裁縫師

  • 角川書店 (2007年5月31日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784048737753

作品紹介・あらすじ

広大な屋敷の離れにひっそりとアトリエを構える一人の裁縫師。たいそう腕が立つというその裁縫師の元を訪ねた9歳の幼女は、そこで禁断の恋に身をまかせることになる――。女流作家による新感覚小説集。

みんなの感想まとめ

独特な世界観と詩的な表現が魅力の作品で、登場人物たちの孤独や禁断の恋が繊細に描かれています。裁縫師との出会いを通じて、9歳の少女や生涯独身の女性、母に捨てられた小学生、女神のような薬剤師に魅了される男...

感想・レビュー・書評

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  • 小池昌代の短篇には物語がない。それは散文でもなくかといって小説でもない。強いて言うならば切り取られた風景画に対するキャプションのような趣きのある。あるいは語られたできごとに対するあれこれの思いの吐露、といったところであろうか。何故か、自分には小池昌代が語っているプロットが動いているようには思えず、1コマ1コマゆっくりと進む映像を辿っているような印象が残るのである。焦点は物語ではなく、思いに寄っている。

    それを詩人特有の視線のせいである、と言い切ってしまうのは余りに簡単なのであるが、果たして本当にそのようなことなのであろうか? 何か決定的にスムーズな話の展開を維持することを拒む特徴がこの詩人にはあるような気がするのである。

    一方で、紡ぎ出される言葉の滑らかさ、そして湿度は相変わらずだ。時に湿度は過剰に鋭敏であり、不意打ちでもあるのだが、切り取られた映像の指し示す理(ことわり)を無視して読むものに迫ってくる。その為に小池昌代の文章を好む人が出てきてしまうのではないか、などという実に意味のない心配を撒き散らしながら。

    収められた短篇の中では「空港」と題された文章に、鮮やかなエピローグが添えられているのだが、その展開の手に届きそうで指先からすっと逃げていく感じに小池昌代の小説家としての可能性を感じた。後は、ただひたすらに「詩人」である小池昌代なのであった。勿論、それは決して悪いことではない。

  • 不思議な世界観。でも、私の中にもありそうな感覚。ソフトに官能的。

  • 世界、他者との感応を得てそこから更に独り静かで開けた孤独に沈んでいく人達の話が多かったように思う。
    個人的には「空港」と「野ばら」が好き。
    空港を旅に出る・帰る人々が立ち寄る場所としででなく帰って来る人を「待つ」場所としてとらえたのは面白かった。

    ただ、世界との接触が心へ沈み込んでいくような描写がどれも似通ってるしくどい。細かいことを言えばやたら句読点も多くて気になった。

  • きれいな文章の、孤独な話。
    9歳のときに裁縫師と出会って、生涯独身の女性、母親に捨てられた小学生、女神と呼ばれる薬剤師に魅入られた男性。
    裁縫師の服装の描写はとても好き。

  • 現実と隣接する異空間。記憶の再構築。読んでる間、何度か自分の中で忘れ去られていた記憶が蘇った。胸がちくっと痛んだ。

  • 不思議な感じがする短編集。

  • 短編

    家の近くにいた有名な裁縫師に洋服を作ってもらうことになった
    幼かった私の、短い時の凝縮された淡い記憶。

    静かな町に引っ越し、そこの薬剤師にひきよせられた思い。

    叔父を空港に迎えにいった待つばかりの人生。

    交通事故の後遺症故か、左腕がもげて現実か夢か定かではなくなった。

    家出する父、仕事が忙しい母、しゃべらなくなった兄
    一人分のお茶をいつもいれて飲む私、自由になるまでの期間。

    まあ、普通)^o^(

  • 空気感のある短編集。
    表題作の「裁縫師」が一番好きだった。いや実際にはそら犯罪だろうとかすかに思わないでもないのですが。
    どの作品も、迷路にふと入り込んだような、目眩みたいな感覚があって面白い。
    主人公たちはみんな孤独で自由。でも誰かとつながりたいと思うから、そこに物語がうまれる。
    さびしくはないけど、なにやらひんやりする読後感でした。

  • 表題作のあらすじに惹かれて、ずっと読みたかった本。文庫化を待つつもりだったけど、短編集とは知らなかったから借りて来て正解だったかも。内容は期待通り、実際に読んでみてこの世界観には惚れた。

  • 短編集。
    最初の「裁縫師」以外は、人によっては難解だと感じるかもしれない。
    が、すべての短編に流れる独特の世界感が好き。

    特に表題作「裁縫師」はとても好き。

  • 5つの作品からなる短篇集。

    裁縫師、タイトルが潔くて素敵。
    それだけで、おぉっと思って手に取った。

    少女の頃の追想という形で描かれる。
    初めて洋服を仕立ててもらったときのこと。

    しかし、あまり好きではない方向へ。

    もしかして妄想なんじゃないかとさえ思えてくる。
    素敵な記憶を反芻しすぎて、おかしくなっちゃった、みたいな。
    むしろそうであって欲しい。

    他の作品も幻想的というか少し不思議な物語たちでした。

  • ちょっと気持ち悪かった。
    キャッチコピー風に書けば性の逸楽のためにとある時空に閉じ込められた人たちのエピソード、みたいな感じだが、出産抜き子育て抜きの性交渉と過去の記憶だけの生活、というのはどうしても内側から腐った果物みたいに気持ち悪い。

