- Amazon.co.jp ・本 (659ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048733342
感想・レビュー・書評
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聖遷1213年、西暦では 1798年。
訓練された軍人奴隷のマムルークたちが支配してきたエジプトにフランス軍が迫る。
指揮するは28歳の青白い顔の司令官、ナポレオン・ボナパルト。
エジプトを収める23人の知事(ベイ)。それぞれの動き。
大軍を率いる者。
裏から操る者。
そして密かにフランス軍を壊滅させる策を練る者。
軍隊を破滅させる策。破滅させる。フランス兵を。極微の献上品によって。それは書物。
読者と特別の関係になる書物。
読者を破滅させる書物。
現実を混濁させる物語。「災厄(わざわい)の書」
本当に望まれたときに語り部は現れる。
譚る者と譚られる者。 夜の種族。
この世の捨て子たちの物語。
怪異な顔立ちを持ち魔物と交わったアーダム、
白子としてこの世ならぬ美貌と屈折した心を持ち魔力を身に付けるファラー、
生まれながらの豪胆さと明るさを持つ盗賊サフィアーン
夜が朝(あした)に代わり、朝(あした)が夜に代わる。
物語は不死ではないから、その記憶の運び手が強靭でなければならない。すると物語は譚られることにより不滅になる。 それが譚られる間はエジプトは滅びないといわれる物語が続く。
そしてその物語が終わる時。
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ナポレオンのエジプト遠征の歴史的結末は分かっているので、それにどう向かっていくか、という物語内の現実と、
人や書物を死なせないためには譚り続けることという言葉の力を入り混じらせた物語。
マムルーク王朝の事は全く知らなかったので、検索してみたところ、物語に出てくる人たちは実在の人物だったり、実際の事柄を元にしていたので”応えあわせ”もなんだか楽しかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
千一夜風に語られている間はナポレオンのカイロ侵略は起こらないという,摩訶不思議な理屈で夜に夜を重ねて物語が続く.「妖術師アーダムと蛇のジンニーア」と「美しい二人の拾い子ファラーとサフィアーン」の物語が重なりもつれあって万華鏡の世界が広がり,最後終わるかと見えたこの長い夜のさきに語り手と聞き手を入れ替えた新たな物語が始まる.まるで覚めない長い夢を見続けているようだ.
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千夜一夜物語×ダンジョン探索RPG。夜の種族が語るアーダム、サフィアーン、ファラー三者の物語。それを19世紀ナポレオン侵攻下のエジプト人たちが筆記する。さらにそれを21世紀サウジアラビアを訪れた日本人が邦訳する、という入れ子構造の物語。
本書は装飾過多と思われる文言が並び、内容に比して文章が非常に長い。しかし一見無駄に長いと思われる夜の種族の語りが、効果的に物語内に時間を創り出している。夜の種族の20日間にわたる語りの長さを、作中の聴き手と読者が共有することで、ただ文章を読むだけでは感じ得ない時の流れを体感できるようになっている。また、ダンジョン探索RPG風味なのは、長い物語を飽きさせない工夫なのかもしれない。
しかし、いくらアーダムたちの物語がメインといえども、入れ子構造の外側に行くほど内容が陳腐化するのは残念。外側の描写は主に本書の終盤で描かれる内容であるが、ナポレオン侵攻の設定も、夜の種族の物語の余韻も、あまり活きていないように見える。
クライマックスは、魔王サフィアーンの身体に乗り移ったアーダムと、アーダムの書物を読み込み魔導を極めたサファーとの一騎打ち。アーダムが己れの書物と闘っていることにだんだん気付き、焦り、最後に悟る様子が面白い。アーダムvsアーダムという意味では、最初から最後までアーダムの物語だった。 -
おもしろいんだけど……うーん、ハマりきれなかった。序盤はグイグイ読み進められるのだけど、後半、物語が収束に向かっていくところでファンタジー色が強くなりすぎるし、激しいバトルシーンの描写を細かくやりすぎているのが一因かもしれない。しかし、「書物」をテーマにした壮大な物語としては著者の力量が存分に感じられ、なかなか圧倒される。本好きによる本好きのための物語であり、そして本が読者を飲み込んでしまう物語でもある。あまり時間をかけず、連休などを使って一気に読んだほうがたぶん楽しめる。
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まぁぐいぐいと読ませてくる。
ページをめくる手が止まりませんでした。
文章も軽妙でありながら濃厚で、夢中になってくると酩酊感がありました。この感覚「大審問官」を読んだときにもあったな。
構成が変態的。良い意味で
緻密に計算されて書き上げているようにも思えるし、一種のトランスの中で書き上げているようにも思える、ある種の毒を持った本でした。
一年後かにもう一度読み返してみよう。
ファラー? -
イスラムの世界の物語。イスラムの年代のヒジュラとか、従兄弟婚とか、イスラムの生活が垣間見れて面白い。ナポレオンが実際にエジプトを攻めていたのも知らなかった。世の中は知らない事に溢れている。物語自体も面白い。アーダム、ファラー、サフィアーンの3人が織りなす物語が興味深い。魔法の世界と蛇と龍。伏線もしっかり回収され楽しく読めた。サフィアーンの前向きさと溌剌さがとても良かった。宗教的には難しいと思っているが、良い人の像は一緒なんだな。
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冒険譚としても歴史ものとしてもファンタジーとしても読める。異常な語彙力による巧みな筆致に脳がトリップする。しかし読みにくくはない。王道であり、怪書。
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読了
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どんどん次が読みたくなる。次の夜が待てなくなる。
最後のページに感じたのは歓喜?恐怖?