秋の牢獄

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048738057

作品紹介・あらすじ

十一月七日、水曜日。女子大生の藍は、秋のその一日を何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日同じ会話をする友人。朝になればすべてがリセットされ、再び十一月七日が始まる。彼女は何のために十一月七日を繰り返しているのか。この繰り返しの日々に終わりは訪れるのだろうか-。まるで童話のようなモチーフと、透明感あふれる文体。心地良さに導かれて読み進んでいくにつれて、思いもかけない物語の激流に巻き込まれる-。数千ページを費やした書物にも引けを取らない、物語る力の凄まじさ。圧倒的な多幸感と究極の絶望とを同時に描き出す、新鋭・恒川光太郎の珠玉の作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 初期の恒川作品。久しぶりの再読。やはりこのころの雰囲気が好きだなと思う。

    様々な形の「牢獄」3編。

    「秋の牢獄」
    11月7日に捕らわれてしまった『リプレイヤー』たち。同じ11月7日をどう過ごすのか。どれほど楽しもうと自暴自棄に走ろうと、朝が暮れば全てがリセットされまた同じ日を繰り返す。
    なぜ『リプレイヤー』が生まれるのか、なぜ『リプレイヤー』は消えるのか、そこに『北風伯爵』は関係しているのか。

    「神家没落」
    突然、『特殊な家』の『家守』になってしまった青年。日本中を一年掛けて巡る『特殊な家』から逃れるためには替わりの人間に『家守』を押し付けるしかない。
    そしてある日格好の人物が現れ、青年は『特殊な家』から解放されたのだが…。

    「幻は夜に成長する」
    『霊狐のお力』を『祖母』から引き継いだリオは、その力故に囚われ、『客』の『地獄の話』を聞く日々が続く。リオの喜びはただ『怪物』を大きく育てること。

    囚われることが幸せなのか、解放されることが幸せなのか。囚われの日々に何を見つけるのか、解放の先には何があるのか。
    不条理で残酷な一面、このような日々が続くのも悪くないとも思ってしまう不思議な魅力がある。

    短編集だからか、サラっと書かれているからなのか、ホラーというよりはドラマの要素が強い。
    だが主人公たちの背景や設定が詳しく書かれているわけではないし、彼らのその後も想像の余地が大きいのでリアリティよりもファンタジーの要素が強い。

    楽しく読めたが、読み終えてみれば掴み所のない不気味さもある。
    日常生活の隅っこに、あるいは目に見えていないどこかにこんな世界があるのかも…とちょっと想像すると怖い。

  •  重く暗い世界に閉じ込められた人たちを描くサスペンスホラー短編集。
             ◇
     藍は、自分の身に起こった事態に戸惑っていた。大学で聴く講義も学食で聞く親友の話も、前日とまったく同じだったからだ。日付を確かめると11月7日(水)。昨日の日付である。

     呆然とする藍に、翌日もその翌日も11月7日はやってきた。どうやら11月7日の水曜日を自分は延々と繰り返しているということを、藍は認めざるを得なくなった。
     どんな行動を取ろうと、翌朝になれば全てがリセットされたように自室で11月7日の同じ朝を迎えている。理由や原因はわからない。まるで11月7日という牢獄に閉じ込められてしまったような状況だった。

     25回目の11月7日を迎えた藍が大学構内のベンチで本を読んでいたところ、ひとりの青年に声をかけられた。隆一と名乗った彼は、50回も11月7日を繰り返していると言う。そして隆一を介して同じように11月8日を迎えられない人たちとも出会い、多少は孤独感が和らいだ藍だったが……。
        (第1話「秋の牢獄」) 全3話。

         * * * * *

     閉塞感は人間から希望を奪うということをまざまざと感じさせられる3編でした。

     11月7日という牢獄に閉じ込められた人々を描く、第1話「秋の牢獄」。
     どこに行こうが、何をしようが、翌朝になれば “ふりだしに戻る” ことになります。年も取らず、所持金も減らない代わりに希望や意欲はどんどんなくなっていくのです。

     日本各地の山野を移動する古民家に閉じ込められてしまった男を描く、第2話「神家没落」。
     家守として独り古民家を守らねばならない立場になってしまった男。仙人の実を食べ長寿を手に入れることはできますが、敷地から出られないまま無為に過ごすしかありません。繰り返される変化に乏しい日々は牢獄にいるのと同じです。

     幻術を自在に使える能力を持つがゆえに怪しげなカルト集団に囚われ館に閉じ込められた女性を描く、第3話「幻は夜に成長する」。
     文字通り座敷牢に幽閉され、教祖として外部の人間に接するときは薬物でもって動きを制約される生活を送るリオ。まさに奴隷のような毎日です。
     