  • 少女は近所に住む謎の裁縫師に心奪われた。
    衣服を制作するものとあたえられるもの。
    ふたりの境界線が儚くこわれてゆく。

  • 「裁縫師」仕立てられたワンピースの描写が好みだ。素敵。紺のジャンパースカート、太いひだのプリーツ、V字の襟ぐり、小さな襟とネクタイ。自分のからだに誂えられた服のしっくりさは少女の持つ個性を開花させた。ナボコフのロリータといわれるようなある種の少女は、生まれながらに「娼婦」の素質があるが、確信犯に仕立てられていく。そういう感覚を持って育つ女性は確かにいる。
    「女神」鶴の恩返しと天女の羽衣伝説がモチーフみたい。冒頭の黄水仙の花弁と透き通るような羽衣と長い風きり羽根のイメージは見事にかさなって絵のようだ。

  •  高価な単行本は買うまいと心に誓っている。あっという間に文庫化されたりするといつもそう思う。

     この短編集のことは、共通の本のレビューを書いたもの同士として知り合った方の新しいレビューで知った。共通の本とは小池昌代さんの前著『タタド』、その方の新しいレビューを見たのは昨夜だった。

     最初の2行を読んで、迷わずレジへ。いつもの誓いは反故にした。
     あまりにも瑞々しい筆致に、もう続きを読みすすめば引き込まれてゆく予感が確かにあった。

     それはともかく、角川書店さん、売りたいのはわかるけれど、「エロス」だの「9歳の女も感じるということを」だとか赤い文字で帯に入れるの止めてくれない。
     下世話なキャッチコピーが不愉快な夾雑物の様に感じられるほどに、小川のなめらかな流れのごとく、物語は何の滞りも一切の抵抗感も感じさせずに流れてゆく。
     私は文芸評論家でもないし、自分が物書きであるわけでもないから追求してみても意味はないのだけれども、この作家の文体のなめらかさは一体何処から来るのだろう。理由もわからずにいつも一緒に流されるかのごとく読みすすんでしまう。

     表題作の『裁縫師』を読み終えたところで、不意に小学生だった頃のクラスメートを思い出した。確かいく子ちゃんという名前だったその子は、二年生のとき東京から転校してきて、あっという間に三年生のときまた東京へ帰っていった。

     いく子ちゃんの上品で賢そうな立ち居振る舞いに私はいつもちょっと引いていた。私は田舎者だった(今でもそうか)。
     こんな事もあった。なぜだか二人きりで神社の境内で遊んでいたとき、突然彼女が姿を消した。あれ、あれと思っているうちにまた姿を現し、私の耳元で囁いた。

     「おしっこしていたの。誰にも言わないでね、恥ずかしいから」

     世田谷あたりのコが話す綺麗な標準語、しかも聞き慣れない女の子のひそひそ声だった。
     どきどきした。

     やはり「良い」ですな。こういうの。

     だから角川さん、「七歳の男子でも欲情する」って書くのと同じだよ、もう止めなさい。

  • 書籍番号
    M110201-060-9784048737753

  • 綺麗な文章と質感の短篇集。表題作が好き。

  • 非常に読みやすい本だと思います。
    私はなんだか国語の教科書を思い出しましたが。
    この文章を書いたとき、作者はどう思っていたでしょう。知るか。
    みたいな。

    面白くないわけでもないのですが、面白いわけでもない。
    読み終わったときに思うことは「ふーん」
    という。
    何も残らない。
    いわば現実的幻想文章。

    教科書思い出すとか書きましたが、教科書に載ることはないでしょう。内容的に。

    ちなみに一番気に入ったのは表題の裁縫師の途中まで。

  • もの寂しいようで逞しい強さをもった妖しさが交錯する物語集でした。

  • 非現実の中に、確かに知っている感覚が見え隠れする。
    最後の一編「野ばら」に、奇妙な共感を覚えた。自分と重なることなど、何ひとつないのに。

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著者プロフィール

小池 昌代(こいけ まさよ)
詩人、小説家。
1959年東京都江東区生まれ。
津田塾大学国際関係学科卒業。
詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『夜明け前十分』、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)、『野笑 Noemi』、『赤牛と質量』など。
小説集に『感光生活』、『裁縫師』、『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、『ことば汁』、『怪訝山』、『黒蜜』、『弦と響』、『自虐蒲団』、『悪事』、『厩橋』、『たまもの』(泉鏡花文学賞)、『幼年 水の町』、『影を歩く』、『かきがら』など。
エッセイ集に『屋上への誘惑』(講談社エッセイ賞)、『産屋』、『井戸の底に落ちた星』、『詩についての小さなスケッチ』、『黒雲の下で卵をあたためる』など。
絵本に『あの子 THAT BOY』など。
編者として詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』、『おめでとう』、『恋愛詩集』など。
『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集02』「百人一首」の現代語訳と解説、『ときめき百人一首』なども。

「2023年 『くたかけ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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