうと、なかなか他のお勉強が手につかなくなりますよね。
わたしも眠くて仕方のなかった高校の古文の授業で、この小説に出会っていたら、もっと早くに『源氏物語』などの他の古典にも興味が持てたかもしれないなぁ……と、ちょっぴり残念です。
卒業してウン十年。今さらながら、古典の面白さを知りはじめ、『源氏物語』も大変興味を持っているので、『新源氏物語』も、必ず読んでみます!
これからも生涯の楽しみとして、古典に触れていきたいと思ってます。
面白い本を紹介していただき、ありがとうございました(*>∀<*)