     精神的な苦痛に満ちた日々。終わりは来ないとしたら……。
     各話の主人公それぞれの選択を興味深く読ませてもらいました。

     同じ日々を繰り返すリプレイヤーを狩る「北風伯爵」の前に自ら身を晒す第1話の藍。

     身代わりの男を古民家に引き入れて無為の生活からの脱出に成功するものの、その男が殺人鬼であったことを知り、良心の呵責に苦しむ第2話のぼく。

     奴隷生活にひたすら耐えることで自分の能力を強大な怪物に育て、座敷牢からの脱出を図る第3話のリオ。

     個人的には表題作となった第1話がおもしろかった。
     繰り返す日々に倦みながらも、それまでの藍は狩られるのを恐れ北風伯爵との遭遇を避けようとしていたはずなのに。
     しだいに厭世的になっていく藍の様子には説得力があり、最後の選択にも納得できました。自分が藍の立場でもそうすると思います。

     読後に、リプレイヤーは結局バグであって、正常な時間の運行の障害になると「時の管理者」が判断したのだと思いました。北風伯爵は修正プログラムなのではないでしょうか。

     ところで正常に時が流れる世界では、リプレイヤーとなった人はどういう扱いになっているのでしょうか。行方不明者扱いなのか、それとも最初から存在しなかったことにされているのか。とても気になりました。(ヘンなところに拘ってごめんなさい。)

  • 「牢獄」にまつわる3つの不思議

    「秋の牢獄」11月7日から抜け出せない女子大生の話。何度も繰り返す日に次第に順応していく様子が面白い。たくさんの仲間を見つけ、どうせまた7日を繰り返すのだからと好き勝手に1日を過ごすが最後には…

    「神家没落」ある不思議な家に迷い込んだ青年の話。その家は日本の各地を移動しているらしいがある規則性があり、それを悪用する男も現れて…
    この話も青年が神の家に住んでいるうちに順応していく様子が面白い。1話目同様にある意味冷静な若者です。途中から殺人の絡む話になるのですが、この話が1番面白かった♪

    「幻は夜に成長する」山奥で幻術を使う祖母と暮らす少女。謎多き暮らしと時々訪れる男性…予想外のストーリーで読んでいるこちらも惑わされているような展開。



    囚われるという3つの不思議な物語は恒川さんらしい作品でした〜♪


  • 秋の牢獄。まさにその通り。しかしかなり、カラっとした語り口。

    同じ日を繰り返す系の話しに恐怖がある。メンタルが弱まると、きまって、大学の時の恋人とやり直すことができるチャンスを得られるという夢を繰り返し見る。嬉しい、でも何か忘れてる!あぁ私には息子がいた!っていうところで気が付いて、目が覚めるけど、気が付かなかったら、同じ夢にもどるのかなぁ。汗をかいている。ここ5年ぐらい、ずっと見ている。この夢から出たいような、出たくないような。そう思ってしまう自分も怖い。

  • 抗えぬ力 に「囚われる」幻想譚3編のオムニバス。 ある特定の1日、旅する古い屋敷、異能の所為という異界牢獄は、抑えた描写なのに奥行きがあり深い印象を与える。『神家没落』は日本人が古くから語り継いできた民話のような、ここではない何処かへ読む者を連れ去る朴訥とした幻影は懐かしさを感じるほど。仄かな郷愁と寄る辺なさ、木々や野山の冷んやりとした佇まい、不穏なざわめき、茫漠とした無常観、諦念、閉じた世界の静けさ、それらが優美に調和されている。

  • 3つの牢獄。個人的には神家没落が面白かった。逃げることもできたのに戻ってきてしまう。あ~、わかるなぁ。どれも結末はないけど良し。

  • 11月7日に読み始めた、11月7日を繰り返す人々を描いた標題作など三作の中編集。全体としてはホラーというかサスペンスというか、じわじわと真綿で首を絞められる様な息苦しさを漂わせる。どれも不思議な設定ながら、分かりやすさと納得感のある作品。1日をひたすら繰り返す、そう言葉にするとよくあるループもののようだが、そのエアポケットに落ちた市井の人々の心理を丹念に描くことで、もし自分がそうなったら、という想像を読者にさせてくれる。他作も同様。読み終えたのは11月8日だったので、ワシは無事に「その日」を超えたようだ。

  • ○秋の牢獄
    ○神家没落
    ○幻は夜に成長する
    の三つのお話。
    あるものはその一日に、あるものは不思議ないえに、あるものは人にはない力に囚われているお話。

    淡泊でさらりとした文体で、残酷だな、と思う設定も嫌悪感なく読めました。
    作者さんの人間性なのかな。と勝手に思ったりしました。

    すいすい読めたけど、個人的に『夜市』より心にくいこんでくるものがなかったのが残念でした。

  • いつも思うが不思議なお話。
    いろいろな形の牢獄
    後味は最高に悪いけど、でも話の中の主人公たちは救われたんだろうな。

  • なんとか無事に8日に到着したようです( ゚∀゚)ノシいや7日に欠片が残っているかもしれないけれど…(--;)久しぶりに読んだ「秋の牢獄」だったけれど、この雰囲気好き(^^)さて後は、現在一人で部屋にいるけれど普通に外へ出る事ができるかな?(^^;)いずれにしろ、食料と本があれば生きていけそう(^^)v

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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